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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)1611号 判決 1981年1月26日

控訴人

志村儀亥知

右訴訟代理人

谷川八郎

外七名

被控訴人

右代表者法務大臣

奥野誠亮

右指定代理人

東松文雄

外五名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し、原判決添付別紙物件目録(一)及び(二)記載の各土地(以下、本件土地という。)につき、所有権移転登記手続をせよ。被控訴人の反訴請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人指定代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

1  原判決三枚目裏末行の次に改行して、次のとおり加える。

(一)  本件売買契約を締結するに至つた経緯

(1) 昭和二一年八月控訴人は中国から引揚げてきて貴族院書記官長小林次郎(後の参議院初代事務総長)の客分として、秘書室に出入するようになつたが、その頃は戦災によつて東京は焼野原と化していた。焼け出された参議院の職員達は家族を地方に疎開させ、ある者は遠方の疎開先から通い、ある者は単身または家族ぐるみで国会議事堂事務室内に宿泊し、赤じゆうたんや大机を寝台代わりとして居住していた。議事堂前庭園も隅から隅まで掘り起こされ、さつまいも、トマト、かぼちや等が栽培されている状態であつた。

このような状況を見かねた控訴人は小林事務総長等と相談し、何とか資金を他から調達してでも参議院職員宿舎を建設しようと考え、国会に迷惑がかからず予算措置がつく迄に宿舎建築ができたらという希望で、立地条件のよい土地の購入、建設資金の調達一切を控訴人の責任と計算においてなし、実質的には何等国会には迷惑をかけないということで、控訴人に土地の購入、宿舎建設のことが委任されるに至つたのである。

(2) 当時、参議院には宿舎建設の予算がなかつた。すなわち、昭和二三年当時はGHQの許可なくしては、日本政府は予算措置を講ずることができない時代であり、したがつて参議院職員宿舎を建設するための土地購入とはいえ、当時の参議院会計課には本件売買の手付金一〇万円の予算すらなかつた。参議院には予算がなかつたから、憲法第八五条及び財政法(昭和二二年法律第三四号)、会計法(昭和二二年法律第三五号)、予算決算及び会計令(昭和二二年勅令第一六五号、以下、予決令という。)の関係で、その契約担当官がいわゆる政府契約をして土地を購入し、その土地を国有財産として取得することはできなかつたのである。

かような関係で、参議院では、国会議事堂内に居住する職員等の宿舎を建設して早急に同人等をこれに収容する緊急の必要に迫られ、違法ではあるが、控訴人に参議院会計課長の代理人名義を使用させ、控訴人個人の計算で土地を購入し参議院に予算措置ができるまでは控訴人の所有地としておくよりほかなかつたのである。

(3) そこで、昭和二三年一二月上旬頃までの間に、控訴人と参議院書記官長小林次郎及び同院会計課長清水斉との間で、「イ、本件売買の一切を控訴人の責任と計算において遂行し、ロ、内部的には控訴人を実質上の買主として控訴人に本件土地を含む東京都新宿区弁天町三二番地宅地3,070.28平方米の土地(以下、弁天町三二番地の土地という。)の所有権を取得せしめ、ハ、将来参議院に予算措置ができたときには、そのときの時価で弁天町三二番地の土地を参議院(すなわち被控訴人国)が控訴人から買収する。」との特約(以下、本件特約という。)が結ばれたのである。そして、控訴人は訴外函館船渠株式会社(以下、函館船渠という。)との間で、昭和二三年一二月一四日参議院会計課長清水斉の代理人名義を用いて売買契約を締結し、昭和二四年六月頃までの間に控訴人が他から調達した控訴人自身の金員で代金九二万八、七六〇円全額を支払つた。

(二)  以上のとおり、弁天町三二番地の土地の売買契約当時、国会において法的、予算的裏付が何ら講じられていなかつたことから、前記小林事務総長及び清水会計課長はともに同土地を購入し、かつ、同地上に参議院職員宿舎を建設することについて、国を代理する権限を有していなかつたが、控訴人は本件売買契約を締結するにあたつて、参議院の信用を利用すべく、右利用方を右小林事務総長に申し込み、右小林事務総長はこれを承諾し、前記清水会計課長に命じて、同人の代理名義を控訴人に利用させることにしたものである。したがつて、本件売買契約の事実の買主は、あくまで控訴人個人である。

