東京高等裁判所 昭和50年(う)1313号 判決 1977年2月09日
本店の所在地
栃木県黒磯市東栄二丁目六番一〇号
株式会社池田建設
右代表者代表取締役
池田幸雄
右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和五〇年三月三一日宇都宮地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人より適法な控訴の申し立てがあつたので、当裁判所は、検察官粟田昭雄出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人木野政治作成の控訴趣意書、追控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官粟田昭雄作成名義の答弁書に、それぞれ記載されているとおりであるから、これらをここに引用するが、論旨は、要するに被告人株式会社池田建設(以下被告会社という)を罰金八六〇万円に処した原判決の量刑は重きに過ぎ不当である、というのである。
そこで、所論に徴し、一件記録ならびに当審における事実の取調べの結果を総合し、これらにより認められる諸般の情状、とくに、本件は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統轄していた池田幸雄において、右会社の法人税を免れようと企て、昭和四五年一〇月一日から昭和四八年九月三〇日までの三事業年度にわたり、被告会社の総所得金額のうち一億七一六万二、五五四円を申告除外して同会社の法人税合計三九三九万九、一〇〇円という多額の法人税をほ脱した事案であり、被告会社の収入秘匿の方法も右茨田幸雄が自ら積極的に架空の人件費、下請業者を設定したり、あるいは下請代金の水増し、建築土木工事材料(U字溝などのコンクリート二次製品や砂利など)購入代金の水増しをするなどして得た金員を架空名義の定期預金にするという巧妙な方法によるものであることを考えると、被告会社の刑事責任は軽くないというべきであり、右会社において本件三事業年度における所得の修正申告をなし、合計六四八三万円余にのぼる法人税、法人事業税、市民税およびそれぞれに対する延滞金を完納したほか、一七四七万円余にのぼる重加算税についても完納していること、その他所論のうち被告会社にとつて酌むべきすべての情状を十分考慮しても、原判決の量刑が重きに過ぎ不当であるとは認められない。論旨は理由がない。
よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 東徹 裁判官 佐藤文哉 裁判官 中野久利)
○昭和五〇年(う)第一三一三号
控訴趣意書
株式会社 池田建設
右代表取締役 池田幸雄
右の者に対する法人税法違反被告事件について、控訴の趣意は左記のとおりである。
昭和五〇年九月八日
弁護人 木野政治
東京高等裁判所第一刑事部 御中
記
原判決は、刑の量定が不当であつて破棄を免れない。その理由は、次のとおりである。
原判決の罪となるべき事実は、
被告会社株式会社池田建設は、黒磯市東栄二丁目六番一〇番に本店を設け、土木建築工事の請負を目的とする法人、被告人池田幸雄は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統轄しているものであるが、被告人池田において、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の外注費、賃金などを計上し、仮名の定期預金を設定蓄積するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ
第一 昭和四五年一〇月一日から昭和四六年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額は一、九六七万八、七七七円で、これに対する法人税額は六八六万五、九〇〇円であつたのに、昭和四六年一一月三〇日大田原市紫塚二、六八四番地の四〇所在大田原税務署において、同署長に対し、所得金額が三六二万一、〇六〇円でこれに対する法人税額は九六万四、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて右不正の行為により被告会社の右事業年度の正規の法人税額との差額五九〇万一、〇〇〇円を法定の納期限までに納付せず、もつて同額の法人税をほ脱し
第二 昭和四六年一〇月一日から昭和四七年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額は五、五二四万三、二七〇円で、これに対する法人税額は一、九四二万五〇〇円であるのに、昭和四七年一一月三〇日前記大田原税務署において、同署長に対し、所得金額が二、七〇四万二、五七七円でこれに対する法人税額は九〇三万五、六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により被告会社の右事業年度の正規の法人税額との差額一、〇三八万四、九〇〇円を決定の納期限までに納付せず、もつて同額の法人税をほ脱し
第三 昭和四七年一〇月一日から昭和四八年九月三〇日までの事業年度における被告会社の所得金額は一億四、二六二万七、九五三円で、これに対する法人税額は五、一二五万五〇〇円であるのに、昭和四八年一一月三〇日前記大田原税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七、九七二万三、八〇九円でこれに対する法人税額は二、八一三万七、三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて右不正の行為により被告会社の右事業年度の正規の法人税額との差額二、三一一万三、二〇〇円を決定の納期限までに納付せず、もつて同額の法人税をほ脱し
