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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)2138号 判決 1977年2月17日

控訴人 高松工業有限会社

右代表者代表取締役 高松国雄

<ほか二名>

右三名訴訟代理人弁護士 佐藤貞夫

被控訴人 大関テル

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは、「原判決中控訴人ら敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所は、被控訴人の控訴人らに対する請求は原判決が認容した範囲で正当でありその範囲で認容されるべきであると判断するところ、その理由は次のとおり附加訂正するほか、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決書九枚目裏一〇行目中「県道」の下に「(いわゆる笠間街道)」を加え、一〇枚目裏七行目中「東南角は、」を「東南角にはコンクリート製電柱及び道路沿いに」に改め、一一枚目表三行目中「および」の下に「コンクリート製電柱と」を加え、一二枚目表四行目中「と思われる」を「(この点は控訴人らもこれを認めている)」に、九行目から一〇行目にかけて「確認し、進行する車輛がないことを」を「見たが、同人の視認する範囲では進行する車両がないものと」に改め、同裏一〇行目中「供述部分」の下に「及び後記認定の事実」を加え、一三枚目表七行目中「場合、」を「場合である。もし停止地点について」に、九行目中「若干」を「〇・一五メートル程」に、一四枚目表五行目中「八・二二」を「八・二〇」に、同行中「逸失」を「逸走」に、七行目中「七・七五」を「九・七五」に、末行中「そのとき」から同裏初行中「資料はないが」までの記載を「右供述と」に改め、三行目中「慮すると、」の下に「被告車は」を加え、一五枚目表五行目中「が、もし」から六行目中「入れるとしても、」までの記載を「し、乙第一号証中に満穂の自動二輪車が衝突前に制動をした痕跡の記載のないこと及び」に、七行目から八行目にかけて「七〇キロメートル以上」を「七五キロメートル前後程度」に、同裏二行目中「秒は」を「秒程度」に改め、同行中「被告正幸が」の下に「一時停止した地点から」を加え、三行目中「七〇」を「七五」に、四行目中「一九・四四」を「二〇・八三」に、六行目中「三九」を「四一」に、七行目中「五八」を「六二」に、八行目中「五一」を「五三」に、九行目中「七〇」を「七四」に改める。

