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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)7号 判決 1974年9月18日

原告 株式会社資生堂

被告 特許庁長官

主文

特許庁が、昭和四十八年十一月一日、同庁昭和四六年審判第六、一九五号事件についてした審決は、取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求は、棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二請求の原因

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり述べた。

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四十五年六月五日、別紙掲記の商標、すなわち、唐草模様からなる楕円輪郭(その外側に小さな花を連続的に表わし、内側には同じ小さな花を点在させてある。)の内部中央に唐草を組み合わせた楕円図形(上下左右四か所に同じ小さな花を配してある。)を表わしてなり、模様の部分は金色、その背影となる部分は薄緑色に着色された商標(以下「本願商標」という。)につき、商標法施行令第一条所定の商品の区分第四類せつけん類(薬剤に属するものを除く。)、歯みがき、化粧品(薬剤に属するものを除く。)、香料類を指定商品として、商標登録出願をしたところ、昭和四十六年四月一日、拒絶査定を受けたので、同年八月十二日、これに対する審判を請求し、同年審判第六、一九五号事件として審理されたが、昭和四十八年十一月一日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年十二月二十四日、原告に送達された。

二  本件審決理由の要点

本願商標の構成及び指定商品は、前項掲記のとおりであるところ、右指定商品中特に化粧品については、いわゆるムード商品としての要素が極めて強く、商品のイメージを高めるためその包装や容器のデザインについてもさまざまな努力がされているが、これらデザインの採択に当たつては、例えば、女性用化粧品の場合、女らしさ、優雅さを強調し、女性にアピールするよう、優しい花柄、唐草等の植物模様や彩紋風の優雅な曲線模様の類が一般に多く見受けられる。そして、本願商標は、前記構成のとおり、化粧品の容器等のデザインとして一般に採択されやすい花や唐草の模様を組み合せた装飾的な図形からなり、他に自他商品識別の標識としての機能を有すると認められるに足る特に注目をひく部分を有しないものであるから、これをその指定商品中例えば化粧品に使用しても、取引者、需要者は、単に容器等に付された装飾的図柄とのみ理解し、自他商品識別の標識としては認識しえないものと判断するのが相当である。したがつて、本願商標は、商標法第三条第一項第六号に該当し、商標登録を受けることができない。

三  本件審決を取り消すべき事由

本願商標の構成及び指定商品が本件審決認定のとおりであることは争わないが、本件審決は、本願商標をもつて、自他商品識別の標識として認識しえないとした点において認定ないし判断を誤つたものであり、違法として取り消されるべきである。すなわち、本願商標は、のちに説明するとおり、原告の独創に係る図形商標であり、その指定商品との関係において、普通に採択使用されているものではなく、自他商品識別の標識としての機能を有するものである。しかして、本願の指定商品中特に女性用化粧品については、それが人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増す等の目的で一般需要者に使用されるものであるため、その商標の選択に当たつても、化粧品のイメージに合つた優しい花柄、唐草等を図案化した植物模様や彩紋風の優雅な曲線模様が地模様として採択されることは、まさに本件審決指摘のとおりであるが、その表現方法、組合せ方等に工夫をこらすことによつて、独特の商標を選択して使用し、これにより自他商品の識別力を有せしめているのが業界の実状である。更に、これら化粧品は、いわゆる対面販売が多く、一般需要者は、直接店頭で、みずから商品を手に取つて購入するのが殆んどである事実とも相まつて、本願商標のように、独創的に図形化した商標は、十分に自他商品識別力を有するものである。本件審決は、本願商標を例えば化粧品に使用した場合、取引者、需要者は単に容器に付された装飾的図柄とのみ理解するとするが、これは全く根拠のない(何の証拠も示されていない。)観念的推論にすぎない。本願商標は、<1>細かい曲線で抽象化した唐草を楕円状に連鎖的に結合させていること、<2>小さな花を大小二重の楕円状に連続的に点在させ、その間に<1>の唐草模様を配することによつて、全体として一つの楕円状のまとまりのある図形として構成したこと、<3>中央部に唐草と小さな花とを全体として楕円形になるように組み合せ、核的に配したこと、<4>花模様と唐草模様とは金色で表わしその背景を薄い緑色に着色することによつて、金色で表示した部分を浮き出させていること、の四つの特徴があり、花と唐草との表現方法、組合せ方等に工夫をこらし、全体として一体をなしている独創性を有する図形商標である。

