東京高等裁判所 昭和51年(く)220号 決定 1976年10月21日
少年 Y・O(昭三二・七・二九生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、申立人の差し出した抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用するが、要するに、原決定には処分の著しい不当がある、というのである。
そこで、関係記録を検討してみると、少年は、本件非行(昭和四九年一一月から昭和五〇年一月まで)後の同年二月に、別の非行(窃盗、暴力行為等処罰に関する法律違反)により中等少年院に送致され、昭和五一年三月に仮退院したものであつて、本件非行はいわばその余罪に当たり、もとよりそのことは、処遇を決するについて十分に考慮されなければならない。
しかしながら、原決定が処遇理由として詳しく説示しているとおり、本件非行そのものが、右中等少年院送致の原因とされた非行とは犯罪の性質や規模を異にし、少年の非行性が当時すでに予想以上に深まつていたことを示すものであるうえ、中等少年院における教育にもかかわらず、仮退院後の生活態度が芳しいものでなく、とうてい、右の非行性が改善されたとはいい難い。
そして、右のほか少年の家庭環境、交友関係等をも併せ考えれば、このままでは、少年が再び同じような非行に走るおそれが多分にあり、これを防止し、少年の健全な育成を期するためには、さらに少年院に収容して矯正教育を施すことが必要かつ相当と認められるから、原決定に処分の著しい不当があるとはいえない。
したがつて、本件抗告は理由がないことになるから、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 牧圭次 裁判官 永井登志 彦本郷元)
原審決定(浦和家 昭五一少二六六八号・同二六七四号・同二九七三号 昭五一・九・二決定)
主文
少年を特別少年院に送致する。
理由
一 罪となるべき事実
少年は
第一 Aと共謀の上昭和四九年一一月一六日午前三時頃、川口市○○町××番×号株式会社○ン○シ○ツ○カ○ヤ店内において、同会社代表取締役○田○則管理にかかる現金一〇〇万円定期預金証書一枚(額面七〇万円)、衣類約七〇点を窃取し
第二 A・Bと共謀し
(一) 昭和四九年一二月二八日午前二時頃、川口市○○○××××番地洋菓子店「○○○」において同店経営者○栄○所有の現金三〇、五〇〇円および洋菓子九個を窃取し
(二) 昭和五〇年一月八日午前二時頃、川口市○○○×丁目××番××号洋品店○島○吉方において、同人所有のトレンチコート、スーツ等約九一点を窃取し
(三) 引き続き同日午前三時頃、川口市○○○×丁目××番××号所在○田○三経営の洋品店「○レ○ド○す○」店舗において、同人所有の現金二八、四〇〇円位、レジスター一台、ネックレス等七点を窃取し
第三 Bと共謀し
(一) 昭和五〇年一月五日午前一時三〇分頃、川口市○×××番○○不動産事務所において、同所経営者○満○所有のカセットレコーダー一台を窃取し
(二) 同日午前二時三〇分頃、川口市○××××番地ゲームセンターバンバン店舗内において、同店経営者○田○子所有の現金三五、〇〇〇円位粗品セット、煙草、ドライバー等を窃取し
(三) 同日午前三時三〇分頃、川口市○○町×の×○○ビル内ゲームプレイランド店舗において、同店経営者○井○一所有の現金五五、〇〇〇円、外国製煙草七個、ライター五個、ガム一五個を窃取し
たものである。
二 法律の適用
刑法二三五条、六〇条
三 処遇理由
少年は、当裁判所において昭和四七年少第一六六〇号窃盗、第一七九三号窃盗、同未遂、第一九一七号傷害各保護事件等により一旦調査官の試験観察に付された後昭和四八年一〇月二四日不処分となり、次いで昭和四九年少第四四九九号暴力行為等処罰ニ関スル法律違反昭和五〇年少第二三九号窃盗各保護事件により昭和五〇年二月一二日中等少年院送致の決定を受け、昭和五一年三月二三日静岡少年院を仮退院し、この間昭和五〇年少第五一一号第六九三号各窃盗保護事件により昭和五〇年七月二五日不処分の決定を受けたもので、本件送致事実は右昭和五〇年七月二五日不処分となつた事件と同様いずれも右中等少年院送致決定以前の事実であり、いわゆる余罪の関係にあるものである。