よつて、控訴人は、本件売買契約及び控訴人と参議院事務総長らとの間の本件特約によつて本件土地を含む弁天町三二番地の所有権を取得したのである。<以下、事実省略>

理由

第一控訴人の本訴請求について

一昭和二三年一二月一四日函館船渠との間で参議院事務局会計課長清水斉の代理人名義を表示して同会社所有の本件土地を含む弁天町三二番地の土地3,070.28平方米を代金九二万八、七六〇円をもつて買受ける旨の本件売買契約を締結したことは当事者間に争いがない。

二控訴人は本件売買契約は前記控訴人の主張1(一)で述べたような経緯のもとで締結されたものであり、したがつて、本件売買契約の買主は参議院と表示され、控訴人がその代理人名義で契約が結ばれてはいるが、これは控訴人が参議院の信用を利用するために用いたにすぎず、控訴人と当時の参議院書記官長小林次郎及び同院清水会計課長との間では、弁天町三二番地の土地を一旦控訴人が買受けてその所有とし、後日参議院に予算措置ができてから改めて参議院に売渡す旨の特約をしたと主張するので、まずこの点について検討する。

<証拠>を綜合すると、次の事実が認められる。

1  控訴人は第二次世界大戦終結後の昭和二一年八月一三日中国から帰還し、当時貴族院書記官長で昭和二三年五月に参議院に改組された後も引続きその事務総長に就任した小林次郎(以下、小林総長という。)を頼り、いわばその客員もしくは私的秘書のような立場で同人の職務の手助けをしていたが、その頃参議院事務室には戦災で住居を失つた職員やその家族が起居し、構内前庭も職員によつて野菜畑として耕作され、控訴人自身も事務総長公務室で宿泊していた。

控訴人はこのような状況では国会の権威が損われ、建物が汚損されると憂えて、小林総長に対し職員宿舎の建設方を建言した。同総長は予算その他の事情でその実現の可能性を危ぶみ難色を示したが、控訴人から参議院の予算措置前に控訴人の才覚と責任において宿舎を建設し、予算措置が講じられた際には、費用の清算をすればよいと説得されてこれを了承し、担当官である清水課長に命じてその委任状を控訴人に交付させた。

2  そこで、控訴人は参議院のために、その職員宿舎建設用地を取得する意図の下で、本件売買を前記のとおり昭和二三年一二月一四日締結するに至つた。

ところで、右土地売買代金の第一回の支払は、昭和二四年一月一八日控訴人が金一〇万円を工面して参議院事務局に持参し、函館船渠東京事務所庶務係小森谷一男がこれを受領し、その後は控訴人が同会社東京事務所に持参して、同年二月一七日に金一〇万円、同年三月二日金四四万円、同年六月一〇日金一〇万円、その後残金一八万八、七六〇円が支払われて完済されたが、その領収証の宛名は、第一回分を除き、すべて「参議院御中」と明記されていた。右売買代金の大部分は控訴人がその知人から融通をうけたが、後記のとおり銀行融資が実現するに及んで納富組からその支払をうけた。

3  次に、宿舎建設については、控訴人の尽力により納富組が受持つことになり、控訴人及び清水会計課長と納富組顧問の野村実とが折衝した結果、昭和二四年一月二八日清水会計課長と納富組社長納富光雄との間で「工事代金は敷地一、〇〇〇坪の代金一二〇万円を工事費に含めて一、八六〇万円とすること、同年二月一日までに着工し、昭和二四年五月三一日までに完成すること」なる旨の契約書が正式に取交わされた。そして、右契約の覚書として「工事及び敷地購入代金は原則として請負人である納富組において調達するが、注文者である参議院は納富組の取引銀行である神戸銀行東京支店に対し、日本銀行借入の枠を設定するよう斡旋すること、本工事代金は予算成立のうえ支払うものとすること、及び予算成立に至るまでは賃貸契約をし、毎月工事代金に対し一か月につき一四万円を納富組に支払うこと」なる旨の文書が作成された。

