東京高等裁判所 昭和51年(う)1398号 判決
被告人 伊藤専 外六名
〔抄 録〕
職権をもって、本件記録を調査検討してみると、本件に関する原審各公判調書のうち、別紙一覧表記載の各年月日に行われた第四回ないし第九回、第一一回ないし第一三回の各公判調書には、いずれもその各末尾に、調書作成者として、裁判所書記官大曽根梅次の署名押印がある。
一方、右各公判調書中の公判列席書記官の表示に関しては、右一覧表記載のごとく、第四回、第六回各公判調書においては第一回公判調書が、第五回公判調書においては第四回公判調書が、第七回ないし第九回および第一一回ないし第一三回の各公判調書については、第六回公判調書の各記載がそれぞれ引用されているところ、右各引用の公判調書の基礎となっている本件第一回公判調書には、裁判所書記官羽生忠が同公判列席書記官として表示されている。
ところで、刑訴規則四六条一項により公判調書に署名押印することを要する裁判所書記官は、当該公判に列席した裁判所書記官を指すものであることはいうまでもないところ、前記裁判所書記官大曽根梅次が原審第四回ないし第九回、第一一回ないし第一三回の各公判に列席したことは、右各公判調書によっては証明することはできないばかりでなく、右各公判調書の記載によれば、右当該各公判期日における立会書記官は同人ではなく、裁判所書記官羽生忠であると認められる。そして、刑訴法五二条は、公判期日における訴訟手続で公判調書に記載されたものは、公判調書のみによって証明することができる旨規定しており、公判調書以外の資料による証明を許さないのであるから、裁判所書記官大曽根梅次の署名押印のある前記各公判調書は、結局公判に列席しない者の作成した公判調書として無効なものといわなければならない。
そして、右各公判調書によれば、別紙一覧表「審理経過」欄記載のごとく、証人尋問、証拠書類、証拠物の各取り調べ等、原審訴訟手続の基礎をなす重要な訴訟手続がなされたことが認められるのであり、特に、第五回公判において取り調べられたとされる証拠物ならびに第一二回公判において取り調べたとされる額賀伸仁(昭和四六年六月一八日付)、高部商(同年六月二〇日付)の検察官に対する各供述調書は原判示第一の証拠として原判決が挙示して採用しているところであり、又前記各公判において取り調べた証人については、その各証言内容が原判決挙示引用する右各証人の検察官に対する各供述調書の記載内容との相反性の認定および右各検察官に対する供述調書の特信性の有無を判断する前提となっているものであって、前記各公判調書が無効のものである以上、前記各検察官調書取調べの前提を欠き証拠として採用するに由ないものであり、結局右各公判における訴訟手続が適正に履践されたか否かについてはこれを明らかにすることを得ず、原判決の基礎となった前記各公判手続を有効と認めることができない本件においては、原審の訴訟手続を失わしめるものというべく、右訴訟手続の法令違背が判決に影響を及ぼすものであることは明らかであり、原判決はこの点において破棄を免れない。
(谷口 金子 小林)