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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)2351号 判決 1980年2月27日

控訴人(被告)

金宗徹

ほか一名

被控訴人(原告)

小田島幸徳

ほか一名

主文

一  原判決中、被控訴人小田島幸徳に関する部分を左のとおり変更する。

(一)  控訴人らは各自、被控訴人小田島幸徳に対し、金六三三万円及び内金五八三万円に対する昭和四八年六月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  被控訴人小田島幸徳のその余の請求を棄却する。

二  控訴人らの被控訴人小田島よねに対する控訴を棄却する。

三  訴訟費用中、控訴人らと被控訴人小田島よねとの間における控訴費用は控訴人らの負担とし、控訴人らと被控訴人小田島幸徳との関係の分は第一、二審を通じてこれを三分し、その二を控訴人らの、その一を被控訴人小田島幸徳の負担とする。

四  この判決の第一項の(一)は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

被控訴人ら主張の請求原因は、次のとおり付加訂正するほかは原判決事実摘示「請求の原因」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

(一)  原判決三枚目表五行目及び八枚目表一〇行目に「伜」とあるのを「子」と改める。

(二)  同三枚目裏二行目「なされていたのに」以下同五行目「進出していた」までを、「なされ、しかも同所は追越禁止の場所に指定されていたにもかかわらず、これを無視して時速七五キロメートルに及ぶ高速で、停留所に停車しようとしていた前方を進行中のバスの右側を追越そうとしたが、その前方に対する注視を怠り走行した過失により、折柄該道路の南側を少し入つたところにある商品仕入先へ向うべく自転車に乗つて道路左側を水戸駅方向に進行し、その前方のバスが発進したので進路を右に変え道路中央寄りに位置をとろうとしていた」に改める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第一項の事実は認める。

2  同第二項の事実のうち、昭和四八年六月二〇日午前九時五七分頃、水戸市大工町一丁目三番四号先国道五〇号線上において控訴人金宗徹が保有し同金龍徹の運転する普通乗用自動車(マツダルーチエ、登録番号茨55め第一二七号。以下「本件事故車」という。)と自転車に乗つて進行中の被控訴人小田島幸徳が衝突して同人が転倒し、よつて頭部打撲挫創、頸部捻挫、脳挫傷、天幕下中枢障害の重傷を負い、右自転車が破損したことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同第三項の事実のうち、被控訴人幸徳が即日志村胃腸科外科病院に入院して治療を受け、その後志村大宮病院に転院して治療を受けたことは認めるがその余の事実は不知。仮りに同被控訴人に肺炎及び肺結核の発病があつたとしても、右発病は本件受傷によるものではなく当時すでに罹患していたものであり、そうでないとしても右罹患は通常予測しえない異常な事態であるから、本件事故とは相当因果関係がない。

4  同第四及び第五項の事実はすべて否認する。

5  同第六項のうち、控訴人宗徹が本件事故車の運行供用者であることは認めるがその余はすべて争う。

本件事故は、控訴人龍徹が休暇中に惹起したものであるから控訴人宗徹の事業の執行とは関係がない。

三  抗弁

本件事故発生の場所は水戸市内の中心街で自動車の交通のひんぱんな国道であり、車両及び歩行者共にその横断禁止場所に指定されていたのに、被控訴人幸徳は右規制を無視し、しかも自車の後方からの交通に対する注意を全く配慮することなく、漫然として道路左側(北側)から右側(南側)に向つて斜め横断しようとしたため、折柄その後方で停留所に停車しようとして速度を落したバスを右側方から追抜くため進行しようとした本件事故車と衝突するに至つたもので、同被控訴人には本件事故発生につき重大な過失があり、損害賠償額の算定に当つてはこれを斟酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

