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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2737号 判決 1978年8月28日

控訴人 杉本勇

右訴訟代理人弁護士 成瀬聡

被控訴人 東日本小松ハウス販売株式会社(旧商号 松建工業株式会社)

右代表者代表取締役 北沢保

右訴訟代理人弁護士 綿引光義

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人は控訴人に対し金二六六万〇、〇二四円及び内金二四一万〇、〇二四円に対する昭和四九年一二月七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その一を控訴人、その余を被控訴人の各負担とする。

三  この判決は第一項1の部分に限り仮に執行することができる。

事実

控訴人訴訟代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し、金二八四万一、六七七円及び内金二五九万一、六七七円に対する昭和四九年一二月一七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び金員支払部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴人訴訟代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

1  原判決二枚目裏八行目の「被告と」とあるのを「被控訴人から」と、同四枚目裏三行目の「一三三万四、六五八円」とあるのを「九〇万四、一二三円」と、同八、九行目の「昭和四八年四月まで一三か月間」とあるのを「前記後遺障害の症状固定の日である昭和四七年一二月一四日まで八か月二五日間」と、同五枚目裏二行目の「金四六八万六、一六〇円」とあるのを「金四五六万三、六二三円」を、同六枚目表九行目の「金三二七万二、二一二円およびこれに対する」とあるのを「金二八四万一、六七七円および前記弁護士費用を除く金二五九万一、六七七円に対する」と、それぞれ改める。

2  訴外竹田一男が自動車を使用し、同人が訴外橋に本件自動車を運転させていた行為は、被控訴人の指揮監督のもとに行われたものである。すなわち、

(一)  右竹田は被控訴人から内装工事を請負う際の条件として、「三、四人を使用できること」のほか、「自動車を使用できること」を要求された。これは、被控訴人の工事現場が東京、埼玉、茨城、神奈川、静岡など関東一円から東海地方の遠隔地一帯に及び、しかも、組立ハウスの内装工事に必要な道具を運搬し、かつ、三、四人の大工を現場へ輸送するためには、自動車使用が必要不可欠だからである。そして、被控訴人は右竹田に対し、自動車の使用を前提に、現場の移動、作業日程の指示を行っていたものである。右自動車の使用については、被控訴人の定めた基準に従って右竹田に対しガソリン代が支給されていた。

(二)  また、右竹田は被控訴人の実質的な被用者であった。すなわち、

(1) 被控訴人は組立ハウスの附帯工事一切および組立ハウスの販売等の事業を営んでいるところ、本件事故当時、ハウスの内装、外装工事や資材の運搬など被控訴人の本来の事業活動は、すべて下請人に行わせて、大きな収益を挙げていた。

(2) 被控訴人の下請には、材料を支給され労務のみを提供する「工賃」の場合と、材料を下請人が負担する「材料もち」の場合の二種類あったが、右竹田は「工賃」の場合であって、材料は、被控訴人から現場に届けられており、同人らは、ただ道具一式を持参し、労務を提供して天井を作ったり、部屋の間仕切りや床工事などに従事するだけであった。

(3) しかも、作業内容や作業日程などは被控訴人から図面もしくは口頭で詳細に指示され、下請負人らは、ただその指示、命令に従って単純な労務の提供を行うだけであり、工賃も予め被控訴人が定めていた坪当り単価の基準によって支払われるにすぎず、したがって、右竹田は下請負人といっても、独立して事業を営んでいたとはいえず、被控訴人との間にいわば雇傭契約(出来高払い)と同視し、またはこれに準ずる関係にあったものである。

(4) さらに、被控訴人の作業現場では、右竹田及びその被用者は、被控訴人の従業員として注文主に挨拶し、注文主から被控訴人の従業員としての立場で作業終了の確認印も貰っていたのであり、また、現場から現場への移動も被控訴人の指示に基づいて行われた。そして、被控訴人の社員は口頭、電話もしくは図面、注文書、巡回監督等により工事現場を管理し、広汎にわたる指揮監督のもとに被控訴人の事業内容であるハウスの外装、内装、資材運搬等の作業を下請負人とその被用者に行わせていたものである。

