大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)44号 判決

一 請求原因事実中、本願発明につき、出願から審決の成立に至るまでの特許庁における手続の経緯、発明の要旨及び審決理由の要点は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由の有無について判断する。引用例の発明の構成が原告主張(請求原因四、(二))のとおりであることは、被告の認めるところであり、この構成と前記本願発明の要旨とを対照してみると、両発明は、トレイ表面の活性主部分、並びに各々が孔のない側壁と端部壁及び底部に液体シーリング可能出口手段を具備する平行に排列された複数の狭いチヤンネルを含有する蒸気―液体接触用トレイである点で共通するが、次のような相違点があることが明らかである。

本願発明 引用例の発明

(A) チヤンネルは三つ以上であること。 (a) チヤンネルは不特定数であること。

(B) チヤンネルは、トレイの周縁から周縁へと延びていること。 (b) チヤンネルは、トレイの一部に局在していること。

(C) 全トレイ面積の単位平方フイート当りのチヤンネル入口縁長さが一・〇~五・〇フイートであること。 (c) 上記入口縁長さが非常に小さいこと。

(D) チヤンネルは等間隔に配置されること。 (d) チヤンネルは等間隔に配置される例もあること。

(E) チヤンネルの上部縁がトレイの最大全高さを限定する単一平面でトレイの活性表面より上に配置されること。 (e) 低負荷用としては(E)と同じ(クレーム1)、高負荷用としては、チヤンネルの壁の一辺から形成された泡捕獲バツフル、または別個にチヤンネル内に設けられた泡捕獲バツフルがチヤンネルの上部縁より上方に向けてトレイ空間に延びていること(クレーム3、4、10)。

そうすると、本願発明においては、共通点中の「平行に排列され」ていること、(A)の「三つ以上であること」、(B)「トレイの周縁から周縁へ延びていること」及び(D)の「等間隔に配置されること」の各要件をあわせることによつて、チヤンネルが、トレイ上に局在することなく、その全面に一様に延びるように配置される結果、チヤンネルの入口縁長さは、トレイ全面にわたつて、その単位平方フイートごとにほぼ均一の割合で存在する構成であるのに対し、引用例の発明においては、チヤンネルについて、本願発明の右(A)ないし(C)の限定がないばかりでなく、成立に争いのない甲第三号証(引用例)によれば、図面に示されたチヤンネルは、その長さがトレイの直径に比してかなり短く、トレイの一部に局在するに過ぎないこと、また、引用例には、本願発明におけるようなチヤンネルの均一配置を示唆すべき記載がないことが認められる。

そして、成立に争いのない甲第二号証の二、三(本願発明の手続補正書)、第四号証(宣誓口述書)によれば、本願発明は、前記均一配置のための各要件に(C)の要件を加えた構成を採用することによつて、引用例の発明には期待しえないところの、

(1) 液体及び気体の流量の変動があつても、チヤンネルに流入する泡の高さの変動を極度に抑えることができ、泡の高さに起因する液体負荷の変動が減ずる。

(2) それによつて、従来のトレイよりもはるかに高い負荷を与えることができる。

(3) トレイ間の気体空間における気体の移動が十分であり、気液接触が一様である。

(4) 十分な液体をチヤンネル内に確保できるので、負荷が非常に低くても、気体の吹上げを生ずることがない。

(5) 液体はトレイ全体に一様に分布し、気液接触効率が高まる。

という作用効果を奏するものであることが認められる。

被告は、右(1)、(2)及び(4)の効果をもつて、本願発明の要旨において限定されていない下降管の多孔床より下方に延びている構造に基づくものに過ぎないと主張する。ところで、気体の吹上げを生じないために必要な下降管中の液体の深さは、(イ) 下降管を流通する液体の頭損失と(ロ) トレイを横切る蒸気相の圧力損失との和に等しいものである(前掲甲第二号証の二中二五頁参照)が、低負荷の場合には、蒸気がトレイ上の液体を通るときの抵抗が小さいため、(ロ)の圧力損失が小さいから、右の関係からすれば、気体の吹上げを生じないために必要な下降管中の液体の深さは、小さくてよく、したがつて、この低負荷の場合には、下降管の高さが高いこと、すなわち、その下方への延長が長いことを要しないこととなる。とすれば、本願発明において、右(1)、(2)及び(4)の効果は、必ずしも下降管が下方に特に長く存在している構造に必然的に由来するものでないというのが相当である。なるほど、前掲甲第二号証の二によれば、下降管の下方に延びている構造によつて最高負荷等に影響がある場合の存することは推測されるけれども、そうだからといつて、右のとおりである以上、右各効果が本願発明の固有のものであることを否定することはできない。他に、作用効果に関する右認定を左右するに足りる証拠はない。

しかも、引用例の技術においては、高負荷の場合には、泡捕獲手段が存在しないと、チヤンネル入口縁を越えて流入する泡のクレスト高さが急激に高くなつて、液体負荷に比例した泡の鎮静化が達成できなくなる等の欠陥があるため、泡捕獲バツフルの使用が必要とされるものであることは、当事者間に争いがないから、本願発明が、高負荷の場合でも、格別の泡捕獲手段を付加することなしに前記の作用効果を奏することは、その効果の顕著性を裏付けるものということができるであろう。なお、審決は、本願発明と引用例の発明との相違点が、装置全体の規模、トレイの面積、液体の流通量及び性質を考えて、当業者の適宜選択しうることである旨判断しているが、被告は、その具体的な根拠を何ら主張立証しないので、右判断を是認することはできない。

以上のとおりであるから、本願発明について、引用例との対比においてその進歩性を否定した審決の判断は誤りであつて、審決は、違法として取消を免れない。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

トレイ表面の活性主部分並びに各々が孔のない側壁と端部壁及び底部に液体シーリング可能出口手段を具備する平行に排列された複数の狭いチヤンネルを含有する蒸気―液体接触用トレイであつて、少なくとも三つのチヤンネルが実質的にトレイの周縁から周縁へと延び、かつ、全トレイ面積の単位平方フイート当り一・〇ないし五・〇フイートのチヤンネル入口縁長さをもたらすように実質的に等間隔で配置されており、チヤンネルの壁の上部縁がトレイの最大全高さを限定する単一平面でトレイの活性表面より上に配置されていることを特徴とする蒸気―液体接触用トレイ

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