大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和51年(ネ)2289号 判決

一 当裁判所は、当審における証拠調の結果を併わせ考えても、第一、第二物件がいずれも本件甲、乙特許発明の技術的範囲に属しないものであり、控訴人らの本訴各請求はこれを失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり訂正、附加するほか、原判決の理由と同一であるから、ここにこれを引用する。

(一) 原判決の理由の訂正等

1 原判決二五枚目裏七行目の「上下動させるものは」の次に、「油圧シリンダ2及び」を加える。

2 二六枚目表二行目の「支承杆」を「支承枠」と、二六枚目裏一〇行目及び末行の各「シリンダヘツド13」を「シリンダヘツド3」と、二八枚目表一行目の「同数設けた」を「同数設けて」と、各訂正する。

(二) 本件特許発明と第一物件との比較について

1 当事者間に争いのない本件甲特許発明の特許請求の範囲によれば、本件甲特許発明は、基台の下方に設けた作動杆で上下作動体を上下動可能に作動させることにより、この上下動作動体に設けた支承杆で枠体を昇降させ、他方、押型の加圧装置を備えた保持体を基台の上方に移動調節可能に位置せしめるものであるから、枠体と押型の各駆動手段はそれぞれ別異のものであることが明白である。そして、成立に争いのない甲第二号証によれば、本件甲特許発明の明細書に示されている実施例においても、枠体の駆動手段はクランク機構であり、押型の駆動手段は油圧シリンダ機構であつて、押型による加圧成形動作の後に、先ず、油圧シリンダ機構が作動し、押型を上方から引上げて枠体及び成形品より離脱させ、次いで、クランク機構が作動し、作動杆、上下作動体及び支承杆により枠体を下方から押上げて上昇させるようになつていて、枠体を押型と嵌合したまま同時に上昇させるものではないことが認められる。これらによれば、本件甲特許発明は、枠体と押型の各駆動手段を同期させ、枠体と押型とを一緒に上昇させようとする技術的思想を有するものではないというべきである。

これに対し、当事者間に争いのない原判決別紙第一目録(末尾添付図面を含む。)の記載内容及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一七号証によれば、第一物件は、支承枠4及びその下端の溝形案内6が基台9の上方に設けられており、溝形案内6に枠体7が摺動可能に係合され、支承枠4は油圧シリンダ2のシリンダヘツド3に昇降可能に支持され且つ押型13に固定した昇降シリンダ5のピストンに係合されているから、押型13による加圧成形動作後は、昇降シリンダ5の油圧回路を閉じ、シリンダヘツド3、支承枠4、昇降シリンダ5、溝形案内6、枠体7及び押型13を一体的に、油圧シリンダ2により同時に引上げ上昇させるものであり、したがつて、枠体7と押型13を嵌合したまま一緒に上昇させ、セメント成形品の上面と押型13の下面との間の真空力及び付着力並びに成形品の側面と枠体7の内側面との間の摩擦力及び付着力を同時に利用して成形品を持上げることができ、被控訴人ら主張の(イ)ないし(ハ)の作用効果を奏しうることが認められ、弁論の全趣旨により真正な成立の認められる甲第三三号、同第三四号証をもつてしても右認定を覆えすことはできない。

以上のとおりであるから、第一物件は、本件甲特許発明の構成要件A及びCを充足しないことは明らかである。

2 前掲甲第二号証によれば、本件甲特許発明は、保持体に設けた案内杆を枠体の通孔に貫通可能にすること(構成要件E)により、移動調節可能の保持体を移動させてこれに設けた案内杆の直下に枠体の通孔が位置するようにして枠体の位置決めをすることができ、また、加圧成形動作終了後は、上下作動体に設けた支承杆で枠体の両側縁を押上げるが、枠体の通孔は保持体の案内杆に嵌合するから、枠体は成形品を収容したまま案内杆の案内によつて垂直に上方に押上げられて脱型が行われ、脱型作業時に枠体が揺動せず、したがつて、製品が破損することなく正形を確実に保持し、成形品に傷等の生ずるおそれがなく、脱型作業を確実に行なうことができるという作用効果を奏することが認められる。

