東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)18号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、審決の取消事由について検討する。
1 審決の取消事由1、2の主張について
(一) 本願考案の課題、構成及び作用効果について
(1) 成立に争いのない甲第二号証(本願考案の実用新案公報)によれば、本願考案の課題は、上位桁数字車に桁上げピニオンが噛合う型式の零復帰式カウンター(なお、この点で本願考案と第一引用例に記載のカウンターとが同一のものであることは、原告の自認するところである。)において、数字車を零復帰させて再び計数可能な状態に戻す時に、数字車と桁上げピニオンとの間の良好な噛合せ状態が得られるようにしたカウンターを提供することにあつて、その特徴とするところは、計数入力継続中に、数字車を零復帰させ引続いて計数動作を続けるという使用方法に対しても、終始良好な噛合せ状態で確実に作動することができるようにした点にあることが認められる。したがつて、その課題は、数字車に桁上げピニオンが噛合う構造を具えた零復帰式カウンターにおいてのみ生ずるものであり、かつ、この種型式のカウンターを前記の使用方法により用いる場合に特に要求されるものである。
(2) さらに、前掲甲第二号証によれば、本願考案は、桁上げピニオンを具えた零復帰式カウンターの前記使用方法の際の動作の不確実性により、数字車の零復帰後計数可能な状態に戻るまでの期間、すなわち、数字車が入力、桁上げピニオン及びハートカムの作動のいずれからも拘束されず自由に回動できる状態にある期間(なお、後述のとおり、本願考案における課題の解決上このような状態にある期間が重要な意味を有することにかんがみ、本願考案の明細書においては、この期間を特に「遊転期間」と名付けている。)中に、ウオームギヤーと第一の数字車との間に相互干渉状態が発生することを防止し、零復帰後旧位置に戻す際における数字車と桁上げピニオンとの間に良好な噛合い状態が得られるように、ウオームギヤーと第一の数字車との間にスペーサーを介在させて、前記使用方法の場合にも計数動作が不確実になるような欠陥を除去したものであることが認められる。
(二) 引用例のものの課題、構成及び作用効果について
(1) これに対し、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例に記載の度数計(カウンター)は、本願考案のカウンターと型式を異にし、各桁の数字車は、その回転軸に対し相互に独立して軸架され、各階段状送り爪の作動に応じて回転するようになつており、したがつて、計数動作により隣接位数字車が回動すると、計数動作を受けない数字車もその干渉作用で回動する可能性があるので、数字車の誤動作を防止するとの解決すべき課題が生ずるものであることが認められる。
(2) また、前掲甲第四号証によれば、第二引用例に記載の度数計は、それぞれラチエツトを装着した各桁数字車が共通軸に独立に装架され、各数字車ごとに階段状送り爪によつて送り回動する型式のカウンターにおいて、下位桁数字車が計数回動した際に、その隣接上位桁数字車が盲動しないように各数字車の間にスペーサー(セパレーター)を介在させ、相互干渉の生ずる余地がないようにしたものであることが明らかである。
(三) 両者の対比
(1) (一)、(二)に述べたところから明らかなとおり、本願考案のカウンターと第二引用例のそれとは、共通軸に各桁数字車を装架し、これを入力によつて回動させ、下位桁数字車が一回転するごとに直上位桁数字車を一ピツチ回動させるようにして計数する型のカウンターであることにおいては、共通の構成を有するものである。
(2) ところで、右両者の間には次の差異がある。
まず、本願考案においては、隣接する数字車の間にはこれらに噛合う桁上げピニオンがあつて常時数字車をピニオンが拘束している関係上、数字車を零復帰させようとするときは、まず各数字車とピニオンとの噛合せを解除した後でなければ数字車の零を整列させることができない。したがつて、数字車を零復帰した後、カウンターを計数可能な状態に戻すのには、各数字車に設けたハートカムが零復帰レバーの拘束から離れ、かつ、数字車と桁上げピニオンとの噛合せが生じない状態を、極めて短かい時間ながら通過することになる。このいわゆる遊転期間中のウオームギヤーと第一の、すなわち、一位桁の数字車との間で相互干渉状態が発生することを防止しようとする課題は、本願考案のような零復帰式カウンターにおいてのみ生ずる極めて特有の現象というべきものであり、第二引用例に記載の度数計においては全く考えられないことである。