そして、控訴人はその間日本銀行の資金斡旋部長太田剛に働きかけ、同人の斡旋の結果、昭和二四年夏頃に至り、神戸銀行、東海銀行、中央信託銀行から総額約二、〇〇〇万円の割当融資が実現することになつた。けれども、物資不足、資材の高騰等で宿舎の建設は、当初の予定の五棟から三棟に変更を余儀なくされ、また、昭和二四年七月頃には、納富組から工事費増額の要求が出された。そこで、控訴人は清水会計課長と納富組との間の折衝の仲介にたち、工事費等の増額については、今後とも控訴人が納富組の代理人として清水課長と折衝することとし、清水課長も右申出を了承した。その頃、予算成立後支払われるべき土地代金を含む工事代金の受領は納富組から控訴人に委任することに約定され、納富組から控訴人にその旨委任状が手渡され、支出担当者たる清水課長の承認を得た。かくして、宿舎の建設は難航しその完成は大幅に遅れたが、昭和二五年三月頃漸く宿舎三棟が完成し参議院の職員も入居することができた。

4  しかし、この時点では、本件土地代金を含む工事代金の予算がつかないため、同年四月三日に大蔵省管財局長と納富組との間で右宿舎三棟の賃貸借契約が成立した。また、本件土地を含む弁天町三二番地の土地所有権移転の登記についても、予算がつかないため、本件土地代金を最終的に出捐し、立替えていた納富組への支払ができないため、函館船渠からの要請にもかかわらず、参議院側としては、これに応ずることができなかつた。しかし、清水会計課長は、昭和二八年一月頃から本件土地売買代金を参議院に代つて立替えたのは納富組であるとの見解のもとに、函館船渠に対して、右登記手続の交渉を始め、昭和二九年三月頃に至り同会社の了承のもとに、右登記手続及び代金請求の委任者を控訴人から納富組に変更し、そのうえで同会社と協議のうえ、同年四月九日付をもつて、本件土地につき同年三月二七日買収を原因として所有権移転登記を経由した(右登記の事実は当事者間に争いがない。)。他方、納富組は控訴人の住居の敷地部分を弁天町三二番地の二宅地100.26平方米として、函館船渠から所有権移転の登記をうけた。そして、大蔵省は同年四月一二日納富組に対し総額一、二七六万円(内訳建物分として八二六万二、四五〇円、土地分として四一一万五二五円、工作物として三八万七、〇二五円)を支払い、ここに本件土地の所有権移転に関する手続は終了した。

5  ところで、控訴人は前記のとおり納富組から土地代金を含む工事代金の受領権限を委任されていたが、右金員の受領については、参議院、納富組の双方から何らの相談もうけず、右所有権移転登記についても関与しなかつた。しかし、控訴人は、昭和三〇年頃には、本件土地のうち相当部分が参議院から東京国税局へ公務員宿舎用地として移管されることを承知しており、また同年四月一二日には参議院から「昭和二五年一月以来参議院職員宿舎(牛込弁天町)の維持管理について尽力した。」ことを理由に金一〇万円の謝金を贈呈されている。また、控訴人は、昭和三二年六月東京国税庁長官宛、昭和三七年六月には、大蔵省関東管財局長に宛て、いずれも本件土地を含む弁天町三二番地の土地が被控訴人国の所有に属することを是認し、これを前提としてその一部分である控訴人の住居の敷地部分の払下方を申請している。

以上のとおりに認められ<る。>

右認定の事実によれば、本件売買契約は参議院の買主名義を用いているが、控訴人個人のためになされたものであるとか、控訴人と参議院との間で弁天町三二番地の土地を買受けて後日予算がつき次第控訴人から参議院に売渡す旨の特約があつた等という控訴人の主張事実は認められず、かえつて、控訴人は本件売買契約につき参議院の代理人として関与し、その代金の大部分は自ら立替えたが、右立替金は後日納富組がうけた銀行融資の中から弁済をうけ、納富組は被控訴人から右土地代金の支払をうけていることが認められるのであるから、控訴人の右主張は採用することができない。