(三)  以上の諸事実からすれば、現場移動中の本件事故は、元請負人たる被控訴人の事業の執行中に生じたものであり、かつ、訴外橋の運転行為について、被控訴人の直接もしくは間接の指揮監督関係が及んでいたものというべきである。

(被控訴人の主張)

控訴人の主張の本件損害責任の根拠は、民法第七一五条に基づく使用者責任である。そして、同条が適用される場合は、責任者と不法行為者との間に使用者と被用者との関係またはこれと同視し得る関係にある場合のほか、使用者がその事業の執行につき直接間接に被用者に対し指揮監督関係の及んでいる場合に加害行為がなされたものであることを要する。

(一)  しかるに、被控訴人は竹田工務店こと竹田一男にプレハブハウスの内装工事を請負わせていただけである。この請負工事の施行方法は、被控訴人が右竹田に内装工事の図面を渡し、所要の説明をしたうえで、内装工事の施行を請負わせ、その工事の実施については、右竹田に一切を任せ、被控訴人としては、その工事の施行につき右竹田に対しても、その被用者である橋和敏や控訴人等に対しても、指揮監督は一切していない。もっとも、右竹田が被控訴人からの請負工事を実施するについては、被控訴人はその必要材料を支給していたが、釘類は右竹田が調達したものを使用していたものである。また、右竹田が被控訴人からの請負工事を行うに当っては、その現場にその雇人や大工道具、釘類を運ぶため自動車を使用していたが、これはその仕事の性質上必要としたからであって、被控訴人が右竹田に特に自動車の使用を求めたものではない。そして、右竹田が調達した釘代や自動車のガソリン代等は、経費として請負代金の一部として支払っていたものである。なお、被控訴人は右竹田に対し、給料その他これに類する支払は一度もしたことがない。

(二)  本件事故を起した自動車は、控訴人の妻杉本八重子所有名義の自動車で、実質的には控訴人の所有車である。事故当日は、右竹田が自己の責任において控訴人から借受け使用していたもので、その車の借受について、被控訴人はなんら関与していない。当時、車に乗っていた者は、右竹田とその被用者である運転者橋和敏、控訴人及び他の一名の使用人の計四名で、そのほか大工道具及び釘等約三〇キログラムが積まれていたものである。被控訴人の社員も、材料も乗せていなかったものである。

したがって、本件事故は、竹田工務店こと竹田一男がその被用者と道具を新たな請負工事現場である静岡県三島市の芙蓉団地熊谷組建築現場への移動のための行動中に起きたもので、その行動の主体は竹田一男であって、注文者である被控訴人にないことが明らかである。

(三)  以上によれば、被控訴人が右竹田の使用者といえる地位になかったことが明らかであり、また本件交通事故を防止し得べき権利の行使を期待しうる状況下に置かれていなかったことも明瞭である。

(四)  仮に、被控訴人と右竹田との関係が使用者と被用者の関係と同視しうると認められるとしても、本件交通事故は元請負人の指揮監督関係が下請負人の被用者に直接間接に及んでいる場合に発生したものではないから、被控訴人が使用者責任を負ういわれはないというべきである。すなわち、被控訴人は、訴外竹田工務店こと竹田一男に対し、プレハブハウスの内装工事をその都度請負わせていたもので、本件事故の行為者であった橋和敏は事故の約半年前に竹田において同人の使用する自動車の運転や大工の仕事の手伝いをさせるため、日給金三、〇〇〇円で雇った者で、その雇傭については、被控訴人はなんら関与していない。

(証拠の関係)《省略》

理由

一  控訴人主張の本件交通事故がその主張の日時、場所において発生したことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、右事故は被控訴人の下請負人である竹田一男の被用者である橋和敏の脇見運転とブレーキ操作ミスの過失によって発生したものであることが認められ、《証拠省略》によれば、右事故により控訴人はその主張の傷害及び後遺障害をうけたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  控訴人は、本件事故は、形式上は被控訴人の請負人であるが、実質的には被控訴人と使用関係にある右竹田の被用者橋和敏が業務執行中に過失により起したものであるから、被控訴人に損害賠償責任があると主張する。

