東京高等裁判所 昭和49年(行コ)51号 判決 1977年12月20日
五一号事件控訴人(被告) 中央労働委員会
五二号事件控訴人(参加人) 全国金属労働組合外二名
被控訴人(原告) 日産自動車株式会社
〔原審〕 東京地方昭和四八年(行ウ)第六七号(昭和四九年六月二八日判決)
主文
原判決を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審を通じすべて被控訴人の負担とする。
事実
昭和四九年(行コ)第五一号事件控訴人(以下「控訴人委員会」という。)指定代理人および同年(行コ)第五二号事件控訴人ら(以下「参加人」または「参加人ら」という。)訴訟代理人は、それぞれ主文同旨の判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
各控訴人らおよび被控訴人の事実に関する主張および証拠関係は、次に附加するほかは原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。
第一被控訴人の主張
本件再審査命令は、被控訴人が参加人日本労働組合総評議会全国金属労働組合東京地方本部プリンス自動車工業支部(以下「参加人支部」または「支部」という。)所属組合員を時間外勤務(休日勤務を含む。以下「時間外勤務」または「残業」という。)に就業させなかつたことが同組合員を全日産自動車労働組合(以下「日産労組」という。)所属組合員と差別して取り扱つたものであり、これによつて支部の組織の弱体化を図つた行為として労働組合法(以下「労組法」という。)七条三号所定の不当労働行為に該当するとし、同一認定に基づいて東京都地方労働委員会(以下「都労委」という。)が被控訴人に対して発した「被申立人(被控訴人)は、支部所属組合員に対し時間外勤務を命ずるにあたつて同支部組合員であることを理由として他の労働組合員と差別して取り扱つてはならない。」旨の命令(以下「本件初審命令」または「初審命令」という。)を支持したものであるが、右命令は違法であり、取消を免れない。その理由は、要約すれば次の点にある。
一 不当労働行為認定の誤り
(一) 被控訴人が実施していた残業に支部組合員を就かせなかつたことが他組合すなわち日産労組所属組合員との差別取扱にあたり、これによつて被控訴人が支部に対して支配、介入を行つたものということができるためには、(1)支部組合員が日産労組員と同様に右残業に服する意思を有していたこと、(2)それにもかかわらず被控訴人がことさらに支部組合員に残業をさせなかつたことの二つの要件が充たされることが必要である。しかるに、被控訴人が、昭和四二年六月三日から同四三年一月二六日までと、同四六年六月一八日から同四七年四月一八日までの間に行つた支部との団体交渉において、被控訴人が実施していた後述の計画残業に服するよう明示的ないし黙示的申入れをしたのに対し、支部は当初から一貫して右計画残業に反対する態度をとり続けていたのであるから、他に特段の立証のないかぎり、支部組合員は日産労組員と同様に右残業に服する意思がなかつたものといわざるをえない。しかるに右の特段の立証は遂になされていないのであるから、被控訴人が支部組合員を残業させなかつたことが不当な差別取扱にあたらないことは明らかであり、これを肯定して被控訴人が支部に対する支配、介入を行つたものとした初審命令およびこれを支持した本件再審査命令は、いずれもその前提事実について認定を誤つたものといわなければならない。
(二) 初審命令および再審査命令が右のような認定の誤りを犯した一つの理由は、被控訴人が実施していた残業が合併前の旧プリンス自動車工業株式会社(以下「旧プリンス」という。)において行われていた残業とその性質および内容を異にするものであることに対する理解が十分でないことによるものである。すなわち、旧プリンスにおいても一定の生産計画をたててそのもとで業務を運営していたことに変りはなく、旧プリンスの荻窪、三鷹、村山の三工場の製造部門でもこれに応じて一定の残業計画がたてられていたが、その実施については各職場の上長が個別的に部下と接衝し、その都度その同意を得るという方法がとられ、基本的に従業員各自の同意を基礎とするものであつたため、従業員の恣意によつて所要の残業要員が容易に得られず、作業運営に難渋することが少なくなかつた。ただ旧プリンス時代においては、生産計画および残業計画自体が必要作業時間についての大まかな見積り(ストップ・ウォッチ方式)に基づいてたてられていたので、残業要員の一部に欠缺を生じても、他の残業者が能率をあげたり、別の日に能率をあげて作業の遅れを取り戻したり、また生産工程の構成上各工程間に仕掛品を置くことができたので、これによつてカヴアーする等の方法をとることができ、これによつて右の難点がさほど顕在化するにいたらなかつたのである。これに対し、被控訴人の実施した残業は、限られた機械設備と限られた人員を利用して生産能率を増大せしめる方法として、昼夜二交替制をとり、これと不可分な勤務体制として勤務時間の延長、休日出勤等の時間外勤務制(計画残業)をこれと組み合わせたものであり、作業時間は厳格に見積られ(ワーク・フアクター方式)したがつて残業が従業員の恣意によつて左右されることなく予定どおり確実に行われることが必要不可欠の要素をなしているものである。それ故被控訴人は、日産労組との協定に基づき、毎月の残業計画についてはその前月に同労組と協議してこれを決定し、同労組員は特段の理由のないかぎり当然にこれに従つて残業するという形で、右残業が計画どおり支障なく行われてきたのである。しかるに支部は、右の昼夜交替制のもとにおける夜間勤務に服することを拒否し、また、残業についても、これを労働者の意思を無視する強制残業であるとして正面から反対しているのである。
(三) のみならず、仮に被控訴人が支部の要求を容れて支部組合員の夜間勤務を免除し、昼間勤務のみに服せしめ、かつ、支部の要求するような形で昼間勤務の日産労組員と同一の残業をさせるとすれば、それはかえつて旧支部組合員を日産労組員より優遇するという逆の差別待遇となり、被控訴人としてはとうていとることのできない措置といわざるをえず、現に日産労組は被控訴人に対しかかる差別取扱に対する強い反対の意思を表明しているのである。それ故、被控訴人が日産労組員と同一の条件のもとにおける残業を強く主張し、この条件に従わないかぎり支部組合員の残業組入れを拒否していることには正当かつ合理的な理由があり、これをもつて不当な差別取扱、ひいては支部に対する支配、介入とするのは、全くいわれなき非難といわなければならない。
(四) 各工場の製造部門と異なり、間接部門においては昼夜交替勤務制はとられていない。しかし、間接部門における残業についても、被控訴人は、製造部門における残業との均合等を考慮し、日産労組との間で残業時間を一日四時間、一か月五〇時間とする旨の協定を結び、これを実施してきた。しかし支部は、これに対しても一日二時間、一か月四〇時間という条件を主張し、日産労組員と同様の条件のもとで残業させるとの被控訴人の申入れを拒否し、残業に就く意思のないことを表明している。また支部は、間接部門における残業問題に対し各人の作業の質および量の問題を持ち出し、これについての解決が残業に服する先決事項であると主張しているが、この問題は残業に服したのちの過程においておのずから解決される事柄であつて、これが先決されなければならない問題とは考えられないから、支部があくまでその先決を主張しているのは、結局において支部が残業に服する意思がないことを表明しているものにほかならないというべきである。
二 救済命令の内容の不適法性
(一) 本件再審査命令が支持した初審命令における主文は前述のとおりであるが、右命令は著しく抽象的であり、被控訴人に対して具体的にいかなる措置をとることを命じているかにつき明確性を欠いている。被控訴人は、支部組合員に対しても日産労組員と同一条件における残業をさせることを命じたものと解し、支部に対してこれに沿つた申入れをしているのであるが、参加人らは、支部が夜間勤務に服することを承諾すると否とにかかわらず、現状のもとにおいて直ちに支部組合員に対し時間外勤務をする機会を与えるべきことを命じたものと解し、控訴人委員会もまた、ほぼ同様の見解を示している。このように大きな解釈の相違をもたらすような命令は、それ自体あいまいで不明確な命令として違法である。
(二) 仮に右命令が参加人らの主張するような内容のものであるとすれば、前述のように日産労組員より支部組合員を優遇する取扱をすべきことを命じたことになり、正義に反し、かつ、平等取扱を旨とする不当労働行為制度の趣旨に違反するものとして違法であるといわなければならない。
三 救済の必要性の消滅
被控訴人は、初審命令が発せられたのち、前述のように昭和四六年六月一八日から同四七年四月一八日までの間支部と団体交渉を重ね、日産労組員と同一条件で支部組合員に残業をさせる旨を反覆して申し入れてきた。それ故、支部組合員が残業をしないのは専らその意思によるものであり、したがつて仮に初審命令において不当労働行為と認定された支部組合員の残業組入れ拒否が不当労働行為にあたるとしても、少なくとも右昭和四六年六月一八日以降においては被控訴人による不当差別取扱なるものは消滅しており、また将来におけるその反覆のおそれも存しない。それ故、控訴人委員会は、少なくとも再審査命令の段階においては、もはや初審命令を維持する必要性が失われたものとしてこれを取り消すべきであるのに漫然とこれを維持したのは、救済の必要性の判断を誤つたものといわざるをえず、違法として取り消されるべきである。
第二控訴人委員会の主張
一 不当労働行為の成否
被控訴人が支部組合員らを本件計画残業に組み入れることを拒否したことが不当な差別取扱であり、これによつて支部に対する支配、介入を行つたものとして労組法七条三号の不当労働行為となるかどうかについては、単に被控訴人がいかなる名目上の理由によつて右残業組入れを拒否しているかという点のみを切り離して考察するだけでは不十分であり、被控訴人が旧プリンス三工場における日産型交替制と計画残業の導入にあたり、およびその以後においてとつてきた態度、被控訴人と支部との間の団体交渉の経緯、その間における双方の主張と態度等諸般の事実関係を慎重に検討し、右残業組入れ拒否についての被控訴人の真の意図がどこにあつたかを洞察して判断すべきものである。控訴人委員会が右の観点から被控訴人の本件残業組入れ拒否を不当労働行為と認定した理由の要点は、次のとおりである。
(一) 被控訴人は、昭和四二年二月一日旧プリンス三工場の製造部門に日産型交替制と計画残業を導入して以来、日産労組との間では毎月協議して残業計画を定め、同労組員に対する関係でこれを実施してきたにかかわらず、支部組合員については、支部に対しなんらの提案も交渉もしないままで一方的にこれを昼間勤務のみに組み入れ、かつ、計画残業からは一切除外してきた。このことは、交替制のない間接部門においても同様であつた。
(二) 被控訴人は、右のような支部組合員の残業組入れ拒否は、支部が右計画残業を強制残業であると主張してこれに絶対反対の態度を表明していたからであるという。しかし、被控訴人は、果して支部が右残業に絶対反対なのかどうか、いかなる形態の残業ならこれに応ずるのか、その間に調整の余地はないか等について支部の意向を打診し、説得ないしは合意に到達するための努力を全くせず、一方的に支部組合員の残業組入れを拒否しているのである。もつとも、被控訴人と支部との間には当初支部の存在そのものについて認識の食い違いがあり、そのために事実上団体交渉の基盤に欠けるところがあつたが、しかしその後労働委員会の命令によつて右の状態が解消され、両者間に団体交渉が行われるようになつてからも、被控訴人が支部に対して日産型交替制と計画残業の内容を具体的に説明したのは漸く昭和四三年一月二六日の団体交渉の席上においてであり、それまでは、支部組合員に残業をさせない理由については単に支部組合員との間の信頼関係が欠けているからと答えるのみで、他は専ら抽象的な議論のやりとりに終始していたのである。他方支部はその情宣活動において被控訴人の計画残業に対し強制残業反対等の表現を用いて批判的態度を示していたけれども、果して支部がどこまで残業に反対であるかは、具体的なその内容と理由の説明をしたのちの交渉過程を通じて明らかになるはずであるのに、被控訴人は前述のようにこのような労をとつていない。これらの事実や本件再審査命令書理由第一・3・(9)記載の事実に照らすと、被控訴人が支部組合員に残業をさせないのは、支部が「強制残業反対」の態度をとつているからではなく、支部および支部組合員に対する嫌悪感からにほかならないこと、ひいては残業をさせないことにより支部に一定の打撃を与える意図があつたものと認めざるをえない。
(三) 被控訴人はまた、計画残業は昼夜交替制と不可分であるのに、支部は夜間勤務に服することには絶対反対の態度をとつていたから、日産労組員との均合上からも支部組合員を昼間勤務のみに就け、しかも日産労組員と同じに残業をさせることはできなかつたという。しかし被控訴人が支部に対して遅番組入れを提案したのは前記昭和四三年一月二六日の団体交渉においてであり、それまでは被控訴人において前述のように支部組合員を一方的に昼間勤務のみに組み入れていたのである。そしてこの状態が一年間も継続し、支部組合員がこのような勤務状態を一種の既成事実として受けとつていたとも考えられることや、支部が従前から被控訴人のとつている遅番勤務体制に対して批判的であつたこと(もつとも、支部は夜勤に絶対反対であつたというわけではなく、昭和四二年一二月の団体交渉において、たとえ被控訴人の容認しえない内容のものであつたにせよ、夜勤についての一定の条件を提示している。)等の関係から、支部との団体交渉においてこの点に関する早急な合意の成立を望みえない状況にあつたのであるから、被控訴人としては、ともかくも差別取扱であるとの主張がされていた昼間勤務の残業組入れ問題と遅番組入れ問題とを切り離し(この両者が被控訴人のいうように不可分一体のものと認められないことは、後述のとおりである。)、両者につき平行的な交渉をする等弾力的なやり方をすることが可能であり、またそうすべきであると考えられるのに、被控訴人は夜間勤務を承認しないかぎり昼間勤務に伴う残業は絶対に認めないとの硬直した態度をとり続けてきたのである。それ故、被控訴人の掲げる遅番組入れに対する支部の反対という理由は、単に名目上のものにすぎず、真実は前述のように残業組入れ拒否による支部組合に対する経済的圧迫の意図に出たものであると考えざるをえない。このことは、被控訴人が夜間勤務の全くない間接部門においても支部組合員の残業を一切認めない態度をとつていたことからも、十分に裏づけられるのである。
