大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)32号 判決 1977年12月06日

控訴人(附帯被控訴人、以下控訴人という。) 株式会社山井養豚所

右代表者代表取締役 山井政人

控訴人(附帯被控訴人、以下控訴人という。) 山井昇

右両名訴訟代理人弁護士 西村真人

岸巌

糸賀昭

渡部喬一

北村一夫

被控訴人(附帯控訴人、以下被控訴人という。) 矢貝宗則

右訴訟代理人弁護士 篠崎芳明

大場常夫

主文

原判決を、次のとおり変更する。

控訴人らは、各自被控訴人に対し金一二八万四、〇五一円及びうち金一一三万四、〇五一円に対する昭和四五年二月一五日から、金一五万円に対するこの判決確定の日の翌日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人その余の請求を棄却する。

被控訴人の附帯請求を棄却する。

訴訟費用(附帯控訴費用を除く。)は、第一、二審を通じてこれを六分し、その一を控訴人らの、その余を被控訴人の各負担とし、附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

この判決は、第二項に限り、仮りに執行することができる。

事実

控訴人ら訴訟代理人は、「原判決中控訴人ら敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として、「原判決中被控訴人敗訴部分を取消す。控訴人らは各自被控訴人に対し金三七一万一、七六九円及びこれに対する昭和四五年二月一五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、左に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。(但し、原判決三枚目裏九行目の「的格」とあるを「的確」と訂正する。)。

(主張関係)

一  控訴人ら訴訟代理人

控訴会社は、本件事故に基づく損害賠償として被控訴人に対し、次のとおり、合計金一五一万一、四二四円を弁済した。

(1)  昭和四五年二月一八日見舞金として金三万円

(2)  同月二七日見舞金として金五万円

(3)  被控訴人運転の自動車修理代として金六万二、七六〇円

(4)  同年二月一四日から同年一一月二七日までの休業補償費として金六八万〇、〇三九円

(5)  三鷹中央病院における治療費として金六七万八、九二五円

(6)  腰椎用軟性コルセット代金九、七〇〇円

二  被控訴人訴訟代理人

右事実を認める。

(証拠関係)《省略》

理由

一  昭和四五年二月一四日午前一〇時四〇分ころ三鷹市井口四五番地先の三鷹街道山中交差点(通称)において、被控訴人の運転する乗用自動車に控訴人山井の運転する乗用自動車が衝突した事実は、当事者間に争いがない。

二  被控訴人は、右事故により頸椎捻挫等の傷害を蒙った旨主張し、控訴人らはこれを抗争するので、この点について検討を加える。

被控訴人が昭和四五年二月一六日から同年三月一日まで入院した事実は、当事者間に争いがなく、右の事実に、《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  被控訴人は昭和四五年一月二〇日午後一〇時三〇分ころ調布市深大寺一、六七七番地先路上において、タクシーを運転して三鷹駅方面に向って進行すべく右折しようとして停車した際、後方から時速約五〇キロメートルで進行して来た訴外小林功運転のタクシーに追突され、頸部捻挫(鞭打症)の傷害を蒙った(以下第一事故という。)こと。

(二)  右小林は当時被控訴人の勤務していた第二コンコルドタクシー株式会社に勤務していた同僚であって、右各タクシーの乗客に異常がなく、被控訴人の運転していたタクシーのバンバーバックパネルが凹損しその修理費は金二万五、七〇〇円、小林運転のタクシー右前部フェンダー、右ライト、ラヂエーターグリルが破損してその修理費は金三万五一五〇円程度に過ぎなかったため、単なる物損事故として届出処理されたが、被控訴人はその際蒙った前示傷害のため、特に入院の必要は認められなかったけれども、項部の運動制限、運動痛、両側上肢の倦怠感等の症状により、一ヵ月間の安静加療を要するものと診断され、同年一月二一日から同年二月一三日まで一四回にわたり三鷹中央病院に通院して治療を受けたが、その間膝関節痛、背筋痛などを訴え、同月五日には治療期間をさらに四週間延長する旨の指示がなされたこと。

(三)  控訴人山井は、同月一四日午前一〇時四〇分ころ、前示山中交差点前方左側の給油所において給油を済ませて発進し、同交差点を野崎方面に向い時速約二五キロメートルで右折した際、ハンドルを右にとられ急制動の措置を講ずる間もなく、折柄塚方面に向い停止信号に従って停止中の被控訴人運転の乗用車右前部付近に自車前部を衝突させて本件事故(以下、第二事故という。)を惹起し、もって被控訴人に傷害を与えたほか、右被控訴人運転の乗用車に金七万七、三〇〇円、控訴人山井運転の乗用車に金六万二、七六〇円の各修理費を要する損傷を与えたこと。

