東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)30号 判決
一、原告の主張(一)について
成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報)、同第四号証(引用例)、乙第一号証(昭和三五年一一月一〇日第一版東京裳華房発行、物理学選書七「放射線計測学」)を総合すれば、次の事実が認められる。
本件発明は計測の方法ないしそれに直接かかわる装置の構造もしくはそれらの応用自体を技術対象とするものではなく、計測の結果を入力として自動記録する装置に関するものであつて、記録ペンとして表現された記録素子と、目盛基線を有する記録紙として示された記録体と、その自動制御に関する種々の電気的装置、手段を構成要素としている。
他方、引用例も電子計算機内の記憶媒体上に符号化された計算の結果を入力として自動的に印刷記録する装置に関するものであつて、そこに具体的に示された装置の要素としては記録素子としての印字、記録体として目盛基線に当る罫線を有する記録紙、またこれを自動制御する種々の手段、電気的装置等がある。
そうしてみると、本件発明と引用例とは、ともに自動記録装置を対象とするものであるから、同一技術分野に属するものといわざるを得ない。したがつて、この点に関する原告の主張は採用することができない。
二、原告の主張(二)について
(一)、構成上の独自性の有無について
1、「記録ペン」について
時間関数である物理量Xの変化に対する物理量Yの変化を計測し、これをアナログ記録もしくはデジタル記録すること、またこれを記録計の入力として自動記録する装置がそれぞれ本件発明出願時において周知技術であつたことは、当事者間に争いがない。そして甲第二号証によれば、本件発明の「記録ペン」は、自動記録装置の構成要素として装置に当然伴う記録素子として示されているにとゞまり、この点は記録の対象を計測の結果に限定していない自動記録装置一般の構造に関する第一、第二発明と同様であることが認められ、特許請求の範囲にはもちろんのこと、発明の詳細な説明中にも何らこれに対する構成上の限定を見出すことはできない。してみれば、本件発明の「記録ペン」が記録素子としてのほか計測・自動記録装置を対象とすることによる特別の構成を備えているものとはいえない。
2、「修正動作完了信号を物理量X・Yの計測動作開始のためのゲート信号として計測部へ伝達する」構成について
時間関数である物理量Xの変化に対する物理量Yの変化を計測し、これをアナログ記録もしくはデジタル記録すること、またこれを記録計の入力として自動記録する装置、さらに前段階における制御動作が完了したことの信号をゲート信号として次の制御動作を行なう機構へ伝達することが、いずれも本願出願時において周知技術であつたことについては当事者間に争いがない。そして甲第二号証によれば、本件発明は第一、第二発明と同様に、自動記録装置における記録開始位置を自動的に制御して、従来手動に委ねられていた際の繁雑・不正確さの克服を目的とするものであつて、その目的達成のために、「記録紙の送り方向に対する目盛基線が記録ペンのペン先走行線と一致しているかどうかを検出するための電気的検出装置」、「この検出装置の出力信号に応動して記録紙をその基線位置がペン先位置と一致するまで自動的に修正駆動させる手段」、「前記修正動作が完結したとき動作完了信号を発生する装置」を備え、この点では記録の対象を計測の結果に限定していない自動記録装置一般の構造に関する第一発明と構成を同じくしており、ただ周知の計測装置に組合せて測定結果の記録の自動化に用いるために、「前記動作完了信号を物理量X・Yの計測動作開始のためのゲート信号として計測部へ伝達する」ことを構成要件として加えただけであることが認められ、この点に関し発明の詳細な説明中にも構成上何ら特別の限定を加えた記載は見当らないし、前段階における制御動作完了信号をゲート信号として次の制御動作を行う機構へ伝達する手段についても周知技術の範囲をこえる特別な構成は見出せない。そうすると、本件発明において「修正動作完了信号を物理量X・Yの計測動作開始のためのゲート信号として計測部へ伝達する」構成が計測・自動記録装置を対象とすることによる特別の構成を備えているものとはいえない。
(二)、前記各構成を備えることによる作用効果について
さきに認定したとおり、本件発明は計測の方法ないしそれに直接かかわる装置の構造もしくはそれらの応用自体を技術対象とするものでなく、計測の結果を入力として自動記録する装置に関するものである。そして甲第二号証によれば、前記各構成をふくめた本件発明は、その作用効果として、計測結果の記録開始に当り記録素子である記録ペンのペン先を記録開始位置である目盛基線に自動的に正確に合わせて記録動作を能率化するものであることが認められる。
他方、さきに認定したとおり、引用例は電子計算機内の記録媒体上に符号化された計算の結果を入力として自動的に印刷記録する装置であつて、本件発明と自動記録装置であることにおいて軌を一にする。そして甲第四号証によれば、引用例は記録素子である印字を記録開始位置である最初の行(本件発明の目盛基線に当る)に自動的に正確に合わせることにより、以後の印刷記録動作を整序・能率化する自動制御の効果を備えていることが認められる。
以上の認定によつて両者を比較すれば、本件発明の作用効果は引用例の自動記録装置として備える効果と本質的に同質・同等のものといわざるを得ず、特に顕著なものとはいいがたい。
なお、原告がさらに言及する計測記録結果の読みとりが正確にできる点は、前記認定事実によれば、本件発明が自動記録装置として計測装置と組合せたことによる、記録開始位置の自動制御の効果として当然生ずるものである。また目盛線と目盛線との中間位置の推定読みとりの効果は同じく前記認定事実によれば本件発明をアナログ記録として実施した場合に、その記録方法の性質として当然生ずるものに過ぎない。いずれも本件発明の作用効果を格別顕著なものとするものではない。
三、結論
以上のとおり、原告の主張はいずれも採用することができないから、本訴請求は理由がないものとして棄却せざるを得ない。