東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)20号 判決
一 本願発明の特許請求の範囲は、前記第二、二のとおりであることは当事者間に争いがない。
ところで、特許発明の必須の構成要件は特許請求の範囲に明確に記載しなければならない(特許法三六条五項)から、たとえ、明細書の発明の詳細な説明の項に記載されている条件であつても、特許請求の範囲に構成要件として記載されていなければ、その記載がなくとも当業者がその存在を当然に読みとることができる場合を除き、これを当該特許発明の構成要件とすることはできない。もつとも特許請求の範囲の記載に不明確な表現のある場合で、その記載自体からでは技術内容を画然と定め難い場合にかぎり、明細書の詳細な説明の項の記載を参酌してこれを定めることはできる。そこでこのような観点から原告の主張を検討する。
(一) 原告の主張(一)について
原告は、本願発明では、発泡時間を各引用例よりも極めて短かくして気泡の成長を小さく設定していると主張する。しかし、成立に争いのない乙第三号証の一ないし三によれば、発泡ポリオレフインの平均気泡径、シート中の単位当りの気泡数は、発泡時間のみならず、発泡剤の種類、押出圧力、押出温度にも影響されることが認められるが、前記の本願発明の特許請求の範囲においては発泡時間はおろか、発泡剤の種類、押出圧力、押出温度についても何ら限定していないことは明らかである。もつとも本願特許請求の範囲によれば、細毛内の独立気泡は、その存在により、繊維束に嵩高性、弾性による麻様風合を与えるとともに結節強度を高める程度のものでなければならないと解することは、抽象的にはできる。しかし、その独立気泡に関する条件(平均気泡径、繊維束中の単位当りの気泡数等)については、本願特許請求の範囲には何らの記載がないことはもとより、成立に争いのない甲第一号証および第三号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項にもその点に関する明確な説明はないことが認められるから、本願発明の構成要件に原告主張のような成形の構成についての限定があると解釈することは到底できない。
なお、他方において、成立に争いのない甲第五ないし第八号証によれば、各引用例には、原告主張のような発泡の割裂等の趣旨で気泡を大きく成長するように発泡させる旨の記載はないことが認められる。
してみれば、結局原告の主張は、本願特許請求の範囲に限定のない構成要件を前提として各引用例との相違を主張するものというほかはなく、理由がない。
(二) 原告の主張(二)について
本願特許請求の範囲には、「……細毛内に独立気泡を包含するよう割裂処理を施し、……」と記載され、割裂処理の具体的手段については何も記載されていないから、割裂処理は細毛内にともかく独立気泡(その具体的条件について限定がないことは前記のとおりである。)が包含されるものであれば足りると解するほかはない。
そして、本願明細書においては、「有針ロール、切刃等による割裂手段により細毛内に独立気泡が包含されるように割裂処理を施すのである。」(三頁一五行目から一七行目)と記載されていること、また有針ロール、又は切刃による割裂処理によつてのみ細毛内に独立気泡を包含することができ、他の手段によつてはそれが不可能である旨の記載はないことが認められるから、本願発明においては、割裂手段には特に限定がなく(ちなみに、成立に争いのない乙第二号証(昭和四七年一一月二九日付補正書)には「有針ロール、特殊テンター、叩打、もみほぐし等の周知の割裂手段により細毛内に独立気泡が包含されるように割裂処理を施すのである。」と記載されていることが認められ、その後の補正により文言を前記のとおり変えたことにより、その全体の趣旨まで変えたとは到底解することができない。)、細毛内に独立気泡が包含されるかどうか、およびその程度如何は、それらの手段を施す際の割裂の程度等の加減の調節によるものと解することができる。
ところで、各引用例においても割裂処理(前記甲第五ないし第八号証によれば、撚りがけによる)した後の細毛内に程度の点はともかくとして独立気泡が包含されていることは当事者間に争いがなく、また撚りがけの加減調節によつて、細毛内に残存する独立気泡の数を調節できることは自明であるから、本件発明の割裂手段として、各引用例におけるような撚りがけを排除しなければならない理由はない。
なお原告は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されている例について、第二引用例に示されるような一インチ当り〇・五から一回程度の撚りがけでは割裂させることは不可能であると主張するが、本願発明における低発泡シート状物または低発泡テープ状物は、右の例のような特定の条件の下で成形されたものに限られるものではないから、右の例をもつて、本願発明の割裂処理に撚りがけが含まれない根拠とすることはできない。
二 以上によれば、審決には原告主張の違法はないから、その取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲および要旨は左のとおりである。
比重〇・一八~〇・七〇g/cm3ポリオレフイン系合成樹脂低発泡シート状物または低発泡テープ状物を四・〇~八・〇倍延伸し、細毛内に独立気泡を包含するよう割裂処理を施し、該独立気泡により嵩高性、弾性による麻様風合を与えるとともに結節強度を高める様にしたことを特徴とするポリオレフイン系発泡繊維束