東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)136号 判決
審決取消事由の有無について判断する。
(一)、原告らは、本願考案においては、乾燥箱を被乾燥物収容室、流穀通路、集穀室に上下三分したことにより、各引用例のように乾燥箱が上下に二分されているものに比して、乾燥箱全体に対して流穀通路が短かくなり、その結果、穀物が乾燥を受ける時間が短かく、被乾燥物収容室で水分調整される時間が長くなり、胴割れを著しく減少することができた旨主張する。
しかしながら、乾燥箱全体の高さが一定であるとの前提がない以上、単に乾燥箱を上下に三分したからといつて、このことが直ちに流穀通路を短くすることにはならないし、また流穀通路が短くなつても相対的に被乾燥物収容室の長さが長くなるといえないことはいうまでもない。成立に争いのない甲第二号証によれば、本願考案は、乾燥箱全体の高さについても、また被乾燥物収容室、流穀通路、集穀室の上下方向における長短の相対比率についても構成要件として何ら限定を加えていないことが明らかである。したがつて原告らの主張する前記の作用効果を、本願考案の作用効果としてこれを認めることはできない。
ちなみに、成立に争いない甲第四号証によると、第二引用例の籾乾燥機は、特許請求の範囲に「上下ノ二槽ヲ以テ構成シ」としながらも、さらに「其下槽ノ底ヲ円錐形トナシ其末端ニ落下口ヲ設ケ」「下槽内ノ中心ニ熱風槽ヲ設ケ」として、これに対応する発明の詳細な説明にも、「下槽ノ底ハ之ヲ円錐形漏斗(5)トシ其末端ニ落下口(6)ヲ設ケ容槽内ノ籾ヲシテ徐々均等ニ落下シテ落下口ヨリ落下スヘクナシ下槽内ノ中心ニ設クヘキ熱風槽(7)ハ………」とあり、また上槽の説明として「上槽内ニ於ケル籾ノ堆積時間ヲ十分ナラシムヘク上槽ノ容積ハ下槽ニ比シ之ヲ大ニスルモノトス」とし、「此下槽ニ於ケル加熱ト上槽ニ於ケル温度ノ均一トヲ交互ニ反復シテ行フコトニ依リ下層内ニ於テ行ハル籾ノ乾燥ハ其表層ト共ニ其内心ニ於テモ同時ニ促進セラレテ乾燥ニ伴フ籾内物質ノ硬化ヲ其内外ヲ通シテ均等ニ生スベクナシ以テ籾ノ乾燥ニ於テ生シ易キ米ノ胴割ヲ防止シテ」とあつて、少なくとも熱風を受ける流穀通路部分を上下方向で最も長い被乾燥物収容部分に比して短かくして熱風乾燥による胴割防止を図ることは第二引用例に具体的に示されていることが認められる。そうだとすると、本願考案が乾燥箱を上下三分したことにより流穀通路が短かくなり、穀粒の胴割れを防止できる効果があるとしても、すでに第二引用例に十分示唆されているところであり、予想できる範囲内のものというほかない。
(二)、原告らは、流穀通路を幅狭としたので、むら乾燥の防止、動力の節約ができた旨主張する。
本願考案が流穀通路を多層にしたことにより流穀通路を幅狭にすることができ、乾燥むらの防止と動力の節約ができた作用効果については当事者間に争いがない。
ところで成立に争いのない甲第五号証および甲第七号証の一・二・三によると、第三引用例には熱気送風室と穀物乾燥室とを交互に多層にした穀物乾燥機が示されており、他方、成立に争いのない甲第三号証によると穀物乾燥室を流穀通路として熱風室と熱風通路との間に二層に形成した穀類乾燥機が第一引用例に示されているので、前記の第二引用例のような循環式の乾燥機として流穀通路を多層にすることは極めて容易に考えられるところである。また、流穀通路を多層にすればするほど個々の流穀通路が乾燥箱全体に対し相対的に幅狭になることは当然であり、また幅狭であればあるほど熱風の供給側と排出側との穀物の乾燥度合の差が少なくなり、その結果、流穀通路中の穀物のむら乾燥を著しく減少すること、および送風機の圧力損失ひいては動力損失が少なくなり、比較的小さな動力で大量の穀物を能率よく乾燥できることは当業者にとつて自明の事柄であることと考えられる。そうすると、流穀通路が幅狭になつたことによる原告ら主張の作用効果は各引用例から予測できる範囲のものというほかない。
