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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2211号 判決 1977年2月25日

控訴人(附帯被控訴人)

株式会社春田商事

右代表者

斎藤正一

右訴訟代理人

福岡清

外一名

被控訴人(附帯控訴人)

山根泰二

右訴訟代理人

大島淑司

被控訴人

原島達子

被控訴人

原島一男

被控訴人

石谷明子

被控訴人

鈴木黎子

右四名訴訟代理人

牧野彊

主文

一  控訴人(附帯被控訴人)の本件控訴に基き、

原判決中、控訴人(附帯被控訴人)の被控訴人(附帯控訴人)山根に対する主位的請求の敗訴の部分を取消す。

被控訴人(附帯控訴人)山根は控訴人(附帯被控訴人)に対し、金三一万九、三〇四円及びこれに対する昭和四五年五月一三日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

二  控訴人(附帯被控訴人)のその余の控訴を棄却する。

三  被控訴人(附帯控訴人)山根の附帯控訴を棄却する。

四  訴訟費用中、控訴に関する部分は、第一、二審を通じて、これを三分し、その二を控訴人(附帯被控訴人)の、その余を被控訴人(附帯控訴人)山根の各負担とし、附帯控訴に関する部分は被控訴人(附帯控訴人)山根の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一まず控訴人の被控訴人山根に対する主位的請求及び被控訴人原島達子らに対する請求の各当否について判断する。

控訴人が宅地建物取引業者であることは全当事者間に争いがなく、昭和四五年一月一七日控訴人が被控訴人山根からその所有にかかる本件不動産につき売却方の仲介委託を受けたことは控訴人と同被控訴人との間において、また同月二一日頃控訴人が原島進の代理人被控訴人原島一男から本件不動産につき買受方の仲介委託を受けたことは控訴人と被控訴人原島達子らとの間において、それぞれ争いがない。

ところが、控訴人は、右各仲介委託を受ける際、被控訴人山根及び右原島一男がそれぞれ控訴人に対し、本件不動産の売買契約の成立を停止条件として、法定の最高限度額の仲介報酬を支払う旨約定したと主張する。そこで、この点について按ずるに、<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。即ち、本件不動産はもと山一土地建物株式会社の所有であつて、それを被控訴人山根が昭和四四年一二月一六日同会社から代金二、四六九万九、九〇〇円(一坪当り約三四万三、〇〇〇円)で買受けたものであるが、右売買は控訴人の仲介によるものであつたのに、当時同被控訴人は控訴人に対しなんら仲介報酬を支払わなかつたので、控訴人は前示仲介委託を受ける際、被控訴人山根に対し、今度は売買契約が成立すれば法定の最高限度の仲介報酬を請求する旨申入れたところ、同日、同被控訴人は控訴人に対し代金が売主の手取りで一坪当り金三五万円以上の売買契約が成立した場合に限り、右手取額を越える代金部分の範囲内において、売買代金に対する法定の最高限度額仲介報酬を支払う旨約諾したことが認められ、<る。>そして他方、控訴人と被控訴人原島達子らとの間においては、原島進の代理人被控訴人原島一男が、前示仲介委託をした際、控訴人に対し、本件不動産の売買契約の成立を停止条件として、仲介報酬を支払う旨約諾したことは当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すれば、原島側は、右報酬額の点についても、法定の最高限度額を支払う旨約諾したことが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。してみれば、本件不動産の前示売却(又は買受)方の各仲介委託がなされた際、被控訴人山根は控訴人に対し、代金が売主の手取りで一坪当り金三五万円以上(後にそれが「一坪当り金三七万円以上」に変更されたことは、後記認定のとおりである。)の売買契約の成立を停止条件として、右手取額を超える代金部分の範囲内において、売買代金額に対する法定の最高限度額の仲介報酬を支払う旨約諾し、また原島進は控訴人に対し、本件不動産の売買契約の成立を停止条件として、法定の最高限度額の仲介報酬を支払う旨約諾したものというべきである。

