大判例

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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)79号 判決 1974年11月14日

原告

藤田勇

右訴訟代理人弁理士

蕚優美

外四名

被告

株式会社 橋千商会

右代表者

橋本康男

被告

住友ゴム工業株式会社

右代表者

下川常雄

被告

深作哲雄

右被告三名訴訟代理人弁護士

新長巌

主文

特許庁が同庁昭和四六年審判第九六二六号事件、昭和四七年審判第四八一号事件、同年審判第七七九号事件について昭和四九年三月七日にした審決を取消す。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は、請求棄却の判決を求めた。

第二  請求の原因

一、特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四二年一月二一日出願され昭和四五年八月七日登録された登録第九〇八〇六四号「ゴルフ用手袋」の実用新案(以下「本件考案」という。)の権利者である。被告株式会社橋千商会は、昭和四六年一二月二〇日、被告住友ゴム工業株式会社は、昭和四七年一月二八日、被告深作哲雄は、昭和四七年五月九日いずれも原告を被請求人として本件考案につき実用新案登録無効の審判を請求した。この請求は、特許庁に同庁昭和四六年審判第九六二六号事件、昭和四七年審判第四八一号事件、同年審判第七七九号事件として係属したが、特許庁は、以上の三件を併合審理のうえ昭和四九年三月七日登録を無効とする旨の審決をし、この謄本は、同月二〇日原告に送達された。

二、本件考案の要旨

手首のところをしめるようになつているゴルフ用手袋において、背部中間位置両側部を内方に引張り締付け得るような緊締バンド及び止具を取付け掌部のしわをとるようにしたゴルフ用手袋の構造

三、審決理由の要点

本件考案の要旨は、前項掲記のとおりである。

各審判請求人が証拠として提出した米国特許第三二二九三〇七号明細書(以下「第一引用例」という。)は、本件考案の出願前である昭和四一年五月九日特許庁資料館に受入されたものであつて、手首のところを伸縮性挿入物16でしめるようにしたゴルフ用手袋において、手首部より上方(指先側)で甲部の横方向における中央線より下方(手首側)の位置に、比較的巾広の伸縮性挿入物12が縫着されその両端は手袋の左右側の縫目に終つているゴルフ用手袋が記載されている(別紙図面参照)。

また、本件考案の出願前に日本国内に頒布された刊行物である実公昭三五―八四三九号公報(以下「第二引用例」という。)には、手首を緊締するために、手袋の甲部においてその左右側の縫目にそれらの一端をそれぞれ縫着した緊締バンド及び止具を有する手袋が記載されている。

本件考案と第一引用例に記載されたゴルフ用手袋とを対比すると、ゴルフ用手袋の甲部に取付けられた緊締具について、本件考案のものは緊締バンドと止具とで構成しているのに対して、第一引用例に記載されたゴルフ用手袋は、伸縮性挿入物12だけで構成している点で相違するだけであつて、その他の構成においては両者は一致している。

しかしながら、手袋の手首部を緊締するために、緊締バンドと止具とを用いることが上記第二引用例に記載されているから、このような緊締具を第一引用例における伸縮性挿入物12に替えて本件考案のような緊締具とすることは作用効果上格別の差異もなく当業者がきわめて容易にできるものである。

次に、本件考案における背部の緊締バンド及び止具と、第一引用例における伸縮性挿入物12との取付位置を対比すると、本件考案の緊締バンド及び止具は背部中間位置両側部を内方に引張り締付け得るように取付けたものであつて、背部中間位置とは、明細書の記載に徴すれば、甲部の横方向における中央線の位置と解すべきではなく、甲部の上縁と下縁との間を指称するものと解すべきであるから、第一引用例の伸縮性挿入物12が甲部の横方向における中央線より下方(手首側)に位置するとしても、本件考案の緊締バンド及び止具の取付け位置である背部中間位置とは差異あるものとすることはできない。