(四) 被控訴人は、初審命令後の昭和四六年六月一八日以降の支部との団体交渉の経過を挙げ、被控訴人が日産労組員と同一の条件の下で残業させる旨の申入れをしているのに支部はこれを拒絶しており、そうである以上被控訴人が支部組合員を残業に組み入れないことには正当な理由があるから、不当な差別取扱に当たらないという。しかし、右事実は初審命令後の事実であつて、右命令の基礎となつた不当労働行為の成否そのものとは関係がなく、単に後述する救済の必要性との関連で問題となりうるにすぎない。否、かえつて右昭和四六年六月一八日の団体交渉まで間接部門においても支部組合員に残業をさせなかつた事実にこそ着目すべきである。
二 救済命令の内容の適法性
初審命令は、支部が残業を申し入れたにもかかわらず被控訴人が交替制勤務に服する他労組員の昼間勤務者と差別して残業を命じなかつたこと、交替制をとつていない間接部門の支部組合員に対しても同様の取扱をしたことが不当労働行為であると認定し、救済命令を発したものであり、控訴委員会も同様の認定のもとにこれを支持したものであるから、右命令が、支部組合員につき、交替制が実施されている職場にあつては交替制勤務の早番に従事する他組合員と、また交替制をとつていない間接部門にあつては他組合員と、残業について差別することを禁止したものであることは明らかであり、被控訴人のいうような不明確性は存しない。
なお、右命令は夜間勤務について全く触れていないが、これは、夜間勤務問題は被控訴人の主張するように計画残業と不可分一体のものではなく、前者については後者と切り離し、団体交渉を通じて解決せられるべきものと考えたためである。両者が可分であることは、昭和四二年八月下旬から旧プリンス荻窪工場の支部組合員が村山工場に応援勤務した際に、夜間勤務に服さなかつたにもかかわらず残業をさせていたことや、夜間勤務のない間接部門のことを考えても明らかである。被控訴人が交替制に服するという条件と残業とが結びついているというのは、結局のところ夜間勤務に服する者に対する一種の優遇措置として残業が命ぜられるというにとどまるのであつて、交替制と計画残業との本来的不可分一体性を理由づけるものではない。なお、右救済命令により被控訴人のいうような一見逆差別ともいうべき結果が生ずるようにみえるけれども、しかしこのような結果は、被控訴人が会社内に複数の労働組合が存在するのにことさらに支部を無視して交替勤務制と計画残業を一方的に実施したことによるものであるから、これをもつて右救済命令を違法とするにはあたらない。
三 救済の必要性
被控訴人は、初審命令後支部に対し支部組合員の残業組入れを申し入れているから、不当労働行為状態は解消し、右命令を維持すべき必要性が消滅したという。しかし、右申入れの事実をもつて不当労働行為の状態が解消したということができないのみならず、かかる状態が一時解消しても、その再発のおそれがある場合にはなお救済の必要性は失われないのである。控訴人委員会は、初審命令後もその履行がなされておらず、また被控訴人の不当労働行為の成立を全面的に争つている態度にかんがみ、なお初審命令を維持すべき必要性があると判断したものであつて、その間になんらの違法、不当はない(なお被控訴人は、本件再審査命令後の昭和四八年六月四日以降支部組合員を計画残業に組み入れているが、この事実が再審査命令取消の理由となりえないことはいうまでもない。)。
第三参加人らの主張
一 不当労働行為の成否
(一) 本件支部組合員の残業組入れ拒否が不当労働行為を構成するかどうかは、被控訴人の右行為が支部を嫌忌し、その存在または活動を圧迫、封殺する不当労働行為意思をもつてなされたものかどうかにかかつている。そしてこのような意思の有無を判断するについては、単に右残業組入れ拒否行為のみに着服することなく、被控訴人が支部に対してとつた一連の行動および態度との関連においてこれを考察、評価して判断しなければならない。被控訴人は、昭和四一年八月一日の旧プリンスとの合併の前後を通じ、旧プリンス時代に同会社内の唯一の労働組合であつた支部の存在を嫌忌し、これを排除して日産労組を合併後の旧プリンス三工場における唯一の労働組合としようと考え、職制を通じて支部の参加人全国金属労働組合(以下「全金」という。)からの離脱工作を行い、右三工場内に第二組合を成立させ、これを全金から脱退させ、なお第一組合として残存している支部の存在を否定し、その後右第二組合を吸収した日産労組のみを唯一の労働組合として専らこれらとのみ交渉し、さらに支部組合員に対しさまざまな圧迫を加えたのである。そのために参加人らは、旧プリンスの支配介入行為に対する救済の申立、団体交渉不当拒否に対する救済の申立等さまざまの不当労働行為救済の申立を都労委に対して行い、これらはいずれも認容されて救済命令が発せられた。被控訴人が支部の存在を認め、これと団体交渉をもつようになつたのも、これを命ずる昭和四一年七月一二日の都労委の命令、これに対する被控訴人の再審査申立を棄却した昭和四一年一一月二六日の控訴人委員会の再審査命令が出されたのちのことである。本件残業組入れ拒否は、かかる背景のもとにおいてなされたものであることを直視しなければならない。
(二) 被控訴人は、本件残業組入れ拒否は、専ら支部がこれに反対しているためで、右のような不当労働行為意思に基づくものではないという。しかし、支部は旧プリンス時代においても残業そのものに反対したことはなく、さらに一定の条件のもとに夜間勤務にも服していたのであつて、被控訴人との間で労働基準法三六条による協定が成立すれば、残業をするのに吝かではなかつた。しかるに被控訴人は、支部がその教宜活動において強制残業反対をその要求主張の一項目として掲げているのをとらえて残業反対の意思を表明したものとなし、支部に対し、昭和四三年一月二六日の団体交渉までの数次の団体交渉においても被控訴人のとつている昼夜交替勤務制や計画残業の内容、必要性を具体的に説明することをせず、また右一月二六日の団体交渉においても右の点に関する日産労組との協定の内容を示さず、要するにこれにつき誠意ある団体交渉を行おうとはしないで、支部組合員を残業に組み入れると業務上の阻害を生ずると称して一方的に支部組合員の残業を一切拒否し、リリーフマンによる代替という異常な措置をとつてきたのである。これらの点からみれば、被控訴人の本件残業組入れ拒否の真の理由が、被控訴人の主張するごときものではなく、まさに支部抑圧の目的にあつたものであることが明らかである。
(三) 被控訴人はまた、前記日産型交替制と計画残業とは一体不可分の関係にあるところ、支部は夜間勤務に強く反対しているので、支部組合員だけを夜間勤務に就かせないで昼間勤務の残業をさせるのは、日産労組員を逆差別することになるから、このような状況のもとでは支部組合員の残業組入れ拒否もやむをえないという。しかし、間接部門においてはもともと夜間勤務はなく、したがつて右のような問題を生ずることがないのに、被控訴人は昭和四二年二月以降間接部門においても支部組合員の残業を拒否し、日産労組員と差別しているのであるから、右理由が真実のそれでないことは明らかである。のみならず、夜間勤務に就くことが労働者にとつて不利であるかどうかは主観的な価値観の問題であつて、夜間勤務即不利な労働条件というわけのものではない。参加人全金は、夜間勤務に対し一般的に反対の態度をとつているが、それは夜間勤務に伴う割増賃金や深夜勤務手当等の経済的利益を犠牲にしても夜間勤務に就かないことが望ましいとする立場に立つからであつて、日産労組がこれと異なる価値観から夜間勤務を容認したとしても、それはそれで一つの立場であるにすぎない。それ故、支部組合員に昼間勤務のみをさせ、しかも日産労組員と同一の残業を認めることが日産労組員に不利な差別取扱であるとする被控訴人の主張はあたらない。
(四) 被控訴人は、旧プリンス時代の残業と被控訴人の計画残業とは全くその本質を異にするものであつたという。しかし、旧プリンスにおいても一定の生産計画のもとで残業予定がたてられ、これにしたがつて所属長の業務命令による残業が行われていたことに変りはなく、両者の相違は、旧プリンス時代においては特殊業種を除いて深夜勤務がなく、深夜勤務の場合には残業がないという点だけにすぎない。そして支部は旧プリンス時代の残業に対しては、協定に基づく協力を惜しまなかつたのである。なお被控訴人は、夜勤残業が旧プリンス事業部門に導入されたのは昭和四二年二月からであるというが、昭和四一年八月一日の合併時からすでに部分的に夜勤体制が導入されていたのであり、支部組合員はこれに該当しなかつたけれども、残業は従来どおり行つていたのである。
二 救済命令の内容の適法性
初審命令が命じている救済の内容は、被控訴人は支部組合員に対し残業を命ずるにあたつて、支部組合員であることを理由として他の労働組合員と差別して取り扱つてはならないというのであり、支部が夜勤制度や「強制残業」に反対の言明をしているからとか、日産型交替制に服するようにとの被控訴人の申入れを支部が拒否したからといつて、そのことを理由として支部組合員の残業組入れを拒否してはならない旨を命じたものであることは明らかであるから、その内容において被控訴人のいうような不明確性は存しない。
また、被控訴人が右命令を実行した場合には、その結果支部組合員は平日勤務のみに服し、しかもこれに附帯する残業にも就くこととなるのに対し、日産労組員は平日勤務と深夜勤務の交替制および各これに附帯する時間外勤務に服することになり、同一職場内に勤務時間体系を異にする二種の労働者が存在することとなるが、これはがんらい被控訴人が昭和四二年二月の新勤務時間体系の導入に際して支部となんらの交渉を行わず、不当労働行為意思をもつて支部組合員のみを別異の勤務体制に服させたことによるものであり、いわば被控訴人がみずから招いた結果ともいうべきであるから、かかる結果を生ずるからといつて初審命令およびこれを支持した再審査命令を違法とすることはできない。
三 救済の必要性
被控訴人は、本件初審命令後の事実を挙げて救済命令維持の必要性が消滅したものとし、これを取り消さなかつた本件再審査命令の違法を主張するが、控訴人委員会は初審命令後においても本件不当労働行為の除去、原状回復は実現されていないと判断して初審命令を維持したものであり、行政委員会である控訴人委員会のかかる判断は、裁判所もまたこれを尊重すべきものである。
第四当審における証拠<省略>
理由
第一本件の争点
請求原因一(ただし、昭和四八年一月三一日当時における支部組合員数を除く。)および二の各事実ならびに初審命令が被控訴人において支部所属の組合員に対し残業を命じなかつたことが労組法七条三号に該当する不当労働行為であると判断し、控訴人委員会が本件再審査命令において右判断を相当としたものであることは、いずれも当事者間に争いがない。本件における争点は、第一に右不当労働行為の成立に関する判断が相当かどうかであり、第二に本件再審査命令が維持した初審命令の定める救済措置の内容の適否および初審命令後の事情の変更によつてこれを維持すべき必要性が失われたのに、これを維持した点において本件再審査命令に取消されるべき違法があるかどうかにある。そこで、以下において右各争点に対し順次判断を加える。
第二本件不当労働行為の成否に関する控訴人委員会の判断の適否
一 不当労働行為の性格とその成否に関する労働委員会の判断
被控訴人が昭和四二年二月一日から旧プリンス事業部門三工場においていわゆる日産型交替制と計画残業を実施したが、支部組合員のみは右残業に一切組み入れなかつたことは、後述のように当事者間に争いがない。初審命令および本件再審査命令は、前記のように、被控訴人の右残業組入れ拒否が支部組合員であることを理由として日産労組員と差別的に取り扱つたものであり、これによつて支部の弱体化を図つたものとして労組法七条三号の不当労働行為に該当すると判断したものに対し、被控訴人は、支部組合員に対しては日産労組員と同一条件のもとでの残業組入れを提案したのに支部はこれを拒否し、残業に就く意思を有していなかつたのであるから、支部組合員を残業に組み入れなかつたのには正当な理由があり、いかなる意味においても差別取扱にあたらず、これによつて支部の弱体化を図つたものとはいえないと抗争する。