ところで、その後、被控訴人山根と原島進の代理人被控訴人原島一男との間に、本件不動産につき代金二、七三三万七、二〇〇円で売買契約が成立したことは全当事者間に争いがなく、<証拠>によれば右売買契約は昭和四五年四月二一日に成立したものであることが認められる。そこで、右売買契約が控訴人の仲介に因つて成立したものであるか否かについて按ずるに、<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。即ち、控訴人は被控訴人山根から前示売却方の仲介委託を受けるや、直ちに本件不動産につきその所在地、交通関係、地目、地積、実測図及び売却価額等を記載した紹介書並びに宅地建物取引業法に基く重要事項の説明書を作成すると共に、その登記簿謄本の下付を受け、昭和四五年一月二一日頃かねて田園調布附近に宅地を探していた原島進の代理人被控訴人原島一男に右各書面及び登記簿謄本を交付し、二回にわたり同控訴人を現地に案内したところ、正式に同被控訴人から前示買受方の仲介委託を受けたこと、ところがその後、被控訴人山根の主治医がたまたま被控訴人原島一男の岳父であることが判明したため、右両被控訴人は控訴人に告げず直接売買の交渉をするに至り、その結果控訴人から仲介業者を排除して直接取引しないよう警告を受けたこと、しかし、このことがあつてから、控訴人は売買代金額その他の売買条件についての交渉は右被控訴人両名に委ね、自らは直接これに関与せず、専ら側面から契約の成立に協力する姿勢をとつたこと、その結果、同年二月一五日頃被控訴人山根と原島との間に、本件不動産につき代金が売主の手取りで金二、六二五万八、一〇〇円(一坪当り金三六万五、〇〇〇円)でほぼ売買契約が成立する見通しとなり、その頃被控訴人山根の要望により被控訴人原島一男が、控訴人に右趣旨の売買契約書の草案を作成して貰つて、これを手附金一〇〇万円と共に被控訴人山根方に持参したこと、ところが同被控訴人はなおも右代金に不満であつたことから、結局売買契約は同日成立するに至らず、しかもその後に至り、同控訴人に原島進は市ケ谷の自宅を売却し、この売却代金をもつて本件不動産の買受代金を支払う意向であつたのに、いまだ右自宅の売却ができないでいることが判明したため、遂に被控訴人山根は原島進に本件不動産を売却することをあきらめ同年三月七日頃控訴人に対し、原島には売らないから他に買手を探すこと及び今度は売主の手取りが一坪当り金三七万円以上の売買代金とすることを指示すると共に、右金額以上で売買契約が成立した場合に限り、前同様の仲介報酬を支払う旨約諾したこと、そこで控訴人は、右指示に基き、直ちに朝日新聞紙上に本件不動産の売却方法の広告掲載を申込むと共に、同月一〇日頃原島進の代理人被控訴人原島一男に対し婉曲に前示本件不動産の買受方の仲介委託をことわる旨申入れたところ、同被控訴人は当時なお自宅の売却ができず買受代金の調達に苦慮していたことと控訴人が前示二月一五日頃の一件以来、事実上右仲介を放棄し、原島側に紹介料として金一〇万円を請求したことがあつたため、控訴人に不信の念をもつていたことから、強いて右申入に反対せず、その結果、同日頃原島進と控訴人との間の前示買受方の仲介委託及び仲介報酬契約は暗黙のうちに合意解除されたこと、ところで他方、前示新聞広告により新たに中野森蔵が本件不動産の買受方を申し出たので、控訴人は直ちに同人を現地に案内し所要の説明をすると共に、売却の準備として本件不動産中建物につき被控訴人山根のため所有権移転登記手続をなし、同被控訴人と中野の間に立つて鋭意契約成立のため仲介をしたところ、遂に同年三月二二日頃、同月二八日に右両名間において代金二、七五五万三、〇二〇円(売主の手取りは一坪当り金三七万六七六円)で、契約成立と同時に買主が手附金二七〇万円を支払うこと等を内容とする本件不動産の売買契約を成立させ、控訴人が作成した売買契約書に双方が署名捺印する段階にまで至つたこと、ところが、この時期になつて、右のような事情を知らない原島側はようやく前示自宅の売却が実現し確実に買受代金で調達できる見通しとなつたので、再度被控訴人原島一男が前示岳父の口添えの下に被控訴人山根に対し右事情を打ちあけ前回の代金より高額で本件不動産の買受方を申込んできたため、同被控訴人は、これを奇貸とし、原島進に中野森蔵より有利な条件で本件不動産を売却し併せて前示仲介報酬の支払も免れんことを企て、同月二八日頃、突然控訴人に対し、本件不動産は銀行関係の知人に売却する旨偽つて中野への売却を拒絶すると共に前示売却方の仲介委託を解除する旨の意思表示をなし、次いで同年四月二一日原島進との間に直接、本件不動産につき代金二、七三三万七、二〇〇円(売主の手取り一坪当り金三八万円)の売買契約を締結したことが認められ、<る。>してみれば、被控訴人山根と原島進との間の本件不動産の右売買契約は、控訴人の仲介によつて成立したものではなく、右両者の直接取引によつて成立したものというべきである。

