大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(う)1449号 判決

被告人 廣野充

〔抄 録〕

まず、被告人を秋間徹也と表示する前記略式命令における被告人とは具体的に誰を指すものであるかについて考えてみるに、略式手続は書面審理によって略式命令を発するものであり、被告人の選別機能を有する人定質問の手続を経ないのであるから、この場合誰を被告人として具体的に特定するかは、起訴状に表示された被告人の氏名及び被告人を特定するための記載事項によってこれを決するのほかなく、このことはいわゆる三者即日処理方式による略式命令においても異なるところはない(昭和五〇年五月三〇日最高裁第三小法廷決定・刑集二九巻五号三六〇頁及び昭和四九年八月二九日東京高裁判決・高刑集二七巻四号三七四頁参照)。したがって、前記略式命令における被告人はその表示のとおり氏名等の被冒用者である秋間徹也であって、本件被告人廣野充ではないと解すべきである。<中略>

よって次に、前記略式手続以後の経過について検討を進めると、検察官は、前記略式命令に対する正式裁判の請求をした後、本件被告人(廣野)を指向して公判手続を進めるべく、起訴状における被告人の氏名等の表示を「秋間徹也」のそれから「秋間徹也こと廣野充」のそれに訂正することを求め、更に酒酔い運転の訴因に無免許運転の訴因を追加する趣旨の訴因、罰条の変更を請求するなどしたが、いまだ正式裁判が開かれない間に急きょ右の方針を変更し、さきの正式裁判の請求を取り下げているのである。<中略>このようにみてくると、当該裁判所における手続は、いまだ公判を開くまでの段階に達していなかったのみならず、右のように検察官において正式裁判の請求を取り下げたのであるから、これによって正式裁判の請求以後になされた手続はすべて無に帰したものというべく、前記略式命令請求による公訴提起に端を発したその手続は、結局正式裁判の申立がなされる前の状態、即ち略式命令が発せられた段階に復したとみられるのであり、…………。したがって、この場合における被告人が具体的に誰であるかの問題は、前記略式命令についてのその点に関する結論と全く同一である。ところでその略式命令は刑訴法四六三条の二第一項所定の期間内に被告人と認められる秋間徹也に告知されていないので、立川簡易裁判所は右略式命令を取り消したうえ公訴を棄却してその手続を終ったものであり、本件被告人(廣野)に対する略式命令により実体的裁判がなされ、それが確定したというものではないのであるから、原判決が本件起訴状記載の公訴事実第三の事実について免訴の判決をせず、これに対し有罪の判決(原判示第三の事実)をしたことは正当であって、所論のような刑訴法三三七条一号の解釈、適用の誤りはないというべきである。

(服部 藤井 中川)

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