思うに、労働組合に属する労働者に対する使用者の労働関係上の処遇が組合員である故をもつてする差別的取扱にあたるかどうか、また、これを通じて当該組合の存在および活動に圧力を加える行為であつて、組合に対する支配介入行為とみるべきものであるかどうかは、事柄の性質上極めて微妙な判断を要求する場合が少なくない。すなわち、一般に使用者と労働組合とはそれぞれ自己に有利な労働条件の獲得をめぐつて相互に利害が対立する関係にあるから、使用者は、自己の利益の追求上労働組合の交渉力が強大となることを警戒し、多かれ少なかれその弱体化を望む傾向を内在せしめており、労組法七条が使用者の一定の反組合的行為を不当労働行為として禁止しているのもそのためであると考えられるが、他面使用者はもとより法の禁止に触れないかぎりにおいて自己の利益追求のための活動の自由を有し、労働組合や労働者に不利益な行動態度をとることも許されるのであり、したがつて具体的場合に労働条件の決定等に関して使用者のとつた労働組合ないしは労働者に不利益な特定の行為が右の両者のいずれの範疇に属するかを判定することの困難な場合を生ずることを免れないのである。とくにこれらの場合における判定基準としてしばしば重要な役割を果たすのは、使用者の側における反組合的な意図ないし目的の存否であるが、このような使用者の主観的な意図や目的も、使用者の不当労働行為を禁止する法制のもとでは、その存在を明白に窺わしめるような形では現われないで、一見正当な主張や正当な理由に基づく行為の形をとつて現われることが多く、このような場合における右の意図、目的の存否の判断には格別の困難と微妙さがあるということができる。それ故、以上のような場合において使用者の特定の行為がほんらい使用者の自由に属する範囲の行為であるか、それとも労働組合活動に対して不当な阻止的ないしは歪曲的影響力を行使するものとして不当労働行為と目すべきものであるかを判断する場合には、当該行為の外形や表面上の理由のみをとりあげてこれを表面的、抽象的に観察するだけでは足りず、使用者が従来とり来たつた態度、当該行為がなされるにいたつた経緯、それをめぐる使用者と労働者ないしは労働組合との接衝の内容および態様、右行為が当該企業ないし職場における労使関係上有する意味、これが労働組合活動に及ぼすべき影響等諸般の事情を考察し、これらとの関連において当該行為の有する意味や性格を的確に洞察、把握したうえで上記の判断を下だすことが必要であることは、改めていうまでもないところである。労働委員会は、労使関係において生ずべきこの種の問題につきとくに深い専門的知識経験を有する委員をもつて構成する行政委員会として法が特に設けたものであるから、右の不当労働行為の成否に関する労働委員会の判断は、右の意味においてこれを尊重すべきものであり、その判断の当否が訴訟上争われる場合においても、裁判所は、委員会の作成した命令書における理由の記載のみに即してその当否を論ずべきではなく、命令書中に明示的にはあらわれていないが、労働委員会の考慮の中にあり、判断の一基礎となつたと想定される背景的事情や関連事実の存否にも思いをいたし、これらとも関連づけて当該認定もしくは判断が十分な合理的根拠を有するものとして支持することができるかどうかという見地からその適否を審査、判断すべきものと考える。そこで、以下において右の見地から本件不当労働行為の成否に関する控訴人委員会の判断の適否を検討する。
二 会社合併をめぐる旧プリンス三工場の労働情勢
命令書理由第1・3・(1)および(2)記載の事実は当事者間に争いがなく、これらの事実と文書の体裁により成立を認めうる丙第一、第二号証、第四ないし第六号証、第一五号証、甲第一〇号証、成立に争いのない丙第三、第七号証、第二四号証の一をあわせると、次の事実が認められる。
(一) 昭和四一年八月一日被控訴人と合併する前の旧プリンス(従業員約七、八〇〇名)においては、参加人全金に属する全金東京地方本部プリンス自動車工業支部が唯一の労働組合であり、他方被控訴人会社においては日本自動車産業労働組合連合会(以下「自動車労連」という。)に属する日産労組が唯一の労働組合であつた。昭和四〇年五月三一日旧プリンスと被控訴人との間において合併に関する覚書が調印、公表されるにおよび、前記支部は右合併に対する組合としての態度決定に迫られ、中央執行委員会の決議として、合併に伴う労働条件の引下げを行わないこと等の要求項目を打ち出してこれを組合員に発表するとともに、幹部役員らは日産労組や自動車労連の幹部との間に話合いを行つたが、後者は、前記支部の方針をもつて、合併に反対し、かつ、日産労組、自動車労連と対決する方針であると批判し、話合いは進展しなかつた。その後前記支部は中央執行委員会で定めた方針を中央委員会でも確認したが、他方日産労組や自動車労連の幹部は、前記支部の定期大会や中央委員会等に出席した機会に右支部の運動方針を批判し、合併成功のため右支部の中央執行委員を除く組合員らと交流して早急に組織統一を図る必要を説き、また、日産労組の定期大会においてはこれを同労組の方針として決定する等の行動をとつた。このような事情のもとにおいて、右支部の内部にも動揺が生じ、執行部の方針に対する批判的な動きが強くなり、数次の臨時大会を経て昭和四一年三月三〇日の臨時大会において支部の全金からの脱退および支部の名称をプリンス自動車工業労働組合(以下「プリンス自工組合」という。)と改称することを含む規約改正等を決議し、次いで同年四月二日全員投票によつてこれを承認し、会社および全金にその旨を通告するにいたつた。右組合は合併とともに日産自動車プリンス部門労働組合(以下「プリンス部門組合」という。)と改称したが、その後昭和四二年六月日産労組に統合された。他方右の動きに同調しない前記支部の一部の組合員らは、上記の一連の決議の効力を否定し、プリンス自工組合は支部とは別個の第二組合であり、支部は依然として全金に属する支部として存続していると主張し、会社(旧プリンス)に対し一五二名の組合員名を通告して団体交渉を申し入れる等の活動を継続した。
(二) これらの一連の動きに対し、会社(旧プリンス)側は、合併を成功させようとする立場から、おのずから日産労組やこれに同調する支部内の動きに対し好意的であり、前記支部の全金からの脱退、プリンス自工組合への改称の時点において全金に属する支部は消滅したものとして前記残存組合員らによる団体交渉の申入れを拒否し、合併後の労働条件につきプリンス自工組合とのみ協定を結び、合併後の被控訴人もまたこれと同様の態度をとつた。このような会社側の態度に対し、全金や支部は、(1)日産労組の支部組合員らへの働きかけに対する会社(旧プリンス)の側面援助を労組法七条三号の支配介入行為であるとして、(2)支部に対する団体交渉拒否を同条二号の不当労働行為であるとして、それぞれ都労委に対し救済申立を行い、また、(3)合併後に被控訴人が行つた支部組合員六名の配置転換を同じく同条一号の不当労働行為として救済申立をする等の抗争措置をとつた。前掲命令書理由第一・3・(2)記載の各救済命令は、いずれもこれらの申立に基づいて発せられたものである。右各救済命令のうち、(1)についてのそれは初審命令の段階で確定し、(2)についてのそれは初審命令を維持した再審査命令が確定し、(3)については、初審命令に対する再審査手続の段階で原職復帰の線に沿う和解で解決した。
三 被控訴人および旧プリンスの交替制勤務と残業の実態
この点に関する当裁判所の認定は、次に訂正、附加するほかは、原判決理由三記載(原判決一五枚目裏二行目から同一七枚目裏一〇行目まで)と同じであるから、これを引用する。
原判決一五枚目裏三行目「成立に争いのない」とある部分の次に「乙第二七号証、」を、同「乙第六五号証、」とある部分の次に「原審における」をそれぞれ附加し、同四行目「および同証言」とある部分を「同証言および当審における証人小林輝行の証言」と訂正し、同行目の「プリンスにおいて」とある部分から同八行目の「認められる。」とあるまでを次のように訂正する。
「旧プリンスにおける残業は、支部との間におけるその上限についての協定に基づいて実施されていたが、その方法は、製造部門については毎月一定の生産計画のもとにおいて必要と思われる残業予定時間を支部に通告するが、これにつき特にその承諾を徴することはなく、実際に残業をさせる場合は、班長ないし係長等の現場上司が各部下に対して個別的に残業に服するかどうかを確かめ、残業応諾者だけでは不足の場合には適宜他の部署から応援を求める等の方法によつて所要人員を確保し、これらの者に対して業務命令を出すというやり方であつたこと、この方法によるときは必ずしも所要人員が得られず、当日予定された生産成果が得られないこともあつたが、次の日に能率をあげて挽回するとか、また必ずしも徹底した一貫作業方式を採用していなかつた関係上部分的にいわゆる「作りだめ」を行い、これを工程間に置くことによつてカヴアーする等してほぼ計画どおりの生産を行つていたこと、事務技術部門においては従業員から随時所属長に申し出て、その許可を得て残業を行う方法がとられていたこと、支部組合員の残業実績は、一般従業員の平均残業時間の半分から三分の二程度であつたこと(ただし合併後は残業自体の量が減つたこともあつて、ほぼ同様か、ないしは平均を上廻ることもあつた。)が認められる。」
四 本件残業問題発生をめぐる諸事情
この点に関する当裁判所の認定は、次に訂正、附加するほかは、原判決理由記載(原判決一八枚目表一行目から同二〇枚目裏四行目まで)と同じであるから、これを引用する。
(一) 原判決一八枚目表一行目から二行目にかけての記載部分を「(一)被控訴人と旧プリンスとの合併に関連して支部組合員の間に意見が対立し、組合の分裂を生じたこと、これに関連して不当労働行為救済の申立がされ、これに対して救済命令が発せられたことは、いずれも上記二記述のとおりである。」と訂正する。
(二) 原判決一八枚目表五行目「甲第五、」とある部分を「甲第二、第三号、第四号証の一、二、第五号証、第六、第七号証の各一、二、」と訂正し、同六行目「第四一号証」とある部分の次に「、丙第二四号証の二、三、当審における証人鈴木孝司の証言によつて成立を認めうる乙第一二号証」と附加し、同「証人池田福二の証言」とある部分を「原審における証人池田福二、当審における証人鈴木孝司の各証言」と訂正し、同「原告は」とある部分から同一八枚目裏一行目までを次のとおり訂正する。
「全金や支部は、前記被控訴人に対して団体交渉に応ずべきことを命じた救済命令の確定と前後して被控訴人に団体交渉を申し入れ、その後団体交渉の日時、場所、出席者等に関して相互に数回にわたる文書によるやりとりがあつたのち、漸く昭和四二年三月二二日に支部と被控訴人間の団体交渉が開始されるにいたつたこと、この団体交渉方式の決定については全金や支部から被控訴人内部における上層部の責任者の出席を要求したが、被控訴人はこれに応ぜず、結局被控訴人側からはプリンス事業部労務次長を首席とする課長クラスの者六名が出席するものとされたこと、右第一回の団体交渉から同年六月三日までの六回にわたる団体交渉においては、後述するプリンス事業部門三工場内における紛争にからむ暴力事件の問題のほか、主として相当期間団体交渉が行われなかつたことにより懸案となつていた合併に伴う賃金、退職金等に関する問題や支部の春闘要求事項である賃上げの問題等に関する論議に費やされたことが認められる。」
(三) 原判決一八枚目裏一〇行目「乙第三九号証」とある部分の次に「、丙第二四号証の二」を附加し、「証人池田福二」とある部分を「原審における証人池田福二」と、同一九枚目表三行目「夜勤」とある部分から同四行目「行なつてきたこと」とある部分までを「深夜勤務は、労働者の安全、健康の保持の見地から原則的に反対であるとの基本的立場をとり、情宣活動等においてそれを表明していたこと」と各訂正する。
(四) 原判決一九枚目表五行目の次に行を代えて次のとおり附加し、同六行目「(五)」とある部分を「(六)」と訂正する。
「(五) 成立に争いのない丙第九号証、弁論の全趣旨により原本の存在と成立を認めうる丙第一〇号証、当審における証人宇佐美護、同野中辰也、同古内竹二郎の各証言によつて成立を認めうる丙第一一ないし第一四号証と右各証言をあわせると、命令書理由第一・3・(6)記載の事実およびこの紛争においては支部組合員らに対して暴行が加えられる等のことがあり、全金や支部は昭和四二年一月二七日被控訴人に対してこれにつき抗議を申し入れたこと、翌昭和四三年一月被害者らから被控訴人および加害者らに対する不法行為による損害賠償請求訴訟が東京地方裁判所に提起されたこと、右事件は昭和四六年一二月二二日ほぼ右原告ら請求の線で裁判上の和解により終結したこと、その後は同様の形での紛争は発生していないが、支部組合員らと職場内の直接の上司や同僚との間の人間関係は必ずしも良好でなく、支部組合員らはどちらかといえば疎外されている傾向にあることが認められる。」
(五) 原判決一九枚目裏四行目の「(六)」とある部分を「(七)」と訂正し、同五行目「甲第一号証、」とある部分の次に「丙第二四号証の二、三」を附加し、同六行目「証人池田福二の」とある部分を「原審における証人池田福二、当審における証人鈴木孝司の各」と、同「昭和四」とある部分から同二〇枚目表四行目までを次のとおり各訂正する。
「被控訴人と支部との団体交渉においては、上記のように昭和四二年六月三日までは主として当面緊急の問題が議題とされていたが、支部は、これらの問題が一段落した段階における議題として同日の団体交渉ではじめて残業についての差別取扱の問題を提起したものであること、その後同年一一月二八日までの間数回にわたってこの問題に関する話合いが行われ、前記命令書理由第1・3・(8)記載のようなやりとりがあつたが、この間支部は専ら支部組合員を残業から除外しているのは被控訴人の会社の方針なのかどうか、その理由は何か、それは支部組合員を不当に差別するものではないか等を追求し、これに対し被控訴人側は、右は被控訴人の方針ではなく、残業反対の立場をとつている支部組合員に対する現場職制の不信感に由来するものであるといい、更に支部が強制残業反対の立場をとりながら残業させないのが不当差別だというのは矛盾ではないかと反論し、これに対して支部が前記のように三六協定に基づく残業に対しては反対するものではないと応酬する(支部は同年八月六日の団体交渉においてこの見解を表明している。)等の状況で推移し、全体として相互の不信感に基づく揚げ足とり的応酬に終始し、相互の了解および合意の到達を目的とする積極的、建設的な論議、交渉とはみ難く、特に被控訴人側の姿勢にそのような傾向が看取されるようなものであつたことが認められる。」
(六) 原判決二〇枚目表四行目の次に行を代えて次のとおり附加する。
「(八)前掲乙第三九号証、丙第二四号証の二、同号証によつて成立を認めうる乙第一三、第一五、第一八、第二一、第二三、第二四号証をあわせると、支部は上記残業問題に関する団体交渉の経過に照らして支部組合員らの残業組入れ拒否の理由を現場の各職制について調査することとし、同年一二月組合員を通じて職制に説明を求めさせたところ、その説明内容は命令書理由第1・3・(9)記載のようなものであつたこと、そこで支部は、このままでは残業問題についての手詰り状態が打開されないと考え、後述のように都労委に対してこれにつきあつせんの申請をしたものであることが認められる。」
(七) 原判決二〇枚目表五行目「(七)」とある部分を「(九)」と、同七行目「(八)」とある部分を「(一〇)」と各訂正し、同八行目「第四一号証、」とある部分の次に「丙第二四号証の二、」を、同九行目「乙第二九号証」とある部分の次に「、前掲丙第二四号証の二によつて成立を認めうる丙第八号証の一、二および当審における証人鈴木孝司の証言」を各附加し、同「昭和四三年一月二六日」とある部分から同裏四行目までを次のとおり訂正する。
