東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)126号 判決
1 本願発明と甲第五号証のもの(B)との対比
Bが、原告のいう本願発明の要件(a)(以下「要件(a)」という。)を具備していないものであることは、当事者間に争いがない。
そこで進んで、Bが、原告のいう本願発明の要件(b)(以下「要件(b)」という。)を具備しているか否かについて検討する。
原告の主張するところは、「Bの場合、一応形式的には要件(b)を具備しているように見えるが、Bは単にシエービングカツターの製作上の便宜のために設けられた群であつて、原告が本願発明について主張している「加工時間の短縮」、「均一加工による精度の向上」、「工具の摩耗防止」といつた、シエービングカツターと被加工歯車との間の課題解決の目的から発したところの群ではない。」というのである。
成立に争いのない甲第五号証によれば、Bにおける被加工歯車の歯数19、シエービングカツターの歯数63及び9枚のもの7グループとの各記載があることが認められるから、Bは、9枚の歯数を一群とする7つの群からなる総歯数63枚の歯車型シエービング工具であるということができ、したがつてまた、一群の歯数9と被加工歯車の歯数19との間では公約数を有せず、シエービングカツターの歯数63は、一群の歯数9の整数倍(すなわち7倍)となつており、Bは、形式的に要件(b)を具備しているものである。
原告は、Bの場合、本願発明の要件(b)の技術的思想に基いて右のようになつたのではなく、偶々、被加工歯車とシエービングカツターの歯数を素数にしたものが、9枚のもの7グループのカツター歯数になつたものであり、技術的思想が異なると主張する。
そこで、本願発明における要件(b)の作用効果を検討するに、その「ある歯数(群の歯数ZG)が被加工歯車の歯数(ZW)との間に公約数を有しない」ことによる作用効果は、成立に争いのない甲第二号証(特許公報)によれば、シエービングカツターの切刃と被加工歯車との接触回数が増加しても、被加工歯車に接触する切刃は重複して切削することがなく、順次移行して被加工歯車の仕上がり歯面を均一にすることにあるものと認められるところ、この点をBについて見ると、一群中の9枚の切刃は、同一の切刃が被加工歯車の同一箇所を重複して切削することがないことは、原告が提出した別紙第三図面及び第四図面から理解される。Bにおいて、重複切削が行なわれるのは、異なる切刃によつて被加工歯車の同一箇所が切削されるものであり、これはセレーシヨンの設置位置によるもので、群の歯数と被加工歯車の歯数との関係に起因するものではない。
また、「工具の歯数(ZCが群の歯数(ZG)の一を除くある整数倍(ⅰ)に等しい」ことによる作用効果は、一群の切削状態をくり返すことにより切削加工時間を短縮するものであるが、この点は、Bにおいても、群の切削状態がくり返されることは前記別紙第三図面及び第四図面から理解することができるから、切削加工時間も、従来の素数の歯数をもつシエービングカツターと較べて短縮されるものということができる。
そうすれば、Bは、その構成において要件(b)を具備しており、作用効果においても要件(b)の作用効果と異なるところはないものというべきである。
そして、Bにおける、歯数について群の構成をとつた理由は必ずしも明らかでないとしても、Bは、本願発明がその発明の技術的思想を具体化したシエービングカツター、すなわち、本願発明の実施例と要件(b)において一致するものであるから、Bは本願発明の要件(b)が有する技術的思想と同一の技術的思想を有するものというべきである。そして、Bの総歯数は63であつて素数ではないから、素数を否定する本願発明の構成とも一致する。
したがつて、原告の前記主張は採用することができない。
なお、Bがセレーシヨンにおいて本願発明と相違することは当事者間に争いがないところ、原告は、「Bにおいては、重複切削が行なわれ、被加工歯車の歯面が不均一となる」旨主張する。しかしながら、この点は、Bのセレーシヨンが群の終りと、次の群の始めとにおいて、互いに重複するように設けられているためであつて、このセレーシヨンの違いに基因するものであり、群の歯数と被加工歯車の歯数との関係に因るものではないから、その主張は当らない。
2 本願発明と甲第七号証のもの(C)との対比