三控訴人は函館船渠を売主とし、買主を参議院とする本件売買契約の締結は、憲法、財政法、会計法、予決令に照らして違法無効であり、控訴人主張の特約により弁天町三二番地の土地は控訴人が取得した旨主張するが、本件売買契約の当事者は函館船渠と参議院であつて、控訴人は後者の代理人であつたにすぎないこと、また、控訴人主張の特約が認められないこと前記のとおりである以上、右契約が無効であるからといつて、控訴人が本件契約の買主たる地位を取得するいわれはないというべきである。もつとも、売主である函館船渠が控訴人に対し、本件売買の無効を理由に民法第一一七条の規定に基づき本件売買の履行責任を追及するような場合においては、代理人である控訴人が買主と同様の地位にたつことが考えられるが、本件においては、このような事情の存することについての主張、立証はない。したがつて、控訴人の右主張は、本件売買契約が控訴人主張の法令に違反しているかどうかについて判断するまでもなく理由がないというべきである。

四次に、控訴人の原判決添付別紙物件目録(二)記載の土地に関する時効取得の主張については、当裁判所も原審と同様、右主張は理由がないものと判断する。<中略>

五以上によれば、控訴人の本訴請求はその余の点について判断を加えるまでもなく失当というべきである。

第二被控訴人の反訴請求について

一本件売買が控訴人を被控訴人(具体的には参議院)の代理人として函館船渠との間に締結されたことは前記認定のとおりであるところ、控訴人は、前記のとおり縷縷根拠を挙げて本件売買契約は被控訴人国との関係では違法に締結されたものであるから効力を有せず、したがつて、被控訴人は本件売買契約により本件土地の所有権を取得することはできない旨主張するので、以下、順次この点について判断する。

1  控訴人は、本件売買契約が予算の裏付けなくして締結されたから、違法無効であると主張する。

本件売買契約成立当時の会計法(昭和二二年法律第三五号)第一一条には、「契約等(財政法第三四条第一項に規定する契約等をいう。以下同じ。)は、法令及び予算の定めるところに従い、これをしなければならない。」旨規定されているのに、本件売買契約締結当時、右土地売買代金を支出すべき予算の裏付けがなかつたことは被控訴人の明らかに争わないところである。したがつて、参議院清水会計課長が本件売買契約を締結したことは前記会計法の規定に照らして明らかに義務違反というべきである。

しかしながら、予算及びこれに関する財政、会計法規は、その性質上、原則として一般国民を対象とする規範ではなく、政府その他の国家機関を覊束する法的性格を有するものであるから、政府機関が私人との間に結んだ契約がたとえ予算に従わない違法なものであつても、それが両者の結託により私利を図り、あるいは国に損害を加える明白な意図のもとに結ばれたというような特別な事情がある場合は別として、原則として右契約の私法上の効力には影響を及ぼさないと解するのが相当である。そして、本件においては、前記認定のとおりの経緯で本件売買契約が締結されたものであるから、右特段の事情は認められない。

してみれば、予算の裏付けがないことを理由に本件売買契約が違法無効であるとの控訴人の主張は採用することができない。

2  控訴人は、本件売買契約は参議院会計課長が一私人である控訴人を代理人として締結したものであるから無効であると主張する。なるほど本件売買契約当時の前記会計法第一三条には「各省各庁の長は他の官吏に委任して契約等をさせることができる。」と定めており、予決令は、「各省各庁の長は会計法第一三条の規定により他の官吏の契約等の事務を委任したときは、その旨を大蔵大臣及び会計検査院に通知しなければならない。」(第三八条)、「各省各庁の長は、会計法第一三条の規定により契約等の事務を委任した官吏をして、契約等を行わしめようとするときは、財政法第三四条第一項の規定に基いて大蔵大臣の承認を経た契約等の計画を、当該官吏に示達しなければならない。」(第三九条)旨定めており、右一連の規定の趣旨に鑑みれば、当時の会計法規は、政府契約は各省庁の担当官に包括的な事務の委任がなされることが予定されているものと推察される。しかし、右委任をうけた契約担当官が個々の政府契約を締結するのについて、私人に委任することができるかどうかについては、何らの規定が存しない。控訴人は私人に対する政府契約の委任は契約担当官の権限を移すことになるから許されないと主張するが、特定の契約の委任は契約担当官の権限の移譲とは異なり、担当官の有する契約締結権限の行使を委任するにすぎないのであり、しかも、本件のような土地の売買という純然たる私法上の契約について、契約担当官が相当と認める場合に代理権を授与することまで禁止すべきいわれはないというべきである。また、仮に契約担当官の私人に対する政府契約の委任が会計法規に違反するとしても、さきに述べたように会計法規は国の内部における組織上の法的拘束として契約担当官を義務づけるに止まると解すべきであるから、その授権により締結された契約関係の効力そのものを否定すべきものと解するのは相当でない。したがつて、控訴人の右主張も採用することができない。

