東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)58号 判決
一、取消事由(一)について
成立に争いのない甲第二号証によれば、本願明細書には、「本発明は、現像粒子がアプリケーターからフイールド電極あるいは転写シートに、直流電位の応用のもとに吸引されることを包含するので、種々の表面間および粒子自体の間の吸引力は限定的である。電位が応用されない場合は、現像粒子とアプリケーター間の接着力は、現像粒子とフイールド電極間の接着力より大きくなければならない。この関係は、アプリケーターおよびフイールド電極の表面の性質および現像粉末の性質によつて支配される。かくして、アプリケーターのゼラチン表面は、光導電性物質および有機樹脂結合剤を含む光導電性フイールド電極表面に比較して、ほとんどの現像粒子に対して必要な吸引力を持つている。現像粒子とアプリケーター間の接着力は、機械的方法たとえばアプリケーターにおけるフロツクした表面の使用あるいは網状表面の使用によつても増加させることが出来る。フイールド電極表面の処理たとえばふつ素化合物による処理もまた、現像粒子の電極表面に対する接着力を減少させることによりこれらの力を調節する方法である。アプリケーターとフイールド電極間に電位が応用される場合は、現像粒子とフイールド電極間の接着力は現像粒子とアプリケーター間の接着力より大きくなり、これにより現像粒子がフイールド電極に転写される結果となる。現像粒子とフイールド電極間の吸引力は主として電圧による。」(三頁左欄四四行目から右欄二二行目まで)(以下「記載A」という)と記載されていることが認められ、記載Aによれば、本願発明の「パターンを有する表面に対するよりも他方の表面に対する吸引性が大きい現像剤を他方の表面に均一に付着させる」という構成要件は、電位が応用(印加)される間、それによつて現像されるべきパターンに現像剤を付着させるが、それ以外には、特に背景区域に、現像剤を付着させてはならないという、電子複写における必然的な技術的要請に対する解決手段を提供したものであることは明らかである。そして、右構成要件は、現像剤に対する両表面間の吸引力を比較して、相対的に他方の表面の吸引力が大きければ、それでも足りるものであることは、その表現自体から明らかである。原告は、本願発明は、アプリケーター、即ち他方の表面自体は、導電性ゴムあるいは硬化導電性ゼラチン等で構成し、必要な接着力を持たせることを要件としていると主張するが、他方の表面をそのように構成することは、本願発明の実施例にすぎず、本願発明の構成要件は、そのようなものに限定されない機能的に表現された広範なものであるから、この原告の主張は採用できない。
ところで、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、「ウエブ9の表面は規則正しく均一であることが望ましい。それは平滑な面でもあるいは均一の粒状面または類似のものであつてもよい。表面の均一性は粉末を一様に被着させて現像中にドラム11の光導電性絶縁層12へウエブ9の面上の粉末の一様な量を確実に与えるために望ましい。」(二頁右欄四二行目から三頁左欄一行目まで)(以下「記載B」という)、「しかし粒子はウエブ9上の位置にヴアン・デル・ワールの力または類似の力により保持される。」(三頁左欄一七行目から一八行目まで)(以下「記載C」という)、「本発明による現像の例えば既知の静電像現像技術に比較して特に有利な点は、現像されるべき表面に供給された粒子が現像剤粒子を供給する表面に実質上なんらの力によつても拘束されないことである。一般にそれら粒子はヴアン・デル・ワールの力だけで保持される。これらの力は粒子を表面上に保持するには充分であるが、例えば粒子が静電的にキヤリヤーに拘束されるカスケード現像法や磁気現像法のごとき現像技術を使用する時に打勝たなければならない静電力に比較すれば無視される大きさである。」