原告は、Cは本願発明の要件(a)及び(b)のいずれをも具備していないと主張する。そこで、まず、要件(a)から検討する。
成立に争いのない甲第七号証によれば、Cは、シエービングカツターの総歯数は89で、その歯は、9群より構成され、そのうち8群においては10枚ずつの歯数を有し、残りの一群においては9枚の歯数を有していることが認められ、セレーシヨンの一つの溝と一つの台地の和に相等する寸法GZは200であり、セレーシヨンのずれは0.2であるから、8群については
0.2×10=20
となり、GZがある歯数(群の歯数)によつて丁度充たされるが、残りの一群については、
0.2×9=1.8
となり、GZはある歯数(群の歯数)によつて充たされていない。
したがつて、各セレーシヨンは相互に螺旋形状をなすように設けられているが、その螺旋は、最後の9枚より成る群と最初の10枚より成る群との間では、セレーシヨンのずれが0.4となるから、シエービングカツターが一回転したときセレーシヨンの溝が元の溝に戻らず、不連続になるものと考えられる。
ところで、要件(a)によつてもたらされる作用効果を見ると、前掲甲第二号証(明細書)によれば、本願発明の明細書には、「刃具の歯溝は、刃先も同様に、隣り同志の関係位置がずらされており、全体としては螺旋的に縦続した配置を構成している。したがつて、被加工歯車上をある与えられた歯上に、刃具の刃先を縦続的に係合させることにより、ある切削された部分とその次に切削された部分との間に残された部分を生じないように順次シエービング切削が行われることになる。」(第五欄第九行~第一六行)と記載されていることが認められ、他方、Cにおいては、一群において歯数が一枚不足しているため、セレーシヨンの螺旋形状はシエービングカツターが一回転したとき元の溝との間で不連続となり、これにより切削面が不均一となることは前掲別紙第八図面より明らかである。
したがつて、Cは、8群において本願発明の要件(a)を具備するが、残る一群においてはこれを充足しないものであつて、この一群において一枚歯数が不足していることにより切削が不均一になるものと考えられる。
なお、Cのセレーシヨンは螺旋形に配置されており、一つの溝と一つの台地の和に等しい寸法に等しい螺旋の進みを有している点は本願発明と一致している。
次に、要件(b)について検討すると、Cの歯数がいかなる目的で群に分けられ構成されているかは、Bと同様に、必ずしも明らかではないが、前掲甲第七号証によれば、その歯数は9群に分けて記載されていることが認められる。
そこで、セレーシヨンの一つの溝と一つの台地との和に相等する寸法によつて丁度充たされる歯数を一つの群と考えると、甲第七号証に記載されている群は、8群においてこれに該当し、一群において、一枚不足の9枚より成つていることが理解される。そして、群を構成する歯数10枚は、被加工歯車の歯数27枚との間に公約数を有しないが、ただ、シエービングカツターの歯数89枚が群の歯数の一を除く整数倍に等しい数となつていない点で相違している。
したがつて、Cは要件(b)を完全に具備するものではない。
3 本願発明の進歩性について
(一) 要件(a)と要件(b)との結合
原告は、本願発明においては、要件(a)と要件(b)とが互いに有機的に結合しており、このため、「加工時間の短縮」、「均一加工による精度の向上」、「シエービングカツターの摩耗防止」等の効果が最大限に達成される、と主張する。そこで、以下、それぞれの効果について検討する。
(加工時間の短縮)
前掲甲第二号証によれば、本願発明の明細書には、「次に外側の歯を具えた歯車を加工する場合の加工時間を考察することによつて本発明の効果を説明しよう。例えば、……訳である。」(第五欄第二三行~第四〇行)とあつて、「群とセレーシヨンとの関係」については触れられていないことが認められる。
そして、本願発明は、群の歯数と被加工歯車の歯数との間に公約数を有しないことを要件とするもの、すなわち、シエービングカツターの歯数を素として被加工歯車のある歯が反覆加工され他の歯が少しも加工されないことを防止するという従来の考え方を、群の歯数と被加工歯車の歯数との関係に取入れているものである。
以上の点からすると、原告が指摘する「加工時間の短縮」は、要件(b)によつてもたらされるものと判断される。