3  次に控訴人は、本件売買契約書には予決令第六八条、第六九条所定の要式が具備していないから不成立もしくは無効であると主張する。

しかしながら、本件売買契約締結当時の予決令第六八条には、「各省各庁の長又はその委任を受けた官吏が契約をしようとするときは、契約の目的(中畧)その他必要な事項を詳細に記載した契約書を作製しなければならない。」と規定し、同令第六九条には、「契約書に当該官吏が記名して印をおすことを必要とする。」と定めているけれども、右各規定には旧会計規則(明治二二年勅令第六〇号)第八一条、現行会計法第二九条の八第二項のように、契約担当官等の署名(または記名)及び捺印がなければ契約は確定しないものとする旨の文言は使用されておらず、したがつて、前記予決令第六八条、第六九条の規定は、その所定の契約書の作成をもつて契約の成立要件としたものではなく、契約担当官に対し証拠を確保する趣旨で所定の契約書の作成を命じたものと解するのが相当である。そうだとすれば、右予決令施行当時における国の契約書は私人の契約書と同様、契約の証拠方法としての性質を有するにすぎないから、たとえ予決令所定の要件を具備しない場合においても、右形式的事由によつて契約の成立及び効力が否定されるいわれはないというべきである。よつて、控訴人の主張は、その立論において失当であるから採用するに由ないものといわなければならない。

4  さらに、控訴人は本件契約の締結に当り参議院の長と大蔵大臣との間で国有財産法第一四条所定の協議を経ていないことを理由に被控訴人が本件土地所有権を取得しないと主張するが、右の協議の経ていないことが右契約の無効事由となりえないことは被控訴人のこの点に関する主張(前記「被控訴人の主張」2(四))のとおりであるから、控訴人の右主張は採用の限りでない。

右によれば、本件売買の締結には会計法等に違反するところがあるけれども、これをもつてしては、本件売買契約の効力を否定しえないというべきであるから、被控訴人は本件売買契約により、本件土地の所有権を取得したというべきである。

二しかして、控訴人が本件(二)の土地のうち原判決添付別紙第一図面表示の(イ)、(ロ)、(ト)、(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(イ)の各点を順次結んだ線内部分に同別紙物件目録(三)記載の建物を、同図面表示の(ト)、(チ)、(リ)、(ハ)、(ト)の各点を順次結んだ線内部分に同目録(四)の建物をそれぞれ所有してその敷地部分を占有していることは当事者間に争いがない。また、同目録(五)記載の建物が被控訴人の所有に属し、かつ控訴人が同建物のうち、同第二図面表示の赤斜線部分の二室49.58平方メートルを占有していることも当事者間に争いがない。そして、控訴人は右各点占有権原についてなんら主張、立証をしない。してみれば、控訴人の右各占有はいずれも不法占有というべきものであるから、被控訴人が控訴人に対し、本件(二)の土地のうち、控訴人の占有にかかる右建物敷地部分を同地上の建物を収去して明渡し、かつ前記被控訴人所有建物のうち、控訴人の占有部分を明渡すことを求める被控訴人の反訴請求は正当として認容すべきである。

第三むすび

よつて、控訴人の本訴請求を棄却し、被控訴人の反訴請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について、民訴法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(渡辺忠之 鈴木重信 糟谷忠男)

原判決添付別紙目録、別紙図面<省略>

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