ところで、本件送致にかかる犯罪事実はいずれも計画的に深夜施錠を破壊し屋内に侵入した上での窃盗であり、その被害額も巨額であり、その犯行の態様のほか前件の各犯行等からみると少年の犯罪的傾向は相当進んでいるものといわざるを得ない。
少年は性格的に自己顕示性が強く、軽卒な行動性感情面でのムラの大きさが目立つ特徴があり、仮退院後の少年の行動についてみるに、仮退院後本件犯行発覚により緊急逮捕されるまでの間、わずかに二回短期間のアルバイトをしただけで定職にもつかず遊び廻つており勤労意欲に乏しく、仮退院後においても昭和五一年七月中旬頃本件の共犯者A、Bと共に会社工場からポンドを盗んだことを自供しており(未送致)、仮退院後におけるこのような少年の生活態度をみると、前回の少年院での矯正教育は十分な効果をあげていないとみるほかはない。しかも少年の家庭は父親はなく、母親は掃除婦として朝六時頃家を出て夕刻六時頃帰宅するといつた状態で生活に追われ少年の面倒をみる余裕もなく、実兄は分裂病で投薬療養中で家庭の保護能力は期待できない実状にある。
以上のような諸点から考えると、本件送致事実は、いずれも前回中等少年院送致となつた事件と余罪の関係にあるものではあるが、少年についてはさらに強力な矯正教育を実施する必要があると認められるので、少年を特別少年院に送致することとし、少年法二四条一項三号少年審判規則三七条一項少年院法第四項により主文のとおり決定する。
(裁判官 小池二八)
参考二 少年Y・O作成の抗告申立書
私は、窃盗保護事件により、昭和五十一年九月二目浦和家庭裁判所において、特別少年送致決定を受けましたが、左記理由のとおり、決定に対して不服がありますので、もう一度審判をして下さるようお願い申上げます。
記
私は、昭和四十九年の暮れ、窃盗、傷害事件を起こした為昨年の一月に初めて鑑別所に入り、二月には静岡少年院に送られてしまいました。そして、今年の三月二十三日に、静岡少年院を退院してすぐ、自動車の免許を取るため自動車教習所に通いながら、アルバイトで仕事をしていました。そして、今年の七月二十九日に、友達二人に誘われて自動車整備工場から、チューブ入りのボンド三本を盗みました。それは、私もたしかに共犯ですが、これは、私が盗んだのではないのです。これは、共犯者の一人が盗んで来たのです。私は、この工場の中にも入らなかったし、その共犯者に命令した訳けでもないのです。私はべつにそんな物も盗むつもりもなかったし、むりやり誘われてついて行つたのです。それから、七月の三十日に、私と母兄が住んでいるアパートの自転車おき場から自転車一台盗んでしまいました。でも、こんな事をいつたら言いのがれかもしれませんが、私の家にも、自転車があるし、べつに盗むつもりはなかつたのです。私の住んでいる、アパートの人のだと思つて、十五分か二十分ぐらい借りようと思い、その自転車を盗んでしまいました。ところが、その自転車に盗難届けが出ていたのです。前に一回盗まれた自転車を、私が盗んだと言う事です。それから、私は昨年の二月に静岡少年院に行きましたが、その時、少年院に行つた時の事件で、今から二年前の事件なのです。それで、私が静岡少年院にいる間に、その事件の事を話しておけばよかつたのですが、余罪を話さなかつた事で、今回、この小田原少年院に来てしまつたのです。私も、余罪を話さなかつた事はたしかに悪いと思います。でも、私は、一回少年院に行つて来ました。あまりにも今回の処分はきついと思います。
