東京高等裁判所 昭和51年(う)201号 判決
被告人 谷中弘二
〔抄 録〕
所論に鑑み、記録及び原裁判所が取り調べた証拠を検討すると、原判決が、原審公判廷における被告人らの強盗の犯意を否認する主張を排斥し、その挙示引用する当該関係証拠により、被告人に対し原判示第二、の一、の(五)の強盗致傷の犯罪事実を認定した措置は優に首肯することができる。すなわち、関係証拠を総合すると、被告人は、本件当日原審相被告人諸室清の運転する自動車に同乗して栃木県小山市に至り、同市内のキンカ堂デパート西側駐車場に駐車中、ハンドバッグを提げて歩行中の被害者八島百合子を発見するや、被告人らはともに小遣銭に窮していたところから、同女のハンドバッグをひったくり取ろうと話し合ったうえ、時速約一五キロメートルの速度で同女の後方から接近し、原判示場所付近の路上で同女の右脇を通過する状態となった途端、助手席の被告人が窓から身をのり出し、矢庭に同女のハンドバッグ及びバッグの提げ紐を両手でつかんで引っぱったが、同女がハンドバッグ等の提げ紐を右腕の肘関節部に通してしっかり持っていたところから、これまで行ってきたひったくり窃取の場合と異なり容易にハンドバッグ等の提げ紐が同女の手から離れず、その提げ紐ごと同女の身体を引きずる結果となり、ハンドバッグ等が同自動車の左ドア付近にバタバタと音を立てて接触するに至ったが、被告人は右の接触音や同女の悲鳴を聞きながらも、なおも強いてこれらを奪取すべく強引に提げ紐を引っぱったこと、一方、諸室清は、右のバタバタという音を聞いて、同女がハンドバッグを容易に離さずに被告人と同女とが互に引ぱり合いをし、そのため同自動車が同女を引きずっている状況にあるのだということを察知しながら、かまわずに速度を時速約二〇キロメートルに加速して走行を続けたこと、被告人らは、結局同女を約五メートルを引きずって路上に転倒させ、ようやく同女からハンドバッグ等奪取の目的を遂げたこと、その間同女は同自動車に接触または轢過されることを虞れ、首をそらせて危難を逃れることに精一杯となり、同女の抵抗は完全に抑圧された状態にあったこと、右暴行により同女は原判示の傷害を負ったことの各事実が明らかである。してみれば、右のように容易に同女からハンドバッグ等をひったくることができず、ハンドバッグごと同女の身体を引きずっていることを認識しながら自動車の速力を利用してあくまでもこれを奪取すべく、なおも提げ紐を強引に引っぱりながら走行を続けた被告人らの前記所為は、同自動車と同女との接触あるいは同女の転倒等を招き同女の生命身体に対し重大な危害を及ぼす可能性のある極めて危険な行為というべく、これが同女の抵抗を抑圧するに足る暴行に当ることは勿論であるから、被告人らは同女の身体を引きずっていることを認識した段階において暗黙のうちに互に強盗の犯意を共通にしたというべきであり、しかして、右暴行により同女に対し原判示の傷害を与えたものである以上、被告人は、傷害の点についての認識の有無にかかわらず、強盗傷人罪の罪責を免れないことは当然であって、原判決には所論の事実誤認を疑うべきかどは毫も認められないから、この点の論旨はすべて理由がない。
(時国 奥村 佐野)