被控訴人幸徳に本件事故発生につき過失のあつたことは否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  被控訴人らの主張する日時、場所において、控訴人龍徹の運転する本件事故車と被控訴人幸徳の運転する自転車が衝突し、同被控訴人が頭部打撲挫創、頸部捻挫、脳挫傷、天幕下中枢障害の重傷を負い志村胃腸科外科病院、志村大宮病院で治療を受けたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証(乙第一〇号証)、第三ないし第五号証、第六号証の一、二、第八号証の五、当審証人志村弘道の証言、同証言によりその成立が認められる甲第一一号証、当審における被控訴人小田島よねの供述に弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人幸徳(明治四一年四月三日生)は本件事故により生命すら危ぶまれるほどの前記の重傷を負い、直ちに前記志村胃腸科外科病院に入院し昭和四八年一一月二日頃まで(一三六日間)治療を受けたが、その間全身衰弱のため肺炎及び肺結核を併発したため、同病院に在院のまま同年九月二八日から肺結核専門病院の志村大宮病院に同年一一月二日頃まで通院して治療を受け、同年一一月二日から肺結核の療養に専念するため同病院に転、入院して翌四九年六月一六日まで(二二七日間)その治療を受け、同日退院したが、その後も同病院に通院し、結局肺結核については昭和四八年九月二八日から同五〇年一〇月二八日までの間前記の入院治療と六三日の通院治療を受けて快方に向つた。しかし頭部受傷については、更に昭和五〇年一月二五日から同年一一月一二日までのうち六二日にわたり志村病院(志村胃腸科外科病院)に通院して治療を受け、その後も通院治療を余儀なくされているが、その病状は、食事、用便など最少限度身の廻りのことはなんとかできるが脳萎縮による高度の平衡機能障害のため終生働くことは不可能であり、常時、頭痛、頸部痛、肩部緊張、耳鳴り、めまい、記憶力の減退、歩行時のふらつき、平衡感覚障害等が後遺症として残り、廃人同様で妻である被控訴人よねの日常生活の全般にわたる世話がなくては生活できない状態にあることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。なお控訴人らは、被控訴人幸徳の肺結核罹患は本件受傷によるものではなく当時すでに罹患したものであり、仮りにそうでないとしても頭部外傷により肺結核の発病があることは被控訴人幸徳の異常体質に原因があると主張するが、本件全証拠によつても本件事故当時すでに被控訴人幸徳が肺結核に罹患していたことを認めるには足らず、また前記志村証言によれば、被控訴人幸徳が肺結核の前歴を有していたとしても、本件の場合のように脳挫傷等により意識障害が生ずるという重篤な症状が継続すると、栄養の補給が身体全体に十分行なわれずその結果全身衰弱し、肺炎ないしは肺結核の発病・再発に至ることはしばしばありうることが認められ、弁論の全趣旨から成立の認められる丙第三号証の医師森健躬の意見も右認定の妨げとなるものではないから、被控訴人幸徳の肺炎及び肺結核の発病について本件事故による受傷との間に相当因果関係を肯定するに足り、控訴人らの主張は採用できない。

二  そこで控訴人らの責任について判断する。

1  控訴人龍徹について

成立に争いのない乙第四、第五、第八、第九、第一二、第一三号証、弁論の全趣旨によりその成立の認められる乙第一四号証の三ないし五、控訴人らの主張する写真であることにつき争いのない乙第一五号証の一ないし二九、当審証人須藤茂徳、同坂本実、同小泉徳、当審における控訴人龍徹の各供述(ただし右小泉、控訴人龍徹の各供述については、後記措信しない部分を除く。)を総合すると、控訴人龍徹は本件事故車を運転して国道五〇号線(全幅員一五メートル、片側二車線、制限時速四〇キロメートル)を水戸市赤塚町方面から水戸駅方面に向け時速約五〇キロメートル以上で進行し、本件事故現場付近に差しかかつたものであるが、前方を同方向に進行していたバスが大工町停留所に停止しようとして減速をはじめたのでその右側を追越そうとしたところ、その際右バスの前方の交通に対する注意をなんら払うことなく、しかも前記制限を超える速度のまま進行したため右バスの横を通過する付近で、はじめて折柄右バスの前方道路左側から国道上を反対側に向つて斜めに横断しようとしていた被控訴人幸徳の運転する自転車を発見し、急拠ハンドルを右に切るとともにブレーキをかけたが間に合わず、自車左前部を自転車の前輪右側に衝突せしめて本件事故に至つたこと、以上の事実が認められ、前記小泉、控訴人龍徹の各供述中右認定に反する部分は前掲証拠に照らして直ちに信用できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。そして、およそ自動車を運転する者は法規又は公安委員会の指定する制限速度を遵守し、追越しをしようとする場合には反対方向からの交通及び前車の前方の交通に十分注意し、かつ前車の速度及び進路並びに道路の状況に応じてできるかぎり安全な速度と方法で進行すべきことは当然のところであるから、前記認定事実によれば、本件事故は控訴人龍徹の右義務に違反した運転上の過失により惹起したものといわざるをえない。もつとも、後記認定のように本件事故発生場所付近は車両、歩行者ともに横断禁止の場所としてかねてから指定されていたところであり、被控訴人幸徳の右折横断はその禁止に違反するものではあるが、そのことをもつて直ちに控訴人龍徹の運転上の過失の存在を否定し得るものではない。そうだとすれば控訴人龍徹は民法七〇九条により後記被控訴人らに生じた損害を賠償する責任がある。