「右昭和四三年一月二六日の団体交渉は、前年の一二月一五日付の支部からの団体交渉の申入れに基づき、かつ、前記のように都労委あつせん員の勧告によつて開かれたものであるが、被控訴人は右交渉の席上においてはじめて支部に対し、日産型交替制と計画残業は組み合わされて一体をなすものであるとしてその内容およびこれに従つた場合における手当等について具体的な説明を行つたこと、そして日産労組は右のような勤務体制を承認し、これに服しているのであるから、支部もこれと同じ態度をとらないかぎり支部組合員を残業に組み入れることはできない旨、および夜間勤務のない部門については各職場の職制がその判断によつて残業をさせるが、これらの者が支部組合員に残業をさせないのは、一般に支部組合員が日産労組員と同じ勤務体制に服さないからだと考えられる旨を述べたこと、これに対し支部は、残業協定と夜間勤務協定とは別個の問題であり、夜間勤務については支部は原則的には反対の立場をとつている旨を述べたこと、更に夜間勤務に関する質疑応答の過程において、被控訴人側から夜間勤務において二時間の残業をする場合には、定時変更措置として二二時の始業時刻を二時間繰り上げて二〇時とし、翌日四時から六時までが残業となる旨の説明がはじめてなされ、これに関する論議が交わされたことが認められる。」
五 初審命令後の推移
初審命令後の推移に関する当裁判所の認定は、次に訂正、附加するほかは、原判決理由四の(九)(原判決二〇枚目裏五行目から同二二枚目表末行まで)と同じであるから、これを引用する。
(一) 原判決二〇枚目裏六行目「乙第五八号証、」とある部分の次に「丙第一七、第一八号証、前掲丙第二四号証の二、三、原審における」を、同七行目「第一一号証、」とある部分の次に「原審における」を、同八行目「右各証言」とある部分の次に「、当審における証人鈴木孝司、同小林輝行の各証言」を各附加する。
(二) 原判決二〇枚目裏九行目「1」とある部分を「(一)」と、同二一枚目表四行目から五行目にかけて「これに対して」とある部分から同裏三行目までを次のとおり各訂正する。
「これに対し支部は、右申入れのうち製造部門については、日産型交替制に伴う遅番勤務に服することを認めるか認めないか、どの程度これを認めるかは、被控訴人との間で生産計画、設備計画等一切の関連要素を検討し、これらを煮つめたうえで結論を出すべきであるとの立場から原則的には遅番勤務反対の従来の立場を主張し、他方被控訴人はあくまで交替制を含む日産労組と同一条件を支部が承認しないかぎり、支部組合員を残業させるわけにはゆかないと主張して歩み寄りがみられなかつた。また、間接部門については、支部は、被控訴人の提案は「必要がある場合に残業を命ずる」というのであるが、現実に支部組合員はほとんど残業を必要としない作業や、従前にくらべて質の低い作業に就かされているから、これが改善されないかぎり右の提案を受け入れることができないと主張し、被控訴人側はこれに対し、右作業の質や量の問題は、現実に残業に就いたのちの過程でおのずから是正される問題であるとして譲らず、これまた合意をみるにいたらなかつた(なお支部は、その後昭和四九年五月、右の作業上の差別および昇進に関する差別を不当労働行為であるとして都労委に救済の申立をしている。)。」
(三) 原判決二一枚目裏四行目「2」とある部分を「(二)」と訂正し、同二二枚目表末行の「生じている。」とある部分の次に「(ただし、当審における証人鈴木孝司は、右のように支部組合員の残業就労率が低いのは、長年残業から外されていたため生計維持上内職やアルバイト等をしていたことによる惰性や、職場における日産労組員との人間関係の冷却による勤労意欲の阻害等によるものである旨証言しているが、このような事情が一つの原因をなしているであろうことは、推断に難くない。)」を附加する。
六 支部組合員数の変遷
前掲丙第二四号証の二およびこれにより成立を認めうる丙第三七号証によれば、支部に属する組合員の数は、前記のように昭和四一年四月一〇日現在においては一五二名であつたが、昭和四二年四月には一一六名、昭和四三年四月には一〇八名となり、以来逐年減少して、昭和四八年一月当時は九〇名ないし九一名(被控訴人は九〇名と主張し、控訴人らは九一名と主張しているが、前掲丙第三七号証においては九二名とされており、本件にあらわれた資料からはその正確な数を確定し難い。)となるにいたつたこと、これはいずれも右組合員らの退職によるものであることが認められ、また、上記認定の諸事実に照らすと、右退職については残業できないための収入減という経済上の理由が一つの大きな理由をなしているものと推認される。
七 控訴人委員会の認定の適否
そこで、進んで上記認定の事実関係に照らして本件不当労働行為の成立を認めた控訴人委員会の認定の適否を検討する。
(一) 本件における不当労働行為成否の問題の要点は、被控訴人会社内に日産労組(あるいは事実上これと同一視しうるプリンス自工組合またはプリンス部門組合)と支部という傾向を異にする二つの労働組合が併存している状況のもとにおいて、被控訴人がその一方の組合との間で結んだ協定に基づいて実施している勤務体制に他方の都合が反対しているからという理由で、後者の組合員を右の勤務体制の一環としてその中に組み込まれている残業に就かせることを拒否したことが後者の組合に対する関係で労組法七条三号の支配介入行為を構成するかどうかという点にある。一般に、右のように同一企業内に性格、傾向を異にするとはいえそれぞれ自主性をもつ複数の企業労働組合が併存している場合においては、使用者は、各組合に対して中立的態度を保持すべく、そのうちの一組合をより好ましいものとしてさらにその組織の強化を助けたり、他の組合の弱体化を図るような行為を避止すべきことは、労組法の上記規定の要求するところであるが、他方具体的な労使関係または労働条件に関する問題についてそれぞれの労働組合の主張内容や主張態度が異なるかぎり、これに対する使用者の対応のし方にもおのずから相違を生ずることを免れず、したがつて、使用者の行為が上記中立性のわくを逸脱するものでないかぎり、右の対応のし方の相違やその結果がそれぞれの組合に利不利を生ずることはやむをえない成り行きというべきものであつて、これにつき使用者を咎める筋合はないといわなければならない。例えば、労働条件の決定等について使用者が各組合との間にわけ隔てなく誠実に団体交渉を行い、一方の組合との間では合意が成立し、右組合所属の従業員に対してはこれに基づく待遇を与えることとなつたのに対し、他方の組合との間では右のような合意が成立しないため、その組合所属の従業員に対しては同一待遇を与えないという結果になつたり、また、使用者が当該企業内における勤務体制や労働条件の斎一化を図る必要から、一方組合との間で妥結した労働条件等を他方の組合との団体交渉において強く主張し、容易に譲歩の色を示さないため、交渉が難航したり、場合によつては妥結にいたらないようなことがあつたとしても、それらはいずれも使用者と労働組合との間の自由な取引活動の帰結にすぎないものとみられ、これをもつて直ちに組合に対する不当な差別ということはできないのである。しかしながら、他方右のような団体交渉の推移や帰結が単に使用者の無色な取引活動によるものでなく、使用者においてこれらが後者の労働組合ないしその組合員に及ぼす影響とそれが多かれ少なかれ右組合の組織を弱体化させる効果を生ずべきことを予測し、むしろ主としてはそのような計算ないしは意図のもとにことさらに団体交渉を難航させたり、これを不成功に終らせるような行動態度をとつたものと認められる場合には、それはもはや上記中立性のわくを逸脱した行為といわざるをえず、労組法七条二号の団体交渉応諾義務の違反にととまらず、更に同条三号の労働組合に対する支配介入行為に該当するものといわなければならない。使用者の具体的行為が上述の両者の範疇に属するかは、しばしば極めて微妙かつ困難な判断を要求する問題であり、これについては単に行為の外形ないしは表面上の理由のみにとらわれることなく、関連する諸般の事情との関連を考慮し、その行為のもつ意味や性格を洞察、把握したうえでこれをしなければならないことは、さきに一般論として述べたとおりである。
(二) これを本件についてみるのに、被控訴人は、前記のように、旧プリンスとの合併前から日産労組との協定に基づいて実施していた昼夜二交替勤務制と計画残業を合併後の昭和四二年二月一日から旧プリンス事業部門に門にも導入し、支部組合員を除く同部門の他の従業員をこれに組み入れたにもかかわらず、支部組合員のみはこれに組み入れなかつたのであるが、被控訴人はその理由として支部が右の勤務体制に反対している点を挙げていること、支部自身もまた右勤務体制を無条件で承認することを拒否し、被控訴人と支部との団体交渉においても結局この点に関する了解に到達しなかつたこと、被控訴人の採用した前記交替制と計画残業とは、所与の生産設備と労働力を十二分に活用して生産効率を挙げることを目的として考え出された勤務体制であり、その目的からするかぎり両者は密接な関連性を有し、また、右の勤務体制が所期の効果を挙げるためには、労働者側がこれに対して協力的であり、就労に関して右の勤務体制による円滑な作業運営に障害となるような行動態度をとらないことが要求されること、したがつて支部が右の勤務体制に全面的に同意せず、残業についても組合員がこれに就くかどうかを予め予測し難いような態度をとるかぎり、使用者の立場からむしろこれを全面的に残業から排除した方が計画遂行上得策であり、その意味においては、支部組合員に対する残業組入れ拒否も、それだけを切り離して抽象的、外形的に観察すればそれなりの合理性をもつ措置であると考えられることは、いずれも被控訴人の指摘、主張するとおりである。それ故、右の諸点のみに着眼するかぎり、被控訴人の支部組合員に対する本件残業組入れ拒否は、使用者がその企業目的遂行上の要求として合理化されうる主張を支部が受け容れなかつた結果とられた措置であるにすぎず、支部に対する不当な差別と目すべきものではないとすることも、一応成り立ちうるみ方であると考えられる。
しかしながら、他方上記二ないし六において認定した事実によれば、
(1) 日産労組と支部との間には労使関係や労働条件のあり方について見解の相違があり、前者は後者より被控訴人の措置に対して理解的かつ協力的態度をとつていること。
(2) 被控訴人と旧プリンスとの合併問題に対しても、日産労組が極めて積極的であるのに対し、支部は旧プリンス部門の既得の労働条件が低下するおそれがあるとして、また、合併後の企業内における組織統一の問題とも関連して、これに対し消極的であり、両者の対立や、その間における日産労組の働きかけ等もあつて、支部の内部に動揺が生じ、結局組合員の大多数は全金から脱退してプリンス自工組合となり、支部は僅か一五二名の組合員を擁する少数組合となつてしまつたこと。
(3) この間において被控訴人は終始日産労組(ないしはプリンス自工組合またはプリンス部門組合)に対して好意的態度をとり、反面支部に対しては非好意的であり、当初は支部の存在そのものを否定し、その後労働委員会の命令により支部を独立の労働組合と認めてこれと団体交渉をするようになつてからも、交渉の全過程を通じ一般に懸案の問題を誠実かつ真剣に解決するために積極的な提案や説明、説得を行うという態度に欠け、概して消極的、受身の態度に終始しているようにみうけられること。
(4) 被控訴人は、前記交替制と計画残業を旧プリンス事業部門に導入するにあたり、支部とはなんらの協議を行うことなく、一方的に支部組合員を昼間勤務にのみ配置し、かつ、残業への組入れをしなかつたこと。もつともこれについては、当初は支部の存在につき疑問を抱いていたことや、支部の名をもつてされていた情宣活動において支部が強制残業反対という項目を掲げ、あたかも右の勤務体制に強く反対しているとも受けとられるような意向表明をしていたことと等の理由から右のような措置をとつたものと解される面もないでではないが、しかし被控訴人は、その後支部との団体交渉が開始され、六回目の交渉の際に支部からはじめて右の残業組入れが組合差別であるとの問題が提起されたのちにおいても、専ら抽象的、水掛け論的論議に終始して、右の交替制と計画残業のシステムの内容やその必要性、妥当性につき具体的説明をして支部を説得し、その同意をとりつけるための努力を払つた形跡は全くなく、被控訴人による右システムの内容の具体的説明は、この問題について支部が都労委にあつせん申請をし、同労委の指示によつて開かれた昭和四三年一月二六日の団体交渉の際にはじめてなされたにすぎないこと。
(5) 間接部門においては遅番勤務がなく、したがつて交替制に対する賛否の問題が生ずることがないにもかかわらず、被控訴人は同部門に勤務する支部組合員に対しても残業を一切させず、その理由につきなんら首肯しうべき特段の説明をしていないこと。
(6) 各職場においては前記のように支部組合員と他の従業員との間の人間関係が必ずしも円滑ではない状況にあつたにもかかわらず、被控訴人はこれを放置し、職制等を通じてその是正や融和のための努力を払つた形跡が全く窺われないこと。
(7) 他方支部は、上記勤務体制に反対の立場をとり、情宣活動のみならず被控訴人との団体交渉の場においてもその趣旨の発言をしているが、夜間勤務や残業に絶対反対というわけではなく、とくに後者については三六協定に基づく残業には協力するといい、要するにこれらの問題については団体交渉を通じて合意に達し、協定を結ぶことが先決であるとしてこれを迫る態度をとつていたものと認められること。
(8) 支部組合員は残業による収入を得られないため経済的に大きな打撃を受け、そのような状態が相当長期間継続していることが有力な理由となつて会社を退職する者が出たため、組合員数もかなり減少するにいたつたこと。
