東京高等裁判所 昭和51年(う)1109号 判決
被告人 向後健治
〔抄 録〕
職権をもって調査すると、原判決は、「罪となる事実」二において、公訴事実第二(後記当審認定の「罪となるべき事実」二に同じ)と異なり「(被告人は)反覆継続して自動車を運転しているものであるが、前記日時場所(原判示一の事実によれば、昭和四九年一一月一七日午後五時三五分頃、千葉県海上郡飯岡町飯岡二、六一三番地付近道路である)において、前記車両(同、普通貨物自動車である)を運転して、車道の巾六メートルの道路左側を銚子市方面から旭市方面に向って時速五〇キロメートルで走行中、進路である道路左側車道の前方約六〇、七メートルの地点に人影を認めたのであるから、これとの衝突を避けるため徐行し、警音機を鳴らすなどの措置をとるか、或いは十分な間隔をとってその傍を通過できるようにその挙に出でて走行すべき注意義務があるのに、これを怠ってそのまま進行し、人(古川佐平)との距離が約二八・二メートルに迫るも停止の措置をとらずに初めて徐行し、次いで約七・七メートルに近接してから停止の措置をとりハンドルを右に切ったため、自車を横向きに滑走させて佇立していた古川佐平(六四年)に衝突させ、更に対向して来た植村健(二九年)運転の普通乗用自動車に衝突させ、よって、右古川に対し加療約五か月間を要する頭部外傷その他の傷害を、右植村に対して加療約二八日間を要する頸椎捻挫の傷害を各負わせ(たものである。)」との事実を認定判示しているのであるが、これでは、本件事故の原因となったとされる被告人の所為、すなわち、二八・二メートルに迫るも停止の措置をとらずにはじめて徐行し、次いで約七・七メートルに近接してから停止の措置をとり、ハンドルを右に切った点が、いかなる注意義務に違反するかが判示されておらず、また、当時降雨で路面が湿潤し滑り易い状況にあったという特段の事情を判示しなかったため、被告人の右所為が通常の事態においては事故を避けるに足りる措置と考えられるものであるのにもかかわらず本件では自車を滑走させて本件事故及び致傷の原因となるに至った経過も判然とせず、判文上は経験則に反する事実を記載したものとなっている点で、理由不備の違法があるものといわなければならない。(中略)
(罪となるべき事実)
原判決の「罪となる事実」二を、
「二、反覆継続して自動車運転の業務に従事するものであるが前記日時場所において、前記自動車を運転し、銚子市方面から旭市方面に向かい時速約五〇キロメートルで進行中、左前方約二八メートルの道路左側に古川佐平(当六三年)ほか一名が佇立して立話をしているのを認め、その右側方を進行しょうとしたものであるが、当時降雨で路面が湿潤し滑り易い状況であったから減速徐行し、同人らと十分横の間隔をとりつつその動静を注視して進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、漫然前記速度で同人らの右側直近を進行しょうとした過失により、同人らと約七・七メートルに接近して同人らを避けようとして不用意にブレーキをかけ右に転把したため、自車を右斜めに滑走させその際自車の左側面を前記古川佐平に衝突転倒させ、さらに対向してきた植村健(当二九年)運転の普通乗用自動車に自車の左側面を衝突せしめ、よって前記古川に対し加療約三〇日間を要する頭部外傷及び前記植村に対し加療約二八日間を要する頸椎捻挫の各傷害を負わせ」
と改めるほかは、原判決の右欄記載のものを引用する。
(木梨 奥村 佐野)