東京高等裁判所 昭和51年(う)904号 判決
被告人 橋本昭
〔抄 録〕
本件起訴状記載の公訴事実中第二の事実は、被告人は「昭和四九年九月五日午前九時五分頃普通貨物自動車を運転して千葉市方面から銚子市方面に向って進行し、八日市場市飯倉二一番地先の三叉路交差点を千葉県匝瑳郡野栄町方面に向って右折しようとした際、対向する直進車の有無を確認し、もし直進車を発見したときは、同車に進路を譲り、もって事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにかかわらず、これを怠り、直進車の有無を確認せず、時速約八キロメートルで慢然右折した過失により、折りから対向して同交差点に入った木村雅勇(当二八才)運転の原動機付自転車に自車右前部を衝突させて同車を転倒せしめ、よって同人に……傷害を与えた」というのであり、これに対して、原判決は、被告人は「昭和四九年九月五日午前九時五分頃普通貨物自動車を運転して千葉県八日市場市飯倉二一番地先道路を千葉市方面から銚子市方面に向って進行し、同所にある交通整理の行われている三叉路交差点を匝瑳郡野栄町方面に向って右折しようとしたのであるが、かかる場合は対向して来る直進車の有無を確認し、もし交差点付近に対向して来る直進車があるときは、これに進路を譲り、もって衝突事故の発生を未然に防止しなければならない義務があるのに、これを怠って、交差点手前において右前方約二五メートルの地点(交差点入口付近)に、木村雅勇(当時二八年)が原動機付自転車に乗って対向して直進して来るのを認めながら、交差点において右折を開始したため、同人の運転する右車両に衝突しよって同人に対して……傷害を与えた」旨認定判示している。そして右公訴事実と原判決の認定事実とを対比すると、被告人の過失につき、公訴事実においては、直進車両の有無を確認しないで慢然交差点を右折した、直進車両の確認義務違反を訴因として明示したのに対し、原判決の認定事実は、被告人の過失として、右前方約二五メートルの地点に直進車両のあることを確認しながら交差点で右折を開始したこと、すなわち直進車両に対する進行妨害の避止義務違反を認定したものと解され、両者は過失の態様を異にすることが明らかである。このように起訴状の訴因に明示された枠内の過失を認めず、それとは異る態様の過失を認定するには、被告人の防禦の機会を与えるため訴因変更の手続を要するものといわなければならない。
(相沢 大前 油田)