東京高等裁判所 昭和50年(う)390号 判決
被告人 太田代康男
〔抄 録〕
元来道路における車両の運転は、公共の施設である道路を広い範域にわたって占有・利用し、しかも、高速度で走行するのが常であるため、歩行者・他の車両等に重大な危害を及ぼす高度の危険を伴う行為であることは、そのため運転免許の制度がとられ一定水準以上の技術と知識を会得した有資格者でなければ運転が許されないことからみても明らかである。そこで、このように高度の危険を伴う車両運転を自らあえてする者としては、免許の有無を問わず、これに相応する義務を負担するのもやむを得ないところであって、かかる運転者等に対しその者に関係ある交通事故の発生をみた場合、道路交通の安全の保持・事故発生の防止・被害増大の防止・被害者救護の措置に万全を期するため、その態様に関する客観的事項を報告させる義務を一律に課したのが道路交通法七二条一項後段の規定であると解される。所論は、車対車によって起こされた交通事故の場合は、一方の車両の運転者が事故の報告をすれば他方の運転者はその義務を免れると主張するけれども、このような解釈は、多くの場合片手落ちで不合理な結果を招来し、特殊例外の場合を除いては到底採用することができない。例えば一方の運転者が報告義務を履行するであろうことを知った他方の運転者が警察官の到着するまで事故現場に残留して警察官の指示を待っている場合のように、他人を介して右報告をしたのと同様の事情が認められる場合は格別、本件被告人のように他方の運転者が報告のため事故現場を離れるとみるや、直ちに車両を運転して事故現場から逃走し全く報告をしなかった場合にまで報告義務がないとすることはできないのである。
(寺尾 山本 渡辺)