(四)  被控訴人は、右事故後直ちに三鷹中央病院において診察を受けた結果、外傷性頸椎症候群、その後これに加えて両側根性坐骨神経痛を伴なう腰部捻挫と診断され、同月一六日から同年三月一日まで、同年六月二七日から同年九月一二日まで合計九二日間入院、同年二月一四日から同四六年五月一日まで入院期間を除き一五六日間通院して治療を受け、同年五月一日症状固定したが、なお背椎の可動制限、腰椎前彎の消失、下腱反射の低下、右大腿外側の知覚鈍麻が存するほか、根気を要する仕事をすると両側項肩痛、同部の緊張感、頭重感、焦操感、それ以外の時でも腰痛、両下肢の麻痺感、脱力感などの後遺症の存したこと。

《証拠判断省略》

以上の認定事実によれば、被控訴人は、第一事故による鞭打症の治療中、さらに本件第二の事故に遭い前示傷害の結果をみるに至ったのであるから、右傷害は第一事故と第二事故とに原因を有するものといわなければならない。そして、右第一、第二事故の態様、各事故の車種、速度、車体損傷の程度及び第一事故の際各乗客に異常が存しなかったこと並びに右各事故直後における被控訴人の傷害の程度など前叙認定事実を勘案すると、被控訴人の前示傷害に対する割合は、第一事故によるものが三〇パーセント、第二事故によるものが七〇パーセントと認めるのが相当である。

三  以上に認定した事実によれば、本件第二の事故は、控訴人山井のハンドル操作の過失によって生じたものというべきであるから、同控訴人は、民法第七〇九条によって被控訴人に対し右事故によって生じた損害を賠償すべき義務がある。

控訴会社が控訴人山井の運転していた乗用車を保有していた事実は、当事者間に争いがないから、控訴会社も、また自動車損害賠償保障法第三条によって被控訴人に対し、右事故によって生じた損害を賠償する義務がある。

四  進んで損害額の点について判断を加える。

(一)  休業損害 原審における被控訴人本人の供述によって成立を認める甲第一号証の記載に右供述を総合すると、被控訴人は本件第二事故の日の翌日である昭和四五年二月一五日からその症状が固定した日の前日である同四六年四月三〇日までの四四〇日間前示傷害のため休業を余儀なくされたこと及び被控訴人は同四四年八月一日から第一事故の日である同四五年一月二〇日まで合計金二一万一、六二八円の収入を得ていた事実を認め得るから、右休業期間中被控訴人の蒙った損害は、一日金一、二二三円の割合による金五三万八、一二〇円となる。また、前示認定事実によると、被控訴人が前示傷害に基づき、病状固定の日から労働に服するに至るまでの労働能力喪失率を三五パーセントと認めるを相当とするところ、原審における被控訴人本人の供述によると、被控訴人は同四七年八月から労務に服した事実を認めることができるから、被控訴人が右症状の固定した同四六年五月一日から就労した日の前日である同四七年七月三一日までの四五七日間における休業損害は、一日一、二二三円の割合による四五七日分の三五パーセント、すなわち金一九万五、六一八円となる。以上合計金七三万三、七三八円が被控訴人の休業損害である。

(二)  慰藉料 前示認定の諸事情を考慮すると、被控訴人の慰藉料は金二二〇万円と認めるのが相当である。

(三)  通院費及び雑費 原審における被控訴人本人の供述によると、被控訴人は通院費として金三万九、六三〇円、入院雑費として金二万七、六〇〇円合計金六万七、二三〇円を要した事実を認めることができる。

(四)  過失相殺 控訴人らは、過失相殺を主張するが、前叙認定事実によれば、本件第二の事故は、控訴人山井の一方的過失に原因するというべきであるから、右主張は、失当である。

(五)  被控訴人の以上損害額の合計は、金三〇〇万〇、九六八円となるが、これに対する控訴人らの前示七〇パーセントの割合によって負担すべき損害額を算定すると、金二一〇万〇、六七七円となる。

(六)  弁済 控訴会社が本件第二の事故に基づき被控訴人に対し見舞金として金八万円、休業補償として金六八万〇、〇三九円、治療費として金六七万八、九二五円及び腰椎用軟性コルセット代として金九、七〇〇円を支払った事実は、当事者間に争いがない(控訴会社が被控訴人に対し自動車修理代として金六万二、七六〇円を支払った事実も、当事者間に争いがないが、既に説示したところによれば、これを本件人損の弁済と認める余地はない。)から、右見舞金八万円、休業保償金六八万〇、〇三九円及び治療費、コルセット代のうち控訴人らの負担すべき前示割合を超える金二〇万六、五八七円合計金九六万六、六二六円を前示損害額から控除すると、その残額は金一一三万四、〇五一円となる。

(七)  以上に認定した諸事情を考慮すると、弁護士費用は金一五万円と認めるのが相当である。

五  以上の次第であるから、被控訴人の本訴請求は、損害賠償として控訴人らに対し各自金一二八万四、〇五一円及びこれから弁護士費用金一五万円を控除した金一一三万四、〇五一円に対する不法行為の日の翌日である昭和四五年二月一五日から、弁護士費用金一五万円に対する本判決確定の日の翌日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度においては正当として認容すべきものであるが、その余は失当として棄却を免れない。

よって、本件控訴は一部理由があるから、原判決を右の限度で変更し、附帯控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九五条、第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡本元夫 裁判官 鰍沢健三 長久保武)

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