ところが控訴人は、右直接取引につき、被控訴人山根及び原島進は故意に前示各仲介報酬契約の停止条件の成就(即ち、控訴人の仲介による売買契約の成立)を妨げるため、控訴人を排斥して直接売買契約を締結したものであると主張する。そこでこの点について按ずるに、まず被控訴人山根については、前叙認定の事実によれば、被控訴人山根は、控訴人の尽力により、中野森蔵との間に同被控訴人希望の代金額で本件不動産の売買契約が成立し、従つて控訴人に対する所期の仲介委託の目的を達成すると共に同人に対する前示報酬支払義務も同時に発生する間際になつて、中野より有利な条件で本件不動産を売却し併せて右報酬支払義務も免れるため、突然控訴人に対し虚言を弄して中野への売却を拒絶すると共に前示売却方の仲介委託を解除し、しかもその後間もなく、最初控訴人の仲介によつて売買契約がほぼできかけていた原島進と再度、直接、本件不動産の売買契約を締結したものであるから、右仲介委託の解除に控訴人が同意したものと認めるに足る証拠がない本件においては、被控訴人山根は控訴人の仲介によつて間もなく中野森蔵との間に本件不動産の売買契約が成立することを熟知していながら、故意に右仲介による契約の成立を妨げたものというべく従つて控訴人は民法第一三〇条に基き、同被控訴人との間の前示仲介報酬契約(但し、当初の契約ではなく、昭和四五年三月七日頃変更されたもの、即ち被控訴人山根が控訴人に対し、代金が売主の手取りで一坪当り金三七万円以上の売買契約の成立を停止条件として、右手取額を越える代金部分の範囲内において、売買代金額に対する法定の最高限度額の仲介報酬を支払う旨約諾したもの)の停止条件が成就したものとみなして、同被控訴人に対し約定の仲介報酬を請求することができるものというべきである。ところで、被控訴人山根と中野森蔵との間の前示売買契約における売買代金額は金二、七五五万三、〇二〇円、売主の手取額は一坪当り金三七万六七六円合計金二、六六六万六、四三一円であること前叙のとおりであるから、前記停止条件が成就した当時における右約定に基く仲介報酬額は、左記数式により、金八八万六、五八九円となること明らかである。

(1)  売買代金額に対する法定の最高の仲介報酬額

(200万円×0.05)+{(400万円−200万円)×0.04}+{(2755万3020円−400万円)×0.03}=88万6590円

但し,当時施行の昭和40年建設省告示第1174号,昭和28年東京都告示第998号に基くもの。

(2)  売主の手取額を越える売買代金の部分

2755万3020円−2666万6431円=88万6589円

してみれば、被控訴人山根は控訴人に対し、金八八万六、五八九円の仲介報酬の内金八八万一一六円及びこれに対する右仲介報酬債権発生の日以降である昭和四五年五月一三日から完済まで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務があるものといわなければならない。しかしながら原島進については、同人が故意に控訴人の仲介による売買契約の成立を妨げるため、控訴人を排斥して、直接被控訴人山根と前示売買契約を締結したものであることを認めるに足る証拠がなく、かえつて前叙認定の事実によれば、原島進は、控訴人の申入に基き、やむを得ず前示買受方の仲介委託を合意解除し、その後自らの努力により被控訴人山根と前示売買契約を締結することができたものであること明らかであるから、前記事実の存在を前提とする控訴人の条件成就による仲介報酬債権発生の主張及び原島進が約定の報酬債権を侵害した旨の主張はいずれも採用することができない。

