東京高等裁判所 昭和50年(ネ)1477号 判決
一 当裁判所も、控訴人らの本件各仮処分申請は理由がなく、失当であると判断するものであるが、その理由は、次に附加するほかは、原判決の理由二項ないし四項と同一である(但し、原判決六八枚目表一行目の「第一図、第二図」を「(一)図、(二)図」と改め、七六枚目表六行目の「目的」の次に「及びこれを達成しうる構成」を加え、原判決の別紙(イ)号説明書を本判決添付の別紙(〔編註省略)(イ)号説明書のとおり改める。)から、ここにこれを引用する。
(一) 控訴人らの補足的主張1について
本件発明がパチンコ機遊戯場における清浄遊戯玉自動循環装置であることは、明らかであるところ、成立に争いのない疎甲第二号証(公報)によれば、本件発明の明細書中、発明の詳細な説明の項には、次のとおり記載されていることが認められる。すなわち、「従来、パチンコ機の遊戯場においては、並列する各パチンコ機の景品玉タンク内に玉を収容し、景品玉を順次放出してタンク内に玉がなくなつた際は、裏側に待機する従業員の手によつて、一々景品玉タンクへ玉の補給をし、また、アウト玉も同様裏側において容器内に集め、これをそのまま景品玉タンクに入れて反覆的に玉を使用しているのが現状である。こうした現状の下においては、従業員は常に景品玉タンク内の玉の有無とアウト玉の整理を注意していなければならないし、又絶えず放出される景品玉の補給や整理をしなければならない。したがつて、従業員の労働は頗る過重であつたのみでなく、遊戯者も常に不潔な玉を何度も使用することになるので、きわめて非衛生であつた。」(公報一欄二二行目ないし三五行目)のに対し、本件発明は、「以上のような過重な労働を必要とするパチンコ機裏側の従業員を不用ならしめるとともに、遊戯者には常に衛生的処理をした清浄玉をもつて遊戯せしめる目的のために、景品玉タンクに玉がなくなれば自動的に衛生的処理をした玉を景品玉タンク内に補給し、アウト玉も自動的に玉磨き装置に送つて衛生的処理をして補給タンク内に送り込むごとく、順次これらを自動的に循環せしめるようにし」(公報一欄三六行目ないし二欄五行目)たものであり、本件発明によれば、「遊戯者の使用する玉は常に玉磨き機により衛生処理をした清浄玉のみであるから、清潔に遊戯せられ、かつ、遊戯場も清潔に保持せられる効果がある」(公報四欄二四行目ないし二七行目)のである。以上の記載内容に徴すると、本件発明は、従来技術がアウト玉をそのまま景品タンクに入れて反覆使用していたため非衛生的であつたのを改善し、遊戯者に対し常に衛生的処理をした清浄玉をもつて遊戯させうるようにすることを課題の一つとし、これを解決したものであり、遊戯者の使用する玉は常に玉磨き機により衛生的処理をした清浄玉のみであつて、清潔に遊戯できるという点が本件発明の重要な目的及び作用効果であることは明らかである。そして、前掲疎甲第二号証によれば、本件発明の明細書に記載されている実施例は、右の目的を達成し、右の作用効果を奏しうる構成を具備した装置であることも認められる。したがつて、本件発明の特許請求の範囲にいうところの「清浄遊戯玉」とは、遊戯者に対する関係において常に清浄な玉であることを意味するものであつて、構成上も右の作用効果を奏しうるものに限定されていることが当然の前提となつているものと解さざるをえない。何故ならば、本件発明が一旦使用した玉を衛生的処理をしないままで反覆使用する構成をも発明の要旨に包含するものと解するならば、本件発明が目的とする課題を解決したことにならず、前記作用効果を奏しえない場合が生ずることになるからである。そうとすれば、本件発明の特許請求の範囲には、構成要素の一つであるパチンコ機について、その機種、機能につき限定する直接の記載はないけれども、それが、前記目的及び作用効果と矛盾する機能を有するパチンコ機であつてはならないことが、本件発明の構成上当然の前提となつているものというべきである。
ところで、本件装置は、パチンコ機として無人機、還元機付機を使用しており、そのため遊戯者の使用する玉は常に玉磨き機により衛生的処理がされた清浄玉であるとは限らず、むしろ、アウト玉の多くが玉磨き機を経ないで循環し、衛生的処理を施されないまま遊戯者により反覆使用されるから、本件発明における前記作用効果を奏しえないが、他面、店舗内において使用される玉全体が少なくて済み、玉磨き、玉の運搬等の装置が少ない能力のもので足り、装置の耐久性の面においても有利であるとの利点を有するのである。
したがつて、本件装置は、本件発明においてはおよそ使用しえないパチンコ機である無人機、還元機付機を使用し、玉の循環経路を異ならせている点において、本件発明と構成上の差異があり、また、本件発明におけるように遊戯者が一旦使用したアウト玉を直ちに玉磨き機で衛生的処理をして循環させ遊戯者には常に衛生的な清浄玉のみをもつて遊戯させるというものではない点において、本件発明と目的及び作用効果上も相違があるということができる。
