東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)91号 判決
一 請求原因のうち、本件考案についてなされた実用新案登録出願から登録無効の審決に至る特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨並びに審決の理由の要点はいずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由の有無につき判断する。
(一) 取消事由(一)について
原告は本件考案の要旨中「中間片の両端」という文言の意味を「中間片の両側端縁部」と限定して解釈すべきであると主張するが、右主張のように限定解釈すべき根拠は何ら存在せず、この点に関する審決の解釈に誤りはない。すなわち、
1 原告は、「中間片の両端」を「中間片の両側端縁部」と限定解釈すべき根拠として、まず、本件考案が従来の甲第五号証の取付金具を改良したものであることを挙げている。
しかしながら、本件考案の明細書(成立に争いのない甲第二号証。別紙実用新案公報参照。)によれば、本件考案は、もつぱら、従来の取付金具の欠点である止鋲のかしめ止めという係止脚形成手段を改良することを目的としていることが認められるところ、明細書には、従来品の形態上の特徴につき「端縁がコ字形をなす細長い金具本体の長手方向の両端に近く小孔を穿ち、この孔を利用して止鋲を(「止鋲で」とあるのは誤記と認める。)かしめ止めし」たものとの記載があるのみであり、その「端縁」が係止脚の部分を含めて金具本体の左右両端縁を指すのか、あるいは係止脚の部分を除く金具本体部分の端縁を指すのか明確にされておらず、また、従来品あるいは本件考案のものが計器搭載につき金具本体の全長を利用できる旨の記載もなされていない。一方、弁論の全趣旨により本件考案の登録出願前の製品を示すものであることが認められる甲第五号証(成立に争いがない。)及び検甲第三号証(甲第五号証に撮影されている取付金具の実物であることは争いがない。)によれば、甲第五号証の取付金具は金具全体の左右両端部の断面がコの字形であり、その両端縁部の内方寄りに各二本の止鋲をかしめ止めして係止脚を形成したものであることが認められるが、弁論の全趣旨により本件考案の登録出願前の製品を示すものであることが認められる甲第三号証(成立に争いがない。)によれば、甲第三号証の取付金具も金具本体部分の左右両端縁の断面がコの字形であり、この両端縁部より外方寄りに各一本の止鋲をかしめ止めして係止脚を形成したものであることが認められる。したがつて、明細書にいう従来の取付金具としては、甲第五号証の取付金具のみならず、甲第三号証の取付金具をも含むものと解さざるをえないから、原告主張のように、従来品を甲第五号証の取付金具にのみ特定しこれを改良したものが本件考案であることを根拠にして、要旨を限定解釈することはできない。
仮りに、本件考案の明細書に記載されている従来品は甲第五号証の取付金具に限られるとしてみても、前記認定のとおり、本件考案の目的がもつぱら従来品の欠点である止鋲のかしめ止め方式の改良にあり、明細書には計器搭載につき金具本体の全長利用ができる旨の記載もないから、明細書にいう従来品(甲第五号証の取付金具)の改良とは、止鋲のかしめ止め方式により係止脚を形成するのに代えて金具本体と一体の係止脚を形成したものを意味するにすぎず、必ずしも金具本体の全長が利用されているものに限るとすることもできない。したがつて、本件考案が金具本体の左右両端部においてそれぞれ二本ずつの係止脚を形成し、面一の平面部が残存しているため全長利用が可能となる構成を有しているものに限定さるべき理由はない。
2 原告は、また、本件考案の明細書の記載において、「両端」と「長手方向の両端」とを区別していること、係止脚については「係止脚2、2」と二個の符号を付していること、及び添付図面にも金具本体の左右両端部附近にそれぞれ二本ずつの係止脚を形成することが示されていることをもつて、「中間片の両端」を「中間片の両側端縁部」と限定解釈すべき根拠として挙げている。
しかしながら、原告の主張するように、明細書の記載において、金具本体の左右両端部は「長手方向の両端」と表現し、その左右いずれかの一端における両側端縁部は単に「両端」と表現したと解すべき根拠を明細書上みい出すことができない。