1  そこで、まず、被控訴人と右竹田との間に控訴人主張の如き関係があるかどうかについて検討する。

《証拠省略》を綜合すれば、次の事実が認められる。

(一)  被控訴人は旧商号を松建工業株式会社と称していたが、主として、小松ハウス株式会社が製造する組立ハウスを販売し、これに付帯する外装及び内装工事を施行する事業を営んでいる(但し、被控訴人が右事業を営む会社であることは当事者間に争いがない。)。ところで、被控訴人は本件事故当時、組立ハウスの外装及び内装工事をすべて下請負に出していた。下請負業者は、外装班と内装班とに分れ、各六班あって、各班は三、四人で編成されていた。そして、本件事故当時における下請負の形態は、いわゆる手間請といわれるもので、工事材料は釘を除き、すべて元請負人である被控訴人から提供され、下請負人は単に労務を提供し、出来高に応じて工賃を請求し、翌月二五日に右工賃が報酬として支払われる仕組になっていた。なお、下請負人の利益は、下請負人により工事高の五分ないし二割位と幅があったが、右竹田の場合は五分位であって、収益は大きくなかった。

(二)  また、被控訴人の作業現場は、神奈川、静岡、千葉、埼玉等関東一円に跨っているので、下請負業者が作業員を乗せ、大工道具、釘等を運搬して右各地の現場に作業に赴くためには自動車の使用が不可欠であった。そのため、被控訴人は、下請負人になるための条件の一つとして下請負人が自動車を使用することを求め、右自動車の使用に要する維持費、ガソリン代、車検、保険等の費用については、工事出来高を基準としてではあるが、「経費」の一部として下請負人に支給していた。

(三)  右竹田は昭和四五年頃から被控訴人の事業に関与していたが、当初は下請負人泉工務店の雇人としてであった。その後、昭和四六年一〇月頃右竹田は被控訴人の内装班の下請負人となって独立したが、請負人としての独自の企画力は殆んど必要とされず、本件事故当時の昭和四七年三月まで他の業者の仕事を全くせず、被控訴人の下請負業をいわば専属的下請負人に近い関係において、継続的に行ってきた。また、下請負工事の施行は、被控訴人の工事部次長長谷山博が注文の都度、下請負人に対し、図面および口頭で工事内容、工事期間等を指示し、右指示に基づいて、下請負業者は自己の使用する自動車に自己の雇った従業員を乗せ、被控訴人の指示する各地の工事現場に赴き、あるいは現場間を移動しながら作業を行っていた。被控訴人の下請負人に対する指揮監督は、下請負人が作業の進捗状況をほぼ毎日長谷山次長に報告することになっていたほか、右長谷山あるいは被控訴人の係員が四日に一度位の割合で工事現場を巡回してこれを行っていた。

(四)  なお、工事現場においては、下請負業者は注文主に対し、被控訴人の作業員として挨拶をし、注文主から受け取る工事完成確認書も、被控訴人の従業員の立場でこれを受領していた。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》右認定の事実に照らせば、被控訴人と竹田との関係は、実質的には使用者と被用者の関係もしくはこれと同視しうべき関係にあったものと認めるのが相当である。

2  次に、被控訴人の指揮監督関係が右竹田の被用者であり、本件事故を起した橋和敏に及んでいるかどうかについて検討する。

《証拠省略》を綜合すれば、次の事実が認められる。

(一)  右竹田は、下請負業を行うにつき、大工、運転手等の従業員を常時二、三名雇って右従業員と共に下請負工事に当っていたが、右従業員の雇傭については自らの自由な判断で行っており、被控訴人と協議したり、許諾を得たり、あるいは報告をしたことはない。もっとも、下請負人に対する工事の指図に直接当っていた被控訴人の工事部次長長谷山博は、現場巡回の際に右竹田から被用者の氏名、経験、自動車運転の能否等の概略について口頭で報告をうけていたので、右竹田の被用者の人員構成などおおよその点は把握していた。だが、被控訴人が下請負人の従業員に対し、直接工事上の指図ないし注意等をしたことは全くなく、工事の監督については、すべて下請負人を通じて行っていた。