もつとも、各セレーシヨンの配置の違いにより被加工歯車の歯面の切削が均一となり、これにより加工時間が短縮することも考えられるが、これは均一加工により精度が向上したためであつて、直接の効果ではない。
以上のとおり、「加工時間の短縮」の効果は、要件(b)に因るものであつて、要件(a)との有機的結合によつてもたらされるものとは認められないので、原告の主張は採用できない。
(均一加工による精度の向上)
前示のとおり、本願発明の明細書には、シエービングカツターの歯溝に関して、「刃具の歯溝は、……残された部分を生じないように順次シエービング切削が行われることになる。」と記載されている。
そして、原告は、Bにおいては、別紙第三図面及び第四図面にみられるように、次の群のセレーシヨンは前の群のセレーシヨンの終りより逆戻りした位置からスタートしているので、その部分で重複切削が行われる旨主張しているのであるから、これらの点から考えると、均一加工による精度の向上は、セレーシヨンの形状に関係し、要件(a)によつてもたらされる効果であつて、要件(b)は直接セレーシヨンの形状を規定するものではないのであるから、要件(b)を具備しなくても、要件(a)のみで均一加工による精度の向上を達成できるものというべく、それが要件(a)と要件(b)との有機的な結合によつて得られる効果であるとする原告の主張は採用できない。
なお、原告は、シエービングカツターの歯数が群の歯数の整数倍になつていないことは、シエービングカツターが一回転したときにセレーシヨンの螺旋が元の溝に戻つてこないという結果を招き、被加工歯面の不均一、精度の低下をもたらす旨主張しているが、これは、整数倍となつていない最後の群について要件(a)を具備していないために生ずるものと考えられるので、直接の原因は要件(a)にあるというべきである。
(シエービングカツターの摩耗の防止)
本願発明の明細書には、この効果についての記載は見当らない。
ところで、原告は、Bにおいては、重複切削が行なわれるため過度の摩擦が生じ、工具の摩耗を早めると主張し、Cにおいては、セレーシヨンの螺旋が不連続のため一サイクルごとに不都合が発生し、被加工歯車一個に対しては仕上るごとに、回転数に比例した不都合回数が生じるし、シエービングカツターの側からみれば、カツターの寿命終了時までには何千回という回数になつて、カツターの部分的な摩耗に発展し、カツターの寿命を短かくすると主張しているのであるから、この主張からすると、B、Cのいずれの場合も、セレーシヨンの形状がカツターの摩耗の原因になつているものというべく、そのような事態はカツターの歯数が群を構成していない場合にも十分予想されることである。
したがつて、右の摩耗防止の効果は、要件(a)と関係することであつて、要件(a)と要件(b)との有機的結合によつて奏される効果であるとするのは当らない。
(二) 本願発明の効果
上述のとおり、原告が主張する「加工時間の短縮」、「均一加工による精度の向上」、「工具の摩耗防止」等の効果は、要件(a)、要件(b)より各別にもたらされる効果であつて、両要件の有機的結合によつてもたらされるものではない。
そこで進んで、これらの効果が、B及びCのシエービングカツターと比較して格別顕著なものであるかどうかについて検討する。
(加工時間の短縮)
この効果については、前述のとおり、要件(b)に基因するものであり、Bのシエービングカツターも要件(b)を具備することは既述(1の項)のとおりであるから、作用効果においても差異はなく、格別の効果とすることはできない。
(均一加工による精度の向上)
この効果について、被告は、Bの場合の重複切削については、実質的には重複することがなく、Cの場合については、実用上は本願発明と同じ効果を奏する旨主張しているが、本願発明とB及びCとの間では理論上精度において差異の存することは否定できない。