前掲第一目録によれば、第一物件においては、原判決の認定するとおり、本件甲特許発明の保持体に相当するシリンダヘツド3に案内杆は設けられておらず、枠体7に貫通可能な通孔も存在しないから、本件甲特許発明の構成要件Eを充足するものでないことは明らかであるが、控訴人らは、第一物件において、支承枠4がシリンダヘツド3の通孔に貫通している構成は本件甲特許発明の構成要件Eと同一であり、作用効果にも何ら差異がない旨主張するので、これを検討する。前掲第一目録及び乙第十七号証によれば、第一物件は、シリンダヘツド3に通孔を設け、これに溝形案内6の支承枠4を貫通させており、脱型作業時に、この支承枠4は、枠体7を上昇させるとともに、その揺動を防止し(なお、案内杆8も枠体7の揺動を防止している。)、脱型作業を確実ならしめるという作用効果を奏することが認められる。しかしながら、第一物件における支承枠4は、前記認定のとおり押型13に固定した昇降シリンダ5のピストンに係合され、油圧シリンダ2のシリンダヘツド3から離脱しないように支持されており、その下端には枠体7を摺動可能に係合する溝形案内6が設けられているものであり、支承枠4及び溝形案内6は、昇降シリンダ5あるいは油圧シリンダ2の作動によつて枠体7を昇降させることを主たる目的とするから、むしろ、本件甲特許発明における上下作動体及び支承杆に対応するものであるというべきである。また、本件甲特許発明においては、保持体を移動調節して、枠体の通孔を保持体に設けられた案内杆の直下に位置させることにより、押型と枠体の位置決めをするのに対し、第一物件においては、支承枠4がシリンダヘツド3の通孔から離脱することがないから、両者の位置関係を合わせることによつて押型13と枠体7との位置決めをするものではないことが明らかである。右のとおり、第一物件において支承枠4がシリンダヘツド3の通孔を貫通して設けられているという構成は、本件甲特許発明における構成要件Eと、構造及び作用効果において一部類似している点はあるものの、基本的な構成並びに主たる目的及び作用効果において相違しており、これをもつて構成要件Eと同一であるとは到底いえないところである。したがつて、控訴人らの前記主張は理由がなく、第一物件は本件甲特許発明の構成要件Eを充足しないというべきである。

(三) 本件乙特許発明と第二物件との比較について

1 成立に争いのない甲第四号証によれば、本件乙特許発明は、回動盤の外周縁に形成した支持縁を、機体に設けた受縁に摺動可能に係合させること(構成要件B)により、被研磨物を載置した受体が揺動することなく安定して回動し、砥石による研磨を効率的に行なうことができるという作用効果を奏することが認められる。

一方、第二物件における回動盤4の折曲外周端縁には、砥石10により攪乱され霧状になつた水が機体1内に侵入するのを防止するために、ゴム垂幕25が取付けられていることは、当事者間に争いがなく、また、右のゴム垂幕25の内側下部は、断面が溝形の受縁(排水溝)の内側縁部に摺動可能に係合しているが、回動盤4の折曲外周端縁自体は、溝形の受縁に直接係合していないことは、第二目録添付の図面第1図及び第2図より明らかである。そして、ゴム垂幕25は、その材質、形状等に徴し、当然に可撓性を有するものと解されるから、これにより、重量の大きい回動盤4の回動を案内し、回動盤4の上に設けられた受体7回動の安定を保つ機能を有するとは認め難いところである。したがつて、第二物件が本件乙特許発明の構成要件Bを充足するとはいえない。

2 本件乙特許発明は、複数組のシヤフトと砥石をすべて逆回転させることを必須の構成要件としており、この構成要件Fが発明における一つの特徴ともなつていることは、前掲甲第四号証及び成立に争いのない乙第一〇号証の一ないし三、第一一号証ないし第一三号証から明らかである。

これに対し、第二物件において、第二位、第三位のシヤフトと砥石は逆回転するが、第一位のシヤフトと砥石は同一方向へ正回転していることは、当事者間に争いがないから、第二物件は、第一位のシヤフトと砥石が正回転するという点において、本件乙特許発明の構成要件Fと相違しているということができる。

ところで、控訴人らは、正回転と逆回転との相違によつて作用効果上何らの差異も生ずるものではない旨主張する。しかし、砥石と被研磨物との接触度合いが砥石の接触力を調整することにより変えうるものであつて、回転方向のみにより定まるものでないことは、控訴人らの主張するとおりであるとしても、シヤフトと砥石の回転方向を逆回転にするか、正回転にするかによつて、砥石と被研磨物との相対速度の大小が変わり、その差異を無視しえない場合のあることは、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三三号証に照しても明らかであり、砥石と被研磨物との接触度合いが回転方向如何によつて影響を受けうることは否定することができない。また、被研磨物の種類や製作方法によつて研磨面に粗大粒子が突出していない場合があるとしても、本件乙特許発明も第二物件も粗大粒子のない被研磨物のみを研磨する装置であると限定されているわけではないから、粗大粒子が突出している被研磨物をも研磨しうる装置と解さざるをえない。そうとすれば、第二物件は、第一位のシヤフトと砥石を正回転させることにより、被研磨物の粗大粒子と荒砥石との強い噛合いを避けて被研磨物粒子の剥離を防止するという作用効果を奏するとともに、第二位、第三位のシヤフトと砥石とはこれを逆回転させ、これらを結合させることにより、全体として様々な態様の被研磨物に特に適時適切な研磨を加えうるようにしたものとみるのが相当である。

したがつて、第二物件は、本件乙特許発明の構成要件Fを充足しない。

二 以上のとおりであつて、控訴人らの本訴各請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!