東京高等裁判所 昭和51年(う)2409号 判決
被告人 石元強平
〔抄 録〕
次に、記録並びに原裁判所が取調べた証拠を検討すると、原判決がわいせつ写真と認定した写真七八三枚は、いずれも、男女性交の場面あるいは女性が男性器を模したがん具をもて遊んでいる場面などを撮影した写真であって、そのうち無修正の白黒写真五二枚(原審昭和五一年押二三号の五、同押号の六の三九、五〇。ただし、以上のうち五については、被告人は販売目的を否認している)、同じくカラー写真四枚(同押号の七の五、同押号の八の二三九、二四七、四〇八。ただし、うち二枚は、女性がパンティを着用し、他の一枚は陰部を布で覆い、いずれも性器及びその周辺を露出していないもの)、黒マジックインキで男女の性器及びその周辺を塗りつぶして修正した白黒写真三一四枚(同押号の六の一ないし三八、四〇ないし四九、五一ないし八一、同押号の九の一ないし二三五)、同じくカラー写真四一三枚(ただし、ネガの段階で男女の性器及びその周辺を修正塗抹し、そのネガを焼き付けてできた写真の右修正部分をことさら黒マジックインキで塗りつぶしたもの。同押号の七の一ないし四、六、同押号の八の一ないし二三八、二四〇ないし二四六、二四八ないし四〇七、四〇九ないし四一一)に大別され、更に、後者のカラー写真中には、原審弁護人が市中で販売されていて警察当局においてもわいせつ性がないとして取締りの対象としていないものとして提出した写真一枚(同押号の一〇の三)と同一と思われる写真一枚(同押号の七の六)も含まれているのであり、被告人及び弁護人は、原審公判以来黒マジックインキで性器等を塗りつぶした右写真のわいせつ性を終始争っているところである。他方、原審証人角野勝明の供述及び同人作成の鑑定書によれば、本件押収物たる写真中、白黒写真の一部を塗りつぶした黒マジックインキは、シンナーやガソリンでこれを消去することは困難で、医薬用外劇物であるクロロホルムによって消去することができ、カラー写真のそれは、シンナーでこれを消去することができるが、その消去した跡は白色であって、男女の性器等はもちろん何らの画像を残していないことが認められるのである。しかるに、原判決は、右写真全部につき「男女性交の場面及び裸体あるいは陰部周辺等を露出した女性が男性器を模した玩具を使用して自慰行為を行おうとしている露骨な姿態等を撮影したわいせつ写真」であると判示しているが、実は、原判決が右のごとく一括して判示したところにそわないと認められる右のような多種多様な写真があるわけであるから、原判決はこれらを全然区別せずしてそれ自体が直ちにわいせつであるというのか、そしてまた、女性がパンティ等を着用し性器及びその周辺を露出しないで男性器を模したがん具をもて遊んでいる場面の写真、前記原審弁護人が提出した写真と同一と思われる写真、性器及びその周辺を黒マジックインキ(消去の難易があるが、被告人が店頭に客引として用いているガソリンによる消去は不可能である)で塗りつぶした写真、黒マジックインキを消去しても性器等の写っていない写真等がいかなる事由でわいせつ写真に当たるのか、それらの理由を全く判示していない(なお、黒マジックインキで性器部分等を塗りつぶしたものでも、それが一般人において容易に消去でき、塗抹前の性交場面等の状態に復しうる場合は、わいせつ性の肯定されることは当然である。)。してみると、原判決は、法令適用の基礎となるべき事実の特定があいまいであるばかりか、わいせつ概念についていかなる見解をとり、本件写真をすべてわいせつ図画と断定したものか不明というほかなく、その点で審理不尽又は理由不備の違法があり、ひいては事実誤認及び法令適用の誤りの疑いもあるから、その余の論旨に対する判断をするまでもなく、右のかしは判決に影響を及ぼす可能性のあることが明らかであり、この点で原判決は破棄を免れない。
(谷口 金子 小林)