以上の諸点を指摘することができるのであり、これらの事実に照らし、とくに被控訴人の旧プリンス事業部門においては前記のように支所に部属する者は全体の二パーセントないしそれに満たない極く少数であるため、これらの者を残業に組み入れないために生ずる不足分を前記のようにリリーフマンの投入という異常措置によつてカヴアーする方法をとつたとしても、会社としてはそれほど大きな負担ではなく、したがつてあえて支部との意見の対立を解消してその協力をとりつける特段の必要や利益がなく、他方このままの状態が続けばかえつて支部組合員の方が経済的に打撃を受け、ひいては組合内部の動揺や組合員の退職ないしは脱退による組織の弱体化が生ずるであろうことも十分に予測されることに徴するときは、被控訴人が本件残業組入れ拒否の理由につき支部が上記勤務体制に反対しているからというのは、形式的、表面的理由にすぎないか、ないしはその理由の一部をなすにとどまり、被控訴人が支部組合員の残業をあくまでも許さず、この問題に関する団体交渉においてもその解決につき甚だしく消極的態度をとり、解決を遷延せしめていることの背後には、上述のような効果発生についての計算ないし意図が伏在しており、むしろそれが被控訴人の右行動態度の主たる動因をなしているものと推断せしめるに足りる合理的根拠があるものといわなければならない。そうであるとすれば、控訴人委員会が、被控訴人の上記一連の行動、態度をもつて、被控訴人が単に残業組入れに関して支部と誠実に団体交渉を行わなかつたというにとどまらず、右のように解決を遅延せしめて支部組合員を残業に就かせない状態を継続させることによつて支部組合員を不当に差別して取り扱い、支部に対し労組法七条三号に該当する支配介入を行つたものとしたことには、事実の判断および法令の解釈、適用を誤つた違法があるとすることはできず、この点に関する被控訴人の主張は、失当として排斥を免れない。
第三本件救済命令の適否
被控訴人は、本件再審査命令が維持した初審命令における救済措置の内容が不明確であり、また日産労組所属の組合員を逆差別することを命ずるものであるから違法であると主張し、更にまた、その後不当労働行為とされる残業に関する差別取扱の事実は解消したから、救済命令の必要性は消滅しており、したがつてもはやこれを存続せしめる理由がないものとして取り消されるべきであると主張する。よつて、これらの点について判断する。
一 救済命令の内容の適否
(一) 本件再審査命令が維持した初審命令の内容は、「被申立人(すなわち被控訴人)は、支部所属組合員に対し時間外勤務(休日勤務を含む。)を命ずるにあたつて支部組合員であることを理由として他の労働組合員と差別して取り扱つてはならない。」というものである。被控訴人は、右命令は結局残業に関して支部組合員を日産労組員と同様に取り扱うべきことを命じているのであるから、支部組合員が日産労組員と同一の条件を承認しないかぎり残業組入れを拒んでも差別取扱にはならないと解されるのに、参加人らは無条件で日産労組員と同様の残業をさせることを命じたものと解しており、このように異なつた解釈を生ぜしめる命令は、その内容において不明確の違法を免れないという。しかしながら、右命令は、被控訴人による本件支部組合員の残業組入れ拒否が不当労働行為であるとの認定に基づき、これに対する救済措置として命ぜられたものであるから、それは何よりもまず、右の不当労働行為による違法状態を解消ないし是正するため、被控訴人が現に行つている右残業組入れ拒否の中止を命ずる趣旨に出たものと解される。換言すれば、被控訴人が現に行つている残業組入れ拒否は支部組合員に対することさらな差別取扱であるからこれを止めよということであり、これを裏返していえば、支部組合員を他の労働組合員すなわち日産労組員と同様に残業に組み入れるべきことを命じているものにほかならない。そのかぎりにおいて右命令にはなんら不明確な点はなく、被控訴人の主張は、ひつきよう右命令について独自の解釈をたて、更にこれを理由として内容の不明確性を云為するものであり、採用のかぎりでない。
(二) 被控訴人は更に、もし本件救済命令の内容が右述の趣旨のものであるとすれば、それは支部組合員に対して日産労組員を逆差別することを命ずるものであつて違法であるという。確かに、甲労働組合に所属する従業員を乙労働組合に所属する従業員より不利に取り扱つたことが不当労働行為としての差別取扱であるとされる場合、これを是正するための救済措置としては、原則として甲労働組合員を乙労働組合員と同等に取り扱うべきことを命ずる限度にとどまるべく、乙労働組合員より有利に取り扱うべきことを命ずるのは、救済措置として許される限度を超えるものとして違法であるといわなければならない。しかし、本件救済命令が、支部組合員において交替制勤務に服することを承諾するかどうかを問題とすることなく、昼間勤務における残業について支部組合員を日産労組員と同様に取り扱うべきことを命じていることをもつて、被控訴人に対し支部組合員を日産労組員より有利に取り扱うべきことを命じたものであるとすることは、次の理由により相当とはいえない。すなわち、被控訴人が右のような取扱が日産労組員に対する逆差別であるというのは、同労組員は昼間勤務における残業に就き、これによる時間外勤務手当取得の機会が得られる反面、交替的に夜間勤務に服するという負担を負うのに対し、支部労組員は後者の負担を負うことなくして前者の機会のみが与えられる点において労働条件に差を生ずること、および一般に夜間勤務は昼間勤務に比し労働者にとつて重い負担と考えられるから、右の労働条件の相違は日産労組員に不利なものというべきであるという理由によるものと考えられるが、しかし仮にこの点を右のとおりに肯定するとしても、被控訴人が本件救済命令に従う結果として日産労組員と支部組合員との間に現実に右のような労働条件の相違が生ずるのは、日産労組との間では交替勤務制に関する合意が存するのに、支部との間にはこれが存しないためであつて、命令自体の内容的効果としてかかる相違が生ずるものではないことに注意しなければならない。換言すれば、本件救済命令は、昼夜交替制それ自体についてはなんら触れるところがなく、専ら残業についての差別の廃止のみを命じており、前者の問題をどうするかは、専ら今後における被控訴人と支部および日産労組との接衝による解決に委ねられているのであるから、被控訴人としては、支部との団体交渉を通じてその承諾をとりつけるか、あるいは日産労組とのそれにおいて同労組の承諾を得られるような形でこの問題を処理する等の調整、解決の方途がなお広く開かれているのであり、その意味においては、残業組入れの問題と交替制の問題とは、控訴人委員会のいうように一応可分なのである。本件救済命令が被控訴人に対し日産労組員を逆差別することを命じたものとする議論は、ひつきよう被控訴人が現在採用している勤務体制とそのもとにおける給与体系を不動のものとするか、または前記方法による調整、解決が不可能であるとする独断的前提に立つものであつて、とうてい採用することができない。
(三) なお、本件救済命令の内容の適否については、必ずしも被控訴人の明示的に指摘するところではないが、別の問題がある。すなわち、本件被控訴人による支部組合員の残業組入れ拒否が不当労働行為とされるのは、上記のように、その背後に被控訴人の支部に対する差別取扱の意図が存するとされたためであるが、被控訴人にかかる差別的意図がなく、支部との間における誠実な団体交渉を経ても遂に合意に到達しなかつたため残業組入れを拒否するにいたつたというのであれば、それはほんらい自由な取引活動の結果として不問に付されるべきものであることはさきに述べたとおりであるところ、本件場合においても被控訴人に不当労働行為意思がなく支部と残業問題について誠実な団体交渉を行つたとすればその結果がどうなるかは確定し難いことであるから、かかる場合の救済措置としては、被控訴人が徒らに解決を遅延せしめている態度を是正するために残業問題について支部と誠実に団体交渉を行うべきことを命ずる限度にとどまるべく、これを超えて無条件残業組入れを既定の事実としてこれを実施すべきことを被控訴人に命ずるのは、救済措置として是認される範囲を超えて使用者に留保されるべき自由を不当に拘束することとなりはしないかという疑問がそれである。しかしながら、本件においては、このような疑問は理由がないと考える。けだし、本件において不当労働行為とされるのは、被控訴人による誠実な団体交渉義務に違反しているということにとどまらず、解決を徒らに遅延させてその間支部組合員を残業させない状態を継続させることによつて支部に圧迫を加えていることにあるのであるから、かかる違法状態を解消するためにはとりあえず右の残業組入れ拒否を中止させる必要があるとしてこれを命じたとしても、決して救済の必要性を超えるものということはできない。(被控訴人がこれまでとつてきた不当労働行為意思に基づく行動、態度を完全に解消した暁には、その後白紙の状態で改めて支部と団体交渉を行い、その結果支部に不利益な事態が生じたとしても、それはもとよりやむをえないところであり、本件救済命令がこれをしも禁止しているものでないことは明らかである。)のみならず、実際問題としても、単に被控訴人に支部と誠実に団体交渉をすべきことを命じただけでは、結局被控訴人が現にとつている行動、態度になんら変更を生ぜしめることにはならず、救済措置としてほとんど実効性を期待することができないのである。それ故、初審命令や本件再審査命令が前記のように被控訴人が現に行つている支部組合員の残業組入れ拒否を中止すべきことを命じたことが、救済措置として許される限度を超えて被控訴人の自由を不当に拘束するものとして許されないとする議論は、当たらない。
(四) 以上述べたとおりであるから、本件救済命令の内容にはなんら違法の廉はなく、この点に関する被控訴人の主張は採用できない。
二 本件救済命令維持の必要性
最後に、本件不当労働行為による違法状態が解消され、本件救済命令を存続せしめる必要性が消滅したから、右命令は取り消されるべきであるとする被控訴人の主張の当否につき判断する。
被控訴人は、被控訴人が初審命令後支部に対して日産労組員と同様に交替制勤務に服することを条件として支部組合員を残業させる旨、また間接部門については無条件で残業させる旨を支部に申し入れたことを挙げて違法状態が解消したと主張している。しかしながら、被控訴人が右のような申入れをしたことによつて本件不当労働行為による違法状態が解消したものといえないことは、上来述べ来たつたところから明らかであるから、右主張は理由がない。なお附言するに、本件救済命令は、主として現に存在している違法状態(すなわち支部組合員の残業組入れ拒否)の解消を命じたものではあるが、被控訴人がいつたん命令に従つて右差別取扱をとりやめても、その後において同一不当労働行為意思の継続として再び残業に関する同様の差別取扱をする可能性がある以上、これを防止するためにはかかる将来反覆してなされる可能性のある行為の禁止をも命ずることができるものというべく、前記命令はかかる行為禁止の趣旨をも含んでいるものと解されるから、仮に被控訴人が本件救済命令に従つていつたん現在の違法状態を解消する措置をとつたとしても、それだけでは右命令存続の必要性は当然には失われないのである。
第四結論
以上説示のとおり、被控訴人が本件再審査命令の違法事由として主張するところはいずれも理由がないから、右命令の取消を求める被控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものであり、これと結論を異にする原判決は取消を免れず、控訴人らの本件各控訴はいずれも理由があるから、これを認容すべきである。よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 中村治朗 蕪山厳 高木積夫)
原審判決の主文、事実及び理由
主文
一 原告を再審査申立人、参加人らを再審査被申立人とする中労委昭和四六年(不再)第三八号事件につき、被告が昭和四八年三月一九日付でした別紙命令書記載の命令を取り消す。
二 訴訟費用は、本訴によつて生じた部分を被告の、参加によつて生じた部分を参加人らの各負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告
(一) 主文第一項と同旨
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二請求原因
一 当事者等
原告、参加人らならびに全日産自動車労働組合(以下「日産労組」という。)の組織、人員構成等は、参加人日本労働組合総評議会全国金属労働組合東京地方本部プリンス自動車工業支部(以下「支部」という。)の昭和四八年一月三一日当時における組合員数が九〇名であるほかは、別紙命令書(以下「命令書」という。)理由第1・1記載のとおりである。
二 本件命令
参加人らは昭和四三年二月二二日東京都地方労働委員会に対し、原告を被申立人として、不当労働行為救済の申立てをした。
これに対して、同委員会は昭和四六年五月二五日付で、被申立人原告は申立人支部所属の組合員に対し時間外勤務や休日勤務(以下あわせて「残業」という。)を命ずるにあたつて支部所属の組合員であることを理由として他の労働組合員と差別して取り扱つてはならない旨の命令(以下「初審命令」という。)を発した。
原告は、初審命令を不服として、被告に対し再審査の申立てをした。しかし、被告は昭和四八年三月一九日付で命令書記載のとおり右再審査の申立てを棄却する旨の命令(以下「本件命令」という。)を発した。この命令書写は同月三一日原告に交付された。
三 本件命令の違法性
本件命令は、原告が支部所属の組合員に対し残業を命じなかつたことをもつて不当労働行為であるとした初審命令の判断を相当であるとしているが、これは事実の認定および法令の適用を誤つたものであつて、違法である。よつて、本件命令の取消しを求める。
四 原告およびプリンス自動車工業株式会社の交替制勤務と残業の実態(命令書理由第1・2記載事実の認否)
(一) (1)記載事実について
認める。
プリンス自動車工業株式会社(以下「プリンス」という。)においてなされていた残業は、所定就業時間内に業務が終らなかつたような場合等に、従業員が所属長に申し出てその許可を受け、必要に応じて臨時的に行なうという方式によるものであり、残業をするか否かは従業員の自由意思にまかされていた。
(二) (2)記載事実について
認める。
原告がプリンスを吸収合併した昭和四一年八月一日から昭和四二年一月ころまでの間、荻窪、三鷹および村山の旧プリンスの三工場においてなされていた残業は、前述のようなプリンス方式によるものである。また、原告が右の期間右三工場の製造部門において後述のような日産型交替制や計画残業を実施しなかつたのは、在庫車処理のために生産縮小の必要があつたので、これを実施する要がなかつたからである。