(二)  原判決書一六枚目表四行目中「義務があり、」の下に「他方」を加え、末行中「右折を開始する」を「一時停止して右方を見た」に、同裏初行中「五一」を「五三」に、二行目中「通常の場合」から一九枚目表五行目中「である。」までの記載を「しかし、前示のように、被告正幸が右折しようとした県道の幅員六・四メートルあること、被告車の車長が七・〇六メートルあること、被告正幸が一時停止地点から発進後右方の自動二輪車を発見した地点までの四・二五メートルを進行するのにすでに二、三秒程度はかかっていること、前出乙第二号証によれば被告正幸は大型車である被告車のハンドルを転把しながら比較的狭い交差点で九〇度角度をかえるのに大曲りをして右折しなければならなかったことを総合すると、前示認定のような速度の被告車が一時停止地点から発進して完全に右折しおわり右方から来る直進車の走行の安全を妨げないですむようになるまでには少なくとも五秒程度以上は要するものと認められる。そうすると、右方から時速三〇キロメートルないし四〇キロメートル程度の速力で走行して来る車両に対してすら、前示のような右方確認の距離が四〇メートルにとどまっていることは、なお危険が生ずるといわなければならない。成程車両運転者は他の車両運転者が道路交通に関する法規を遵守するであろうと期待することは一般的に是認されるところであるが、交差点で徐行義務が課せられる要件であるところの左右の見とおしがきかない道路が交差しているかどうか、或いは交差する道路のいずれかが明らかに幅員が広く優先道路と認められるかどうかは、道路標識による規制がある場合に比して道路運行者にとっては必ずしもしかく明確でない場合が少なくないこと(≪証拠省略≫によれば被告正幸も本件事故当時県道を優先道路と思っていた)、道路交通法は昭和四六年の改正によって従来の「当該交差点で既に右折している車両の優先」を廃止して現行三七条の規定に改めていること、本件において笠間街道といわれる舗装された県道上を疾走する車両が、当時本件交差点を通過する際に徐行しないで通過することは通常はあり得ないものであったと認めるべき証拠はなく、かえって被告正幸本人尋問の結果によれば、同人は本件交差点では本件事故以前にも事故があったことを知っており、したがって平素この交差点では気をつけなければいけないという認識をもっていたことが認められること、前示のように被告正幸進行道路の本件交差点手前に一時停止の標識が設置されていることは出合頭の衝突を防ぐためでその目的達成のためには単に一時停止すれば事足りるというのではなく、停止のうえで左右を十分確認すべきことを要請する趣旨も含んでいるものと解せられること、以上を総合すれば、本件交差点で被告正幸進行道路から県道に右折するに際しては、直進車の有無ならびに安全確認のため右方を視認するについてその範囲を僅か四〇メートル先までにとどめることは危険を伴ない不十分であり、≪証拠省略≫でも明らかなように県道自体の見通しは右方約一六〇メートル附近まで極めて良好であるのであるから、この場合通常の運転者としては、前示のように窓から首を出すとか身体を前にかがめるなどの方法をとるか、或いは被告正幸が本人尋問に対し供述しているように同人が一時停止した地点よりも車両を僅か前にゆるやかに移動させさえすれば、直進車の進行を妨げることなくして、容易に四〇メートルを超えて一六〇メートル程先までの視界全部を視認し、直進して来る車両の有無を発見することが可能であり、そしてその車両のあることを発見したときは、その距離速度と自車の右折に要する時間との相関関係等を見きわめて、直進車の進行を妨げずに先に右折することの可否を決するとか、或いはそれが確実に決められないときは直進車の通過をまつとか、そのほか例えば一般の運転者が安全運転のために通常実行しているように慎重に車両の先端を僅かばかり交差点内に出して右折しようとする該車両の存在を直進車に認識させてその速度を減速させるなどの措置をとることができ、それによって相互の衝突を回避することが十分可能であり、且つ自動車の運転手に対しそのような措置をとるべきことを要求しても高速度交通機関たる自動車の機能を減殺したり、その正常な運行を阻害するものであるとは言い得ないから、本件交差点において通常の自動車運転者としては、右折しようとするにあたり右にのべたような注意義務をつくすべきであるといわなければならない。それ故、被告正幸が本件交差点を右折するに際し、仮に同交差点にさしかかる車両はすべて徐行するであろうと信頼したとしても、それは早計であるといわなければならない。(しかるに、≪証拠省略≫ならびに前示認定の事実によれば、被告正幸は大型車の運転免許試験に合格したばかりで、まだ実際に運転することのできる資格を有せず、日も浅いことから一時停止地点で簡単に左右を確認したほかは、車両を大曲りさせて右折しなければならない運転操縦のみに気をとられるばかりであって、右にのべるような信頼の観念を抱き、それに基づいて車両を運転したものではなかったことが認められる。)」に改める。

(三)  原判決書二〇枚目表三行目中「尋問の結果」の下に「ならびに弁論の全趣旨(記録添附の被告会社の商業登記簿抄本参照)」を、九行目中「し、」の下に「父と兄が役員に就き、」を、二一枚目表七行目中「みられないではないが、」の下に「原審以降の」を、同裏初行中「によると、」の下に「被告会社は有限会社組織をとっているものの、その規模、経営陣、事務の執り方は前記認定のとおりであって、その営業の実態は被告国雄の家業というに等しく、」を加える。

二  よって、原判決が前記の範囲で被控訴人の控訴人らに対する請求を認容したことは相当であり、本件各控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用は敗訴当事者らの負担とし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菅野啓蔵 裁判官 舘忠彦 安井章)

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