2  控訴人宗徹について

控訴人宗徹が、本件事故車を自己のために運行の用に供する者であることは当事者間に争いがない。そして控訴人宗徹は茨城県笠間市でパチンコ店を経営し、同県西茨城郡友部町にその支店を有し、控訴人龍徹はその子であるとともに右支店でその営業に従事していたことは当事者間に争いがなく、前掲小泉証言によると、控訴人龍徹は、当時、右パチンコ店の住込み従業員を終業後その自宅まで送り届けるためにも本件事故車を運転していたことが認められるから右事実によれば、本件事故は控訴人宗徹の事業の執行について惹起したものと認めるのが相当である。そうだとすれば、控訴人宗徹は、被控訴人らのいわゆる人的損害については自動車損害賠償保障法三条により、人的損害及び物的損害については民法七一五条一項により、後記被控訴人らに生じた損害を賠償する責任がある。

三  そこで次に損害について判断する。

(一)  治療関係費

1  病院代 金一五万九一七二円

(ア) 志村胃腸科外科病院分 金五万六五五一円

前記甲第六号証の二によると、被控訴人幸徳は、右病院に昭和五〇年一月二五日以降同年一一月一二日まで六二回(日)にわたり通院し、国民健康保険を利用して治療を受けたが、自己負担分として合計金五万六五五一円を支払つたことが認められる(なお被控訴人らは、昭和五〇年一一月一三日以降昭和五一年五月三一日まで一三回(日)にわたり右病院に通院し、前同様の負担分として計金一万〇五四二円を支払つた旨主張するが、なるほど同五〇年一一月一二日以降においても同病院に通院して治療を継続していたことは前記認定のとおりであるが、そのために支出した費用の額を認定する証拠はない。また、昭和五〇年一月二四日以前の同病院に対する治療費金一一九万一七八〇円は、全部自賠責保険給付等より弁済ずみであることは被控訴人らの自ら陳述するところである。)。

(イ) 志村大宮病院分 金一〇万二六二一円

前記甲第六号証の一によると、前認定のように被控訴人幸徳は昭和四八年九月二八日から同五〇年七月一七日までの間二二七日間入院し、五八日にわたり通院したが、その費用については前同様国民健康保険を利用し、自己負担分として計金二七万五八九八円を支出したことが認められるが、うち金一八万円は控訴人らから受領ずみであることは被控訴人らの自ら陳述するところである。

また、成立に争いのない甲第八号証の五によると、被控訴人幸徳は昭和五〇年九月四日以降同年一〇月二八日まで五回にわたり通院し、その治療費として計六七二三円を支払つたことが認められる。

2  入院附添費 金二七万二〇〇〇円

前記認定の被控訴人幸徳の受傷の部位程度、治療経過、後遺症に前掲被控訴人よねの供述並びに弁論の全趣旨を総合すると、前記のように被控訴人幸徳は志村胃腸科外科病院に一三六日間にわたり入院し、その期間中看護のための附添を必要とするところ、妻たる被控訴人よねが附添つたことが認められ、そのための費用は一日当り金二〇〇〇円と評価するのが相当である。

3  入院雑費 金一八万一〇〇〇円

被控訴人幸徳が本件受傷の治療のために通算三六二日間二つの病院に入院したことは前記認定のとおりであり、一日当り金五〇〇円程度の入院雑費を必要とすることは経験則に照らし明らかである。