たものである。
右事実により、次のような刑の言渡があつた。
被告会社株式会社池田建設を罰金八六〇万円に、被告人池田幸雄を懲役六月に各処する。
被告人池田幸雄に対し、この裁判確定の日から三年間右の刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人池田幸雄の負担とする。
右処罰のうち、被告会社を罰金八六〇万円に処する旨の判決に対し、量刑不当の理由にて控訴申立したのであるが、その理由は次のとおりである。
一 被告会社は、本件起訴後
(イ) 訴因第一のほ脱額五九〇万一、〇〇〇円に対し、修正申告をなし次のように全額納付した。(弁一)
法人税 六二五万九、二〇〇円
事業税(県税) 二二七万八、五八〇円
右延滞金 一七万三、五〇〇円
市民税 六六万七、九一〇円
右延滞金 五万〇、八〇〇円
計 九四二万九、九九〇円
(ロ) 訴因第二のほ脱額一、〇三八万四、九〇〇円に対し、修正申告をなし次のように全額納付した。(弁二)
法人税 一、〇九七万四、二〇〇円
事業税 三九九万八、六七〇円
右延滞金 三〇万四、五〇〇円
市民税 一一七万四、二〇〇円
右延滞金 七万八、六〇〇円
計 一、六五三万〇、一七〇円
(ハ) 訴因第三のほ脱額二、三一一万三、二〇〇円に対し、修正申告をなし次のように全額納付した(弁三)
法人税 二、四六二万三、九〇〇円
右延滞金 一八一万二、二〇〇円
事業税 八九六万八、四七〇円
右延滞金 六四万四、四〇〇円
市民税 二六三万四、七四〇円
右延滞金 一九万二、二〇〇円
計 三、八八七万五、九一〇円
総計 六、四八三万六、〇七〇円
右は被告会社が当然課税されるべき税額であるから、延滞金を附加して支払えば、納税義務は一応果したわけである。
二 被告会社は、税額等の計算の基礎となるべき事実を隠べい、または仮装して申告したとして昭和五〇年二月国税通則法第六八条により次のように重加算税を課せられた。
(イ) 法人税関係(弁四)
昭和四五年一〇月一日から同四六年九月三〇日までの分(訴因第一)
一八三万九、七〇〇円
昭和四六年一〇月一日から同四七年九月三〇日までの分(訴因第二)
三二九万二、二〇〇円
延滞税 一一三万〇、〇〇〇円
昭和四七年一〇月一日から同四八年九月三〇日までの分(訴因第三)
六一八万一、九〇〇円
延滞税 一六〇万八、七〇〇円
合計 一、四〇五万二、五〇〇円
(ロ) 法人事業税関係(弁五)
訴因第一の事業年度 五七万八、七〇〇円
同 第二の事業年度 一〇一万五、二〇〇円
同 第三の事業年度 一八二万五、八〇〇円
計 三四一万九、七〇〇円
(イ)(ロ)の合計 一、七四七万二、二〇〇円
三 被告会社は、判決の罪となるべき事実のように脱税行為をなしたことについて、納税義務違反に対する懲戒と一般警告のため、重加算税を課せられ、その額も三〇パーセントと定められているのでやむを得ないことであるが、国税局および県税事務所においては、被告会社が右重加算税を一時に納付できないことを了承し、国税通則法第四六条第三項によつて分割納付を賑め、法人加算税については月額五〇万円、事業加算税については月額大体三〇万円を納付することとなり、昭和五〇年三月より毎月分割納付を実行している。将来同額の金額を納付すると仮定すれば、一年一〇月を要することになる。
四 刑罰は本来自然人に課せられるべきであるが、経済法、税法違反に対しては、代表者である自然人の外に法人自体にも財産刑を課せられるのが一般である。その理由は、代表者が処罰されても法人が不法に利益した財産をはく奪しなければ法の目的が達せられないからである。
税法においては、その捜査の段階で長期間徹底的に調査し、脱税額を明らかにして、これを修正申告させることによつて不正に利得した財産をはく奪することになつている。それに加えて、懲戒的意味と一般予防的意味から重加算税を課している。
正、不正の行為は、自然人のみがなし得たところであるから、税法違反に対し被告会社代表者が体刑の処罰を受けることはやむを得ないことである。しかし、被告会社に対しては、懲罰的意味で多額の重加算税を課したが、これも一時に納付できないため分割納付を許可した。被告会社が一時に納付できない経済状態にあることは、捜査した国税局が十分承知しているからこれを認めたのである。更に多額の罰金を課せられることになれば、当然倒産することになり、重加算税の分割納付も罰金の納付も不可能になることは明らかである。
五 被告会社は、昭和四四年一〇月設立の資本金一〇〇万円の有限会社池田建設を同四八年一月組織変更したもので資本金は同四九年一二月増資により一、〇〇〇万円である。本件犯罪を犯すに至つた動機は、零細企業が連鎖倒産をしたり、不渡手形を貫つて倒産したりする多くの事例を見聞し、自己の営業並びに従業員の生活を防衛するため裏金を備蓄しようとしたことに因るのである。(八八三)
したがつて、世間によく見られるように放慢な経営をしたり、私腹を肥やして倒産し、他人に迷惑をかけたという事実は、全くない。
昭和四五年から同四八年までは、好景気により仕事量も多く、従つて利益も多く、脱税も容易であつたと思われる経済環境であつた。昭和四八年暮いわゆる石油シヨツク以来急激な不況によつて中小建設業者の倒産が多く見られるようになつた。被告会社はこの不況を乗り切るため、受注を殖やすことが先決なので増資をなし、懸命の努力を続けている。しかし、受注量は、従来の三分の二程度であり、利益をあげることは困難な状況である。
以上のような法律上、経済上の事情により、罰金八六〇万円に処する量刑は重きに失すると思料しますので控訴に及んだ次第である。