次に控訴人は、原島進につき、(一)宅地建物取引業界においては、不動産の買受方の仲介委託をした者が、右委託に基く業者の仲介活動開始後において、業者を排斥して直接売主と売買契約を締結した場合には、右仲介によつて売買契約が成立したものとみなして、業者は仲介委託者に対し約定の仲介報酬を請求することができる商慣習がある旨、(二)仮に原島進と控訴人との間の前示買受方の仲介委託が解除されたものとしても、右解除は委託者である原島が一方的になしたもので、しかもこれは受任者である控訴人の不利益な時期になされたものであるから、控訴人は原島に対し約定の仲介報酬相当の損害賠償を請求することができる旨、(三)仮に原島進と控訴人との間の買受方の仲介委託が合意解除されたとしても、右合意解除の原因は原島側にあるうえ、その後原島進と被控訴人山根との間に本件不動産の売買契約が成立するに至つたのも、結局は最初控訴人が被控訴人山根を紹介したことに因るものであるから、かかる場合には、依然原島側は控訴人に対し約定の報酬を支払うべき義務がある旨、(四)原島進の代理人被控訴人原島一男は、仲介委託の当初から、控訴人に対し被控訴人山根と原島進との間に直接売買契約が成立した場合は、いかなる場合でも、法定の最高限度額の仲介報酬を支払う旨約諾していたから、仲介委託が合意解除されたとしても、なお原島には右仲介報酬の支払義務がある旨主張する。そこで、この点について按ずるに、右(一)については、本件に顕れた全証拠を以てもいまだ控訴人主張の商慣習を認めるに足らず、仮にかかる商慣習が存在するとしても、本件においては、原島進が控訴人(仲介業者)を排斥して、直接控訴人山根(売主)と売買契約を締結したものではないこと前叙のとおりであり、次に(二)については、原島進と控訴人との間の仲介委託の解除は委託者である原島が一方的に契約解除の意思表示をしたためではなく、反対に控訴人の申入に基きやむを得ず合意解除されたものであること、これまた前認定のとおりであり、次に(三)については、前叙認定の事実によれば、右合意解除の原因は控訴人側にあつたこと明らかであるうえ、本来仲介委託が合意解除された場合には、たといその後において売主買主の直接取引により売買契約が成立したとしても、右売買の成立と先の仲介行為との間に相当因果関係が存在しない限り、特にかかる場合においてもなお仲介報酬を支払う旨の特約等があれば格別、そうでない場合は右仲介に対する報酬を請求し得ないものと解するを相当とするところ、本件おいては、控訴人の被控訴人山根の紹介は、原島進に本件不動産買受の端緒を与えたことは明らかであるが、結局その後における右両名間の直接取引による売買契約の成立につき相当因果関係をもち得なかつたこと前叙のとおりであるのみならず、前記特約等の存在を認めるに足る証拠もなく(なお、この点については後述も参照)、次に(四)については、控訴人主張の原島側の約諾(特に仲介委託の合意解除の有無にかかわらず「いかなる場合においても」という点)は控訴人提出の全立証その他本件に顕れた全証拠を以つてもいまだこれを的確に認めることができないから、右(一)ないし(四)の主張はいずれも採用することはできない。

してみれば、控訴人の被控訴人山根に対する主位的請求は、爾余の点につき判断をするまでもなく理由があり、一方被控訴人原島達子らに対する請求は既にその前提において失当であるから、爾余の点につき判断するまでもなく理由がないものというべきである。

