大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(う)152号 決定

被告人 木崎進

〔抄 録〕

記録によれば、被告人は昭和四八年二月一六日覚せい剤取締法違反の罪で勾留され、同年三月七日横浜地方裁判所川崎支部に同罪で起訴されたのち、同年七月一四日保証金を五〇〇万円とし、「住居を大阪市東住吉区喜連町一一四二番地(その後地番変更により同市平野区喜連西一丁目五番九号となる)に制限する。十日以上の旅行または転居(制限住居を変更)しようとするときは裁判所の許可を得なければならない。」等の遵守事項に違反するときは保釈が取り消され保証金を没取されることがある旨の明示のもとに、保釈を許可され、同日出所したこと、原審第一三回公判期日(昭和五〇年二月二一日)に被告人は何の理由も申し出ずに出頭せず、予定された証人尋問ができなかったこと、同年七月四日に指定された第一五回公判期日の被告人に対する郵便による召喚状は、被告人宅が不在で配達されず保管期間中に被告人が受け取りにいかなかったため結局送達されず、同期日の証人尋問も被告人の不出頭のため流れたこと、同日原審に「被告人がうつ状態で同年三月五日入院したが、現在その症状が著しく悪い」旨の同年七月三日付の宝塚三田病院医師山西悦郎作成の診断書が提出されたが、同月四日の公判では弁護人から被告人の症状・入院の事実の有無等について何の説明もなかったこと、公判期日は追って指定することとされたが、それ以後は同医師作成の同月一六日付診断書が原審に提出されただけであること、検察官は昭和五一年三月一七日刑訴法九六条一項二・五号に該るとして保釈取消請求をし、原審は同年六月一七日右事由があるとして被告人の保釈を取り消し、保釈保証金五〇〇万円を没取したことが明らかである。

ところで、検察官は右取消請求の疎明資料として、兵庫県三田市の宝塚三田病院を調査した結果、被告人は昭和五〇年三月五日から同年八月三〇日までうつ病で同病院に入院していたが、その後一度も病院にきていない旨の三田区検発信の同年一二月二六日付電信照会回答書、被告人は指定住居地に現住せず、行方も不明であり、現住する妻が被告人は約一年前から帰宅していない旨申し立てている旨の大阪地検発信の昭和五一年二月二日付、三月五日付各電信照会回答書、妻から事情を聴取したところ右と同様の供述を得た旨の同地検公判部検察事務官山中福翁作成の同年六月三日付報告書等を提出し、また原審裁判官作成の六月一一日付電話聴取書によると、右山中は右裁判官に対し、前示二月と三月の回答のときは警察官が、六月のときは右山中外一名の検察事務官がそれぞれそのころ指定住居地に赴き、被告人の妻に直接会って確認した旨述べている。これに対し弁護人は、被告人は同病院を退院してからも同病院に通院して自宅療養しており、逃亡していないこと、被告人は当時極端に人を避けるようになり、電話にも出ず、妻も友人と称する人からの電話を被告人に取りつがず在宅しない旨述べたことがあること、被告人は昭和五一年四月一日から別件で大阪府淀川警察署に逮捕・勾留され、妻はその差入れ等をしていたから、前示六月三日付報告書のような内容を供述するものとは考えにくいこと、検察官提出の資料中の日時ころ妻は友人と称する人からの電話で事情をきかれたことはあるが、直接自宅に訪ねられて調査を受けたことはないことを主張し、被告人が退院後も五一年三月まで毎月一回外来として同病院に通院し投薬を受けていたという内容の医師作成の証明書、被告人の逮捕・勾留に関する警察署長作成の証明書等を提出している。当審で検察官に意見を求めたところ、検察官からは特に反論はなく、かえって前示山中は弁護人指摘のとおり直接被告人の妻に会って調査したものではなく、友人と称して電話をかけたにすぎないことが判明した旨回答している(裁判所書記官皆川靖久作成の七月八日付電話聴取書)。以上によると検察官提出の疎明資料の内容には疑問点が多く、そのまま信用するわけにはいかず、被告人が前示病院を退院後指定住居地に居住せずに逃亡していたと認めまたは被告人に逃亡すると疑うに足りる相当な理由があったと断ずるには資料が十分でない。

しかし、一方において、前示のように、被告人は昭和五〇年三月五日から同年八月三〇日まで六か月余りの長期間他県にある宝塚三田病院に入院しており、これは保釈の遵守事項中の住居の変更に該ると認められるが、被告人はそのことについて裁判所の許可を求める措置をとらなかったことが記録上明らかである。しかも前示のように右入院中の第一五回公判期日の被告人に対する制限住居地宛召喚状が送達されなかった事態も生じており、また第一三回公判に何の断わりもなく出頭しなかったという不誠実な態度もうかがわれる。以上に徴すれば、被告人に刑訴法九六条一項五号の事由が存在することは否定できず、被告人の保釈を取り消した原決定部分が違法・不当であるとはいえない。他方において、入院後約四か月後ではあるものの、原審に提出された被告人の診断書中に被告人が三月に入院した旨の記載があり、原審は当然この事実を知ったと思われるのに、制限住居に関し何らの調査・措置も講ぜずにそのまま放置してきた事情にかんがみれば、保釈保証金五〇〇万円全額を没取するのは相当でなく、諸般の事情からみて保釈保証金中二〇万円を没取するのが適切であると考えられる。

(柏井 渡辺 中西)

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