けだし、本願考案の零復帰式カウンターにおいては、数字車にピニオンが噛合し計数を行つている間は常時、数字車がピニオンによつて拘束され、また、零復帰動作時においても零復帰用押ボタンが押されている間は、零復帰レバー爪が各数字車のハートカムを押圧しているので、そのいずれの場合でも、数字車相互の間においてはもちろん、ウオームギヤーと数字車との間にも相互干渉状態が生ずることはなく、ただ、カウンターの作動中(計数動作中)に零復帰操作を行ない、その零復帰完了後、零復帰用押ボタンの押圧を解き、零復帰レバーが数字車のハートカムの押圧位置より旧位に復する回動を開始してから、ピニオンが数字車と再び噛合う直前の状態の時までの間、すなわち、右の遊転期間中においてのみ、第一の数字車がそれと接するウオームギヤーから摩擦回転伝達を受けて、相互干渉状態を生ずるものであるからである。しかも、遊転期間は、この種のカウンターにおいては、零復帰用押ボタンの押し下げ操作を解除してからピニオンが旧位置に復するまでの時間に過ぎないから、それは、極めて短時間であり、通常の操作態様においては、数分の一秒を出ないかこれよりはるかに短かいものであることは容易に推認されるところである。
これに対し、第二引用例に記載の度数計は、前記のとおり共通軸に装架された各桁数字車の側面にそれぞれラチエツトが設けられ、数字車を階段状送り爪によつて係動し、回動計数するように構成されているから、各桁数字車は、送り爪の戻り運動に抵抗して盲動しないようにされると共に、隣接数字車間において相互干渉状態が生じないように各数字車には回転方向に軽度の制動が加えられていて、正規の計数動作に対してだけ回動できるようにされている。そして、その場合、前記制動力が大き過ぎれば計数のために大きな入力を必要とし、使用範囲も自ずから制約されるし、さりとて小さ過ぎると数字車が盲動しやすいためにスペーサーの介在が要請されることになるものと考えられる。
以上検討したところを総合すると、第二引用例には、本願考案における数字車の遊転期間の存在及び遊転期間中についてのみ生ずる前記課題の解決、すなわち、遊転期間中数字車に作用する外部からの運動伝達を絶つためにスペーサーを用いるという技術的思想についての記載が全くなく、これを示唆してもいないものというほかはない。両者は、スペーサー使用の技術的思想としては、全く別異のものである。
2 審決の取消事由3の主張について
本願考案におけるカウンターが前述のような構成からなるものであつて、数字車間においては、相互干渉状態が生じないものであり、しかも、計数動作の不確実さがいわゆる遊転期間という極めて短かい時間内に生ずる特有の現象であることその他上来の説示に徴すると、この間に計数動作を不能又は不確実にする程の影響を与える要因のあることに想到することは、当業者といえども容易ではなかつたと認めるに妨がなく(もつとも、計数入力中に、数字車の零復帰用ボタンを押込んだ後これを戻す際に、右零復帰用ボタンを適宜の位置に置いて探察することにより、一見右の要因を察知することができるもののようにも考えられないではない。しかし、叙上の遊転期間の特殊性殊に零復帰用押ボタンの通常の操作態様においては、それが極めて短時間であること及び右探察を行なおうとすること自体、すでに右要因に目を向けていなければできないことであることを考慮すると、右は、原因が判明した後におけるいわば結果論にすぎないとも考えられるばかりでなく、前掲甲第二号証によると、ウオームギヤーと第一の数字車との間にスペーサーの介在がなくとも、必ずしも零復帰操作の際に計数動作が不能又は不確実となる現象が常に生ずるものでないことが認められ、このことからすると、右のように零復帰用押ボタンを適宜の位置に置いてみても前記のような現象が常に生ずるとも考えられないので、このことにより、計数動作を不能又は不確実にする要因をたやすく解明しうるものとはしえない。)、少なくとも第二引用例に示されたスペーサー使用の技術から、その要因を極めて容易に解明できたものということはできない。
3 以上1、2に述べたところを併せ考えると、本願考案をもつて、第二引用例に記載された技術を第一引用例のものに用いることにより極めて容易に考案をすることができる程度のものであるとすることはできない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註〕 本願考案の要旨は左のとおりである。
外部からの駆動力を回転力に変換するウオームギヤーと、表示を行う数字車と、上記ウオームギヤーの回転力を第一の数字車に伝達するためこのウオームギヤーと第一の数字車のギヤーとに係合し、かつ、分離可能なピニオンとから構成される零復帰式カウンターにおいて、前記ウオームギヤーと第一の数字車間に介在されたスペーサーを備え、このスペーサーにより遊転期間中の間接的な運動伝達を絶つことを特徴とする零復帰式カウンター。(別紙図面(一)参照)
〔編註〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙 (一) 本願考案
<省略>