二次に、控訴人の被控訴人山根に対する予備的請求の当否について判断する。

まず、被控訴人山根が控訴人の原島進に対する期待的仲介報酬請求権を不法に侵害した旨の各主張について按ずるに、被控訴人山根が昭和四五年三月七日頃控訴人に対し原島進には売らないから、他に買手を探すよう指示したことは前叙のとおりであるが、右指示が控訴人の仲介による同被控訴人と原島との間の売買契約の成立を排除するため、故意又は過失に基きなされたものである旨の控訴人の主張は、これを認めるに足る証拠がなく、かえつて前叙認定の事実によれば、被控訴人山根が右指示をしたのは、控訴人の仲介による右売買契約の成立を排除するためではなく、原島側における自宅の売却が容易に実現しなかつたことより同人の売買代金支払の能力に不安を持ち、他に確実な買主を求めんとした結果であること明らかであるから、右指示には何ら違法のかどはないものというべく、また控訴人は、被控訴人山根が自己の都合により控訴人をして原島進との間の仲介委託を解除させた旨主張するが、これを認めるに足る的確な証拠は何もないうえ、仮に被控訴人山根の前記指示が結果として控訴人に原島との間の仲介委託を解除させるに至つたとしても、右指示は当時売主としてやむを得ない措置であるから、これにより何らの責任も発生するものではなく、従つてその後何らかの事情により被控訴人山根が原島進と直接売買契約を締結するに至つても、その際、同被控訴人に、道義上はともかく、法律上も当然控訴人をこれに立ち会わせる義務があるものとは解することができないから、被控訴人山根の前記指示が違法であること又は同被控訴人が自己の都合により控訴人をして原島進との間の仲介委託を解除させたことないし同被控訴人に右売買契約締結の際、控訴人をこれに立ち会わせる義務があることを前提とする控訴人の前記各主張はいずれも採用することができない。

次に第三者のためにする契約に基く仲介報酬請求権の主張について按ずるに、被控訴人山根が昭和四五年四月二一日原島進から金七一万円を受領したことは当事者間に争いがなく、右事実に<証拠>を総合すれば、被控訴人山根は、右同日、原島進と本件不動産の売買契約を締結した際、売買代金とは別に、原島進から金七一万円を受領し、その代り同人に対し、原島が控訴人から仲介報酬の支払を求められた場合は、同被控訴人の責任と負担において、これを解決し、原島には一切迷惑をかけない旨誓約したことが認められる。控訴人は、右金七一万円は被控訴人山根が原島進から同人の控訴人に支払うべき仲介報酬として受領したものであると主張するが、右事実を認めるに足る的確な証拠は何もないうえ、仮に右金員受領の趣旨が控訴人主張の如くいわゆる第三者(控訴人)のためにする契約を含むものであつて、被控訴人山根が控訴人から原島の支払うべき仲介報酬の支払を求められた場合には、右受領金をそのまゝ控訴人に交付すべきものとしても、原島進の控訴人に対する仲介報酬支払義務が認められないこと前叙のとおりであるから、結局右契約はその前提を欠くものというべく、従つて控訴人の前記主張はいずれにしても採用することができない。

してみれば、控訴人の被控訴人山根に対する予備的請求は、爾余の点につき判断するまでもなく、理由がないものというべきである。

三しからば、控訴人の本訴請求は、被控訴人山根に対し金八万一一六円の仲介報酬金及びこれに対する昭和四五年五月一三日から完済まで年六分の割合による金員の支払を求める主位的請求の限度においてのみ理由があり、同被控訴人に対するその余の請求並びに被控訴人原島達子らに対する請求はいずれも理由がないものといわなければならない。

よつて、以上と異なり、控訴人の被控訴人山根に対する主位的請求のうち、金五六万八一二円を越える金員(即ち金三一万九、三〇四円)及びこれに対する昭和四五年五月一三日から完済まで年六分の割合による金員の支払を求める部分を棄却した原判決の部分は不当であつて、控訴人の本件控訴は右の限度で理由があるから、原判決中右不当部分を取消し、この部分に対する控訴人の請求を認容することとし、控訴人のその余の控訴及び被控訴人山根の附帯控訴はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条、第九五条、第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(渡部吉隆 古川純一 岩佐善巳)

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