東京高等裁判所 昭和51年(ネ)225号 判決
本件服務規則等(編注「教職員服務規則及びこれに基づく附属諸規程」をいう。)が労働基準法八九条一項所定の各事項を規定したものであることは、前記≪証拠≫の記載自体によって明らかであり、右≪証拠≫を総合すれば、本件服務規則等は、昭和三八年七月一日から施行されたものであるが、被控訴人は、被控訴人大学の教職員服務規則及びその附属規定である解職規程、懲戒規程その他を新設し、他の既施行の旧規定につき所要の改正を加え、本件服務規則等として整理統合(被控訴人大学の教職員服務規則の附属規程のうち、「教員規程」は、昭和二九年八月七日から、「研究所教授規程」は、昭和三七年三月一日から、「助手規程」及び「副手規程」は、いずれも昭和三三年四月一日から、「日本大学職員採用規程」「日本大学嘱託規程」及び「日本大学臨時雇規程」は、いずれも昭和三二年一〇月一日から、「日本大学共済財団規程」「日本大学共済財団退職金支給規程」「日本大学共済財団貸付規程」及び「日本大学共済財団退職特別慰労金支給規程」は、いずれも昭和三三年一一月一日から、「日本大学定年規程」は、昭和一八年五月一日から、すでに、それぞれ施行されていたものであるが、被控訴人大学の教職員服務規則の制定に当り、これに所要の一部改正を加えてその附属規程として再編成したうえ、この改正規程を右服務規則と同時に施行したものであることが明らかである。)するに当っては、被控訴人は、昭和三七年六月三〇日付書面をもって、本件服務規則等の案を被控訴人大学の各学部長に送付して、その学部における検討並びにこれに対する各学部所属教職員の意見を求め、これを集約したうえで、被控訴人の理事会において、本件服務規則等の採択を議決し、この議決後本件服務規則等の施行前の昭和三八年六月二〇日には日本大学学報第二二号にその全文を掲載して教職員全員に対する周知徹底をはかり、更に施行後の昭和三八年一〇月一〇日には、被控訴人大学の専任教職員全員に対し、本件服務規則等の全文を印刷した冊子一部づつを配布すると同時に、各学部に対しても、これと同じものを保存備付用として配布し、それが現に農獣医学部にも備付られている事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
また、被控訴人が学校教育法及び私立学校法の規定に従って設立された学校法人であることは、≪証拠≫によって明らかであり、私立学校は、その設置者たる学校法人においてこれを管理すべきものである(学校教育法二条、五条私立学校法三条)ところ、私立学校が人的及び物的設備の有機的な結合体であることは、いうまでもないところであるから、学校法人の管理権がその設置にかかる私立学校の教職員に対する人事管理権をも包含するものであることは当然であるし、学校法人の業務は、その設立に当り所轄行政庁の認可を受けた寄付行為(私立学校法三〇条、三一条)の定めるところに従って執行され、寄付行為に別段の定めがないときは、理事の過半数をもって決したところに従って執行されるべきものであるが(同法三五条ないし三七条)、≪証拠≫によれば、被控訴人の寄付行為には、その設置にかかる私立学校の教職員の人事管理に関する規定は存在しないし、また被控訴人が学校教育法四条、同法施行規則三条及び四条の各規定に基づき被控訴人大学設置の認可を受けるため作成し、所轄行政庁に提出した学則中にも、学校教育法五九条の規定に基づき設置された被控訴人大学の教授会の審議事項のひとつとして「教員の進退に関すること」(九条六号)との規定があるだけであって、被控訴人大学の教職員の人事管理に関する規定は全く見当らないのであるから、被控訴人の理事会は、被控訴人大学の教職員についての人事管理権の行使として、当然に本件服務規則等を制定施行する権限があったというべきである。
なお、控訴人は、本件服務規則等の制定に当っては、労働組合代表者の意見を聴取していない結果就業規則としての効力がない旨主張するが、原審における≪証拠≫によれば、本件服務規則等が施行された後の昭和四一年九月一〇日に日本大学教職員組合が結成されたことが一応認められるが、それ以前に被控訴人大学に労働基準法九〇条一項所定の要件を充した労働組合が存在したことの疎明はない。従って、控訴人のこの主張は、すでに前提において失当である。
以上の事実関係によれば、本件服務規則等は、その内容において労働基準法八九条一項の規定に適合し、その作成手続においても同法九〇条一項の規定に違反しているとは認め難いばかりでなく、その教職員に対する周知方法にいたっては、同法一〇六条一項所定の方法よりも更に丁重かつ周到な方法によっていることが認められるのであるから、これをもって有効な就業規則と認めるに何らの妨げがないというべきである。なお、本件服務規則等について、労働基準法八九条一項の規定に従った所轄行政庁への届出がなされていないことは、当事者間に争いがないところであるが、同条及び同法一二〇条の各規定によれば、右の就業規則の届出義務に関する規定は、行政上の取締規定であって、就業規則の効力要件を定めた規定ではないと解するのを相当とするから、前記被控訴人の所轄行政庁に対する届出義務の懈怠は、本件服務規則等の就業規則としての効力に何らの消長を及ぼすものではないというべきである。
(石川 廣木 原島)