東京高等裁判所 昭和50年(く)125号 決定
被告人 小野悦男
〔抄 録〕
よって、記録を検討すると、以下の経過が認らめれる。すなわち、前文掲記の各被告事件が併合審理された第三回公判期日(前記(ハ)事件については実質上第一回公判)において、主任弁護人野崎研二より、被告人の本件勾留に関しては、違法の点ありとし(その主張内容の要旨は前記忌避申立理由(一)と同旨)、これに対する原裁判所の見解を求めたところ、原審裁判長より、これにこたえて、被告人の本件勾留に関し、弁護人が主張するような、捜査機関の余罪捜査を認識し、それに協力したというようなことの全くないことなど仔細に説明したうえ、審理に入り、前記(ハ)事件の起訴状朗読、被告人及び主任弁護人の被告事件に対する陳述が行なわれた。ついで、主任弁護人より、本件(前記(ハ)事件)につき、公訴棄却の申立をするとともに(その申立事由の要旨は、前記忌避申立理由(二)と同旨)、取調べ担当検察官の証人尋問等の証拠調の請求をした。原裁判所は、これに対する判断は主任弁護人の申出による公訴棄却申立理由書の提出をまってすることとし、前記(ハ)事件についての検察官の冒頭陳述及び証拠調請求がなされた。次の第四回公判期日において、原審裁判長は、右公訴棄却の申立及び証拠調の請求について、右申立の理由となっている事実は実体審理のなかで明らかになることであるから現段階においては右申立に伴う証拠調の請求は採用せず公訴棄却もしないで実体審理を進める旨宣したところ、主任弁護人より、右証拠調請求却下決定に対し異議の申立をなし、右申立が却下されるや、主任弁護人において、原裁判所を構成する全裁判官につき刑訴法二〇条七号による除斥原因が存し、かつ被告人に対し不公平な裁判をする虞のある事由があるとして本件忌避の申立をしたこと、これに対し原裁判所は、右忌避申立は、訴訟を遅延させる目的のみでなされたものであるとの理由で右申立を却下したことが認められる。そこで以上の経過を前提として所論を順次検討する。
(一)の点について。
公判裁判所を構成する裁判官が勾留に関する裁判に関与したことが刑訴法二〇条各号のいずれの場合にも該当せず、また憲法三七条一項の公平な裁判所の規定にも違反しないことは明らかである(昭和二五年四月一二日最高裁大法廷判決参照)。所論は、原裁判所が本件被告人の勾留に関する裁判に関与した方法・内容からみて、原裁判所は憲法にいう「公平な裁判所」といえない―原裁判所を構成する全裁判官につき刑訴法二〇条七号による除斥原因が存する―というのであるが、この点については、原審裁判長の第三回公判期日における説示において十分尽されているところであり、もとより、記録を精査しても、所論にいう「公平な裁判所」たることを疑わせるような事跡は全く認められない。
なお、所論は、原裁判所が、職権を発動することなく、前記(イ)、(ロ)事件の公訴提起後、昭和五〇年三月一二日まで被告人を代用監獄である印西警察署に留置し、余罪(前記(ハ)事件)の捜査に協力したと主張して、右の点をも原裁判所が右(ハ)事件につき不公平な裁判をする虞ありとの忌避理由にしているようでもあるので付言するに、被告人及び弁護人は、後示のように、(イ)、(ロ)事件のみならず(ハ)事件についても、すでに、事件に対する陳述を済ませているものであるから、右の点を理由とする忌避の申立は、のちに述べると同様、刑訴法二四条一項後段により却下を免れない。
(二)の点について。
所論は、原裁判所が公判期日において弁護人の証拠調請求を却下し、前記(ハ)事件につき公訴を棄却せずに実体審理を行なう旨態度を明らかにしたことをとらえて、同裁判所は右(ハ)事件につき不公平な裁判をする虞があるとするものであるところ、これはまさに同裁判所の訴訟手続内における審理の方法・態度それ自体を忌避理由とするものにほかならず(公訴棄却の申立は職権発動を促す意味を持つにすぎない―昭和四五年七月二四日最高裁第一小法廷判決)、かかる理由による忌避申立が許されないことは昭和四八年一〇月八日最高裁判所第一小法廷決定の示すとおりである。
のみならず、一件記録によれば、被告人及び弁護人は、前記(イ)事件については第一回公判期日(昭和四九年一二月五日)、(ロ)事件については第一回(前同日)、第二回(昭和五〇年二月七日)公判期日、(ハ)事件については第三回公判期日(同年六月六日)において、それぞれ事件に対する陳述をなしたことが認められるから、刑訴法二二条但書所定の特段の事情も認められない本件においては、不公平な裁判をする虞を理由とする本件忌避の申立は、同法二四条一項後段により却下されるべきものである。
(相澤 大前邦 油田)