なお、控訴人らは、本件差止請求の対象は遊戯玉自動循環装置であつて、パチンコ機ではないから、パチンコ機内において遊戯玉が循環する結果、使用玉が衛生的処理をされないまま反覆使用されることがあるとしても、それはパチンコ機自体の作用効果であり、玉の自動循環装置たる本件装置の作用効果とはいえない旨主張する。しかし、本件発明においても、パチンコ機及びこれに付設される景品玉タンク内のスイツチが他の構成要素とともに玉の自動循環装置を構成する必須の要素であることは、特許請求の範囲から明らかであるのみならず、前記のとおり、本件発明は、アウト玉を玉磨き機による衛生的処理を施さないまま循環させて反覆使用する構成であつてはならないのに対し、本件装置は、パチンコ機として無人機、還元機付機を使用して衛生的処理を施さない玉の多くをそのまま反覆使用し、本件発明とは構成において玉の循環経路を異にするものである。したがつて、控訴人らの右主張は失当である。
(二) 控訴人らの補足的主張2について
前掲疎甲第二号証によれば、本件発明の明細書には、本件発明が、「従来、補給するパチンコ玉や排出されたアウト玉の計数並びに運搬、玉磨きその他を各々の機械を用いて一々人力で行なつていたものを機械的電気的に全自動で計数並びに操作せしめ、いわゆるオートメーシヨン化し、しかも、誤操作は遊戯場内は勿論遠隔場所の指令室からでも行なえるようにしたもの」(公報二欄六行目ないし一一行目)であり、「各パチンコ機のアウト玉排出口ごとに設けたカウンタースイツチによりそれぞれのパチンコ機のアウト玉数が配電盤上の表示器に逐次計数表示されるとともに、これら各アウト玉を一括収容する計数容器により全機のアウト玉数も計数表示されるので、各機ごとの稼働状況及びそれに基く機械を調整する必要の有無と店舗内のパチンコ全機の稼働状況も一目して判然せられるので、営業者として一々これらを計算する手間も省かれる」(公報四欄三三行目ないし四一行目)という作用効果を奏するとされていることが認められ、特許請求の範囲には、本件発明が、玉磨き機の下に計数容器を配置し、各パチンコ機のアウト玉排出通路ごとにカウンタースイツチを介在せしめ、玉の計数を指令室の指令によつて自動的に行なわしめるようにしたことを特徴とする装置であると記載されていることが明らかである。したがつて、本件発明は、各パチンコ機のアウト玉排出通路ごとに設けられたカウンタースイツチがそれぞれアウト玉を計数するとともに、玉磨き機の下に配置された計数容器が全機のアウト玉を一括して全体的に計数することを要旨に含み、その構成により全機の稼働状況を一目にして知ることができるという作用効果を奏するものというべきであり、計数容器が、控訴人らの主張するように、単にコンベヤーのバケツトに玉を送り込む経路的機能を有する容器にとどまるものとは到底解しえない。
ところで、控訴人らは、計数機能を有するのは計数容器に付設されたカウンター計数器であつて、計数容器自体ではないとも主張する。前掲疎甲第二号証によれば、本件発明の明細書には実施例の説明として、玉磨き機1の「流出口直下にはカウンター計数器を付設した計数容器2を配置する。」(公報二欄一六行目、一七行目)との記載のあることが認められる。しかしながら、同号証によれば、実施例に関する他の説明中には、アウト玉が「玉磨き機1内において逐次研磨され清浄化されて計数容器2内に落下し、ここで再び計数され」(公報四欄六行目ないし八行目)とのみ記載され、計数容器で玉が計数されるという説明はあつても、カウンター計数器について直接触れていない部分があり、明細書添付の図面にも全く示されていないことが認められるのみならず、そもそもカウンター計数器は特許請求の範囲に何ら記載のない事項であることに照らすと、計数容器にカウンター計数器を付設するという前記の記載は、計数容器が計数機能を果しうるための一つの具体的構成を例示しているにすぎないものであつて、実施例においてもカウンター計数器を独立の構成要素とはしていないものとみるのが相当であり、前記の記載をもつて、計数容器が計数機能を有しないことの根拠とすることはできない。
したがつて、本件発明における計数容器は計数機能をも有するものというべきであるから、これと本件装置における仕上り玉タンクが同一であるとする控訴人らの主張は理由がない。
(三) 控訴人らの補足的主張3について
控訴人らは、本件装置と本件発明とが利用関係にある旨主張する。しかし、前記のとおり、本件装置は、アウト玉の多くを玉磨き機で衛生的処理をすることなくそのまま循環させ、玉を反覆使用するから、本件発明のように遊戯者に対し常に衛生的処理をした清浄玉のみをもつて遊戯させうるものでないが、アウト玉を反覆使用することにより、本件発明とは異なる作用効果を奏するものであり、また、本件装置の仕上り玉タンクには本件発明における計数容器のような計数機能はなく、全パチンコ機のアウト玉を一括して計数表示しうる装置は存在しないものである。したがつて、本件装置は、右の諸点において、本件発明と目的、構成及び作用効果上の相違があり、本件発明の技術的範囲に属するといえないのみならず、本件発明をそのまま利用したとか不完全に利用したにすぎないものということもできないから、控訴人らの右主張は失当である。
(四) 結論
以上のとおりであるから、控訴人らの本件各仮処分申請は、その余の点につき判断するまでもなく、理由のないことが明らかである。
二 よつて、控訴人らの本件各仮処分申請を却下した原判決は相当である、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。