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東京高等裁判所 昭和51年(ツ)44号 判決 1976年10月05日

上告人 橋本忠吉

右訴訟代理人弁護士 西坂信

被上告人 見原音吉

右訴訟代理人弁護士 片野真猛

同 平井嘉春

主文

原判決を破棄する。

本件を東京地方裁判所に差戻す。

理由

上告代理人西坂信の上告理由について

原判決の確定したところによれば、上告人は、昭和三〇年の工事にあたり、原判決添付目録(三)記載の建物部分(以下「第三建物」という)のうち被上告人建物(原判決の「被控訴人建物」)と接続する部分の五本の柱及び屋根をそのまま利用したうえ、そこに自己の材料を加えてその床面積を拡げて原判決添付目録(一)記載の建物(以下「第一建物」という)の南側となし、さらにその余の部分を付加して第一建物(風呂場を除く)としたものであって、第三建物は、社会通念上、右工事による物理的変動の過程において、建物としての実体を喪失した時期があったとまではみることができず、第一建物は第三建物ないしはこれを含む原判決添付目録(二)記載の建物(以下「第二建物」という)と同一性があり、上告人が工事により第三建物に付加したものは、第三建物、したがってこれを含む第二建物の構成部分となり、附合によって被上告人の所有に帰したというのである。すなわち、原審は、第三建物が上告人による工事にもかかわらず終始建物としての実体を保持していることを前提にして、上告人が工事によって付加したものが第三建物に附合しその所有者たる被上告人の所有に帰したとの認定をしているのである(もっとも、第二建物との附合を認めたとも受けとれる判示をしたところがあるが、右判示は第三建物を介した間接的なものであるうえ、第二建物との関係における第一建物の構造上、利用上の独立性の有無については何ら触れるところがないから、附合の基礎となったのが第三建物であるとする趣旨であることは疑いがない)。

しかしながら、原判決によれば、上告人がした工事の結果、第三建物は、被上告人建物と接続する部分の柱五本及び屋根が残っただけであり、被上告人建物の反対側の二点(原判決添付図面イ、ニ)にあった柱は全部取り除かれたというのである。そうであれば、第三建物は、上告人による工事の結果、単に被上告人建物から屋根が突き出ているだけでこれを支えるべき柱がほかには存在しないという状態になっていたことになるから、さらに土台、周囲の壁、床、天井などの建物としての基本的な構造がどうであったかを明確にしなければ、これを被上告人建物の一部分とみうることは別にして、第三建物がそれ自体建物としての実体を保持していたものとみることはできないものといわなければならない。けだし、建物といえるためには、少なくとも屋根を有しこれを支える支柱があって中に人の出入りできる建造物であることが必要であって、前記のごとく第三建物のイ、ニの柱が取り除かれてこの点の支柱がなくなっていたとすれば、さらに周囲の壁がどうであったか、土台はもとのまま残されていたか床や天井はどうなっていたかなどを確定しなければ建物としての実体を保持していたとはいえないからである。しかるに、原判決は、右の諸点については全く言及することなく、被上告人建物と接続する部分の柱五本と屋根が残ったことを確定しただけで(屋根についても、原判決挙示の証拠によればトタン葺きであることは認められるが、その他の構造、規模などは明らかでない)第三建物が建物としての実体を保持していたと断じているのであって、その判断には、建物の意義について法律の解釈を誤ったか、それが建物といえる状態にあったか否かについて審理不尽、理由不備の違法があるものといわざるをえない。

なお、原審は、上告人が工事によって付加したものが第三建物に附合したとの認定をしているが、原判決の確定したところによれば、第三建物は、もと第二建物の二階に通じる階段の昇降口、玄関、台所及び便所からなる建坪二坪の平家建て部分(居室はない)であり、同建物の一部分であったというのである。されば、第三建物はもともと独立しては所有権の対象となりえないものであることが明らかであって、このような建物の一部分にすぎないものを附合の基礎とすることは、民法二四二条の解釈として正当ではないというべきである。けだし、同条によって認められる建物の附合は、既存の建物について所有権を有する者がその従として付加された動産の所有権を取得することであるから、附合の成否の判断も所有権の対象となっている特定かつ独立した建物全体を基礎としてなされるべきことは、一物一権主義の原則を持ち出すまでもなく、当然の事理に属するからである。もし独立しては所有権の対象となりえない建物の一部分のみを基礎にして附合の成否を問題にするならば、一棟の建物の一部分を建物とはいえない程度にまで取り壊したうえで改築を加えたような場合には、附合の基礎となるべき建物が存在しないことになるため、建物全体との関係では構造上、利用上の独立性がなく一体性が認められるときでも、附合を否定しなければならないという矛盾に陥ることになるであろう。論旨は理由がある。

よって、原判決を破棄し、さらに審理させるために本件を東京地方裁判所に差戻すこととし、民訴法四〇七条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 兼子徹夫 太田豊)

<以下省略>

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