4  通院交通費 合計金四万二七二〇円

(ア) 志村胃腸科外科病院通院分 金七四四〇円

被控訴人幸徳が昭和五〇年一月二五日から同年一一月一二日まで六二回にわたり右病院に通院したことは前記認定のとおりであり、右事実によれば、その通院のために一回あたり往復バス代金一二〇円計金七四四〇円の支出を余儀なくされたことが推認できる。被控訴人らは、右のほか同年一一月一三日から同五一年五月三一日まで一三回にわたり通院した旨主張するがこれを明確に認めるに足る証拠はない。

(イ) 志村大宮病院分 金三万五二八〇円

被控訴人幸徳が昭和四九年九月二八日から同五〇年七月一七日まで五八回にわたりまた同年九月四日から一〇月二八日まで五回にわたり計六三回右病院に通院したことは前記認定のとおりであるところ、右事実に成立に争いのない甲第八号証の一ないし四によると、その往復のためにバス代一回当り金五六〇円計金三万五二八〇円を支出したことが認められる。

5  附添人交通費及び通院附添費

(ア) 附添人交通費 合計金四万二七二〇円

被控訴人幸徳がひとりで外出することができないことは前記認定のとおりであるから、同人の妻被控訴人よねが前記志村胃腸科外科病院及び志村大宮病院への通院の際これに附添い、そのために被控訴人幸徳が自己支出分と同額の費用を支出したことが推認される。

(イ) 通院附添費 金一二万五〇〇〇円

被控訴人よねが被控訴人幸徳の通院のために計一二五回にわたり附添つたことは右に認定したところであり、そのための費用は一日当り金一〇〇〇円と評価するのが相当である。

(二)  逸失利益 金六一六万〇八〇〇円

当審証人小田島勇二の証言、同証言により成立の認められる甲第一〇号証、当審における被控訴人小田島よねの供述に弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人幸徳は、明治四一年四月三日生れの健康な男子で本件事故当時満六五歳であり、昭和四〇年まで会社勤めをしていたが退職後肩書住所地に店舗を構えて食品果実商を営むようになり、果物を主に缶詰、インスタントラーメン、コーラ、牛乳、アイスクリームなどを販売していたものであるが、仕入れ及び販売ともにほとんど同人がひとりで行ない、仕入れのために外出する時だけ妻の被控訴人よねが留守番として店頭販売を手伝つていたこと(以上のうち被控訴人幸徳の職業、同人と被控訴人よねとの身分関係は当事者間に争いがない)、営業の規模は小さいが、順調にのび、本件事故当時においては季節により出入りはあるが平均一か月当り少くも金一〇万円の純収益を挙げ、家賃収入一か月金三万五〇〇〇円及び同居の三男からの毎月一万円と併せて妻と三男の生活を支えていたこと、本件受傷により同人は全く就労が不可能となり、その営業は廃業するのやむなきに至つたことが認められる。しかして同人の本件事故前の健康状態及びその営業の内容、規模に照らせば、本件事故当時から少なくともなお五・九年はその食品果実業に従事し、従前と同様の収益を挙げ得ることが推定される(なお満六五歳の健康な人の就労可能年数が五・九年であることは運輸省が定めた「政府の自動車損害賠償保障事業の損害査定基準」による。)。しかしてホフマン式で本件事故時の現在価を算定すれば次のとおり金六一六万〇八〇〇円となる。

100,000(円)×12(月)×5.134(ホフマン係数)=6,160,800(円)

(三)  物的損害 合計金五万六〇〇〇円

被控訴人よねの前掲供述によると、本件事故により、被控訴人幸徳所有の自転車が毀われ(破損したことは当事者間に争いがない。)、全く使いものにならなくなつて廃棄したが、事故前は被控訴人幸徳がよく手入れし、少なくとも五〇〇〇円の値打ちがあつたこと、また本件事故により当時同人が身につけていた時計と眼鏡が破損し使用不能になつたが、右眼鏡は代金三万六〇〇〇円で購入したものであり、右時計と同程度のものを購入するのに金一万五〇〇〇円を要したことが認められる。