私も、被害者の方には、なんとおわびをしたらよいか本当に申しわけないと思つております。なんの罪もない人に迷惑をお掛けして、たとえ私が少年院に行つて来たからと言つて許せる問題ではないと思います。私もこの事にたいして本当に、心からすまないと思つておりますし、親、兄弟にも迷惑を掛けた事も、本当に、悪いと思います。でも何故、私と同じ事件を起こした共犯者一人が、たすかるのでしようか。それにたいして納得いかないのです。私の家も生活がらくな方ではありません。長男の兄は病気で、母一人で働いています。私は、手に職がないので、静岡少年院にいる時、退院したら、自動車の、免許を取り、運転手の仕事をやろうと思い、アルバイトをしながら免許を取る事を重点に、教習所に通つていました。そして仮免まで行きました。ところが、少年院に入る、免許は駄目になる、私は、本当につらいところです。被害者の人には本当に申しわけないと思つております。私も、この体で、一生懸命に働き、盗んだお金は、かならずお返しします。ここに、一年いるのでしたら、今すぐにでも働いて、お返ししたい気持です。私は、どうすればいいのでしようか。どうか、もう一度、審判をお願いします。
参考三 中等少年院送致決定(浦和家 昭五〇少二三九号 昭五〇・二・一二決定)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(罪となるべき事実)
一 少年はBと共謀の上、昭和五〇年一月九日午前五時ごろ蕨市○○×丁目×番××号所在の○○生命保険相互会社蕨営業所において、同営業所長○利○造管理にかかる現金二三、九九一円入り金庫一台(八万円相当)合計時価一〇三、九九一円相当を窃取したものである。
二 少年は川口市を拠点とするサーキットグループ「○○○○」のグループリーダーCら成人二名及び少年一二名と共謀のうえ昭和四九年一〇月六日午前一時ごろ、戸田市○○○○○×、×××番地レストラン喫茶「○○○○○」駐車場において同グループがツーリング中、たまたま同所にたむろしていた、戸田市を拠点とするサーキットグループ「○○○○○○○」グループ員Dほか一二名らから「この野郎」などとバイクを蹴るような格好をされたことに立腹し「ふざけるんじやねえ」「俺達は川口の○○○○だ」等怒号しながら、こもごも前記「○○○○○○○」グループ員に対し顔面を手拳で殴打、腹部を足蹴りにする等の暴行を加え、同暴行で気勢を示し更に少年等一三名は「○○○○」の幹部E、Fが「お前らここに正座しろ」と申し向けて、同所コンクリート上に横一列に正座させた前記「○○○○○○○」グループ員を端から一人ずつ殴つたり蹴つたりして多衆の威力を示して暴行をしたものである。
(適用法令)
窃盗につき 刑法二三五条
共犯につき 刑法六〇条
暴力行為等処罰ニ関スル法律違反につき 同法一条、刑法二〇八条
(処遇理由)
(一) 少年が本件非行を犯したことは当審判廷における少年の供述及び送致にかかる一件記録により認められる。
なお少年はこの他にも未送致の窃盗事件がある模様である。
(二) 少年は中学卒業後転々として職を変えて勤労意欲に乏しく、不良な友人と交つて衝動的雷同的に非行を犯しており、又何人かの女性とも関係して年齢の割には大人びた不健全な生活に慣れてしまつている。
その性格は、当裁判所調査官の調査結果及び浦和少年鑑別所の鑑別結果にあるように共感性が乏しく、自己本位で自己顕示性が強く、虚勢を張つて虚言が多く、健全な社会生活に適応することが困難である。
(三) 少年の家庭は複雑で、保護者である母親も保護能力に乏しく、少年の前記のような問題点を改善指導する力はない。
(四) 少年をこのまま在宅で保護することは困難であり、強制的な生活訓練によつて社会生活に適応するよう矯正教育することが必要と認められるので、少年法二四条一項三号少年審判規則三七条一項により主文のとおり決定する。
(裁判官 三渕嘉子)
参考四 不処分決定(浦和家 昭五〇少五一一号・同六九三号 昭五〇・七・二五決定)
昭和五〇年少第五一一号の犯罪事実
少年は、昭和四九年八月八日午後五時三〇分ころ函館市○○町×の××○吉方において、○○大学生○中○則(二十歳)所有にかかる現金六万一、〇〇〇円位を窃取したものである。
昭和五〇年少第六九三号の犯罪事実
少年はH(十六歳)と共謀の上、昭和四九年九月三〇日午後二時二〇分ころ川口市○○○×××○内方前路上において、○井○幸所有にかかる自転車一台(五、〇〇〇円相当)を窃取したものである。