ところで、本願発明の明細書の記載をみると、前掲甲第二号証によれば、特に有利な結果を得られる場合として、「尚、次のような配置をなすことにより、本願発明の溝の配置から、特に有利な結果が得られる。すなわち、その整数倍の数あるいは割切れる除数が、工作片の歯の数より、1よりも少なくないだけ及び5よりも多くないだけ、異なるような、歯数(群の歯数ZG)により、寸法GZあるいはその整数倍が満たされるように、相連続する歯の上の溝がほぼ螺旋形に配置される場合である。」(第四欄第三一行~第三八行)、「上記のように刃具の歯数と、被加工材の歯数の整数倍あるいは割り切れる除数との間に1の差異が与えられるのが、均等のシエービングを与えるためには最良であり、しかして、上記差異が5以上になると、仕上がりの不満足が目立つてくる。」(第五欄第二行~第六行)、「シエービングの施される歯車の歯数は、1つの群の歯数ZGの整数倍あるいは整数分の一を超過する数であつても、あるいは、これより不足する数であつても宜しい。しかし、その過不足が1の場合、最も好適である。その差が1であれば、順次行われる係合により、互いに次の刃先をもつて与えられた歯のシエービングが行われることになる。」(第七欄第二四行~第三〇行)との各記載があることが認められるが、(これらの記載だけでは不明確で文意を正確に理解し難いが)、これらの記載と他の記載、すなわち、「本発明の特に良好な実施例は第3図(別紙第一図面第3図)に示される。この例においては、刃溝群に対する群の数ZGは、被加工材歯数より一個だけ少なく選ばれている。被加工材の歯は、刃溝群の第一の歯により1―8―7―6―5―4―3―2の順序にて接触するかあるいは換言すれば同じ歯、例えば被加工材の歯1は刃具の歯により、1―2―3―4―5―6―7の順序にて接触するのである。常に一個だけ差のある系列の歯素によりこの実施形態が著しい利点を有することがわかる。」(第七欄第一四行~第二二行)との記載及び本願発明の明細書の第2図(別紙(〔編註〕省略)第一図面第2図)から併せ考えると、群の歯数が被加工歯車の歯数より一枚少ないときに被加工歯車の歯がカツターの切刃により順序に切削されるが、それ以外のときには順序には切削されず、五枚以上の差があると、仕上りが不満足になることを意味しているものと解される。
そうすれば、本願発明は、群の歯数と被加工歯車の歯数の差が一枚のもののみに限定されている訳ではなく、五枚以上の差があるものをも含むものであることが、本願発明の要旨に徴し明らかであるから、被加工歯車の仕上面の平滑性において、本願発明がB及びCと比較して、格別精度が高いものばかりということはできないのであつて、結局、格別顕著な作用効果を奏するとは認められない。
(工具の摩耗防止)
原告は、Bの場合には重複切削により工具の摩耗が早まる旨主張するが、その主張に従つて、群の歯数と被加工歯車の歯数との差が二枚以上の場合の切削痕をみると、各セレーシヨンの毎回の切削の深さは様々であつて必ずしも一定量の切削が行われていない(原告主張の別紙第九図面、26―2、26―3図参照)のであるから、工具の摩耗は必ずしも一様ではないのであつて、本願発明が工具摩耗防止の点において格別優れた効果を奏するものとは認められない。
なお、Bにおける重複切削にしても、切込み量は一定であるから、二度目の重複切削のときの切削量は少ないはずであつて、これによつて特に工具の摩耗が早まるとも考えられない。
(三) 本願発明の容易性
以上(一)及び(二)の項のとおり、本願発明の奏する作用効果は、要件(a)と要件(b)との有機的結合によつてもたらされたものではなく、また、B及びCと比較して格別顕著なものとも認められない。
そして、Bは、本願発明の要件(b)を具備しており、その技術的思想においても変るところはない(前記1の項参照)。ただ、Bは、セレーシヨンの配置において本願発明の要件(a)を満足していないが、Cにおいては、群の構成を備え、その多数の群において本願発明の要件(a)を充足しているのであるから(前記2の項参照)、Bの群において、そのセレーシヨンの配置として、Cの群における要件(a)を充足する配置を適用することは、当業者にとつて容易に推考できることというべきである。
以上のとおりであるから、本願発明がB及びCに基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする審決の判断は、結論において誤りはない。
4 B及びCの公知性
前掲甲第五号証、第七号証、成立に争いのない甲第八号証、証人宇野進の証言によれば、トヨタ自動車工業株式会社では機械部第四機械工場において、甲第五号証に記載のシエービングカツター(B)を昭和三五年一〇月頃から、甲第七号証に記載のシエービングカツター(C)を同年七月頃から、それぞれ公然と使用していたことが認められる。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。