また、実用新案登録請求の範囲に「係止脚2、2」と二個の符号を付した記載があることを根拠とする点についてみても、右記載直前の「計器函5の正面に設けた案内条溝4に係合する」との記載部分が「係止脚2、2」を修飾する文言であることは文理上明らかであるから、右修飾部分を除くと係止脚形成に関する記載は「中間片1aの両端を延長して下側にL状に屈曲し、係止脚2、2を形成し」と続くことになり、係止脚に付された符号「2、2」は「中間片1aの両端」を受けて「両端」に対応して付されたものと解され、このように解することによりはじめて、同欄には、金具本体の左右両端部に係止脚が形成された左右対称の取付金具について記載されているものということができる。右のとおり、係止脚に付された「2、2」の符号は金具本体の左右両端部に形成される係止脚に対応して付された符号であると解するのが相当であり、原告主張のように、右符号が各一端における二本ずつの係止脚を表わすために付されたものであつて一つの案内条溝に二本の係止脚を係合させる構成を示しているとみるべき合理的根拠はない。
さらに、明細書添付の図面に示されている構成に限定されるべきものであるとの原告の主張については、なるほど、同図面には、金具本体の左右両端部にそれぞれ二本ずつ係止脚が形成され、面一の平面部が残存する構成が記載されている。しかし、実用新案登録請求の範囲には、考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならず、考案の構成は文章によつて明確に表現すべきものであり、これに伴い、明細書添付の図面は、考案の実施例を具体的に示し、明細書に記載された考案の構成をより理解し易くするためのいわば補助的機能を有するにすぎないものであるから、考案の構成に欠くことができない事項を文章によつて表現せずして図面のみによつて特定したり限定しようとすることは、原則として許されない。換言すれば、考案の要旨は、まず明細書に記載された文言により解釈、認定さるべきであり、記載文言に矛盾や不明瞭な点があれば添付図面に示されている実施例を参照しうることは当然であるとしても、記載文言上明らかである以上、これに反して、図面に示された具体的な構成のみを考案の要旨とすることは許さるべきことではない。本件考案の要旨についても、原告主張のように解すべき必然性は存在せず、原告の右主張は採用できない。
以上のとおりであり、本件考案の取付金具は、その係止脚が金具本体の左右両端部にそれぞれ二本ずつ形成されたものだけに限定されるわけではないから、金具本体の左右両端部の各中央に必ず面一の平面部が係止脚とは別に残存するものに限られない。
3 原告は、取消事由(一)3において、「中間片の両端」が「中間片の左右両端」の意味であるとしても、実用新案登録請求の範囲の記載内容からみて本件考案は金具本体の左右両端部においてそれぞれ二本ずつの係止脚が形成され、面一の平面部分が残存する構成でなければならない旨主張するが、本件考案が金具本体の左右両端部においてそれぞれ二本ずつの係止脚を有する構成のみに限定されるものでないことは前示のとおりであり、右の如き構成に限定されることを前提とする原告の右主張は失当というべきである。
なお、原告は、実用新案登録請求の範囲に「一つの案内条溝に対し二本の係止脚を形成した」と記載すると内容が理解しにくいため、添付図面において使用した符号を用いて「案内条溝4に係合する係止脚2、2を形成した」と表現して理解を容易ならしめた旨主張するけれども、前示のとおり、本来、考案の構成は実用新案登録請求の範囲の項に文章によつて明確にすべきものであり、図面中の符号を登録請求の範囲の記載に用いるのは、考案の各構成要件に対応する実施例の該当個所を示してその技術的事項の内容をより理解し易くするための補助的な手段にすぎないことは、実用新案法施行規則第二条に基く様式第三の備考12ロに定めるところに照しても明らかであるから、考案の構成に欠くことができない事項を文章によつて表現しないで図面中に用いられている符号を付すことだけで示そうとするのは、誤りというべきである。
(二) 取消事由(二)について
