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東京高等裁判所 昭和51年(く)12号 決定 1976年3月10日

少年 S・Z(昭三二・一・三生)

主文

原決定を取消す。

本件を浦和家庭裁判所へ差し戻す。

理由

本件抗告の趣意及び理由は、法定代理人(親権者)S・Y及び同S・Y子共同作成名義の抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用し、これに対して、当裁判所は、つぎのとおり判断する。

本件記録と当審における事実取調の結果を総合するとつぎの点が認められる。

一  少年は、原判示三ないし五の各犯行に及び、その後原判示五の犯行が発覚したため、昭和五〇年七月四日逮捕され、同月一五日東京家庭裁判所で観護措置決定を受け、東京少年鑑別所へ収容された。しかし少年は、同月一九日観護の必要がなくなつたとの理由で右決定を取消されたところ、それから僅か四か月足らずで再び原判示一および二の犯行をするに至つたのである。しかしながら、少年には前科、前歴がないばかりか、少年は昭和四九年七月ころ父の金を持ち出して家出上京した外、本件各犯行以外になんらの罪行をしていない。

二  少年は、知能が低く(I・Q七四、限界級)、性格の面で原決定が指摘するような問題点を有している。しかしながら、少年は、現在深く反省悔悟し、従来の誤つた生活態度を改め、家族と共に両親のもとへ帰つて同人や兄らの指導を受け、正業につくことを誓つており、両親もまた少年とその家族を引き取つて十分監督し、善導することを確約している。

三  少年の両親は農業、養峰業に従事し、少年を保護する能力に欠けるところはない。

四  少年の処遇についての浦和少年鑑別所の判定は、在宅保護が相当であるとしている。

以上の事情を総合して考察すると、少年には非行反覆の危険性がないとはいえず、それを除去するためには少年を保護処分に付する必要があると認められるけれども、その処分の内容としては在宅保護の措置で十分であると考えられる。少年を中等少年院に送致する旨の原決定の処分は著しく不当であると認められる。

よつて本件抗告は、理由があるから、少年法三三条二項により原決定を取消し、本件を浦和家庭裁判所へ差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 東徹 裁判官 石崎四郎 佐藤文哉)

参考三 法定代理人親権者父・母の抗告申立書

抗告書

一 私達S・Zの裁きには不服は有ませんが

一 本人の知能程度六〇~七〇%を思う時、他の少年との共同生活其の他に心配な点

一 妻子の異常なる心配の様子

一 退院後の指導

1 家族全員自宅に同居(全員同意)

2 精神面の教育

3 社会に対し迷惑を掛けない教育

4 生活力をつけさせる(一人前に成る迄援助)

5 再度罪を犯さない教育

6 其の他

7 以上責任を持つて真面目な人間に教育致します

一 以上の事を再考下さいまして減刑の程を御願い致します

父 S・Y

母 S・Y子

昭和五十一年一月二日

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