(三)、原告らは、流穀通路を垂直にしたことにより、流動むらが防止できた旨主張する。
本願考案が流穀通路を垂直したことにより流動むらを防止する作用効果をもつことについては当事者間に争いがない。ところで、前掲甲第三号証によれば、穀物乾燥機の流穀通路が垂直である構成は第一引用例に示されており、垂直であつて流穀通路に絞り部分がなければ穀物が停滞することがなく、流動むら、乾燥むらを生ずることがなくなるのも当然の効果であり、第一引用例の構成から当然予測できると考えられる。また、本願考案が被乾燥物収容室に流穀通路が垂直に連なつていることにより被乾燥物室内の穀物に偏つた流れを生ずることなく穀物の循環が円滑に行われる点も、垂直の流穀通路の上部に被乾燥物収容室を設けたことにより当然もたらされる効果であつて、前記の第一引用例、第二引用例の構成から予測できる範囲のことであり、格別のものとは認めがたい。
(四)、原告らは、流穀通路の上部に被乾燥物収容室を設けたことにより、穀粒中の水分および温度を均一化することができた旨主張する。
本願考案が流穀通路の上部に被乾燥物収容室を設けたことにより穀粒中の水分および温度を均一化する作用効果をそなえることについては当事者間に争いがない。
ところで、前掲甲第四号証によれば、流穀通路の上に被乾燥物収容室を設け、一旦熱風を浴びた穀物を循環させてこの被乾燥物収容室に供給堆積させ、流穀通路を下降中再度熱風を浴びるようにした構成は第二引用例に示されており、その効果として発明の詳細な説明にも「下槽内ニ於テ乾燥中加熱セラレタル籾ハ上槽内ニ入ルトキ其空気ノ飽和セルタメ籾ハ其水分ノ蒸発ヲ止メテ其有セル熱ヲ保存セシメテ各籾ヲシテ其有スル多少不同ノ温度ヲ互ニ均一スルト同時ニ又其内部物質ノ内外ニ於ケル温度ノ不同ヲ均一シ其結果籾ノ表層ニ蓄積セル熱ヲ其内心ニ伝達シテ其内心ノ温度ヲ高ムヘクナス」「此下槽ニ於ケル加熱ト上槽ニ於ケル温度ノ均一トヲ交互ニ反復シテ行フコトニ依リ下層内ニ於テ行ハル籾ノ乾燥ハ其表層ト共ニ内心ニ於テモ同時ニ促進セラレテ乾燥ニ伴フ籾内物質ノ硬化ヲ其内外ヲ通シテ均等ニ生スヘクナシ」と述べられているから、穀物が被乾燥物収容室を流下する間に内部水分を殻に移行させ、穀粒中の水分および温度を均一的に調整することは第二引用例から当然予測できるところであると考えられる。
以上のとおり、原告らの主張はいずれも失当である。よつて、原告らの本訴請求は理由がないから棄却する。
〔編註〕 本願考案の要旨は左のとおりである。
(1) 長方体に構成した乾燥箱内の上下方向における略中間部に、数列の垂直な熱風導入風路および排風導出風路を互いに一定間隔をあけて交互にかつ箱の長手方向に向けて並列に形成し、その風路の各間を被乾燥物の流穀通路となして、
(2) 該流穀通路の上下を乾燥箱上部の被乾燥物収容室ならびに下部の集穀室へそれぞれ連通せしめ、
(3) 集穀室には底部に乾燥物取出用移送体を設けてその一端を揚穀装置へ連通させ、該揚穀装置の上端は乾燥箱上部の被乾燥物収容室上方に架設した配粒用移送体と連通せしめ、
(4) さらに前記熱風導入風路のそれぞれ一側は送風機と連通させるとともに、排風導出風路は箱外と連通させたことを特徴とする。
(5) 循環式穀物通風乾燥機