(五頁右欄五行目から一五行目まで)(以下「記載D」という)、「一般にこれら各種の既知の現像方式はなんらかの方法で予め帯電された粒子を使用し、それは現像されるべき表面上の反対に帯電した区域に吸引され、あるいはこの表面へ現像されるべき表面上の電荷と直接関係する力により移動せしめられる。さて新しい現像装置を含む本発明によれば、比較的導電性の粒子が比較的導電性の基体または現像剤粉末供与体上に位置せしめられ、現像されるべき表面上の電荷により制御され、電界強度に直接比例した量で、電荷が現像剤粉末供与体により現像剤粒子に誘起される。電荷は現像剤材料と比例した量で誘起するから、電荷図形保持表面に対する現像剤粒子の移行を制御する力は直接電界強度の二乗に比例する。従つて本発明による現像は全体的な移行量を改善し、与えられた粉末供給物からの粒子の移行を強化し、広い電荷区域の被覆特性を改善し、」(一頁右欄一一行目から二八行目まで)(以下「記載E」という)、「背景区域に不所望の粒子が附着するのを阻止する。」(一頁右欄二八行目から二九行目まで)(以下「記載F」という)、および「ゼログラフ板を現像する時にウエブ9を多少大地電位と異る電位に偏倚することが一般に望ましい。普通ゼログラフ板を現像する時、多少の残留電位が背景区域に残つており、その残留背景区域にほぼ等しい同極性の電位を電位差計抵抗器5における接続によりウエブ9に与えることが望ましい。これは粒子層と現像される表面との間の背景区域としての残留区域に作成する作用を有している。」(三頁右欄二五行目から三三行目まで)(以下「記載G」という)と記載されていることが認められる。
そして記載B、C、D、によれば、第二引用例の静電荷像現像装置においては、現像剤粒子とそれを積載し供給すべきウエブとの間には、両者の構成物質で定まる所定の分子間の吸引力、即ち、ヴアン・デル・ワールの力が働いて、現像剤粒子がウエブ上に均一に保持されるように構成されていることが明らかである。
また記載E、F、Gを総合すると、第二引用例の装置においては、電荷図形保持表面に対する現像剤粒子の移行を制御する力は直接電界強度の二乗に比例するため、予め帯電された粒子を使用する既知の現像方式に比べ、背景区域に残つている弱い残留電荷の現像剤粒子に対する影響が少くなり、現像剤粒子がウエブから背景区域に移行し付着するのが阻止されることが認められる。これは、第二引用例の装置においては、ヴアン・デル・ワールの力によりウエブ上に保持されている現像剤粒子は、現像されるべき電荷区域以外の背景区域には付着されないように構成されていること、即ち、現像剤粒子に対する吸着力が、相対的に、現像されるべき表面へよりも、ヴアン・デル・ワールの力により、ウエブ表面へ、より大きく構成されていることが前提になつているからにほかならない。なぜなら、そのように構成しておかないと、たとえ背景区域に残つている残留電荷の現像剤粒子に対する影響が少くても、現像剤粒子は、現像されるべき表面の現像剤粒子が付着してはならない背景区域にまで僅かであつても付着してしまい、複写の目的を最良に達成できなくなるからである。なお記載E、F、Gによれば、第二引用例の装置においては、背景区域に多少残つている残留電荷によつて、ウエブ上の現像剤粒子が背景区域に移行し、付着するのを完全に防止するため、残留背景区域にほぼ等しい同極性の電位を電位差計抵抗器における接続によりウエブに与えることができることも認められる。このようにすると、背景区域の残留電荷による電界と、ウエブによる電界は同じ大きさで相反する方向に働くため、相互に打ち消し合つて、ウエブ上の現像剤粒子には右の残留電荷による吸引力はなくなるわけである。以上のようにウエブ上の現像剤粒子が背景区域に移行し付着しない構成をとるということは、とりもなおさず、第二引用例の装置において現像剤粒子に対する吸着力が、相対的に、現像されるべき表面へよりも、ヴアン・デル・ワールの力により、ウエブ表面へ、より大きく構成されているからにほかならない。
