大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)61号 判決

一、請求原因第一、二、三項の事実については当事者間に争いがない。

二、そこで、原告主張の審決取消事由の有無について判断する。

(一)、成立に争いのない甲第二号証によれば、本件特許発明においては、密封リング41の両側面に設けられ、かつ、その嵌込溝内に通ずる流体の導入口は、密封リング自体に直接設けられており、また、このような密封リング41の背面(凹形下面)と溝の底面との間に密着する弾性部材50を挿入・充填した構成をとつていることが明かであり、また、この構成によつて、つぎの効果があることが認められる。

1、両側の導入口60、61は、密封リング41自体に直接設けられていることにより、ともに密封リングの背面側に通じることが可能であり、しかも介在する弾性部材50が両側の導入口の連通を遮断する。したがつて、閉弁時に流入側導入口60を通じて溝内に流入する流入側(高圧側)流体はその圧力により弾性部材50を押圧するので、溝内の流出側に入つていた流体は弾性部材50の圧縮変形にしたがつて流出側導入口61を通じて排出され、弾性部材50の圧縮変形により流出側導入口61が閉塞される。それと同時に、密封リング41はその背面に直接作用する流入側流体圧力および弾性部材50の圧縮変形による押圧力により弁座に押圧されて密封効果を高め、また場合により弁の両側で流体圧力が逆になつたときにも、密封リングの両側面の導入口を通じる流体の流出・流入が逆になるだけで右と同様の密封効果が維持できる。

2、溝内に通ずる両側の導入口を弁体または弁主体自体に加工する必要がないので、それだけ弁の加工が容易である。

(二)、ところで、原告は、本件特許発明における上記のような構成および作用効果は各引用例および出願当時の技術水準から容易に推考、予測される旨主張するので、以下、これを検討する。

1、成立に争いのない甲第三ないし第五号証によると、第一引用例、第三引用例は溝内に嵌めこんだ密封用のリング(第一引用例では環状密封部材21、第三引用例では弁座リング10、11、12)とその背面に弾性部材(第一引用例では0リング27、第三引用例では密封リング17、20)を組合せた密封手段を開示し、第一引用例には嵌込溝からの密封リングの突出を限定する肩(第一引用例の環状リブ25)を示しているが、いずれも密封用リングの背面に流体圧力を作用させるための構成を備えておらず、作用効果において流体圧力を利用して密封用のリングを押圧して密封効果を高めることは何ら意図されていないものと認められる。また、第二引用例のものは、密封リング(第二引用例のパツキング7)を嵌めこんだ弁体の環状溝内に通ずる流体の導入口を溝の流入側に設け、これを通じて溝内に入つた流入側流体圧力により密封リングの背面を押圧してこれを弁座に密接させるようにした弁を開示しているが、本件特許発明のように弾性部材の組合せたものでないうえに、流体の導入口を密封リングの両側に設けておらず、もし流体圧力が弁の両側で逆になつた場合には密封リングは弁座との密接から離れる方向に押圧され、密封状態を維持することができないもので、本件特許発明とは、その構造および作用効果において著しい差異があることが認められる。

2、弁主体自身または弁体自身にではあるけれども、密封リングの両側に、密封リングを受け入れる溝内に通じる流体圧に導入口を設け、一方の導入口は排気、他方の導入口は加圧流体に通じて閉弁時に密封リングを圧縮歪ませて流体の密封効果を高める技術は出願当時技術水準として存在したことについて当事者間に争いがない。そして成立に争いない甲第六号証および同第七号証によると、これらに記載の弁はいずれも右の技術水準を具現するものであつて、溝内に通ずる密封リングの両側の流体導入口は弁主体または弁体自体に設けられており、かつ密封リングはその背面側に別個の弾性部材が組合されてなく、それ自体が溝の底面に密着している構成を有し、この構成のため、(イ)閉弁時に流入側導入口から溝内に入つた流体圧力は、密封リングの側面だけに作用して、単にこれを押圧変形させることにより弁体または弁座に押しつけ圧力差の確保を補おうと作用するにすぎず、本件特許発明のように、両側の導入口を密封リング自体に直接設けることにより両側の導入口がともに密封リングの背面側に通じ、しかも介在する弾性部材が両側の導入口の連通を遮断することにより、閉弁時に流入側導入口から入つた流体圧力が、弾性部材を圧縮変形させて密封リングを押圧するだけでなく、直接密封リングの背面に作用して密封効果を高めるようなことは何ら示唆されていないと認められる。のみならず、甲第六号証の弁における「密封リングの面78に加わる流体圧力」とは密封リングの両側において溝内に通ずる導入口によつて密封リングの背面にもたらされる流体圧力ではなくて、それとは別個に設けられた導孔98・103、チエツクバルブ96・97、導孔101およびそこから溝の底面に開口する導孔102よりなる流路系を経て密封リングの背面にもたらされる流体圧力を指すことが明かであり、このような別個の流路系を設けることなく密封リング自体の両側に直接設けた導入口を通じている本件特許発明の構成・効果と同列に論ずること自体が当を得ないと考えられる。また(ロ)溝内に通ずる両側の流体導入口を弁主体または弁体自体に加工しなければならず、密封リングに嵌込溝の加工をするのに比べ簡易さに劣ることが明らかである。なお、この点に関する原告の反論は密封リングを嵌めこむ溝の加工に関することであつて、導入口の加工に関することではないので失当である。

(三)、以上のとおり、本件特許発明の構成および作用効果と各引用例および出願当時の技術水準との対比検討の結果によれば、「密封リングの両側面に溝内に通ずる流体の導入口を設け」た構成は、出願当時の技術水準および各引用例に開示されることがなく、これによる作用効果もこれらから全く期待できない顕著なものがあるといいうる。そうすると、本件特許発明が各引用例から容易に想到できないと判断した審決には原告主張のような誤りはない。

三、よつて、原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却する。

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