大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(う)1306号 判決

被告人 服部猶吉

〔抄 録〕

そこで、検討すると、原判決は、その主文において、被告人を懲役一年六月の実刑に処し、法令適用の項においても、保護観察付き刑の執行猶予に関する適条を挙示していないことが認められるけれども、他方、原審記録及び当審における事実の取調べの結果、ことに証人高杉恒男の当公判廷における供述を総合すると、原審裁判官は、昭和五〇年四月一六日午前一〇時の第四回公判期日(判決言渡期日)において、被告人と併合審理されていた原審相被告人浦井辰治、同井手泰孝、同井手廣司の三名と共に被告人に対し判決の宣告をした際、被告人に対し、一たん懲役一年六月、五年間の保護観察付き刑の執行猶予に付する旨主文を朗読したのち、被告人の前刑の執行猶予期間はすでに経過しているので、さらに保護観察付き刑の執行猶予に付したものであること及び他の右被告人も含めて猶予期間中善行を保持すべきことなどを説示したうえ、控訴期間等を告げたところ、列席の裁判所書記官に、被告人の本件犯行が前刑の保護観察期間中の犯行である旨指摘されたこともあって、被告人を除く他の右被告人三名に対しては、判決の言渡しが終った旨告げてこれを退廷させたのち、記録を検討し、約五分ほどして、被告人に対し、さきに宣告した主文は間違いであったので言い直すと告げて、改めて、懲役一年六月の実刑を宣告したものであることが認められる。

ところで、判決の宣告は、公判期日(判決言渡期日)に、公判廷において、宣告によりこれを告知する(刑事訴訟法第三四二条、第二八二条、第二七三条)のであって、その期日における判決言渡手続は、判決の主文及び理由を朗読し、又は主文の朗読と同時に理由の要旨を告げ(刑事訴訟規則第三五条)、執行猶予及び保護観察の趣旨その他必要と認める事項を説示し(同第二二〇条の二)、訓戒(同第二二一条)等が行われ、さらに上訴期間及び上訴申立書を差し出すべき裁判所の告知(同第二二〇条)がされたのち、裁判官が判決宣告の終了した旨告げて、被告人の退廷を許可することによって初めて終了するものと解するのを相当とするから、原審裁判官が被告人に対し当初朗読した判決主文を訂正して言渡したのは、判決宣告手続の完了前であることが明らかであり、判決は公判廷においてこれを宣告することにより外部的に成立し、判決言渡手続の終了により宣告された判決の内容は当該判決をした裁判所を拘束し、その後これを訂正変更することは許されないと解されるのみならず、判決の宣告は、裁判所の被告事件についての最終的な判断を宣明するものであるから、右宣告手続の完了以前においても、一たん主文を朗読したのちは、軽々に判決主文を訂正、変更するようなことは厳にこれを戒めなければならないことはいうまでもないところであるが、本件のように直ちに判決主文の訂正の必要を認めてこれを変更したような場合においては、それがため裁判の安定性や明確性を損なうものとは認められず、又、被告人の利益を守る立場からみても、訴訟経済上の見地からしても、その訂正、変更の方法は上訴に限ると解すべき理由はないから、原審裁判官が、判決言渡手続の終らないうちに判決主文の誤りに気づいて、右のような経過でこれを訂正、変更して、改めて判決主文を朗読したことをもって違法、無効ということはできないというべきである。それ故、本件において当初言渡された原判決の主文は適法に訂正、変更され、被告人に対し、懲役一年六月の実刑が適法に宣告されたものというべきであるから、原審の措置に所論のような訴訟手続に関する法令違反は存しない。論旨は理由がない。

(瀬下 金子 小林真)

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