第三被告の答弁

被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

原告主張の事実中、本件に関する特許庁における手続の経緯、本願商標の構成(原告主張の四つの特徴があることも含む。)及び指定商品並びに本件審決理由の要点が、いずれも原告主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。本件審決の認定ないし判断は正当であり、原告主張のような違法の点はない。すなわち、(一)草花と唐草等を組み合せた連続模様は、女性用化粧品について、その容器のデザインとして普通に用いられているものであり、また、(二)本願商標は、全体として楕円状をなすものであるが、このような形状は、女性用化粧品の容器の装飾図形としてありふれたものであり、それ自体自他商品の識別標識としては格別の意義を有しない。更に、本願商標のように、輪郭的部分と中心的部分との組合せからなるデザインも、女性用化粧品の容器にしばしば見受けられるところである。更に、(三)本願商標の色彩構成は、模様を浮き出させその美的感覚を強調するための通常の手法にすぎず、また、金色は豪華さ、薄緑色は爽やかさを表現するため普通に使用されるものであつて、本願商標の場合も、これら色彩の単なる組合わせの域を脱するものではない。

これを要するに、本願商標は、この種商品の容器の装飾模様に普通に用いられるテーマを基本とし、通常使用される色彩を施して、全体としてありふれた形状にまとめた構成であり、女性用化粧品の容器の装飾デザインの一類型にすぎない。したがつて、本願商標を女性用化粧品の容器に使用しても、これに接する者は、意匠的な商品容器の装飾デザインとして付されたものと理解するにすぎず、中味である商品化粧品の出所を表示するものとは認識することができないものである。

第四証拠関係<省略>

理由

(争いのない事実)

一  本件に関する特許庁における手続の経緯、本願商標の構成及び指定商品並びに本件審決理由の要点が、いずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審判は、以下に説示するとおり、本願商標をもつて、自他商品識別の標識として認識しえないものとした点において、認定ないし判断を誤つた違法があるものといわざるをえない。すなわち、当事者間に争いのない本願商標の構成及び指定商品並びに成立に争いのない甲第八号証の一から十によると、本願商標は、別紙記載のとおり、花模様と唐草模様を組み合せ、これに色彩を施した図形であり、原告主張のような四つの特徴からなるものであるが(この点は、被告も認めて争わない。)、特に、ともに楕円形状で薄緑色にぼかされた輪郭と中核の各背景(地)から、それぞれ金色の模様部分が浮き上つて見えるなど、これを全体的に見ると、自他商品の識別力を有するものと認めるを相当とし、これを左右するに足りる証拠はない(乙号各証も適確な証拠とするに足りないことは、いうまでもない)。本件審決は、本願商標は、女性化粧品の容器等のデザインとして採択されやすい花や唐草の模様を組み合せた装飾的図柄のみからなり、他に特に注目(「注意」の意か)をひく部分を有しないことを根拠として、自他商品識別力がない旨説示するが、女性用化粧品の容器等のデザインとして花や唐草等の植物模様、あるいは彩紋模様が地模様として一般に採択されているからといつて(この一般的傾向そのものは、原告も争わないところである。)、そのことから直ちに、まして、特に注意(あるいは注目)をひく部分がないなどいうことを捕えて、自他商品識別力の有無を論ずるなど甚だしく誤つた見方といわざるをえない。けだし、図形商標を構成する花や唐草模様は、単なる構成上の素材にすぎず、個々の素材がありふれたものであつても、それらの配置、組合せ、彩色等によつて、全体として自他商品識別力を生ずることは、十分可能なことは見易いところであるからである。したがつて、また、本願商標を化粧品に使用した場合、取引者、需要者がこれを単に容器等の装飾的図柄とのみ理解するということも、根拠のない独断であるというほかはない。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八十九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅正雄 中川哲男 橋本攻)

別紙

(編注)模様の部分は金色、その背影となる部分は薄緑色に着色されている。

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