(三) (3)記載事実について
認める。
原告が昭和四二年二月一日から前記三工場の製造部門において日産型交替制と計画残業を実施することにしたのは、右三工場における在庫車処理の時期も経過したので、増産体勢をとることにしたからである。この日産型交替制と計画残業は、原告がプリンスを吸収合併する以前から原告の他の工場において実施されていたものである。また、計画残業は、現有従業員で毎月の生産計画を達成するには残業が必要とされるところから、この生産計画達成に必要とされる従業員一人あたりの月間残業時間を職場単位に算出し、従業員を計画的に必要時間数だけ残業に服させようとするものであつて、プリンス方式の残業とは本質的に異なるものである。したがつて、計画残業は、従業員がやむを得ない事情のない限りこれに服するということによつてはじめて成り立つものであつて、プリンス方式の残業のように、これに服するか否かを従業員がその全くの自由意思により決するというのでは成り立たず、生産計画の達成は不可能となり、原告の業務に重大な支障を来たすことになる。
五 本件残業問題発生をめぐる諸事情(命令書理由第1・3記載事実の認否)
(一) (1)記載事実について
認める。
(二) (2)記載事実について
認める。
(三) (3)記載事実について
認める。
原告は、団体交渉ルールの設定等についての折衝を経て、昭和四二年三月二一日から支部と団体交渉を持つようになつたが、以後同年六月ころまでの団体交渉においては、もつぱら支部の要求にかかる最も重要な事項である賃金問題等が優先的にその交渉対象とされてきた。
(四) (4)記載事実について
認める。
原告が日産型交替制や計画残業の導入について支部に対し提案しなかつたのは、原告と参加人らとの間に支部の存在について争いがあり、原告は前記三工場の製造部門における日産型交替制と計画残業の実施直前である昭和四二年一月になつて支部の存在を認め、支部を団体交渉の相手方とすることにしたばかりであつて、その後同年六月ころまでは支部と前述のとおりの接衝や団体交渉を持つていたので、その導入について支部と協議する余裕がなかつたし、また、支部やその所属組合員が、後述のとおり、同年三月ころから同年六月ころにかけてビラ等を配布して、日産型交替制にともなう遅番勤務や計画残業に反対の態度を示していたからである。
(五) (5)記載事実について
原告が、前記三工場の製造部門の支部所属組合員が早番勤務を所定時間で終えた後の必要残業時間に、臨時雇の作業員をあてるなどして作業させていたことは否認する。その余の事実は認める。
原告は右の必要残業時間にリリーフマンをあてて作業させていたのである。原告がこのような措置を講じたのは、計画残業に反対している製造部門の支部所属組合員を計画残業に組み入れるならば、勝手にこれを拒否されたり放棄されたりすることにより業務上多大の支障を生ずること明らかであつて、これに比べれば、リリーフマンをもつて計画残業にあてる方がはるかに業務上の支障が少ないからである。また、原告が製造部門の支部所属組合員を早番勤務にのみ組み入れていたのは、支部やその所属組合員が日産型交替制にともなう遅番勤務に反対していたからである。
(六) (6)記載事実について
日産労組所属組合員の発言内容は否認する。その余の事実は認める。
日産労組所属の組合員は、支部やその所属組合員が日産労組に対し誹謗中傷その他の挑戦的言動を公然と継続していたので、支部所属組合員に対しこれを改めるよう説得したのである。
(七) (7)記載事実について
認める。
これによれば、支部やその所属組合員が日産型交替制にともなう遅番勤務や計画残業に反対していたことは明らかである。
(八) (8)記載事実について
認める。
原告と支部との昭和四二年一一月二三日の団体交渉における、「従来も三六協定に基づく残業には協力してきた。ただ、強制残業には反対だと言つているのだ。」との支部の主張にいう「三六協定に基づく残業」とは、支部所属の組合員が従来行なつていた残業がプリンス方式のそれであることからして、このプリンス方式の残業を意味するものである。したがつて、支部やその所属組合員が計画残業に反対していたことは明らかである。
(九) (9)記載事実について
否認する。
(一〇) (10)記載事実について
認める。
(一一) (11)記載事実について
認める。
原告は、初審命令が発せられた後の昭和四六年六月一八日から昭和四七年四月一八日までの間に、八回にわたつて支部と団体交渉を行ない、日産労組所属の組合員と同様に、前記三工場の製造部門の支部所属組合員は日産型交替制と計画残業に服し、これらが実施されていない間接部門の支部所属組合員も、原告において残業を命ずることにするので、これに服するよう申し入れた。しかし、支部はこの申入れを拒否した。なお、原告は、本件命令が発せられた後、製造部門の支部所属組合員にも計画残業を命ずることにし、昭和四八年四月一九日と同年五月二日に支部と団体交渉を行なつたが、支部はやはり計画残業に反対するとの意思を表明した。また、原告は同年六月四日から製造部門の支部所属組合員に対し計画残業を命じているが、支部所属組合員は、残業はあくまでも個人の自由意思によるべきものであるとしてこれに服そうとはせず、プリンス方式による残業を行なつている。
六 不当労働行為の不成立
原告が昭和四八年六月四日に至るまで前記三工場の製造部門の支部所属組合員に対し計画残業を命じなかつたのは、支部やその所属組合員がこれに反対していたからである。それに、計画残業は生産計画達成のためにとられた残業の方式として合理的なものであり、強制残業といわれるようなものではない。また、原告が間接部門の支部所属組合員に対し残業を命じなかつたのも、支部やその所属組合員がこれを拒否していたからである。したがつて、原告が支部所属の組合員に対し計画残業等の残業を命じなかつたとしても、それは正当な理由に基づくものであつて、不当労働行為を構成しない。
第三請求原因に対する被告および参加人らの答弁
一 第一項について
支部の昭和四八年一月三一日当時における組合員数が九〇名であることは否認する。その余の事実は認める。
支部の同日当時における組合員数は九一名である。
二 第二項について
認める。
被告および参加人らは、命令書理由第一・3・(5)および第二・2記載の「臨時雇の作業員」との部分を「リリーフマン」としたうえ、命令書記載のとおり事実上および法律上の主張をする。
三 第三項について
本件命令が、原告が支部所属の組合員に対し残業を命じなかつたことをもつて不当労働行為であるとした初審命令の判断を相当であるとしていることは認める。その余は争う。
被告が、本件命令において、不当労働行為を認定し、初審命令の判断を相当であるとした理由は、命令書記載のとおりである。したがつて、本件命令は適法である。
四 第四項について
(一) (一)および(二)の各後段の事実は否認する。
(二) (三)後段の事実のうち、原告主張の三工場を除く原告の他の工場においては、原告がプリンスを吸収合併する以前から日産型交替制と計画残業が実施されていたことは認める。その余の事実は否認する。
五 第五項について
(一) (三)後段の事実のうち、原告が、団体交渉ルールの設定等についての折衝を経て、昭和四二年三月二二日から支部と団体交渉を持つようになつたことは認める。その余の事実は否認する。
(二) (四)後段の事実のうち、原告と参加人らとの間に支部の存在について争いがあり、原告がその主張の三工場の製造部門における日産型交替制と計画残業の実施直前である昭和四二年一月になつて支部の存在を認め、支部を団体交渉の相手方とするようになつたこと、原告が、団体交渉ルールの設定についての折衝を経て、同年三月二二日から支部と団体交渉を持つようになつたこと、支部が、同月ころから同年六月ころにかけて、日産型交替制にともなう遅番勤務や計画残業等に関するビラを配布したことは認める。その余の事実は否認する。
(三) (五)後段の事実のうち、原告がその主張の必要残業時間にリリーフマンをあてて作業させていたことは認める。その余の事実は否認する。
(四) (六)ないし(八)の各後段の事実は否認する。
(五) (二)後段の事実について
(被告)
原告が、日産型交替制や計画残業等の残業について、初審命令が発せられた後に支部と団体交渉を行なつたことは認める。本件命令が発せられた後における事実については知らない。その余の事実は否認する。
(参加人ら)
原告が、日産型交替制や計画残業等の残業について、初審命令が発せられた後および本件命令が発せられた後に支部と団体交渉を行なつたことは認める。その余の事実は否認する。
六 第六項について
否認する。
第四証拠関係<省略>
理由
一 当事者等
請求原因第一項の事実は、支部の昭和四八年一月三一日当時における組合員数を除いて、当事者間に争いない。弁論の全趣旨によれば、支部の同日当時における組合員数は九〇名位であることが認められる。
二 本件命令
請求原因第二項の事実と、第三項の事実のうち、本件命令が、原告が支部所属の組合員に対し残業を命じなかつたことをもつて不当労働行為であるとした初審命令の判断を相当であるとしていることは、当事者間に争いない。
三 原告およびプリンスの交替制勤務と残業の実態
(一) 命令書理由第一・2・(1)記載の事実は、当事者間に争いない。成立に争いない乙第六五号証、証人池田福二の証言により成立を認める甲第一号証および同証言によれば、プリンスにおいてなされていた残業は、業務上の必要に応じてその都度、所属長の業務命令により、あるいは従業員が所属長に申し出てその許可を受けて行なうという方式によるものであつたことが認められる。
(二) 命令書理由第一・2・(2)記載の事実は、当事者間に争いない。前掲甲第一号証、乙第六五号証、成立に争いない乙第三五号証および証人池田福二の証言によれば、プリンスは、原告に吸収合併された当時、生産と販売のバランスがとれずに大量の在庫車をかかえていたこと、そこで、原告は、この在庫車処理のために生産縮小の必要があつたので、プリンスを吸収合併した昭和四一年八月一日から昭和四二年一月ころまでの間、荻窪、三鷹および村山の旧プリンスの三工場の製造部門において後記認定のような日産型交替制や計画残業を実施しなかつたこと、そして、右の期間右三工場においては、残業は前認定のようなプリンス方式によりなされていたことが認められる。
(三) 命令書理由第一・2・(3)記載の事実は、当事者間に争いない。前掲甲第一号証、乙第三五、第六五号証、成立に争いない乙第二六、第三七号証および証人池田福二、同小林輝行、同多田勝の各証言によれば、原告は、前記三工場における在庫車の減少等にともなつて増産体勢をとることにし、昭和四二年二月一日から、右三工場の製造部門においても他の工場におけると同様に日産型交替制と計画残業を実施することにしたこと、この日産型交替制は生産原価を低減させるために生産設備の稼働効率をできる限り高めようとするものであること、計画残業は、現有従業員で毎月の生産計画を達成するには残業が必要とされるところから、この生産計画達成に必要とされる従業員一人あたりの月間残業時間を、従業員の従来の残業就労率を見込んで職場単位に算出し、これを各就労日に割り振る等して、従業員を計画的に日々必要時間数だけ残業に服させようとするものであること、この計画残業が右三工場の製造部門において実施されると、その製造部門のコンベアー作業に従事する従業員のうちから計画残業に服さない者が出たような場合には、他の従業員を補充して作業にあたらせなければならなくなるとともに、この補充体制を整えるのにかなりの手数をかけなければならなくなること、したがつて、計画残業に服することの不確実な従業員をこれに組み入れて右作業に従事させるときは、作業の円滑な遂行が阻害され、業務に少なからず支障を生ずることになること、また、製造部門の他の作業に従事する従業員についてみても、右のような計画残業に服することの不確実な従業員をこれに組み入れようとすれば、作業上の支障をより少なくするために、共同作業にはつけないで単独作業につける等の配慮をしなければならなくなること、なお、原告は、計画残業の実施にあたつて、従業員に病気等やむを得ない事情があるときにはこれに服さないことを認めているし、これに服さないことがあつたとしても、その理由のいかんを問わず、このことにより従業員を処分したりするようなこともしていないことが認められる。
四 本件残業問題発生をめぐる諸事情
(一) 命令書理由第一・3・(1)および(2)記載の事実は、当事者間に争いない。
(二) 命令書理由第一・3・(3)記載の事実は、当事者間に争いない。前掲甲第一号証、乙第三七、第六五号証、成立に争いない甲第五、第八、第九、第一四号証、乙第三九、第四一号証および証人池田福二の証言によれば、原告は昭和四二年三月二二日から同年六月三日までの間に六回にわたつて支部と団体交渉を持つたが、この団体交渉においては、団体交渉ルールの設定等についての問題のほか、支部の春闘要求事項である賃上げ(但し、定期昇給を含む。)問題とか合併にともなう賃金体系、退職金等に関する問題等がもつぱら議題とされてきたことが認められる。
(三) 命令書理由第一・3・(4)記載の事実は、当事者間に争いない。
(四) 命令書理由第一・3・(5)記載の事実のうち、原告が、前記三工場の製造部門の支部所属組合員が早番勤務を所定時間で終えた後の必要残業時間に、臨時雇の作業員をあてるなどして作業させていたことを除くその余の事実、原告が右の必要残業時間にリリーフマンをあてて作業させていたことは、当事者間に争いない。前掲甲第一号証、乙第三九号証および証人池田福二の証言によれば、原告は、このリリーフマンによる補充計画を毎月あらかじめ組んだうえで、昭和四二年二月一日以降計画残業を実施してきたこと、なお、支部は、製造部門において日産型交替制が実施される以前から、日産型交替制にともなう遅番勤務のような夜勤には反対であるとの情宣活動を行なつてきたことが認められる。