(二)  また、下請負業者の自動車の使用についても、被控訴人は自動車の保有者及び運転者が誰であるかは知らなかったが、少なくとも右竹田が運行支配している自動車を有し、かつ同人の被用者がこれを運転して下請負業務の執行に当っていることは察知していた。もっとも、右竹田をはじめ下請負業者は被控訴人から右自動車の使用について指示もしくは干渉をうけたことは全くなかった。

(三)  右のような事情にあったので、右竹田は本件事故の発生する約半年前に本件事故を起した橋和敏を運転手兼大工手伝として雇って、自己の所有する自動車の運転をさせていた。事故当日は、あいにく右竹田の自動車が故障したので、控訴人から同人妻杉本八重子所有名義の本件自動車を借り受けて、これを右橋に運転させて、下請負業務の執行に当っていた。右竹田は右の事実を被控訴人に知らせず、また被控訴人も右の事情を知らなかった。

以上のとおりに認められ(る。)《証拠判断省略》

右によれば、右竹田は下請負業者として被用者の雇傭については元請負人である被控訴人の指示、干渉を全くうけず、自由に行っていたことが認められ、また選任後の監督についても、被控訴人は下請負業者の被用者に対して、直接、指揮監督権を行使したことがなかったことが認められる。

しかしながら、被控訴人と竹田一男との関係が前記のとおり使用関係もしくはこれと同視しうる関係にあり、しかも右竹田はその被用者とともに自ら下請負業務に従事する零細な業者であるから、被控訴人の指示に多少の無理があっても、これに従わざるを得ない立場に置かれていたことが容易に推測され、また右の事情に鑑みれば、被控訴人はその事業の執行につき右竹田に指示を与えれば、同人を通じて同人の被用者に対し容易に指揮監督関係を及ぼし得る状況にあったものと推認される。ことに本件においては、《証拠省略》によれば、事故当日右竹田が被控訴人の作業現場である神奈川県伊勢原市の山口工務店建築現場の工事完了後、被控訴人の長谷山次長に連絡したところ、同人から、帰宅せずに直ちに三島市の芙蓉団地熊谷組建築工事現場のプレハブ内装工事を施行するため同地に向うよう指示されたので、右竹田は早速その旨を橋に命じて本件自動車を運転させたものであることが認められる(《証拠判断省略》)。

以上認定の諸事実に照らせば、被控訴人の指揮監督関係は、右竹田を通じて間接的にその被用者である橋運転手の本件自動車の運転行為に及んでいたものと認めるのが相当である。

3  被控訴人は右竹田の被用者に対しては、その雇傭についても、なんら関与していないから指揮監督関係は及んでいないと主張するが、被控訴人の営む組立ハウスの外装及び内装工事は、すべて零細な下請負業者の下請負に出され、ことに、本件の場合、前記認定の諸般の事情に鑑みれば、下請負業者である竹田一男の被控訴人への下請負業務に関する支配従属性の程度はかなり高いものであったと認められるから、同人が従業員を雇傭する場合において、被控訴人の監督をなんら受けないとはいえ、下請負業務の執行については、下請負人である右竹田の被用者は、いわば下請負業者の手足となり、同人と一団となって元請負人から指揮監督をうける関係にたつとみるのが相当である。そして、右のような場合においては、元請負人の使用者責任は、下請負業務の執行(本件の場合における組立ハウスの内装工事の施行)についてはもとよりのこと、下請負業務に関連して特に元請負人から下請負人に対してなされた指示に基づき行われた業務(本件の場合における現場間の移動の指示及びこれに伴って右竹田が被用者橋に命じてした自動車の運転行為)にも及ぶものと解するのが相当である。したがって、被控訴人が右竹田の行う従業員の雇傭について関知しないからといっても、そのことだけでは、右被用者に被控訴人の間接的な指揮監督関係が及ぶことを妨げるものではないというべきである。

