東京高等裁判所 昭和49年(行コ)15号 判決 1975年1月13日
控訴人(原告) 中村杢二
被控訴人(被告) 静岡県人事委員会
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は「原判決を取消す。本件を静岡地方裁判所に差戻す。訴訟費用は被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項と同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張並びに証拠の関係は、次に附加するほか原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。
控訴人は、
一、本件判定書が控訴人に送達された日が昭和四七年一一月一六日であることは認める。
二、本件措置要求は実質的には不利益処分に対する不服申立であるから、これについては静岡県人事委員会規則一一―一〇「不利益処分についての不服申立に関する規則」第二三条を準用するのが相当であり、また、右規則の制定権者である被控訴人が、本件再審請求につき右規則第二三条を準用のうえ再審請求事件として取上げ、その本案につき判断を示しているのであるから、本件再審要求却下の決定は法規の認めた行政処分として取消訴訟の対象となるものである。
三、右のとおり本件再審要求却下の決定は法規に認められた不服申立に対する行政庁の行為として行政事件訴訟法第一四条にいう裁決に該るものであるから、本件判定に対する取消訴訟の出訴期間は右決定があつたことを知つた日又は右決定の日から起算すべきである。
仮に右の決定が法規の認めないものであるとしても、前記のように被控訴人は、本件再審要求につき「不利益処分についての不服申立に関する規則」第二三条を準用して調査する旨を言明し、これに基づき本案についての判断を示した決定をしているのであるから、この決定を受けた者がこれを正規の行政処分と考えるのは当然であり、従つて、行政事件訴訟法第一四条第四項の「行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合」と同様に取扱い、右同項の規定を類推適用ないし準用して本件判定に対する取消訴訟の出訴期間は前記決定がなされたことを知つた日又は同決定の日から起算すべきである。
と述べた。
証拠<省略>
理由
控訴人の本訴請求は控訴人の本件措置要求を棄却した本件判定及び控訴人の右判定に対する再審の申立を却下した本件決定の各取消を求めるものであつて、控訴人の主張及び成立に争のない甲第一号証によると、控訴人の本件措置要求の内容は静岡県立浜松商業高等学校教諭(地方公務員)の職にある控訴人に対し昭和四七年度末(昭和四八年三月三一日)に優遇退職勧奨を行うことを求めるというにあることが明らかである。
ところが、弁論の全趣旨に徴すれば、控訴人は昭和四八年三月三一日右の教諭の職を依願退職し、現在静岡県の職員(地方公務員)たる身分を有していないことが認められる。
してみると、本件判定及び決定が取消され、控訴人の本件措置要求の申立に対する被控訴人人事委員会の応答がない状態に戻つたとしても、控訴人が右のように既に地方公務員としての身分を失つている以上、被控訴人人事委員会において控訴人の要求する前記内容の措置を指示する余地のないことは明白である。
従つて、控訴人は本件判定及び決定の取消を求める利益がないといわざるをえず、この意味において控訴人の本訴請求はいずれも不適法として却下を免れないから、原判決は結局正当であつて、本件控訴は理由がない。
よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 満田文彦 真船孝允 小田原満知子)