東京高等裁判所 昭和51年(う)1248号 判決 1976年10月18日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は弁護人庄司宏および被告人本人作成名義の各控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、東京高等検察庁検察官検事三野昌伸作成名義の答弁書に記載されたとおりであるから、これらをここに引用し、これに対して、当裁判所は、次のとおり判断する。
第一、弁護人の控訴趣意一は、法令適用の誤りを主張し、原判決は、被告人の七回にわたる本件無免許運転行為を刑法四五条前段の併合罪と解して、併合罪加重を施しているけれども、本件の場合は、犯意の同一性、継続性、犯罪の同一性(同一構成要件の充足)、被害法益の単一性等の観点から、包括一罪と解すべきであるというのである。
しかしながら、犯罪の個数は、社会通念から見た犯罪行為の回数、法益侵害の回数、犯意の個数等種々の観点から総合的に観察して決すべきところ、自動車の無免許運転罪においては、特定の日に特定の車両を運転したときに、社会通念上一回の犯罪行為がなされ、その都度道路交通の安全と円滑に対する危険が生じたものと考えられ、これらの点に着目すれば、たとえ無免許運転の犯意が数回にわたって同一または類似のものであるとしても、特定の日に特定の車両を運転した毎に一罪が成立するものと解するのが相当である(広島高等裁判所昭和四一年四月一四日判決((高刑集一九巻三号二九六頁))、東京高等裁判所昭和四四年一〇月一三日判決((高刑集二二巻五号七五四頁))、同裁判所昭和四九年六月一三日判決((判例時報七五八号一一八頁))参照。)。してみれば、被告人が、原判示のとおり、昭和五〇年一二月二三日、同月二五日、同月二六日、同月二九日、同月三〇日、同五一年一月七日および同月一二日の前後七回にわたり、無免許で普通乗用自動車を運転した本件行為につき、七個の無免許運転の罪が成立し、これらが刑法四五条前段の併合罪の関係にあるものとして処断した原判決は、法令の適用を誤ったものとはいえない。論旨は理由がない。
第二、弁護人の控訴趣意二および被告人本人の控訴趣意は、いずれも量刑不当を主張し、犯情に照らして、被告人に対しては、より寛大な刑をもって処断すべきであるというのである。
よって記録を調査して検討すると、本件の事実関係は、原判決の認定判示するとおりであって、被告人が昭和五〇年一二月二三日より同五一年一月一二日に至る間前後七回にわたり小田原市内において普通乗用自動車を無免許運転したというものである。関係証拠によれば、被告人は従業員一五名を抱えて土木建築請負業を営み、月収二〇〇万円を挙げ、自己名義の乗用自動車二台を保有していたものであるが、臨時雇の運転手が昭和五〇年末から働きに来なくなったため、工事現場への往復などにたやすく本件無免許運転をくり返したこと、昭和四八年以来本件犯行に至るまでに無免許運転により四回罰金刑に処せられていたにもかかわらず、反省することなく本件犯行に及んだこと、被告人には原判示窃盗罪および傷害罪の二個の累犯前科(なお、刑法の累犯加重の規定が日本国憲法三九条に違反するものでないことは、最高裁判所昭和二四年一二月二一日大法廷判決((刑集三巻一二号二、〇六二頁))の示すとおりである。)ならびに前記無免許運転の前科のほかにも、窃盗、横領、傷害、脅迫、銃砲刀剣類所持等取締法、麻薬取締法各違反等による前科九犯があり、被告人は遵法精神の欠如が著しいとみられることなどの事情がうかがわれ、被告人の刑事責任は重いものといわなければならない。
してみると、本件はいずれも、被告人の雇った運転手が働きに来なかったための犯行であること、被告人は本件犯行の際を含め、これまで交通事故を起こしたことはないこと、被告人が実刑の執行を受けると、その家族の生活が困窮するであろうと思われることなど、所論指摘の諸事情を十分斟酌するとしても、被告人に対し懲役五月(求刑懲役六月)を科した原判決の量刑はやむをえないところであって、決して重きに失して不当であるとはいえない。この点に関する論旨も理由がない。
よって、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 綿引紳郎 裁判官 石橋浩二 藤野豊)