さらに、被請求人は、本件考案は、掌部のしわをとる目的で、背部中間位置両側部を内方に引張り締付け得るような緊締バンド及び止具を取付けたのに対して、第一引用例のものは、前後二本の伸縮性挿入物12・16により手首部をしめることによつて、手袋の甲部及び掌部に上向の引張りに抗する力を与えようとするもので、両者は、構成、作用、効果において本質的に相違する旨主張するが、第一引用例のものは、そのような構成、作用、効果を有するものであるが、伸縮性挿入物のうち手袋甲部の手首部の上方(指先側)に縫い着けられたもの12は、その構成によつて、手袋の手首部だけでなくその上方(指先側)の掌部のしわをも併せて取除くものであることは、第一引用例の記載に徴しても明らかである。

以上のとおりであるから、本件考案は第一、第二引用例に記載された考案に基づき当業者が容易に考案することができるものである。したがつて、本件考案は実用新案法第三条第二項の規定に違反して登録されたものであるから同法第三七条第一項第一号の規定によりその登録を無効とすべきものとする。

四  審決を取消すべき事由

本件審決は、左の理由によつて違法であり、取消を免れない。

(一)  本件考案の目的とするところは、従来ゴルフ用手袋にあつて共通の欠点とされていたしわ寄りを防ぎ、手袋をぴつたりと手にフィットさせることを意図としている点では第一引用例のものと同一である。しかし、本件考案は、この目的を「手首のところをしめるようになつているゴルフ用手袋」において実現した点において、第一引用例のものと相違するものである。すなわち、第一引用例のゴルフ用手袋には伸縮性挿入物16が縫着されているが、この手袋の上部手首部分10にはその裏面部分の中程にほぼV字状のノッチ11が設けてあるから、伸縮性挿入物16のみではノッチ11が開いてしまい手首のところをしめつけることができない。そして、この手袋にはその他に手首のところをスナップ、ボタンその他の止め具でしめるようにはなつていない。してみれば、第一引用例のゴルフ用手袋は手首のところをしめるようになつていないゴルフ用手袋である。ところが、審決はこれを手首のところを伸縮性挿入物16でしめるようにしたゴルフ用手袋であると認定し、本件考案と比較対象したのは、この点について第一引用例の認定を誤つたものである。

(二)  本件考案における緊締バンド及び止具は、掌部両側面部を外方に引張つて掌のしわをとることを意図するものであるから、その取付け位置は、当然に、背部中間位置両側即ち母指と人差し指との基部中間と小指基部とくるぶしとの中間位置を結ぶ線でなければならない。なぜなら、この位置以外の背部両側を引張つても、掌のしわはとれないからである。これに対し、第一引用例の手袋は、その前面部(手首部)および裏面部(背部)の伸縮性挿入物16および12は、それぞれ手袋の縦軸に対して少しく異なる横の平面に位置していて、手にはめた状態においては、この二つの挿入物16・12は手袋の縦方向において互いにオーバーラップする関係にあり、このオーバーラップ関係は、手袋の前面ないし掌部および裏面ないし背部の好ましいひつぱりを生じ、手首まわりに気持のよいフィットをもたらすのである。すなわち、第一引用例のものが叙上の効果を生ずるためには、挿入物が手袋の縦方向においてオーバーラップしていることが必要であり、かつ、両者の上下間隔が手袋両側の縫目19・20において近接した終端をもつものでなければならない。

してみると、本件考案における背部の緊締バンド及び止具と第一引用例における伸縮性挿入物12との取付位置は異なるものといわなければならない。審決が本件考案における緊締バンド及び止具の取付け位置としての背部中間位置について、これを甲部の横方向における中央線と解すべできなく、甲部の上縁と下縁との間を指称するものと解すべきであるとし、第一引用例の挿入物12が甲部の横方向における中央線より下方(手首側)に位置するとしても、本件考案の緊締バンド及び止具の取付け位置とは差異があるものとすることはできないとしたのは、本件考案における緊締バンド及び止具の取付位置を誤認し、引用例との比較対照を誤つた違法がある。

第三  被告の答弁

原告主張の請求原因事実は全部認める。

理由

原告主張の請求原因事実は、全部当事者間に争いがない。この事実によれば、本件審決は原告主張の違法があることが明らかであるから、取消を免れない。

よつて、原告の請求を認容し、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(古関敏正 杉本良吉 宇野栄一郎)

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