大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(う)1807号 判決

被告人 諏訪信平

〔抄 録〕

所論は、原判示第三の報告義務違反について、被告人は事故により自らも額に裂傷を負ったから法七二条一項前段にいう「運転者が・・・負傷したためやむを得ないとき」にあたる事由があり報告義務は発生しない、かりに報告義務があったとしても、事故現場には電話はなく、被告人は事故で重傷を負った伊藤を救護するための行動をとっている間に第三者の通報を受けた警察官がきたものであるから、被告人が事故の報告をしなかったことには違法性がない、したがって報告義務違反を認めた原判決には事実の誤認がある、と主張する。

記録によれば、被告人も本件事故により額に裂傷を負い血を出していたこと、事故現場の近くには公衆電話がなかったこと、被告人が重傷を受けた伊藤を自ら背負って約二〇〇メートルはなれた宿舎までゆこうとしたが、一〇〇メートルほどで同人をおろし、迎えをよこすから待っていてくれといってひとりで宿舎へ帰ったこと、そして仲間のものに事故をおこし怪我人が出たから誰か迎えにいってくれといったこと等の事実を認めることができる。しかし被告人の負傷の程度は一回病院へ行っただけで、それほど重くはなかったと思われること、現場の近くにはアパートがあり、そこに電話もあったこと、事故直後付近の人達が現場へかけつけ、そのうちの一人がアパートから救急車を呼んだこと(以上被告人および翁長清の司法警察員に対する各供述調書参照)、等の状況に徴すれば、被告人が警察官への事故報告義務を履行しなかったのを「負傷したためやむを得ないとき」にあたると認めることができないのはもちろん、報告することが著しく困難な状況にあったと認めることも困難である。むしろ他から事故の報告を受けた警察官が宿舎にいったとき被告人が宿舎の二階でしゃつ、ももひき姿のままふとんの上に横になっていた事実(司法巡査沼沢敏明作成の捜査報告書、原審における証人沼沢敏明の証言)にかんがみれば、被告人は「できれば警察に届けないですまそうと思った」と述べている(被告人の司法警察員に対する供述調書)のが事の真相であると思われる。要するに、被告人には事故の報告をする意思はあったのに、この実現を不可能にする特別の事情があったとは認めがたく、関係証拠を総合すれば、原判示報告義務違反の事実を認めるに十分である。論旨は理由がない。

(横川 柏井 渡辺)

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