東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)151号 判決
一 原告の主張する請求原因第一、二項の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の有無について判断する。
(一) 取消事由(一)について
商標法第六条第一項は、「商標登録出願は、政令で定める商品の区分内において、商標の使用をする一又は二以上の商品を指定して、商標ごとにしなければならない。」と規定し、これを受けて、同法施行令第一条は、別表をもつて第一類「化学品(他の類に属するものを除く。)薬剤 医薬補助品」以下第一二類「輸送機械器具 その部品及び附属品(他の類に属するものを除く。)」を含む第三四類「プラスチツクス ゴム 皮革パルプその他の基礎材料で他の類に属しないもの」まで三四の類からなる商品の区分を定めているのであるから、あらゆる商品は、この三四の類からなる商品の区分のうちのいずれかに含まれるものというべく、これを本件に即していうと、第一二類「輸送機械器具その部品及び附属品(他の類に属するものを除く。)」には、同類に属すべき商品のすべてが含まれると解するを相当とする。
これを本件についてみるに、引用商標の指定商品が第一二類「輸送機械器具 その部品および附属品(他の類に属するものを除く。)」であることは、当事者間に争いがなく、また、引用商標の商品指定の表現も前記商標法施行令第一条別表の商品の区分第一二類に掲げられている「輸送機械器具 その部品及び附属品(他の類に属するものを除く。)」と同一である。そうすると、同別表の第一二類「輸送機械器具 その部品及び附属品(他の類に属するものを除く。)」には、さきに述べたように、同類に属すべき商品のすべてが含まれるものである以上、引用商標は、これを使用する商品として、前記のような包括的表現をもつて、少なくともその登録出願時に同類に属すべきすべての商品を指定して登録出願をし、登録されたものと認めることができる。そして、本願商標の指定商品である「貨物用コンテナ」が、引用商標の登録出願時において存在していた商標法施行規則第三条別表の第一二類欄にいわゆる「その他の輸送機械器具」として、商品の区分第一二類に属する商品であることは、弁論の全趣旨から容易に肯認することができる。したがつて、本願商標の指定商品である「貨物用コンテナ」が引用商標の指定商品に含まれることは明らかである。
原告は、本願商標の指定商品である「貨物用コンテナ」は引用商標の登録出願当時商標法施行規則第三表別表第一二類中に掲記されていなかつたのであるから、引用商標の指定商品に包含されない商品である旨主張する。しかしながら、同条は、「商標法施行令第一条の規定による商品の区分に属すべき商品は、別表のとおりとする。」としたうえ、その別表をもつて、商品の区分第一二類について、上欄に「輸送機械器具 その部品および附属品(他の類に属するものを除く。)」と記載するとともに、これに属すべき商品として、その下欄に「輸送機械器具」を「一 船舶」、「二 航空機」、「三 鉄道車輛」、「四 自動車」、「五 自転車」、「六 その他の輸送機械器具」に分類し、さらに、これらを個々の具体的商品に細分して記載しているが、同別表に掲記されている個々の具体的商品は、その数が相当多数にのぼつているとはいえ、前示の商品の区分第一二類に属すべき商品を例示したにすぎないものであつて、同類に属する商品のすべてを網羅したものではないと解するのを相当とする。したがつて、同別表に「貨物用コンテナ」が掲記されていないからといつて、このことから直ちに本願商標の指定商品である「貨物用コンテナ」が引用商標の指定商品から除外されているというのは当らない。
したがつて、審決が本願商標の指定商品をもつて引用商標の指定商品に含まれるとしたのは妥当であつて、原告の主張するような誤りはない。原告の主張は、採用できない。
(二) 取消事由(二)について
(1) 原告は、本願商標は図形と文字の結合からなる標章であるから、その標章の一部にすぎない文字部分だけをとらえて「ニツク」および「エヌ・アイ・シー」の称呼を生ずるというのは誤りである旨主張する。
しかしながら、本願商標は、別紙目録記載のとおりであつて、左右を同時に指向する太い矢印の図形を中央に描き、その柄に相当する部分の背後に円形の図形を配するとともに、前面に左横書きのNICの文字を配した構成からなるものであつて、NICの文字は、肉太のゴシツク体で書かれ、標章の前面、かつ、中央に位している関係上、観者の注意をひき易く、欧文字であるとはいえ、取引者において十分に読みとることができるものであり、しかも、読んだ場合、「ニツク」あるいは「エヌ・アイ・シー」となつて、発音にも特に無理を生じない。また、このような欧文字三字くらいを適宜配列した構成の商標は日常しばしば見受けられるところでもある。したがつて、簡易迅速を旨とする商取引の実際において、本願商標は勢いNICの文字部分に着目され、これより生ずる前記「ニツク」および「エヌ・アイ・シー」の称呼によつても自他商品識別機能等をはじめとする商標としての機能を果すに至ることが十分首肯できる。このことは、本願商標における前記円形の図形部分が、原告主張のように地球儀を抽象化して表現したものと看取でき、ひいては、これら図形部分より、あるいは、これら図形および文字の結合よりなる標章全体より、別の称呼を生ずることがあつても、それにより影響をも受けるものではないことは、特に説示するまでもない。それゆえ、原告の前記主張は採用できない。
(2) 原告は、かりに本願商標が引用商標と称呼を共通にするものであるとしても、本願商標の指定商品である「貨物用コンテナ」の取引の実情をみると、これに使用されている商標の称呼のみに依存してその出所、品質が識別されることはなく、本願商標の使用された「貨物用コンテナ」と引用商標の使用されたそれとの間に誤認混同を生ずるおそれがない旨主張する。
しかしながら、商取引において、商品の識別が、これに使用されている商標の称呼によつても行われることは、前記のとおり普通のことであるから、特に反対の事情がない限り、同一の称呼を生ずる本願商標と引用商標とが、同一の商品につき使用されるならば、彼我商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれのあることはいうまでもないところ、本願商標の指定商品である「貨物用コンテナ」につき、原告主張のような特殊の取引慣行があり、これに使用されている商標の称呼のみによつては、その出所、品質等を識別することがない実情にあることを認めるに足りる証拠はない。かえつて、「貨物用コンテナ」は、貨物の輸送に際し、貨物の梱包に代え、貨物をそのまま収納するための容器であつて、その大きさには、両手で持ち上げ動かすことのできる程度の小型のものから、クレーン等によらなければ持ち上げ動かすこともできないような大型のものまで種々あることは、顕著な事実であり、また、その取引は、売買のほか賃貸借により行われていることは、弁論の全趣旨から明らかであつて、少くとも、極めて小型のものについての賃貸借は、原告主張のように、単に所定の取引系列下にある特定の取引者の間に限られず、より広い一般の顧客をも相手にして行われることがひいては、その取引に際し、これに使用されている商標の称呼により、その出所、品質等が識別されることも決して少くないことが推認できる。それゆえ、原告の前記主張も採用できない。
三 以上のとおり、本件審決には、原告の主張するような違法はなく、したがつて、その取消を求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却する。