そして、第二引用例における「現像されるべき表面」と「ウエブ」はそれぞれ本願発明における「パターンを有する表面」と「他方の表面」に相当するものであることは明らかであるから、以上認定のところからすれば、第二引用例には、「パターンを有する表面に対するよりも他方の表面に対する吸引性が大きい現像剤を他方の表面に均一に付着させる」という構成が示唆されていることになり、そのように認定した審決に、原告主張のような誤りはないということができる。
二、取消事由(二)について
本願発明において、パターンを有する表面と他方の表面との間に直流電圧を印加する目的は、導電性パターンに対応するパターンになるように帯電した現像剤粒子を電界の作用により吸着させるためであること、そして、本願発明において、「両表面間に電圧を維持しつつ隔離し、隔離後電圧を中断する」という構成をとる理由は、両表面間に直流電圧を印加し、それを中断した後隔離すると、隔離前に両表面間に電界が存在しなくなり、帯電した現像剤粒子が付着しにくくなるからであることは、いずれも当事者間に争いがない。
ところで前記甲第四号証によれば、第二引用例には、「本発明により帯電しない区域に粉末を附着させて現像することも可能である。これは現像剤材料3に、現像される面上の電荷のレベルと実質上等しく同じ極性の偏倚を与えることにより達成される。即ち例えば二〇〇V正極性の像がドラム11の表面にあるならばローラー7に二〇〇Vの正電位を与えてそれにより光導電性絶縁層12の表面の帯電しない区域に粒子を附着させる。このような情況においては電界が帯電しない区域に存在してこれが背面体13の帯電しない区域に対応する位置に電荷を移動させる。このような誘起電荷は強い電界を生じて粒子をウエブ9の表面から移動させて光導電性絶縁層12の帯電しない区域で現像を行う。この現像型式は第2図に関連して一層詳細に説明される。」(三頁右欄一〇行目から二四行目まで)と記載されていることが認められる。この記載によれば、第二引用例の装置において、現像されるべき表面の帯電しない区域に現像剤粒子を付着させて現像する場合、すなわち陰画(ネガ)現像を行う場合には、現像剤粒子に現像されるべき表面上の電荷のレベルと等しく同じ極性の電位を与え、帯電していない区域に電界を生ぜしめて、帯電した現像剤粒子を、電界の作用により、現像されるべき表面の帯電していない区域に付着せしめるように構成されていることが認められる。そして右甲第四号証によれば、第二引用例の第2図には、第二引用例の装置において、現像剤粒子を供給する表面と現像されるべき表面をいずれも円弧状とし、これを接触、回転させることにより、両者間に電圧を維持しつつ隔離し、隔離後電圧が中断されるような構成が記載されていることが認められる。第二引用例においてこのような構成をとつた理由は、もしこの構成とは逆に、両表面間に電圧を印加し、それを中断した後隔離すると、隔離前に電界が存在しなくなり、帯電した現像剤粒子が付着しにくくなるからであると考えられる。
してみれば、第二引用例においても、本願発明の「両表面間に電圧を維持しつつ隔離し、隔離後電圧を中断する」という構成要件およびそのような構成要件をとる理由について共通の技術内容が開示されているということができるから、審決が本願発明の右構成要件を第二引用例にもとづいて容易に推考しうるとした判断に誤りはないというべきである。原告の主張は両者間の右のような共通点を見逃した主張であつて採用できない。
三 以上によれば、本件審決には原告主張の違法はないから、原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
二つの隣接表面であつて、前記表面の中の一方の表面は非帯電導電性パターンを有し、前記表面の中の他方の表面は均一な導電性であり、上部に前記一方の表面に対する吸引力より大なる力で前記他方の表面に吸引された現像剤の均一な層を有することを特徴とする二つの表面を設け、前記二つの表面間に導電路を設け、差動電界を生ずるように前記表面間に直流電圧を印加しそれにより前記現像剤を前記導電性パターンに対応する前記導電性パターンをもつた表面に差動的に吸引させ、前記電圧を維持している間に前記両表面を隔離し、隔離後前記両表面間の電圧を中断する一方現像剤を吸引力で導電性パターン表面に保持させることを含む電子記録法