東京高等裁判所 昭和50年(ツ)104号 判決 1976年1月28日
上告人兼被告人
(第一審原告)
川又厚
右訴訟代理人
横堀晃夫
被上告人兼上告人
(第一審被告)
高津戸弥四郎
右訴訟代理人
大貫正一
<外一名>
主文
本件各上告をいずれも棄却する。
本件各上告の費用は各上告人の負担とする。
理由
別紙第一審原告の上告理由一について。
原判決が公図、特に山岳(山林)を中心としたそれは作成当時(明治の初め)の測量技術の水準からして、およそ位置関係を知るための参考にはなつても、距離、面積等(例えば、本件九二七番二宅地の西側境界線の長さ)に関しては特別の事情でもないかぎり到底信頼するに値いしないと判示していることは所論のとおりである。しかして、原判決は右特別の事情を認めるに足りる証拠はないとしたうえで、右公図以外の証拠である現場検証の結果ならびに川又コウの証言等から、本件九二九番山林の南西角境界点(ト点、以下各地点の表示は原判決添附図面の表示に従う)は九二七番二宅地の西側境界線を隔てて九二五番山林の北西角の境界点(チ点)に近接していることを認定しているのであつて、原判決は、一たん公図を信頼できないとしながら、右両地が結局は公図の距離と同じように近接しているとは判示していないのであるから、原判決の理由説示には所論のような矛盾そごは存しない。
同二について。
論旨(一)は、本件のト点とチ点との距離は公図上の九二七番二の宅地が寄地に接する西側境界線の長さと対比して比較にならぬほど長いことを指摘し、論旨(二)は、公図によれば九二七番二の宅地の西側境界線が接しているのは全面九二九番の土地であり、九二七番二は南側において寄地に接しているのみであることを指摘し、これらの点を原審が考慮しないで著しい事実誤認をしたと論旨はいうが、原判決は前示のとおり所論公図以外の証拠によつて本件係争の境界線を確定しているのであるから、ひつきよう論旨は原判決の結果に影響しないことをいうに帰着し、上告理由として採用のかぎりでない。
別紙第一審被告の上告理由一、二について。
本件係争地附近の林相が所論の線を境として明確に異つていることは、原判決も認定判示しているところであるが、原判決は挙示の証拠から認定できる事実関係に徴し、右林相の相違をもつて境界認定の資料たりえないこと、および右林相の相違をもつてしては九二五番一山林と九二七番一山林の境界線をイホ線であるとする判定を動揺せしめることはできないと判断しているのであつて、その判断は経験上ありえないともいえず、経験則に違背することまでは断じえないから、論旨はすべて採用できない。
同三、四について。
所論白檜の存在する5点および4、5、6、7、8の各点を結ぶ線を中心にして巾約二米の帯状に木の生えていない土地をもつて本件係争の両地の境界と認定すべきであるという所論は、ひつきよう原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定について異見を述べることに帰着し、この点につき原判決に経験則違背は見当らないから、所論はすべて採用できない。
なお、原判決の主文は、原判決別紙図面中の符号イ(4)、ホ、へ(10)、9、リ(8)、7、ヌ(6)、5、イ(4)、の各点に該当する実地点を順次直線で結んだ囲繞地内の土地は、芳賀郡市貝村大字刈生田字シトミ山九二五番一、山林九反二畝一五歩(九、一七三平方メートル)の一部であることを確認する、というにあつて、一定の地域が一定地番の土地の一部であることを確認する趣旨と解されるように表現をしているが、当事者の所有関係を全く度外視して、単に右の趣旨の確認を求めることは確認の利益を欠くものといわなければならないが、記録に徴すれば、本件にあつては当事者本件係争地域がその所有にかかる一定地番の土地に属することを主張して当該係争地域の所有権の確認を求めているものであることが明瞭であり、原判決の理由説示と併せて読めば、右主文の表現は係争の地域が第一審原告所有の一定地番の土地の一部に属し、これが同人の所有であることを確認する趣旨と解されるから、この点にも違法はないものということができる。
よつて、上告人らの各上告はいずれも理由がないから、民事訴訟法第四〇一条に従い棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(畔上英治 安倍正三 岡垣学)
第一審原告の上告理由《省略》
第一審被告の上告理由《省略》