東京高等裁判所 昭和50年(う)1413号 判決
被告人 野沢璋多
〔抄 録〕
そこで検討するのに、記録によれば、被告人は、原判示六の窃盗の事実につき昭和五〇年二月五日起訴されるとともに、同日、右事実につき発せられた勾留状の執行を受け、爾来、右勾留を継続されてきたが、その間、同年四月一九日原判示一ないし五及び七ないし二二の各事実につき追起訴され、起訴事実全部について併合審理を受けた結果、同年六月四日懲役四年六月、未決勾留日数一二五日算入の原判決を言渡されたことが明認できる。
右によれば、本件において懲役四年六月の本刑に算入し得る未決勾留日数は原判示六の窃盗被疑事実につき勾留された同年二月五日から原判決言渡日の前日である同年六月三日までの一一九日であり、しかるに原判決が一二五日を算入したのは、超過する六日につき不当に被告人に利益を与えることとなり違法であることが明らかである。
もっとも、記録によれば、被告人は、昭和五〇年一月二七日住居侵入の被疑事実について発せられた勾留状の執行を受けてのち、同年二月五日本件(原判示六の窃盗)の公訴が提起されるまで、右勾留を継続されていたが、右被疑事実については起訴されなかったことが認められる。
したがって、もし右別件の被疑事実について発せられた勾留状による勾留日数を本刑算入の対象とすることが可能であれば、前示超過算入の違法はおのずと解消するわけである。しかし、刑法二一条により本刑に算入可能な未決勾留日数は、本刑を科されなかった罪について発せられた勾留状の被疑事実と本刑を科された罪とが一個の訴訟手続で併合審理される等特段の事情の存する場合を除いて、原則としてその本刑が科された罪について発せられた勾留状による拘禁日数を指すものと解釈すべきである(最高裁判所昭和五〇年七月四日言渡第三小法廷判決参照)。これを本件についてみるに、住居侵入の被疑事実による勾留の期間中、被告人は、事実上、原判示六の公訴事実についても捜査・取調を受けたことが記録から窺えるものの、右被疑事実は起訴されていないうえ、原判示六の窃盗はもちろん起訴されたいずれの窃盗、同未遂の事実との間にも牽連関係ないし社会的事実の同一性は認められず、前示特段の事情の存する場合にあたらないこと明白であり、前記住居侵入の被疑事実による勾留日数を本刑算入の対象とすることはできない。弁護人の答弁書中これと見解を異にする所論はにわかに首肯し難く、またその引用の最高裁判所判決(昭和三〇年一二月二六日言渡)は、同一被告人に対する数個の公訴事実を併合して審理したところ勾留状が発せられた公訴事実につき無罪とされたため、右事実につき発せられた勾留状の執行により生じた未決勾留日数を、他の有罪とした公訴事実の本刑に算入することができるか否かが争われた事案に関するものであって、本件とは事案を異にし適切ではない。
(相澤 大前 油田)