(五) 命令書理由第一・3・(7)記載の事実は、当事者間に争いない。成立に争いない乙第二八、第四七ないし第五七号証によれば、支部が昭和四二年三月ころから同年六月ころにかけて配布したビラは春闘要求、メーデー参加等に関するものであるが、これには、「会社の残業政策を粉砕しよう。」、「労働条件を合併前に戻せ。」、「深夜勤務の強化、夜勤の早出、隔週夜勤反対。」、「残業、公出……の強制反対。」、「強制残業、深夜勤務はすぐやめよ。」、「残業は自由意思でやらせろ。」等の記載もあることが認められる。
(六) 命令書理由第一・3・(8)記載の事実は、当事者間に争いない。前掲甲第一号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第一二号証および証人池田福二の証言によれば、昭和四二年六月三日の団体交渉において、原告は、計画残業を強制残業であるとしてこれに反対している限り、支部所属の組合員に計画残業をさせるわけにはゆかない旨主張し、支部は、「残業は指示、協力の関係だ。これが一方的な命令服従の関係では反対だ。」と主張していること、また、同年八月二六日の団体交渉において、支部は、「われわれは強制残業に反対しているのであつて、基準法に基づく残業には反対していないのだ。」と主張していることが認められる。
(七) 命令書理由第一・3・(10)記載の事実は、当事者間に争いない。
(八) 命令書理由第一・3・(11)記載の事実は、当事者間に争いない。前掲乙第一二、第三九、第四一号証、成立に争いない乙第二九号証によれば、昭和四三年一月二六日の団体交渉において、原告は、日産型交替制と計画残業は組みあわせになつている一体のものであるとして、その内容ならびに日産型交替制に服した場合に支給される手当等について説明し、支部は、残業問題と夜勤問題は別個の問題であり、日産型交替制にともなう遅番勤務には基本的に反対である旨主張していることが認められる。
(九) 当事者間に争いない事実と成立に争いない甲第一三号証、乙第五八号証、証人小林輝行の証言により成立を認める甲第一一号証、証人多田勝の証言により成立を認める甲第一二号証および右各証言によれば、次の事実が認められる。
1 原告は、初審命令が発せられた後の昭和四六年六月一八日から昭和四七年四月一八日までの間に、八回にわたつて支部と団体交渉を行ない、日産労組所属の組合員と同様に、前記三工場の製造部門の支部所属組合員は日産型交替制と計画残業に服し、これらが実施されていない間接部門の支部所属組合員も、原告において残業を命ずることにするので、これに服するよう申し入れた。これに対して支部は、製造部門における日産型交替制にともなう遅番勤務には反対である旨主張するとともに、間接部門における残業についても、支部所属組合員のうちには残業をするほどの量のない作業あるいは質の低い作業に従事している者がいるとして、この作業の量あるいは質に関する問題が解決されない限りこれを受け入れることはできない旨主張した。そして、原告と支部との間に右の問題を解決するための交渉が持たれたのであるが、結局意見の一致をみることができなかつたので、間接部門における残業についても合意に達しなかつた。
2 原告は本件命令が発せられた後の昭和四八年四月一九日に支部と団体交渉を行ない、前記三工場の製造部門の支部所属組合員は日産型交替制と計画残業に服するよう、ならびに、仮に日産型交替制にともなう遅番勤務には応じられないとしても、計画残業には服するよう申し入れた。これに対して支部は、遅番勤務には応じられないが、計画残業に服するか否かについては支部所属組合員の自由意思によるべきであるということを前提として、計画残業に協力する旨回答した。そこで、原告は、この回答についてはともかくとして、同年六月四日から製造部門の支部所属組合員を計画残業に組み入れることにした。しかし、同日以降昭和四九年一月までの間における製造部門の支部所属組合員の計画残業についての残業就労率をみると、コンベアー作業が行なわれていない荻窪および三鷹の両工場の場合には他の従業員のそれより六〇パーセント位低く、コンベアー作業が行なわれている村山工場の場合には他の従業員のそれより五〇ないし七五パーセント位低く、そのために、右三工場の製造部門においては前認定のような業務上の支障が現実に生じている。
五 不当労働行為の成否
(一) 原告は昭和四二年六月三日から昭和四三年一月二六日までと、昭和四六年六月一八日から昭和四七年四月一八日までの間の支部との団体交渉において、前記三工場の製造部門の支部所属組合員は計画残業あるいはこれと日産型交替制に服するよう明示的あるいは黙示的に申し入れた。これに対して支部は、日産型交替制にともなう遅番勤務については明確に拒否した。また、右団体交渉の際における支部の計画残業に関する主張、発言等は、その具体的内容および支部が昭和四二年三月ころから同年六月ころにかけて配布したビラの記載内容、支部所属組合員が従来行なつてきたプリンス方式の残業と計画残業との差異等ならびに前掲乙第三九号証、成立に争いない乙第三四号証によれば、計画残業をもつて強制残業である等として、これを拒否した趣旨のものであると認められる。それに、日産型交替制と計画残業は右三工場の製造部門における実施以前から原告の他の工場において既に実施されていたものであること、日産型交替制と計画残業の内容とその関連性、これらを右三工場の製造部門において実施しようとした理由、右三工場の製造部門の日産労組所属組合員はこれらに服していたこと等からすれば、原告が支部に対して、その所属組合員は計画残業あるいはこれと日産型交替制に服するよう求めたことについて、首肯し難いような点はみられない。さらに、支部が計画残業に反対しているにもかかわらずその所属組合員をこれに組み入れるならば業務に支障を生ずるおそれがあると原告が懸念したとしても、それは無理からぬところであり、このことは、原告が右三工場の製造部門の支部所属組合員を現実に計画残業に組み入れた昭和四八年六月四日以降の状況からも明らかに裏付けられる。加えて、原告は、昭和四六年六月一八日から昭和四七年四月一八日までの支部との団体交渉において、右三工場の間接部門の支部所属組合員も残業に服するよう求めたが、支部からの要求であるその所属組合員の従事している作業の量ならびに質に関する問題について意見の一致をみることができなかつた結果、この間接部門における残業についても合意に達しなかつたのである。そして、これに関して、原告の執つた態度に納得し難いところがあつたことを認めるに足りる証拠はない。そうだとすれば、他に支部の運営への支配介入を企図したものであることを裏付けるような特段の事情のない限り、原告が右三工場の製造部門の支部所属組合員に対しては昭和四二年六月三日以降、間接部門の支部所属組合員に対しては昭和四六年六月一八日以降残業を命じなかつたことは、支部が自らの自主的な判断により原告の申入れを拒否したことの結果によるものとみられるから、不当労働行為を構成しない。
(二) 前認定の命令書理由第一・3・(2)、(5)第三段記載の事実、ならびに当事者間に争いない命令書理由第一・3・(6)記載の事実(但し、日産労組所属組合員の発言内容を除く。)は、原告が昭和四二年六月三日または昭和四六年六月一八日に至るまで前記三工場の支部所属組合員に残業を命じなかつたこととの関係においてであるならばともかくとして、原告がそれ以後においても残業を命じなかつたこととの関係において前述のような特段の事情にあたるとみることはできない。
前認定の命令書理由第一・3・(4)後段記載の事実および原告が昭和四二年二月一日以降、右三工場の製造部門の支部所属組合員を早番勤務にのみ組み入れ、右支部所属組合員に残業を命じず、右支部所属組合員が早番勤務を所定時間で終えた後の必要残業時間に、リリーフマンをあてて作業させていたという事実も、前段に述べたところと同断である。ことに、右各事実に関しては次のような事情、すなわち、原告は、同年一月にはともかく支部の存在を認め、その後は支部と団体交渉ルールの設定等について折衝したり、また同年三月二二日から同年六月三日までの間には、もつぱら支部の春闘要求事項であり、基本的な労働条件にかかわる重要事項でもある賃上げ(但し、定期昇給を含む。)問題とか合併にともなう賃金体系、退職金等に関する問題等について団体交渉を行なつていたこと、支部は、右三工場の製造部門において日産型交替制が実施される以前から、日産型交替制にともなう遅番勤務のような夜勤には反対であるとの情宣活動をし、同年三月ころから同年六月ころにかけては、前認定のとおりの記載のあるビラを配布していたこと、ならびに、原告において、支部が計画残業に反対しているものと考えたうえ、この反対にもかかわらずその所属組合員を計画残業に組み入れるならば業務に支障を生ずるおそれがあることを懸念し、リリーフマンを作業にあてたこと自体にはそれなりの理由があるし、リリーフマンを作業にあてるにあたつては、このリリーフマンによる補充計画を毎月あらかじめ組むという、作業の円滑な遂行の観点からすれば妥当な方策を講じていること等の事情がある。そして、このような事情があるということは、原告が同年六月三日または昭和四六年六月一八日に至るまで右三工場の支部所属組合員に残業を命じなかつたこととの関係においては格別、少なくとも、原告がそれ以後においても残業を命じなかつたこととの関係においてみる限り、右各事実をもつて前述のような特段の事情にあたるとみることをより一層困難ならしめる。
命令書理由第一・3・(9)記載の事実については、前掲乙第三九号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第一三、第一五、第一八、第二一、第二三および第二四号証にこれに添う記載部分があるが、右各記載部分は信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
以上のほか、原告が昭和四二年六月三日または昭和四六年六月一八日以降においても右三工場の支部所属組合員に残業を命じなかつたことについて、前述のような特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
六 結論
そうすると、本件命令は、原告が支部所属の組合員に対し残業を命じなかつたことをもつて不当労働行為であるとした初審命令の判断を相当であるとして、原告の再審査の申立てを棄却しているから、違法として取消しを免れない。
よつて、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九二条後段を適用して、主文のとおり判決する。
(別紙)
命令書
(中労委昭和四六年(不再)第三八号 昭和四八年三月一九日 命令)
再審査申立人 日産自動車株式会社
再審査被申立人 日本労働組合総評議会全国金属労働組合 外二名
主文
本件再審査申立てを棄却する。
理由
第一当委員会の認定した事実
1 当事者等
(1) 再審査申立人日産自動車株式会社(以下「会社」という。)は、昭和四一年八月一日プリンス自動車工業株式会社(以下「プリンス」という。)を吸収合併し、現在肩書地に本社を、横浜、荻窪、三鷹、村山その他に工場を置き、乗用車、トラック等の製造を業とする会社であり、その従業員数は昭和四八年一月末日現在約五三、〇〇〇名である。
(2) 再審査被申立人日本労働組合総評議会全国金属労働組合(以下「全金」という。)は、全国の金属機械産業の労働者で組織する労働組合である。
再審査被申立人日本労働組合総評議会全国金属労働組合東京地方本部(以下「地本」という。)は、東京都内の全金組合員で組織する労働組合である。
再審査被申立人日本労働組合総評議会全国金属労働組合東京地方本部プリンス自動車工業支部(以下「支部」という。)は、全金および地本の組合員であつて会社に雇用される者が組織する労働組合であり、その組合員数は昭和四八年一月末日現在九一名である。
(3) なお、支部のほかに会社および関連会社の従業員をもつて組織する全日産自動車労働組合(以下「日産労組」という。)があり、会社従業員の大多数がこれに加入している。
2 会社およびプリンスの交替制勤務と残業の実態
(1) 昭和四一年八月一日会社に合併されるまで、プリンスの荻窪、三鷹、村山の三工場の製造部門においては、左表のような二交替ないし三交替の勤務体制が採られていた。
表<省略>
そしてプリンスは、一直勤務者には多少の時間外勤務や休日勤務(以下あわせて「残業」という。)を課すことはあつたが、二直勤務者に対して残業を課すことはほとんどなかつた。
(2) 会社は、昭和四一年八月一日の企業合併後、旧プリンスの三工場については暫定的にプリンスの勤務体制に近い交替制を採り、途中同年一〇月からは、生産縮小の必要上大部分の部署において交替制勤務をやめ、昼間勤務のみを行なつた。
また、会社は、同年八月以降翌四二年一月ごろまでは、残業について支部組合員と日産労組の組合員との間に格別異なる取扱いをしなかつたので、支部組合員もかなりの時間、残業を行なつていた。
(3) 会社は、昭和四二年二月一日からは、前記三工場の製造部門において、会社の他工場で実施しているのと同様の昼夜二交替の勤務体制(以下「日産型交替制」という。)を採ることとした。その勤務態様は左表のとおりである。
表<省略>
なお、会社は、右日産型交替制実施にあわせて残業を計画的に実施することとし、毎月の残業計画は各前月に日産労組と協議して決めた上で実施に移していた(以下これを「計画残業」という。)。具体的には早番については一―二時間勤務時間が延長され、遅番については所定の始業時刻が早められて所定勤務時間を超過した時間が時間外勤務として取り扱われた。また月一回の休日出勤が通例であつた。後述のように会社は、この計画残業に支部組合員を一切組み入れなかつた。
3 本件残業問題発生をめぐる諸事情
(1) 昭和四一年八月一日の企業合併を前にして、支部組合員のなかに全金を脱退し日産労組へ加入しようとする者と全金にとどまろうとする者とが生じて、両派の対立が激化し、結局大多数は日産労組に加入した。
(2) 右合併前後に発生した労使紛争につき東京都地方労働委員会および当委員会は、次のような組合の申立てに対してそれぞれ不当労働行為救済命令を発している。
<1> 全金、地本および支部は、プリンスが、支部はすでに全金を脱退しておりもはや全金の名を冠する支部は存在しないとの理由で合併に伴う労働条件に関する団交を拒否したことが不当労働行為にあたるとして、東京地労委に救済申立てをしたが、これに対し同地労委は、同年七月一二日付で、プリンスはその団交に応じなければならないという内容の救済命令を発し、また当委員会も同年一一月二六日付で合併後の会社を名宛人としてこれを支持する命令を発した。
