東京高等裁判所 昭和51年(う)1955号 判決 1977年2月16日
被告人 高部良一
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役八月および罰金三万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
押収してある改造拳銃三丁(東京高裁昭和五一年押第七六九号の一六ないし一八)および模造拳銃一五丁(同押号の一ないし一五)を没収する。
原審および当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人山川洋一郎作成名義の控訴趣意書並びに弁護人神垣秀六作成名義の補充控訴趣意書にそれぞれ記載されているとおりであるから、これらをここに引用する。
一、弁護人山川洋一郎の控訴趣意第一(事実誤認)の論旨について。
所論は、原判示第一の金属性弾丸の発射機能を有する玩具改造拳銃三丁のうち一丁(浦和地裁熊谷支部昭和五一年押第三二号の一七)は、被告人から任意提出した当時、銃口閉鎖の銃身が取り付けられた弾丸発射機能を有しない模造拳銃であつたところ、警視庁科学検査所における鑑定の際、係官が右銃身を、銃口が貫通した銃身と取り替えはめこんだため、弾丸発射機能を有するに至つたもので、もともとは模造拳銃であつたものであり、これを被告人が所持した当時から弾丸発射機能を有する改造拳銃であると認定した原判決は事実を誤認したものである、というのである。
しかしながら、原判決挙示の関係証拠、特に浦和地裁熊谷支部昭和五一年押第三二号の一七の改造拳銃一丁に、当審で取り調べた証人大町茂、同田島三男の各証言並びに銃身七本(東京高裁昭和五一年押第七六九号の二五、同押号の二六)を総合して検討してみると、本件の捜査に当たつていた警視庁刑事部捜査四課所属警部補田島三男は昭和五〇年九月二二日被告人宅作業所に赴いた際、同作業所内西側の机やその引き出しの中などから機関部分が改造された拳銃の本件拳銃の本体部分や、本体に取り付けられていない拳銃用銃身数本を発見し、右銃身のうちの一本は、銃口が閉鎖されておらず開通し、本体への取り付け部分がネジ込み式となつていること、本件拳銃の本体部分もネジ込み式で銃身をはめこむ装置となつていることを認め、右銃口の閉鎖されていない銃身をこの本件本体部分に取りつけ可能ではないかと考え、被告人にその旨質問し、同人もその然る可き所以の説明をしたので、同人の了承のもとに同所において同人の面前で、右銃身を本件拳銃の本体部分に取り付け、これを被告人から任意提出を受け領置したことが認められる。
ところで、右のように、拳銃の本体部分と銃身とが容易に取りはずし可能なもので、各部分とも同一人の所有に属し、同一場所に保管されていて、右銃身部分を本体部分に取りつけようと思えば、同所に備え付けられた道具を用いることによりいつでもそれが可能な状態に置かれているときは、たまたま、それが銃身と本体部分に二分され銃身が本体部分にはめこまれていなかつたとしても両者一体として一個の拳銃を所持していたものと認めるのが相当である。
ところで、被告人は、原審公判廷、検察官に対する昭和五一年四月七日付供述調書中において、所論にそう供述をするが、右各供述部分が措信し得ないことは当審証人大町茂、同田島三男の各証言、被告人作成の任意提出書、司法警察員作成の領置調書に照らして明らかであり、又、本件拳銃の銃身の取替は、武蔵野警察署において被告人の知らぬ間に行われたものであるとの当審における被告人の公判廷における供述部分も、前記各証拠に照らしてにわかに措信することができない。
以上の事実に、警視庁科学検査所物理科主事大町茂作成の昭和五〇年一〇月一三日付鑑定書(昭和五〇年一〇月三日付武捜第一二五三号嘱託に対するもの)を総合すれば、本件拳銃が弾丸発射機能を有する改造拳銃であることは明らかであり、これと同旨の原判決の事実の認定に所論のような誤認はない。論旨は理由がない。
二、弁護人山川洋一郎の控訴趣意第二および弁護人神垣秀六の量刑不当の論旨について。
所論に徴し、記録並びに原裁判所が取り調べた証拠に当審における事実取り調べの結果を総合して認められる諸般の情状、とくに、被告人は、少年時代からモデル・ガン受好者であつたが、高校を卒業後大学受験に失敗したことなどから、モデル・ガンを改造してこれを売り出そうと考え、昭和四九年三月ころから自宅の物置を改造し、そこに旋盤機械やモデル・ガン改造の為の工具を備えるなどしたうえ、玩具店から購入してきたモデル・ガンの機関部分を改造したり銃身を鉄製のものに取り替えたりして本物の拳銃に似せたものに作り替え、これを自ら所持し、あるいは雑誌に広告を出すなどして他に通信販売をしたものであり、本件起訴にかかる模造拳銃の数も一九丁の多数にのぼり、そのほか弾丸発射機能を有する改造拳銃三丁をも所持していたものであつて、後者の三丁は人を殺傷する道具として使用されかねない危険性を有するものであることを思うときは、被告人の本件所為は危険性を孕んだ行為であるといわなければならない。しかしながら、本件犯行は被告人の前記モデル・ガンに対する興味がそのまま高揚したものであり、巷間出まわつている雑誌などに法に違反する疑いすら抱かせる模造拳銃の販売広告が堂堂と出まわり、販売されていることを考慮すると、被告人の本件犯行の動機に同情し得る余地もないではないこと、被告人の意図していた販売対象者もモデル・ガン愛好者であつたこと、被告人は、若年であつて、前科、前歴もなく、本件の非を悟り、モデル・ガン改造機械を他へ処分し、本件以外の被告人が他に売却した模造拳銃の回収にも努め、約一〇丁の模造拳銃を販売先から回収して警察へ提出し二度と同様の過ちを犯さないことを誓つていること、被告人は現在本庄市内の看板広告会社に就職して真面目に稼動するとともに再度大学受験の準備にとりかかろうと決意し、更生の意欲も十分に認められること、その他、所論の被告人にとつて有利な、又は同情すべき情状を考慮すると、この際、被告人は原判示第一の事実について、ただちに懲役刑の実刑に処するよりは相当期間その刑の執行を猶予して社会内において自力更生の機会を与えることが相当であると認められる。論旨は理由がある。
よつて、刑訴法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により、被告事件につきさらに判決する。
原判決が適法に確定した事実に原判決と同一の法令を適用・処断した刑期並びに罰金額の範囲で、被告人を懲役八月および罰金三万円に処し、労役場留置につき刑法一八条を、懲役刑の執行猶予につき同法二五条一項を、没収につき同法一九条一項一号、二項を、原審並びに当審における訴訟費用の負担につき刑訴法一八一条一項本文をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 谷口正孝 金子仙太郎 中野久利)