そうだとすれば、被控訴人は右竹田の被用者である橋が過失により起した本件事故につき使用者責任を負うものといわねばならない。

三  そこで、進んで控訴人が本件事故によって被った損害について検討する。

1  《証拠省略》を綜合すれば、控訴人は本件事故によってうけた傷害を治療するため、入院二〇日、実通院日数五二日間、延治療期間約一〇か月余を要したこと、そして、治療費として、二四万六、九四五円、通院交通費として六、一六〇円の各支出をしたことが認められる。また、入院雑費については、とくにこれを証する資料はないが、一般に入院期間中は一日あたり少くとも五〇〇円の雑費を支出するのが通常と認められるから、本件においても控訴人は右入院期間中同額の支出をしたものと推定されるので、入院雑費として一万円を相当と認める。付添看護料については、《証拠省略》によれば、控訴人の妻が入院期間中付添看護をしたことが認められるが、右入院中、妻の付添看護が必要であったかどうかについてはこれを認めるに足りる証拠がないから、右看護料の請求は認められない。

2  次に、《証拠省略》によれば、控訴人は本件事故前三か月間に稼働日数七七日間で三〇万八、〇〇〇円の収入があり、したがって、一か月当り平均して、二五・六日稼働して、一〇万二、六六六円(円未満切捨)の収入を挙げていたこと、控訴人は本件事故の翌日から膝関節部神経損傷の後遺障害の症状が固定した日である昭和四七年一二月一四日まで八か月二五日間休業を余儀なくされたことが認められ、その結果、控訴人は、右休業期間中、九〇万四、一二三円相当の損害を被ったことが認められる。

3  《証拠省略》によれば、控訴人は前記傷害の治療を行ったが右後遺障害がのこり、昭和四七年一二月一四日症状が固定したこと、右障害の程度は同日現在で労災等級一二級一二号に相当するものであったこと、自覚症状としては、膝を曲げて坐れず階段の昇降時および寒冷時に膝関節部に疼痛を感ずるほか、足がもつれること、そのため大工職であるのに、高所作業ができなくなり、長い時間立って作業をしたり、速く歩行することができなくなったため、作業能力が低下し、その結果、収入の減少をきたしていること、右障害は今後も治癒の見込がないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右によれば、控訴人の労働能力の喪失割合は一四パーセントと認めるのが相当である。また、控訴人は事故当時一か月平均一〇万二、六六六円の収入を挙げることが可能であったこと前記のとおりである。そして、《証拠省略》によれば、控訴人は前記傷害が固定した昭和四七年一二月一四日当時四五才であったことが認められる。よって、就労可能期間を六七才までとすれば、控訴人はその後二二年間は毎年右月収の一二倍の収入すなわち一二三万一、九九二円を得ることが可能であったこととなる。しかるに、控訴人は本件事故により労働能力一四パーセントを失ったものであるから、右期間中毎年右年収一二三万一、九九二円の一四パーセントに相当する得べかりし収益を失うものというべく、ホフマン式複式算定法により年五分の中間利息を控除した現価を算出すると、次の算式により二五一万四、七四二円となる。

1,231,992×14/100×14.58=2,514,742

(14.58はホフマン式複式算定法による22年の係数)

4  本件事故による傷害及び後遺障害により控訴人の被った精神的苦痛による慰藉料額は、前記認定の各事情を考慮し、七〇万円をもって相当と認める。

5  以上1ないし4の損害額を合計すると、四二八万一、九七〇円になる。そして、控訴人が右損害のうち、合計一九七万一、九四六円につきその填補をうけたことは控訴人の自認するところである。

6  《証拠省略》によれば、控訴人は、控訴人訴訟代理人に本件訴訟の提起追行を委任し、その報酬として判決時に二五万円を支払う旨約定したことが認められ、右金額は本件事故に基づく損害として相当と認められる。

三  以上の次第であるから、被控訴人は控訴人に対し、前示損害額からすでに填補をうけた分を控除した二四一万〇、〇二四円に弁護士費用二五万円を加えた二六六万〇、〇二四円及び同金額から右弁護士費用を控除した二四一万〇、〇二四円に対する本件事故の後である昭和四九年一二月一七日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものというべく、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、右の支払を求める限度において相当であるが、その余は理由がないから棄却すべきであり、これと異なる原判決を右の趣旨に従って変更し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条を、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺忠之 裁判官 糟谷忠男 浅生重機)

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