<2> 全金は、右合併を前にして、会社やプリンスがその職制らをして支部の組織を破壊するに至らしめるような発言をなさしめ、また職制らがそのような発言をするのを放置し、支部内における日産労組との提携を望む者の活動を支援するような行為をしたことは不当労働行為にあたるとして東京地労委に救済を申し立てたが、これに対し同地労委は、同年七月二六日付で、イ、プリンスは、工場長、課長をして支部組合員に対して、全金の支持を弱めるような言動をなさしめたり、また、係長、班長が係員に対し就業時間中に同旨の説得活動を行なうことを放置してはならない、ロ、プリンスは、全金組合員以外の者が全金の支持を弱めるような活動をするにあたつて、会社の会議室や食堂を利用させるなど特別の便宜を供与してはならない、等を内容とする一部救済命令を発した。
<3> 全金、地本および支部は、会社が右合併後の機構改革に伴い、支部組合員六名を配置転換したことは不当労働行為にあたるとして東京地労委に救済を申し立てたが、これに対し同地労委は、昭和四六年四月六日付で、右六名の原職ないし原職相当職への復帰を内容とする救済命令を発した。その後この事件は、同年一二月一五日当委員会で和解が成立し、終結している。
(3) 会社は、前記(2)の<1>の当委員会の命令が発せられたのち、昭和四二年一月、支部の存在を認め、その後団交ルールの設定等につき二―三回支部と接渉し、同年三月二二日より正式の団交を開始した。
(4) 会社は、前記2の(3)認定のとおり、同年一月下旬、日産型交替制および計画残業の導入について、日産労組と協議し、これらを翌二月一日より実施することとした。
しかし、会社は、これらの導入について支部に対しては何らの提案もしていない。
(5) 会社は、同年二月以降製造部門の日産労組の組合員を交替制に組み入れ、かつ恒常的に一日一―二時間の時間外勤務および月一回程度の休日勤務をさせた。また交替制勤務のない間接部門では、会社は、日産労組の組合員に対しては日産労組との協定にもとづき、業務の必要に応じて一日四時間、一カ月五〇時間の範囲内で残業を命じた。
ところが会社は、製造部門の支部組合員を早番のみの勤務に組み入れ、残業は一切させず、支部組合員が早番勤務を所定時間で終えたあとの必要残業時間は、臨時雇の作業員をあてるなどして作業させていた。
また、会社は、同月以降間接部門に属している支部組合員に対しても残業を全く命じなくなつた。
(6) 同年一、二月ごろから工場内において昼休み時間や早番終了後多数の日産労組の組合員が少数の支部組合員を取り囲んで「全金をやめろ」、「会社をやめろ」などと言い、紛争が生じた。
(7) 支部は、同年三月ごろから六月ごろにかけて強制残業反対、深夜勤務反対等の趣旨のことを記載した組合ビラを配布した。
(8) 支部は、同年六月、支部組合員にも残業をさせるよう会社に申し入れ、以降同年一二月まで同問題につき会社と正式な団交を数回行なつたが、その間次のようなやりとりがあつた。
<1> 同年六月三日の団交の席上、支部は、会社に対し、全金組合員が残業の協力を申し出ても職制は、お前は残業計画に入つていないとか、お前は信用できないなどと述べて残業をさせないが、これはどういうことか、という趣旨のことを問い質した。これに対し会社は、支部組合員には残業をさせないようにとの指示を各職制に出してはいない、残業をさせないのは全金の組合員だからということではなく、信頼関係の問題だ、自分の用があつても会社に協力して残業するという場合と、用があるからだめだ、それをもし残業させることは強制残業ではないか、というようなことをいつていたのでは、信用も信頼関係も生まれないとの趣旨のことを述べた。
<2> 同年一一月二三日の団交の席上、支部は、われわれは以前から残業反対とは言つていない、従来も三六協定に基づく残業には協力してきた、ただ強制残業には反対だと言つているのだ、現在会社の定時間勤務の賃金だけでは生活できない、という趣旨のことを述べた。
<3> 同年一一月二八日の団交の席上会社は、残業が必要なときにやつてもらえないということでは各職制も残業を頼めなくなるだろうという趣旨のことを述べた。その際支部は、残業は何もすきこのんでやるわけではない、賃金が低く生活保護基準以下の実態があるから残業せざるを得ないのだ、その残業をやらせないというような差別をやめろと言つているのだ、等の趣旨のことを述べた。
(9) 支部は、同年一二月支部組合員に各職場で課長、係長、組長らに残業を命じない理由を質問させたところ、課長らは、「支部組合員は日常的に仕事に協力的でない。」、「それは君自身良く知つているはずだよ。」、「会社の方針であり課の方針でもある。」、「君はビラをまいたり、会社にいろいろたてついている。」、「君は考え方がちがうので信頼できない。」、「考え方を変えて全金を脱退しておれたちの方へ来いよ。」等と答えた。
(10) 支部は、同月一五日会社に対して夜間勤務に応ずる条件として週五日制とすること、夜間勤務のときは昼間よりベルトコンベアのスピードを落すことなどを要求し、ついで本部、地本および支部は、同月二七日東京地労委に残業問題をめぐる紛争についてあつせん申請をした。
(11) 会社は、翌四三年一月二六日、地労委のあつせん員の勧告にもとづき支部との団交を再開し、その際、支部組合員にだけ夜間勤務を免除し、昼間勤務と残業をさせることは、日産労組の組合員との均衡からも認め難いとの態度をはじめて示した。なお会社は、その際前記(10)の支部の要求については拒否した。
これに対し支部は、現在の条件のままでは夜勤には反対であるとの立場をとり、結局交渉はもの別れに終つた。
以上の事実が認められる。
第二当委員会の判断
会社は、支部組合員に対し残業を命じなかつた会社の行為は不当労働行為に該当するとした初審判断を争い、次のとおり主張する。
<1> 会社は、昭和四二年二月一日に日産型交替制を実施したが、以降支部組合員が残業を一切しなくなつたのには、支部に責任があるのであつて、会社が支部組合員と日産労組組合員とを差別して取り扱つた結果ではない。すなわち、支部組合員は、企業合併が行なわれた昭和四一年八月から同年年末までの間は、日産労組の組合員と同様の残業をしていたのに、翌四二年一月からはどういうわけか残業をしなくなり、同年二月日産型交替制実施以降も、支部は強制残業反対のビラをまくなどして、その実は計画残業に反対の態度をとりつづけたため、会社は支部組合員を計画残業に組み入れることができなかつたのである。ところが、同年六月になつて支部は、会社に対し、にわかに支部組合員を残業に組み入れるよう要求してきたが、その後の団交においても、あくまで計画残業に反対する態度をとりつづけたので、両者の意見が対立したまま交渉は打ち切られた。
<2> この残業問題は、同年一二月支部の申請により地労委のあつせんの場に移されたのであるが、あつせん員が労使に対して本問題につき団交をするよう勧告したことを聞き及んだ日産労組は、会社に対し、もし会社が支部との間で、支部組合員を昼勤体制に置いたまま残業をもさせるとの解決策をとるならば、日産労組組合員が支部組合員よりも不利に取り扱われることになるとして、これに強い反対の意向を示した。そこで会社は、支部に対し、支部組合員が日産労組組合員と同様夜勤に服するならば残業に組みいれるとの提案をした。しかし支部はこの提案を拒否したので、支部組合員が残業に入れないことの責めは支部が負うべきである。
なお、夜勤のない間接部門に属する支部組合員も残業をさせていないが、これは支部組合員は個々の勤務形態に関係なく一体のものとして取り扱うことが妥当と考えたためである。
以上のとおり主張するので、以下判断する。
1 まず、支部組合員が残業をしなくなつた原因とその後の事情について検討する。
(1) 前記第一の2の(3)に認定したとおり、会社は、日産型交替制を実施して以降、毎月の残業計画は各前月に日産労組と協議した上で決め、これを実施に移している。ところが会社は、前記第一の3の(4)、(5)認定のとおり、支部に対しては、残業計画はおろか交替制の実施についてすら一切提案をせず、支部組合員を一方的に早番のみに組み入れ、かつ計画残業から除外したことが認められる。したがつて交替制実施以降支部組合員が残業をしていないのは会社の方針によるものと認めざるをえない。
しかもこの方針は、製造部門のみならず、夜勤のない間接部門の支部組合員にも適用されている。
(2) もつとも会社は、交替制ならびに計画残業の実施について支部と協議するつもりはあつたが、支部を団体交渉の相手として認めることとしたのが昭和四二年一月のことであり、その後数カ月間は、交渉ルールの設定その他の予備接渉に追われてその暇がなかつたと主張している。しかしながら、労働時間に関する問題は労働条件のうちでも最も基本的な事項の一つである以上、会社がこの点につき日産労組とは協議しながら支部に対しては提案すらしなかつたことは、前記第一の3の(2)の<1>に認定した団交拒否事件にみられるように、支部の存在を否認する会社の意図がこの点においてもあらわれているものと認めざるをえない。
(3) 他方支部も、当初は支部組合員が計画残業に組み入れられなかつたことについて、これを差別的取扱いとして会社に対し抗議したり、是正を要求したりした事実は認められない。しかし前記第一の3の(6)認定のとおり、昭和四二年一、二月頃会社構内において日産労組員と支部組合員との間に紛争が相次いでおり、支部は、残業時あるいはその後に支部組合員に対する日産労組員による暴行事件が発生することを危惧していた事情が認められるので、支部が組合員の残業問題につき当初は積極性を欠いたとしてもやむをえなかつたものと認められる。
(4) 前記第一の3の(3)認定のとおり、会社と支部との間で正式の団交が持たれるようになつたのは昭和四二年三月のことであるが、会社は、支部がその頃から強制残業反対と記載したビラをまいたりして、その実は会社の計画残業に反対したのだと主張する。しかし、会社が支部に対し具体的に計画残業組み入れを提案し、支部がこれを拒否したのであればともかく、支部が強制残業反対をスローガンとし、会社の従業員に対して団結の力で長時間労働からの解放をかちとるよう訴える活動をしたからといつて、会社がこれをもつて支部が実際の残業を拒否しているものとして受け取り、支部組合員に残業をさせないことは妥当でない。
(5) 前記第一の3の(8)認定のとおり、支部が六月に会社に対し残業をさせるよう申し入れたのに対し、会社は、支部が強制残業反対の態度をとつている等の理由でその申入れを受け入れていない。会社はこのことについて、計画残業は従業員が残業命令に服従することを前提としてなり立つているところ、支部は、残業をするかしないかは個々人の自由意思によると主張しているのであつて、もし会社がかかる支部の主張を受け入れるならば計画残業体制自体がこわれることになる、と主張する。しかしながら支部は、前記第一の3の(8)の<2>に認定したとおり会社に対し三六協定に基づく残業には協力するとの態度を表明していること、また、製造部門においては計画残業をしていることを承知した上で残業組入れを申し入れていること、支部はそのビラで残業は個人の自由意思でやらせろ、人間を増やせとの闘いを組もうとの趣旨を将来の方針として呼びかけてはいるが、会社との現実の団交においてそのような主張をした事実は認められないこと、また前記第一の2の(2)認定のとおり支部組合員は以前日産労組員と同様の残業をしていたことがあるが、その際恣意的に残業をしたりしなかつたりすることがあつたとは認められないこと等を総合すると計画残業下においても会社の危惧するような事態が発生する惧れがあつたとは考えられない。
他方会社は、前記第一の3の(8)認定のとおり支部との団交においては抽象的論議に終始し、また同(9)認定のとおり、支部組合員から残業をさせない理由を問われた各職制らも一致していやがらせに類することをのべたてていることからして、会社は、支部組合員には残業させない方針をとり、支部組合員に打撃を与えて、支部組織の弱体化を企図していたものであることは明らかである。
2 つぎに、支部組合員が昼勤のまま残業に入ることは、日産労組組合員よりも支部組合員を有利に取り扱うことになるとの会社主張について検討する。
本来夜勤に入るか否かは労使間で協議して決定すべき事項である。しかるに会社は、自らの責任において支部組合員を一方的に早番のみに組み入れているのであるから、夜勤をしないことを理由に支部組合員の残業組入れを拒否することは筋違いというべきである。しかも前記第一の3の(5)認定のとおり支部組合員が定時刻に退社したのちは、同人らの担当業務のその後の残業にはわざわざ臨時雇の作業員を入れて作業させているのであつて、かかる会社の措置はあまりにも不自然である。とすれば、会社は支部組合員の残業問題を正常化し、別途夜勤問題について支部と交渉すべきであつて、右会社主張は採用し難い。
3 前記第二の1および2判断のとおり、会社は、支部組合員に一切残業をさせないことによつて日産労組組合員と差別して取り扱つたことは明らかである。そして残業は、本来は好ましいものではないにしても、労働者にとつては収入源であり、ことに本件会社のように残業が恒常的に行なわれて超過勤務手当額も多額に及んでいることを併せ考えると、会社は、支部組合員に対し、残業をさせないことにより経済的打撃をあたえ、もつて支部組織の弱体化を企図したものと認めざるをえず、会社のかかる行為を労働組合法第七条第三号に該当する不当労働行為であるとした本件初審判断は相当である。
なお、会社は、本件再審査に併行して、支部と交渉し、非夜勤部門については残業をさせる趣旨の提案をしたので、組合の救済申立て中この部分は解決ずみであるともいうが、会社はいまなお初審命令を履行せず、非夜勤部門の支部組合員の残業問題も支部との交渉が調わないまま未解決なのであるから、この点についても会社主張は採用できない。
以上のとおり、本件再審査申立てには理由がない。
よつて、労働組合法第二五条、同第二七条および労働委員会規則第五五条を適用して主文のとおり命令する。