本願発明の要旨
切削刃具と被加工歯車とが交叉軸において噛み合いながら回転し、しかして前記刃具には、歯車の歯のようなその歯の歯腹に複数の溝が設けられており、この溝は相続く歯の上で、一つの溝と一つの台地との和に等しい寸法あるいはその整数倍に等しい進みをもつた、ほぼ螺旋形に配置されている、ある定まつた歯車あるいはその類似物の仕上げに適する、平歯車状の切削工具において、一つの溝と一つの台地との和に相等する寸法GZあるいはその整数倍が、ある歯数(群の歯数ZG)によつて丁度充たされ、前記ある歯数が、被加工歯車の歯数との間に公約数を有せず、かつ、工具の歯数が群の歯数ZGの1を除くある整数倍に等しいことを特徴とする、ある定まつた歯車あるいはその類似物の仕上げに適する歯車加工用歯型刃具。
審決の理由の要点
本願発明の要旨は前項記載のとおりである。
昭和三五年一月一一日設計に係る不二越鋼材工業株式会社の設計図(甲第五号証)に記載されたもの(以下これを「B」という。)は、「被加工歯車の歯数19との間に公約数を有しない歯数9をもつ歯群七群より成る63の歯を備え、その歯の歯腹に複数の溝が相続く歯の上でほぼ螺旋形に設けられている歯車型シエービング工具」である。
また、昭和三五年四月二日設計に係る同会社の設計図(甲第七号証)に示されているもの(以下これを「C」という。)は、「被加工歯車の歯数27との間に公約数を有しない歯数10をもつ歯群八群及び10に近似した歯数9をもつ歯群一群より成る89の歯を備え、その歯の歯腹の複数の溝が相続く歯の上でほぼ螺旋形に設けられ、この溝は相続く歯の上で一つの溝と一つの台地との和に等しい寸法二・〇mmが一群の歯群の歯数10によつて丁度充たされている歯車型シエービング工具」である。
そこで、本願発明とB及びCのものとを比較検討するに、
まず、本願発明の要旨中の、「切削刃具と被加工歯車とが交叉軸において噛み合いながら回転し、しかして前記刃具には、歯車の歯のようなその歯の歯腹に複数の溝が設けられているある定まつた歯車あるいはその類似物の仕上げに適する平歯車状の切削工具」という点は、B及びCも含めて、慣用されている通常のいわゆる「歯車型シエービング工具(歯車加工用歯型刃具)」の構成にほかならない。
また、本願発明の要旨中の、「この溝は相続く歯の上で、一つの溝と一つの台地との和に等しい寸法あるいはその整数倍に等しい進みをもつた、ほぼ螺旋形に配置されている」という点については、溝がほぼ螺旋形に配置されている前提のもとでは、本願発明の要旨の後段と実質的に重複するものである。
したがつて、本願発明を、溝がほぼ螺旋形に配置されているB及びCと比較検討するには、次の二つの点のみが問題となる。
(a) 「一つの溝と一つの台地との和に相等する寸法GZあるいはその整数倍がある歯数(群の歯数ZG)によつて丁度充たされる」点
(b) 「ある歯数(群の歯数ZG)が、被加工歯車の歯数(ZW)との間に公約数を有せず、かつ、工具の歯数(ZC)が群の歯数(ZG)の1を除くある整数倍(ⅰ)に等しい」点
ところで、Bは、右(b)の点を十分満足しているので、(a)の点を除いては、本願発明と同一である。
そして、Cは、その九歯群中、大多数である八歯群において(a)の点を満足し、僅かに残る一歯群において、歯数が10に対し9という近似であり、(b)の点についても、一歯群が歯数9という近似で、全体として歯数が90に対し89という近似で満足している。
そこで、近似的に本願発明に等しい歯数要件を備えているCに、Bの歯数に関する技術的思想を応用すれば、右(a)(b)の両点における一部の近似問題は一括して解消し、本願発明と同じものが構成される。そのような応用は、Cの歯数要件が本願発明及びBの歯数要件に近似しており、本願発明及びB、Cの三者が大部分の構成において一致している歯車型シエービング工具であるということから、当業者が容易に考えられた程度のことである。
B及びCが本願発明の優先権主張日以前に日本国内で公然と使用されたものであることは、当事者間に争いがないところであり、特許庁において提出された各証拠からも認められることである。
したがつて、本願発明は、B及びC、すなわち、前記甲第五号証及び第七号証に示されたものに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができない。