大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和50年(ネ)210号 判決 1975年8月28日

控訴人

遠藤隆志

ほか八名

右九名訴訟代理人

松沢清

ほか四名

被控訴人

前橋市

右代表者市長

石井繁丸

右訴訟代理人

木村賢三

ほか一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一被保全権利について

(一)  原判決末尾添付第一ないし第八目録及び第一二目録の各一記載の建物(但し、増築部分を除く)はいずれも被控訴人が建設した国領第一団地市営住宅の一部である公営住宅(以下単に本件公営住宅という)であるが、被控訴人は本件公営住宅を申請の理由(一)、ロの1ないし8及び12において主張するとおり、控訴人らに対しそれぞれ入居許可してこれを賃貸したところ、控訴人らは右入居後、被控訴人が申請の理由(一)、ハの1ないし8及び12において主張するとおり、本件公営住宅にそれぞれ増築をし(但し、控訴人宮崎寿江を除く)、また同住宅の敷地内に前記第一ないし第八目録及び第一二目録の各二記載の物件をそれぞれ付置したことは当事者間に争いがない。

そこでまず、控訴人宮崎寿江を除くその余の控訴人らのした右増築が被控訴人の許可(承諾)を得たものであるか否かについて按ずるに、<証拠>を綜合すれば、控訴人宮崎寿江を除くその余の控訴人らは、昭和三〇年頃から同四三年頃までの間に、いずれも、当時施行せられていた前橋市営住宅管理条例に基き、前橋市長に対し、本件公営住宅明渡の際は必ず収去し原状に復することを誓約して、居室及び物置等の設置許可願を提出し、その頃いずれも右約旨のもとに同市長の許可を受け、前記のとおり各増築をしたものであることが疏明され、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  ところで、被控訴人の本件仮処分申請における被保全権利が、公営住宅法(昭和二六年六月四日法律第一九三号。但し、本法はその後数回改正された。以下、単に公住法という。)による被控訴人の公営住宅建替事業の施行に伴う同法第二三条の六に基く控訴人らに対する公営住宅明渡請求権をその骨子とするものであることは、被控訴人の主張に照らし疑いがない。そこで、被控訴人の右公営住宅明渡請求権の存否、従つて根本的には被控訴人の右公営住宅建替事業の適否について判断する。

公営住宅の建替事業については、公住法第二三条の三に「地方公共団体は公営住宅の建設を促進し、及び公営住宅の居住環境を整備するため必要があるときは、公営住宅建替事業を施行するように努めなければならない。」と定められているが、実際に公営住宅建替事業を施行する場合には、同法第二三条の四の第一ないし第四号に掲げられている要件を具備することが必要であるのみならず、事業主体の長はあらかじめ右建替計画を作成して建設大臣の承認を得ることが義務づけられ、更に右承認を得たときは、当該建替計画に係る公営住宅建替事業により除却すべき公営住宅の入居者に対して、その旨を通知しなければならないこととなつており(同法第二三条の五)、また事業主体の長は、公営住宅建替事業の施行に伴い、現に存する公営住宅を除却するため必要があると認めるときは、右通知をした後、当該公営住宅の入居者に対し三月を越える期限を定めて、その明渡を請求することができることゝされているが(同法第二三条の六)、反面、事業主体は右請求に係る公営住宅の入居者に対して必要な仮住居を提供しなければならない(同法第二三条の七)等定められている。

そこで、これを本件についてみるに、被控訴人が従来、国の住宅政策に則り、市民生活の安定と社会福祉の増進を図るため特に住宅に困窮している低額所得者を対象として、低廉な家賃で賃貸し得る公営住宅の建設に努力してきたものであること、控訴人らの居住する国領第一団地が五、六二四平方米の面積を有し、昭和二五年度に三〇戸の木造平家建で建築され、外壁がモルタル塗りであること並びに被控訴人が昭和四四年に前橋市総合整備計画を策定し、同四七年度及び四八年度の二年計画で右団地に鉄筋コンクリート五階建一棟四八戸と同五階建一棟九八戸計一四六戸の公営住宅を建設することになつたことは、いずれも当事者間に争いがない。そして<証拠>を綜合すれば、次の事実が疏明される。即ち、被控訴人は、従来国の住宅政策に則り、市民生活の安定と社会福祉の増進を図るため、特に住宅に困窮している低額所得者を対象として、低廉な家賃で賃貸し得る公営住宅の建設に努力してきたものであるが、近年社会経済の急速な発展及び無秩序な都市化現象に伴う諸種の要因により地価の騰貴が著しいため、前橋市内(特に市街地内)において公営住宅建設に必要な五、〇〇〇平方米以上の土地を適当な価額でしかも適当な場所において入手し、新規に公営住宅を建設することはきわめて困難な情況となつたこと。ところが、前橋市内には、家が狭い、家賃が高い、立地条件や居住環境が悪い、その他の事由による住宅困窮者がなお多数あり、公営住宅に入居申込をする者は毎年約一、〇〇〇世帯に達しているので、この住宅需要に応ずるため、被控訴人は昭和四四年に策定された前橋市総合整備一〇ケ年計画及び昭和四六年度を初年度とする国の第二次住宅建設五ケ年計画に従つて、昭和四六年度から五年間に合計一、一九四戸の公営住宅を建設しなければならないことになつていること。

従つて、被控訴人は右建設目標を達成するためあらゆる努力を払つているが、前記のような住宅用地の入手難では、新規に土地を取得して公営住宅を建設することだけに依存する訳にもいかないので、勢い被控訴人所有の既存の住宅団地、特に市街地内のそれを高度に利用して(公営住宅の入居者は低所得階層であり、長距離通勤による経済的負担に耐えられないばかりでなく、夫婦共稼ぎや夜勤、深夜業務等に従事する世帯が多いので、その立地は出来るだけ都心に近い便利な地域に求めるべきである)、平家建の古い木造住宅を能う限り近代的な中高層住宅に建替え、戸数の増加、居住環境の整備を計ると共に職住近接を併せ実行しなければならない必要に迫られていること。そこで、被控訴人は右情況に対処するため、昭和四六年六月一五日市営住宅建替事業実施要綱を制定し、市街地にある老朽木造住宅で土地の効率的利用により右建替事業の目的が達成できるものに対して、昭和四七年度から同五二年度までを第一期事業とし、年次計画により中高層耐火構造のものに建替えることゝしたこと。ところで、被控訴人が所有し控訴人らが居住する国領第一団地は、前橋市の市街地の中心部にあつて、五、六二四平方米の面積を有し、同地上にある本件住宅を含む市営住宅は昭和二五年度に三〇戸の木造平家建で建築されたものであるが、既に耐用年限の二分の一を経過したうえ、外壁がモルタル塗りのため相当老朽化しておること。よつて、被控訴人は前記要綱に基き、まず昭和四七年度及び四八年度の二年計画で、立地条件のよい(即ち、都心に近く、電気、ガス、水道その他既存の社会的投資を有効に利用できる)国領第一団地の右市営住宅三〇戸を取り除き、その跡地に前記鉄筋コンクリート五階建二棟合計一四六戸の市営住宅を建設する建替計画を作成し、以て公営住宅の戸数の増加、居住環境の整備、職住近接及び都市の防災性の向上等を図らんとしたことが疏明される。

もつとも、(1)<証拠>によれば、群馬県における住宅数は、昭和四九年一〇月一日現在で、その世帯数より約二万三、〇〇〇戸上廻り、建築中の住宅や空家が増加し、半数以上の世帯において寝室と食堂を区別し、ほぼ一人一室を保持していることが疏明されるので、山間僻地等の郡部を含む群馬県全体としては、住宅難は緩和され、或る程度住宅事情に余裕が出てきたことは明らかであるが、だからといつて直ちに同県の中心都市である前橋市においても住宅事情に余裕があるものとは認め難く、(2)<証拠>によれば、被控訴人は前橋市内において、既に広大な団地、即ち住宅団地一〇ケ所及び工業団地六ケ所計三八〇万平方米を造成し、現在も若干他に団地を造成中であることが疏明されるが、右事実から直ちに地方中心都市である前橋市においては東京都のごとき大都市とは異なり、新規に公営住宅を建設する適地が入手容易であるものとは速断できず、かえつて<証拠>によれば、前記団地はいずれも前橋市の都心から遙かに離れた郊外にあることが明らかであるから、必ずしも公営住宅の用地として適当であるとはいえないのみならず、<証拠>を綜合すれば、前記工業団地は首都園都市開発区域指定に伴う計画工業団地及び前橋市内の中小企業の集団化に伴う工業団地の目的地として造成せられたものであつて、公営住宅を建設すべき土地ではなく、また前記住宅団地も主として工業関係の従業員宿舎、厚生年金住宅及び一般分譲宅地等の目的地として造成せられたものであつて、公営住宅の建設用地も一部その中に含まれてはいるが、右用地上には既に被控訴人が本件公営住宅の建替事業とは別に、前記判示の住宅需要に応ずるため、新規に市営住宅を建設しているものであることが疏明されるから、前記各団地の存在を以つては、被控訴人が新規に公営住宅を建設すべき用地の取得にことかかないものとは認めることができず、(3)次に<証拠>によれば、国領第一団地の周辺には木造の二階建以下の民家が多く、従つて同団地に中高層の住宅が建設されると、日照を阻害され、騒音、風害、電波障害及び違法駐車の増加による交通障害等の公害を受けるとして、附近住民が前橋市長らに公営住宅建設反対の陳情をしていることが疏明されるので、本件公営住宅建替の結果、附近住民に従来より多少の迷惑または若干の生活被害を与えることがあり得ることは十分これを推測できるところであるが、右各資料のみを以ては、これ以上に本件公営住宅建替の結果、附近住民が社会生活上受忍の限度を遙かに越える重大な前記各種の生活被害を受けるものとは認めるに足らず、他にこれを疏明するに足る資料もないうえ、<証拠>によれば、被控訴人は本件公営住宅建替の結果、附近住民に前記生活被害が発生した場合は、風害は補償し、電波障害は共聴アンテナ等で解決する等、善処する旨言明していることが疏明されるから、前記附近住民の迷惑はいまだ本件公営住宅建替の必要性ないし合理性を否定すべき事情とはなり得ず、更に国領第一団地周辺の住民がその所有の家屋につき不燃化の意思を有しないとしても、だからといつて本件公営住宅の耐火構造のものえの建替が都市の居住環境の整備に逆行するものでないこと、またその防災性の向上になんら寄与しないものでないことはいうまでもない。そして、他に前記認定を左右するに足る疏明資料もない。

ところで、前橋市長が本件公営住宅につき、昭和四七年三月九日、公住法第二三条の五第一項に基き、建設大臣に対し前記建替計画の承認を申請し、同年三月一三日その承認を得たこと(但し、右承認に際し、建替の目的物を鉄筋コンクリート五階建一棟五〇戸と同五階建て一棟七四戸計一二四戸に変更した)、同市長が同年七月一日、同法第二三条の五第六項に基き、控訴人らに対し右建設大臣の承認により本件公営住宅建替事業を実施する旨通知したこと、ところが、控訴人らが右建替事業に反対をしたので、前橋市長は同法第二三条の六第一項及び第二項に基き、同四八年一二月五日同月八日到達の書面を以て、控訴人らに対し、同四九年三月九日までに本件公営住宅を被控訴人にそれぞれ明渡すよう請求したこと並びに被控訴人が、同法第二三条の七に基き、前記建替事業により既に一部建替えられた新住宅を控訴人らの仮住居としていつでも使用できるように準備したうえ、前記書面を以て控訴人らに対しその旨通知し、以て同人らに仮住居の提供をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。ところが、控訴人らは右仮住居の提供につき、具体的に同人らに対する部屋割がなされなかつたから右提供の効果はない旨主張する。しかし、<証拠>によれば、被控訴人が控訴人らに提供した仮住居は、前記書面にいずれも昭和四七年度建設の中層耐火構造五階建の建替新住宅と記載されていることが明らかであるから、この程度に特定されておれば、更に具体的に何階の何号室と詳細な部屋割まで記載されていなくても、仮住居の提供として特定十分であるというべきである。また本件弁論の全趣旨によれば、前記仮住居は、控訴人らが前記のとおり増築をした現在の本件公営住宅よりはやゝ狭いが、同人らが最初入居した当時の本件公営住宅よりは相当広く、且つ設備も良く衛生的であることが疏明されるうえ、本件公営住宅建替後は、控訴人らが希望をすれば、右建替後の新住宅に入居することもできることは当事者間に争いがないところであるから、以上を綜合すれば、被控訴人は控訴人らに対し法の期待する必要にして十分な仮住居を提供したものというべきである。

次に、前橋市長が、公住法第二三条の九に基き、控訴人らを含む国領第一団地の市営住宅の入居者全員に対し、昭和四六年九月六日、同四七年二月一八、同年四月一九日及び同年五月九日の計四回にわたり、本件公営住宅建替事業につき説明会を開催し、更に本件公営住宅周辺の住民に対し同四六年九月一三日及び同四七年四月一三日の二回にわたり右同説明会を開催したことは当事者間に争いがない。

以上認定の事実によれば、被控訴人の本件公営住宅建替事業は公住法第二三条の三以下の所定の要件を履践して施行せられた適法なものであつて、右事業の施行に伴う前橋市長の控訴人らに対する前記公営住宅明渡請求も同法第二三条の六第一項及び第二項の要件を具備した適法なもので、その結果控訴人らは同条第三項の規定に基き、被控訴人に対しそれぞれ本件公営住宅を明渡すべき義務があるものといわなければならない。

ところで、控訴人宮崎寿江を除くその余の控訴人らが、前橋市長に対し本件公営住宅明渡の際は必ず収去し、原状に復することを約諾して、前記各増築をしたことは前認定のとおりであるところ、被控訴人において、右事実が認められる場合は、予備的に右約旨に基き、控訴人宮崎寿江を除くその余の控訴人らに対し前記各増築部分の収去を求めるものであることは本件弁論の全趣旨に照らし明らかであるから、右控訴人らは被控訴人に対し本件公営住宅明渡の際、それぞれ前記各自の増築部分を収去すべき義務があり、また公住法に基く公営住宅建替事業の施行に伴う前記明渡請求は、後述のように、公営住宅使用関係(賃貸借契約)の法定の終了事由と解すべきであるから、控訴人らが本件公営住宅の各敷地内にそれぞれ付置した前記各物件は、本件公営住宅明渡の際、原状回復として、当然収去すべき義務があるものというべきである。

(三)  そこで、控訴人らの主張について判断する。

まず払下約束の点について按ずるに、成程、<証拠>には、(1)昭和二五年一二月、当時の前橋市建築課長で市営住宅管理員であつた吉井某が、控訴人らの一部を含む国領第一団地市営住宅の入居者らに対し、入居についての説明や注意をした際、口頭で将来、右市営住宅は入居者に払下げになる旨言明したこと、(2)昭和二九年、右市営住宅に都市ガスが引かれるとき、被控訴人側は控訴人らを含む入居者に対し同住宅は将来払下げになるので、右ガスの設置費用は入居者の負担とし、一応被控訴人がこれを一括立替払するが、入居者各自の負担部分は爾後の家賃に毎月上乗せして分割償還を求める旨表明し、再度、前記将来の払下予定を言明したこと、(3)昭和三一年、被控訴人側から控訴人らを含む前記市営住宅の入居者に対し、同住宅の払下を希望するか否かにつき意向打診があつたが、このときは入居者の一部が払下を希望せず、結局全員一致して払下を求めるまでに至らなかつたので、払下の話は自然消滅になつたこと、の各記載があり、また<証拠>にも同趣旨の内容があるうえ、<証拠>によれば、被控訴人は終戦後昭和三八年度までに旧国領団地の一部を含む前橋市の旧市内等にある市営住宅合計六四〇戸をその入居者に払下げたことがあることが疏明されるから、被控訴人がかつて控訴人らに対し将来、本件公営住宅を払下げる旨約束したものとみられなくもない。しかしながら、前記払下の言明については、その払下の時期及び代金等につき、すこぶる具体性に欠け、また前記都市ガスの設置費用についても、被控訴人が立替支払つた総額や入居者各自の分担金につき全く疎明がないのみならず、<証拠>によれば、前記(1)の点については、吉井建築課長の言明につき当時の前橋市役所の記録には全くこれに関する記述がなく、また当時、前橋市においては市営住宅の払下につき何らの内部決定もしていなかつたこと、次に前記(2)の点については、昭和二九年、被控訴人が国領第一団地市営住宅に都市ガスを設置したことはあるが、その費用は全額被控訴人が負担し、入居者にこれを負担せしめたことはなく、ただ右都市ガスの設置によつて市営住宅の施設が改善され、入居者が便利になつたので、爾後、家賃を毎月一〇〇円値上げしたこと、次に前記(4)の点については、被控訴人が従来払下をしたのは、終戦直後に建設された資材が粗悪な市営住宅で維持管理が困難なもの又は団地の広さ、形状等から中高層の住宅への建替が不適当な住宅等、特別な事由によるものであつたことがそれぞれ疎明されるから、前記(1)及び(2)の点についての<証拠>はそのままこれを措信できず、前記(3)及び(4)の各事実を以つては、いまだ被控訴人がかつて控訴人らに対し将来本件公営住宅を払下げる旨約束したものとは認めるに足らず、他に右事実を疎明する資料もない。従つて、控訴人らが本件公営住宅につき被控訴人に対し、いわゆる払下期待権を有する旨の主張は採用できない。

次に法律不遡及の原則の点について按ずるに、この点についての当裁判所の判断は、原判決の判示(即ち同判決二一枚目裏一〇行目から二二枚目表八行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する(但し、(1)原判決二二枚目表一行目「規定は」の次に「控訴人らには」を加え、(2)同二二枚目表四行目「いたところを」の次に「昭和二六年六月四日法律第一九三号」を加え、(3)同二二枚目表七行目「当然であるから」を「当然であるのみならず、昭和四四年法律第四一号により同法が改正され、公営住宅建替事業の規定が新設された後は、右規定も前記同法施行前に賃借し公営住宅に入居している者にも適用があるのは、これまた当然であるから」と改める。)。

次に公営住宅建替事業のための明渡請求であつても、借家法第一条の二の正当事由が必要であるとの点について按ずるに、この点についての当裁判所の判断は、原判決の判示(即ち、同判決二二枚目裏六行目から二三枚目表五行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する(但し、(1)原判決二二枚目裏九行目「本件建替」を「本件明渡請求」と改め、(2)同二三枚目表二行目「なされた」の次に「公営住宅建替事業の施行に伴う同法第二三条の六に基く」を加え、(3)同二三枚目表三行目「規定された」の次に「公営住宅使用関係(賃貸借契約)の」を加え、更に同三行目「定型的解約事由」の次に「(法定の終了事由)」を加える。)。

二保全の必要性について

まず被控訴人側の事情について考えてみると、前記認定の本件公営住宅建替事業の必要性ないし合理性に<証拠>を総合すれば、被控訴人は昭和四六年以来、控訴人らに対し本件公営住宅の明渡を求めるため、本件建替事業の必要性及び計画内容を説明し、あらゆる努力をして、その理解と協力を要請したにもかかわらず、更に今後、本案判決の確定まで本件公営住宅の明渡(増築部分等の収去を含む)を得ることができないとすれば、その間、前記建替事業(第一期事業)の完遂ができず、昭和四九年度の建替工事は実施不能となり、ひいては国の財政措置等の関係から次年度以降の建替計画の実施も危ぶまれ、先に昭和四八年度の建替計画を延期した被控訴人としては、引続き長年にわたり公営住宅建替事業ができなくなるおそれがあり、その結果、前橋市内の住宅に困窮している多数の低額所得者に対し当面必要な住宅の提供ができなくなつて、前橋市の社会福祉行政に重大な障害を与え、その公益的損害は甚大であることが疎明される。

次に控訴人側の事情について考えてみると、被控訴人は既に控訴人らに対し公住法の期待する必要にして十分な仮住居を提供し、本件公営住宅建替後は、控訴人らが希望をすれば、右建替後の新住宅に入居することもできるものであることは前記認定のとおりであるうえ、<証拠>を総合すれば、右建替後の新住宅は庭付き一戸建の本件公営住宅とは異なり、五階建の集合住宅であるから、庭木、庭いじり等の楽しみがなく、また日照、通風、建物の出入、その他の点において現在の控訴人らの住宅よりは多少生活条件が低下することはいなめないが、他方、新築で気持が良いうえ、部屋数も相当であり且つ設備も良く衛生的であること等が疎明されるから、以上を総合し且つこれに前橋市における前記住宅事情一般を併せ考えると、控訴人らに本件公営住宅の明渡を求めても、被控訴人はこれに代る住居の保障を十分に講じているものというべく、従つて、控訴人らが永年にわたり本件公営住宅に居住して同所に離れ難い愛着をもつているとしても、同住宅を明渡すことにより控訴人らが受ける不利益は、被控訴人が本件建替事業の完遂が不可能または著しく遅延することにより受ける不利益よりは遙かに少ないものといわなければならない。

そうとすれば、被控訴人の前記著しい公益的損害を避けるための本件仮処分申請は十分その必要性を具備しているものというべきである。

三よつて、被控訴人の本件仮処分申請を認容した原判決は結論において正当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第二項によりこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法第九五条、第八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(杉山孝 古川純一 岩佐善巳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例