東京高等裁判所 昭和50年(う)1300号 判決
被告人 松原寛三郎
〔抄 録〕
以上の事実関係に徴すれば、被告人は、原判示の日時場所において、宮本一幸が、石川伸一から原判示覚せい剤約八グラムを代金三〇万円で譲り受けた際、右宮本のため、右石川との間になされた右覚せい剤の代金としての前金の授受に関与し、右宮本がその代金の一部の交付を渋るや、「俺が責任を持つから。」などと言って、その代金全額の石川への交付方を勧め、右宮本をして石川へ右代金三〇万円全額を交付させ、さらに右覚せい剤の石川から宮本への譲り受けにも関与し、被告人みずからもその一部を体内に注射してその質などを検討しているもので、右の各行為により被告人は右宮本の石川伸一からの覚せい剤譲り受けの犯行を容易ならしめてこれを幇助したものとみることができるのであって、原判決が認定したように、被告人が右宮本と共謀のうえ、右石川から原判示覚せい剤を譲り受けたものでもなければ、また各所論のように宮本が石川から右覚せい剤を譲り受けるについて、単にあっせんをしたに過ぎないという程度にとどまるものでないことも明らかである。しからば、被告人に対し、宮本一幸との共同正犯による覚せい剤譲り受けの事実を認定した原判決は、事実を誤認したものといわざるをえない。そして当審の認定した覚せい剤譲り受けの幇助と、原判決認定の共同正犯とは、その態様を明らかに異にするものであるから、被告人に右覚せい剤譲り受けの共同正犯の事実を認めた原判決の右の誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならず、原判決はこの点で破棄を免れない。論旨はいずれもその限りにおいて理由がある。
ところで、刑事訴訟法が訴因およびその変更手続を定めた趣旨は審理の対象、範囲を明確にして、被告人の防禦に不利益を与えないためであると解されるから、裁判所が、審理の経過に鑑み、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞れがないものと認めるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、訴因変更手続をしないで、訴因と異る事実を認定しても差支えないものと解するのが相当である(昭和二九年一月二一日最高裁第一小法廷判決・刑集八巻一号七一頁、同年一月二八日同第一小法廷判決・刑集八巻一号九五頁参照。)。そして本件においては、被告人は原審、当審各公判廷において、覚せい剤譲り受けの共同正犯の訴因に対し、いずれもこれを否認し、石川伸一と宮本一幸との取引をあっせんしただけであるとの覚せい剤譲り受けの周旋の事実をもって弁解してはいるが、前記説示のとおり被告人の本件所為は単なるあっせんにとどまるものではなく、覚せい剤譲り受けの幇助と解されるのであって、しかも右幇助は本件訴因たる覚せい剤譲り受けの共同正犯とは公訴事実の同一性を害するものではなく、本件公訴事実の範囲内に属するものと認められるから、右幇助を認定しても、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞れはないものというべきである。それ故、当裁判所は、本件の場合訴因変更の手続を必要としないものと解する。
よって刑事訴訟法第三九七条、第三八二条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書により本件についてさらに次のとおり判決する。
(当裁判所の認定した罪となるべき事実)
被告人は、宮本一幸が法定の除外事由がないのに、昭和四九年八月三〇日ころ東京都新宿区西大久保一丁目四一六番地ホテル「大石」内において、石川伸一から覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンの結晶約八グラムを代金三〇万円で譲り受けた際、その場で右宮本のため、右石川を引き合わせ、右覚せい剤を体内に注射してその質を検討したほか、同覚せい剤およびその代金の各授受につき口添えをするなどして関与し、もって右宮本の右覚せい剤の譲り受けの犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。
(石田 柳原 小林昇)