(四)  過失相殺

前記二ノ冒頭掲記の証拠並びに控訴人らの主張する写真であることにつき争いのない乙第一六号証の一ないし九によると、本件事故現場である国道五〇号線の路上は水戸市内でも一、二を争う交通量の多いところであり、同所を横断することは車両及び歩行者ともにきわめて危険な状況にあつて、すでに昭和四五年七月以降ひきつづき横断禁止の場所に指定されていたこと(本件事故現場からやや水戸駅寄りの地点に西南方から北東に向け本件国道五〇号線に進入する幅員約三~四メートルのいわゆる横町があるが、右国道への進入のみが認められる一方通行となつており、右国道上を赤塚町方面から水戸駅方面に東進する車両が右折横断して右横町に逆進入することも禁止されていた。)、本件事故現場から約一〇〇ないし一五〇メートル西方の大工町交差点及びほぼ同距離東方の泉町三丁目交差点には信号機の設置された横断道路が設けられていたこと、被控訴人幸徳は自転車に乗つて本件国道左側を大工町交差点から水戸駅方面に向い進行し、大工町停留所に停止した前記バスの前方を前記横町に入るため斜めに右折し、横断しようとしたため、前記認定のように本件事故車と衝突し本件事故をみるに至つたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

そうだとすれば被控訴人幸徳にも本件事故発生について重大な過失があることは明白である(なお、前記のように本件事故発生地点からやや水戸駅寄りに南西方面から本件国道に進入する道路があり、また前掲証拠によればほぼ同地点に右国道から北東に抜ける横町があり、いずれも文字どおりの横町で幅員が狭く幅員一五メートルの本件国道に比肩しようもないが、ともかくも十字路ないし丁字路の複合した交差点をなしており、しかも信号機の設置してある横断歩道までかなりの距離があるところからか前記横断禁止の指定にもかかわらず時折これを横断する人があり、昭和五三年になつてから右地点に信号機及び横断歩道が設置されたことが認められ、右道路の状況も双方の過失を判定するに当つて無視できないものがある)。

右被控訴人幸徳の過失を斟酌すると控訴人らの負担に帰すべき損害賠償額は前記被控訴人幸徳の被つた損害合計七〇三万九四一二円のうち金四二〇万円をもつて相当とする。

(五)  慰藉料

(ア)  被控訴人幸徳分

前記認定の本件事故の態様、受傷内容、程度、治療経過、後遺症、双方の過失その他本件に顕われた諸事情を併せ考えると被控訴人幸徳に対する慰藉料は金六〇〇万円が相当である。

(イ)  被控訴人よね分

前記認定の被控訴人幸徳の受傷内容、程度、治療経過、後遺症など身心の現状と被控訴人よねが同幸徳に対して必要とする世話の内容と程度などを考慮すると、被控訴人よねは同幸徳の生命を侵害された場合にも比肩すべきないしは右場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けたものというべく、右事実に本件事故の態様、本件事故発生についての控訴人龍徹及び被控訴人幸徳双方が寄与した過失の程度、割合並びに本件に顕われた諸般の事情を併せ考えると被控訴人よねに対する慰藉料は金一〇〇万円が相当である。

(六)  損害の填補

被控訴人幸徳が控訴人らから損害賠償の内入弁済として合計金四五万円の支払を受け、自賠責保険(住友海上火災保険株式会社扱い)から後遺症分として金三九二万円を受領したことは被控訴人らの自認するところである。

(七)  弁護士費用

前掲小田島証言及び弁論の全趣旨によると、被控訴人らは本訴の提起、追行を被控訴人ら訴訟代理人に委任し、被控訴人らにおいて相当額の費用を支払いかつ相当額の報酬の支払を約していることが認められるが、本件事案の性質、事件の経緯、認容額に鑑みると、控訴人らに対して賠償を求めうる弁護士費用は被控訴人幸徳分として金五〇万円、同よね分として金一〇万円が相当である。

四  以上のとおりであるから、被控訴人幸徳の本訴請求は、控訴人ら各自に対し金六三三万円及び内金五八三万円に対する本件不法行為の日の翌日である昭和四八年六月二一日から完済まで各民法所定年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから失当として棄却すべく、原判決は右と一致しない限度においてこれを変更することとし、被控訴人よねの本訴請求はすべて理由がありこれを認容した原判決は相当で、被控訴人よねに対する本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九六条、八九条、九二条本文、九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中永司 宮崎啓一 岩井康倶)

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