原告は、審決が引用例の技術内容の認定をも誤り、本件考案と引用例との構成及び作用効果における差異を看過誤認した旨主張するが、右主張も、以下に述べるとおり、理由がなく、これを採用することはできない。
1 甲第四号証、第六号証(いずれも成立に争いがない。)及び検甲第二号証の一(引用例の取付金具であることにつき争いがない。)によれば、引用例の取付金具における係止脚は、中間片の左右両端をそれぞれ外方に延長したうえ、下側にほぼ直角に屈曲させ、次いでこれを外方に直角(水平方向)に屈曲させ、さらにその末端部を上方に折曲して小突片を形成した構成であり、右末端部の小突片を除けば、引用例は、断面<省略>形の樋状金具本体の中間片に止螺子の挿通孔を長手方向に沿つて開口するとともに、その中間片の両端を延長して下側に係止脚をL状に屈曲して形成したものであることが認められる。したがつて、この点に関する審決の認定は、係止脚の末端部が上方に折曲されて小突片となつている附加された構成部分を除き格別の誤りはない。
また、前掲甲第四号証、第六号証及び検甲第二号証の二(引用例の取付金具に対応する計器函であることにつき争いがない。)によれば、引用例の取付金具に対応する計器函の案内条溝は、側壁に固着した部材の断面L状片部分と函の底板(正面壁)とによつて形成され、開口方向は横向き(側壁方向)であるが、係止脚との係合部分は函の正面壁に位置していることが認められる。したがつて、案内条溝を形成すべき部材の根元が側壁に固着されてはいるが、案内条溝自体は計器函の正面に設けられているものといえるから、この点に関する審決の認定にも誤りはない。
2 本件考案と引用例との構成上の差異に関する原告の主張は、基本的に、本件考案の構成が金具本体の左右両端部においてそれぞれ係止脚を二本ずつ有し、面一の平面部が残存するものに限定されること及び引用例の取付金具に対応する計器函の案内条溝が正面ではなく側壁に設けられていることを前提とするものであるが、既に判示したところから明らかなように、本件考案の構成が右の如きものに限定されているわけではなく、また引用例における案内条溝も正面に設けられているといえるから、原告の右主張の大部分は、その前提において理由のないことに帰し、失当というべきである。
ところで、引用例の取付金具において係止脚の末端部を上方に折曲して小突片が形成されているのは、係止脚に対応する案内条溝の開口方向が側壁方向であることによるものと推認されるところ、本件考案の明細書添付図面に示されている案内条溝は、その開口方向が正面方向であるから、両者は係止脚の末端部分の形状及び案内条溝の開口方向において一見相違しているということができる。しかしながら、本件考案が案内条溝の開口方向につき特に限定していないことは、明細書の実用新案登録請求の範囲の記載から明らかであり、開口方向の相違は単に実施例の相違にすぎず、これをもつて両者の考案における必須の構成要件に差異があるということはできない。したがつて、係止脚の末端部分における形状の差異も案内条溝の開口方向の違いに附随した設計上の微差にすぎず、これをもつて両者の係止脚の構造が考案として相違するものとはいえない。
3 作用効果に関する原告の主張も、本件考案の構成が金具本体の左右両端部においてそれぞれ二本ずつの係止脚を有し面一の平面部が残存するものに限定されることを前提としているが、右の前提そのものが採りえないことは前判示のとおりであるばかりでなく、本件考案の明細書にも、金具本体の全長を利用して計器を搭載できるとか、相対応する函体の幅を最少限度の寸法にすることができるという効果について何ら記載されていないし、この点が考案を別異ならしめるほどのものであると認めしめる資料もないから、これをもつて、本件考案と引用例との間には作用効果において著しい差異があるということはできず、この点に関する原告の主張も理由がない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求はこれを失当として棄却する。
〔編註〕 本願考案の要旨は左のとおりである。
断面コ字形の樋状金具本体の中間片に止螺子の挿通孔を長手方向に沿つて開孔するとともに、この中間片の両端を延長して下側にL状に屈曲し、計器函の正面に設けた案内条溝に係合する係止脚を形成した計器函における計器取付金具