大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(く)204号 決定

被告人 露高義

〔抄 録〕

刑事訴訟法第九六条第一項本文が、裁判所は各号所定の事由がある場合には「………保釈………を取り消すことができる。」旨規定していることからも明らかなように、同条項各号所定の取消事由が生じた場合に必ず保釈を取り消さなければならないものではなく、取り消すかどうかは裁判所の裁量に委ねられている。もっとも裁量といっても、それは恣意的なものではなく、また純粋な意味での自由裁量を許すものでもなく、保釈および保釈取消制度の趣旨、とくに同項第一号に関しては被告人が召喚を受けながら出頭するに至らなかった具体的事情、不出頭の回数など諸般の事情を十分に参酌して、慎重に決定すべきであり、右裁量が客観的相当性に反する場合には右保釈取消は違法として取消しを免れない。この観点に立ち、原裁判所の前記裁量が客観的相当性に反するか否かを改めて考察するに、被告人の不出頭は前記のとおり弁護人の指示に基くものである。そして岡弁護人は、本件公判期日の指定から期日変更申立却下決定に対する異議申立の却下決定に至るまでの経緯、とくに被告人不出頭の場合には保釈の取消しもありうる旨の説明を受けていたことにかんがみ、これらの点に十分配慮して被告人を出頭させるべきかどうかを熟慮し、少くとも被告人に不出頭を指示するような態度には出るべきでなかったこと、ことに本件保釈取消決定がなされるや、被告人が直ちに他の弁護人五名を選任して本件抗告の申立をなしていることを合わせ考えると、本件公判期日にも他の弁護人を選任して出頭させ期日を進行させることも不可能ではなかったことが窺われないではなく、しかるに岡弁護人は自己が右公判期日に出頭できないことの一事で、しかも前記異議申立に対する決定のなされる前に、被告人に対し公判期日への不出頭を指示し、原裁判所をして右公判期日の変更を余儀なくさせて、さきになされた原裁判所の期日変更申立却下決定を実質的に無意味ならしめるような行動に出たことはかなり責められるべきである(所論は、原裁判所が憲法の保障する弁護人選任権を侵害したと論難するが、前記のような経緯に徴すれば、原裁判所の手続には所論のような違憲のかどは全く存在しない。)。しかし、岡弁護人に右のような責めらるべき事情があることと、保釈を取り消すべきかどうかとは一応別個に考えるべきである。すなわち、一般に被告人の弁護人、ことに私選弁護人に対する信頼感および本件被告人が法律的知識に乏しい素人であることに加え、前記のとおり被告人の住居が遠隔地であるという特殊事情などに徴すれば、被告人が岡弁護人の指示どおり「不出頭届」を提出すれば、出頭しなくともよいと考えたとしても、あながち無理からぬところというべきであり、岡弁護人に前記のような責むべき事情があるの故をもって、被告人の不出頭による責任の全部を同人自身に帰せしめることは酷に失するものといわなければならない(もっとも、被告人が「不出頭届」を投函したのは、前記のように一一月二五日の公判期日の午後であるから、もし被告人において万全を期するとすれば、投函前、開廷時である午前一〇時前に原裁判所の担当書記官に対し電話をもって、不出頭の旨およびその旨の届を郵送した旨を連絡できたとも考えられないではないが、岡弁護人に対する前記信頼感等に徴すれば、被告人にそこまでの手配方を要求するのは無理というべく、従って同人が右のような電話をしなかった点について責任を問うことは相当ではない。)。そして、前記のような被告人不出頭の事情、保釈後の不出頭が一回だけであり、しかも前記のように右公判期日の二日後ではあるが、被告人から「不出頭届」が提出されていること、また被告人自身にはことさら審理を延ばそうとする意図は認められず、今後の公判期日における出頭の態度も窺われることなどの諸事情をも考慮に加えると、原裁判所が、被告人が前もって届け出することなく、一回出頭しなかった故をもって直ちに保釈を取り消したことは、結局その裁量が客観的相当性に反したものというのほかなく、そうとすれば、原決定は刑事訴訟法第九六条第一項(第一号)の解釈・適用を誤ったものとして取消しを免れない。この点において論旨は理由がある。

(石田 柳原 小林昇)

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