東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1974号 判決 1977年10月19日
控訴人
日生興業株式会社
右代表者
錦織唯一
右訴訟代理人
弘中徹
被控訴人
下重靖治
主文
一、原判決を次のとおり変更する。
(一) 控訴人は被控訴人に対し金四五万円および内金三〇万円に対しては昭和五〇年一一月二六日から右支払済までの、内金一五万円に対しては同年一二月一六日から右支払済までの、いずれも年五分の割合による金員を支払え。
(二) 被控訴人のその余の請求を棄却する。
二、訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
本件請求原因一の事実は当事者間に争がない。
<証拠>によると、控訴人は自己の所有する福島県耶麻郡所在の土地を日生朝ケ丘グリーンランドと名づけて分譲販売するにつき訴外株式会社三研の協力を求めることにし、昭和五〇年八月末頃三研との間で、控訴人は内部的には三研に対し右販売を全面的に委託し、三研がその計算と責仕においてこれを他に販売し、控訴人はその売上高につき一定の割合で歩合を取得すること、しかし、三研はもともと宅地建物取引業を行う資格をもつていなかつたので、外部的には右販売等はすべて控訴人の名において行う旨の契約を締結したこと、そこで、三研は、従来控訴人が使用していた新藤ビル五階の三室のうち二室に自己の従業員約一五人を常駐させて、前記土地の販売業務に当らせ、控訴人は従来約一三人いた従業員を約四人に整理して、その営業部を廃止し、右三研の従業員は控訴人の営業部を組織するような観を呈したこと、控訴人と三研との前記契約においては、三研の従業員の給与等については同社が責任をもつこととされていたが、前記対外的配慮から、三研はその従業員を採用するにつき、新聞紙上の募集広告には控訴人名義を用い、右新聞広告をみて、これに応募し、昭和五〇年九月八日採用された被控訴人に対して控訴人名義の辞令を交付したこと、右辞令は控訴人方の総務担当の錦織政男が作成し、控訴人の社印を押捺したこと、控訴人代表者錦織唯一は右広告及び辞令に控訴人名義が用いられたことを知つた後も被控訴人に対しては同人が控訴人の従業員でない旨を告げた形跡はなく、被控訴人は右の経緯から控訴人に雇傭されたものと思つていたこと、被控訴人の右の雇傭条件は賃金月額一五万円、毎月一五日締切り、二五日支払の約定のもので、この約定の下に被控訴人は三研の前記土地の販売業務に二ケ月余従事したが、前記経緯により被控訴人は自己の従事する三研の右販売業務を控訴人の業務と誤認していたこと、以上の事実を認定することができ、これを覆えすに足りる証拠はない。
右認定事実からすると、控訴人は本件土地の販売につき三研との間の内部的な利益の分配、清算関係についてはともかく、右販売のための第三者との取引等については自己の商号を三研に使用することを許諾したものと認めるのが相当であり、控訴人は商法第二三条により三研が控訴人の名において雇傭し、その名において労務に服さしめた被控訴人に対する賃金の支払につき、三研と連帯して弁済の責に任ずべきものと認めるのが相当である。
さらに、<証拠>によると、被控訴人は前記土地販売業務に従事する間全く賃金の支払を受けないうちに三研から同年一一月一五日解雇の意思表示をうけたこと、この解雇の意思表示は労働基準法第二〇条所定の予告期間をおかず、また予告手当の支払なしになされたものであることを認定することができ、これに反する証拠はなく、この事実からすると、他に特段の事情のあつたことにつき主張立証のない本件においては、右意思表示は同条所定の三〇日の期間を経過したときに解雇の効力を生じたとみるべきである。
以上の次第で、控訴人には被控訴人に対し、昭和五〇年九月八日から同年一一月一五日までの給料として少くとも金三〇万円及びこれに対する同月二六日から右支払済までの年五分の割合による遅延損害金並びに同月一六日から前記解雇の効力が生じた同年一二月一五日までの給料金一五万円及びこれに対する同月一六日から右支払済までの同割合による遅延損害金(被控訴人は解雇予告手当の支払を求めているが、解雇の意思表示後それが効力を生ずるまでの賃金の支払を求める趣旨であると解される。)を支払うべき義務があり、本訴請求のうち、控訴人に対し右義務の履行を求める部分は理由があり認容すべきであるが、その余は理由がなく棄却すべきであり、右請求を全て認容した原判決は右の限度で変更を免れないものであり、控訴人の本件控訴は一部理由あるに帰する。
よつて、民事訴訟法第九六条、第九二条但書に従い主文のとおり判決する。
(外山四郎 海老塚和衛 鬼頭季郎)