大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(う)972号 判決

被告人 関勇

〔抄 録〕

所論は、原判決には、起訴状に記載された訴因である過失と全く態様を異にする過失を認定して判決をした違法があり、この違法は、刑訴法三七八条三号(審判の請求を受けた事件について判決せず、審判の請求を受けない事件について判決をしたこと、)、または同法三七九条(訴訟手続の法令違反)に該当するというのである。

そこで、原審記録を調査して所論の当否を判断するに、本件起訴状および原審における訴因変更許可決定によれば、本件における公訴事実は、「被告人は、自動車運転の業務に従事する者であるが、昭和四九年二月一三日午前一時五五分ころ、大型貨物自動車を運転し、埼玉県浦和市大字町谷七〇二番地先の交通整理の行なわれている交差点を与野方面から戸田市方面に向かい時速約五〇キロメートルで直進するにあたり、前記交差点の信号機が赤色の信号を示していたから、停止位置で停止すべき業務上の注意義務があるのに、同信号を認めながら、前記速度で進行した過失により、折柄、左方道路から信号機の表示する青色の右折矢印信号に従って進行して来た立原俊行(当時三五年)の運転する普通乗用自動車を左斜め前方約六メートルの地点に認め、急制動の措置を講じたが及ばず、自車の前部を前記立原俊行運転車両の右側前部に衝突させ、よって同人に加療約一年一〇月を要する頭部外傷、右肩甲骨骨折の傷害を負わせたものである。」というのであり、したがって、本件訴因である被告人の過失は、交差点の信号機の表示する信号に従って停止位置で停止すべき業務上の注意義務を怠った過失、すなわち信号による停止義務の違反であることは明らかである。そして、記録によるも、原審の審理を通じ右の訴因を中心として攻撃、防禦が行なわれていることは所論指摘のとおりである。ところが、原判決が罪となるべき事実として認定した過失は、「前方の対面信号が赤を表示しているのを認めたのであるから、自動車の運転手としては、停止位置で停止できるような速度と方法で交差点に接近していくべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、右斜め前方の同交差点角に設置された左方道路通行車両向け信号機の右折可の青色の矢印信号部分のあたりが薄青く光っているのを見て、自車側の対面信号が青色になるのは間近いと判断し、従前の速度のまま交差点に接近していった過失により、折柄同交差点で右折すべく左方道路から同交差点に進入しょうとした立原俊行運転の普通乗用自動車と同交差点内で出合いがしらに衝突した……」というのであり、原判決付加説明によれば、「たとえ見込みどおり交差点進入時には自己側信号が青に変っていたとしても、」被告人は右の過失責任を免れない、というのであるから、原判決が認定した過失は、その態様、過失のあった時点、その前提条件等において、本件訴因である停止義務違反とは全く別個のものというべきである。もっとも、前記の本件公訴事実と原判決が認定した事実とを対比考察すると、いずれも、要するに、同一の日時、場所において被告人の業務上過失により同一人に傷害を負わせたというに帰するのであるから、その間に公訴事実の同一性が認められ、したがって、所論のように、原判決は審判の請求を受けた事件について判決せず、審判の請求を受けない事件について判決をした違法があるとはいえない。しかしながら、公訴事実に訴因として明示されていない前記のような過失を認定するのは、被告人の防禦に実質的不利益を蒙らせるものと認められるから、これを認定するためにはその旨の訴因変更手続を要するものというべきであるが、原審が右手続を経た形跡は記録上認められないから、原判決には訴訟手続の法令違反があるものというべく、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの限りにおいて理由がある。

(服部 藤井 山木)

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