大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和51年(ネ)612号 判決 1977年10月13日

控訴人 伊原誠一

被控訴人 伊原かね 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、次に加え、改めるほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する(但し、原判決六枚目―記録二〇丁―表五行目を「被控訴人ら代理人は、甲第一ないし第七号証を提出し、原審証人谷崎智之の証言を援用し、乙第一、第六、第九、第一〇号証の成立並びに第二号証の一、二の原本の存在及び成立はいずれも認める、第三号証は伊原康次郎の署名、押印を否認し、その余の部分の成立は不知、第七、第八号証は官公署作成部分のみの成立を認め、その余の部分の成立は不知、その余の後記乙号各証の成立はいずれも不知と述べ、控訴代理人は、乙第一号証、第二号証の一、二、第三ないし第一〇号証を提出し(但し、第二号証の一、二は写しである。)甲第一ないし第七号証の成立をいずれも認めると述べた。」と改める。)。

一  控訴代理人は、次のように述べた。

1  原判決五枚目―記録一九丁―表九、一一行目の「昭和三五年」を「昭和三四年」と改め、同裏七行目の「本件借地」の後に「賃借権」を、同行末尾に「ことになる」をそれぞれ加える。

2  雄太郎の相続財産については、二回にわたり相続人間で分割の協議を行ない、その処理を終了しているが、本件借地については被控訴人らから遺産に属する旨の申出がなされた事実はなく、このことは本件借地賃借権が雄太郎の相続財産には属さないことを示すものである。

3  被控訴人らの本訴請求は、本件借地について相続人としての回復請求権を主張するものであるところ、被控訴人らにおいて本件借地賃借権が相続財産に属することを知つた昭和二四年四月一五日から五年を経過したことにより、そうでないとしても相続開始時たる右同日から二〇年を経過したことにより、右回復請求権は時効消滅した。

二  被控訴人ら代理人は一23の控訴人主張事実を否認すると述べた。

三  証拠として、被控訴人ら代理人は、当審における被控訴人伊原英吉本人尋問の結果を援用し、乙第一二号証の一、二の成立は認めるが乙第一一号証の成立は不知と述べ、控訴代理人は、乙第一一号証、第一二号証の一、二(但し二の書込部分を除く)を提出し、当審における控訴人本人尋問の結果を援用した。

理由

一  当裁判所も、被控訴人らの本訴請求をいずれも正当として認容すべきであると判断するものであつて、その理由は、次に加え、改め、削るほか、原判決がその理由において説示するところ(原判決六枚目―記録二〇丁―表七行目から原判決一〇枚目―記録二四丁―表三行目まで)と同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決六枚目―記録二〇丁─表一一行目の「および」の後に「原本の存在、成立に争いがない」を加え、同裏一行目の「弁論の全趣旨」を「当審における控訴人本人尋問の結果」と改め、同裏三行目のかつこの後に「並びに当審における被控訴人伊原英吉本人尋問の結果」を、原判決七枚目―記録二一丁―表三行目の「乙第二号証」の前に「前掲」をそれぞれ加え、同行の「同」を「弁論の全趣旨により真正に成立したことが認められる乙」と、同表四行目の「同」を「成立に争いがない乙」とそれぞれ改め、同行の「各記載部分」の後に「及び前掲控訴人本人尋問の結果」を、同行の「各証」の後に「拠」をそれぞれ加え、同表七行目の「そこで」を削り、同表八行目のかつこ内の「一」を「1」と改め、同表九行目の「二一年」の後に「は」を加え、同裏二行目の「のだから」を「ことからみて」と改め、同裏四行目の「とりえない」の後に「(控訴人の主張によれば、○○寺と市村なみの賃貸借契約の期間は五年の約であつたが、順次更新をくりかえしてきたというのであるから、約定の期間が満了したからといつて当然に賃貸借契約が終了して賃借権が消滅することはなく、賃借人としては更新を前提にして賃借権を譲渡することが可能であり、賃貸人がこれを承諾したときは、賃貸借契約の更新と賃借権の譲渡に対する承諾の効果が同時に生ずると解することができる)」を加え、原判決八枚目―記録二二丁―表八行目の「3」を「4」と改め、同表九行目の「当事者間に」及び同行から次の行の「かつ」をいずれも削り、同裏九行目の「あつた」を「あり、同一性を有するもの」と改める。

(二)  原判決八枚目―記録二二丁─裏一〇行目の「確」から原判決九枚目―記録二三丁―裏六行目までを次のとおり改める。「その趣旨は、控訴人が自分一人が賃借権者であると信じてこれを行使してきたことにより、本件借地の賃借権のうち他の共同相続人の相続分に属する部分を時効取得したというにあると解される。しかし、占有者が時効取得の要件である『自己のためにする意思』をもつて目的物を占有しているかどうかは、右占有を取得した原因である事実すなわち権原の客観的性質によつて決定されるところ、前記認定によれば、控訴人は共同相続人の一人として本件借地の占有を取得したにすぎないから、右賃借権のうち他の共同相続人の相続分に属する部分については、他の相続人のために占有するもので権原の客観的性質からみて『自己のためにする意思』で占有するものとはいえないし、右相続分について『自己のためにする意思』を表示した等の事実も認めることができないから、その余の点につき判断するまでもなく、抗弁4は採用できない。

もつとも、控訴人は相続開始直後に単独名義の賃貸借契約書(乙第三号証)を作成していることは前述のとおりであるが、控訴人は前掲本人尋問において右契約書の作成と相続とは関係がない旨を供述しており、右契約書の作成のみでは『自己のためにする意思』を表示したものとはいえない。

また控訴人は、雄太郎の相続財産についてはすでに分割の手続が終了していると主張するが、相続財産の分割は必ずしも一回の手続で終了しなければならないものではなく、たとえ全部の相続財産のつもりで分割を行なつた場合でも、その後になつて新たに相続財産のあることが判明したときは、右財産について改めて分割の手続をとること、したがつて相続人としての権利を主張することを禁ずべき理由は存在しない。したがつて、控訴人の5の主張は採用できない。

さらに控訴人は、被控訴人らの本訴請求を相続回復請求権の行使であるとしたうえでその時効消滅を主張する。しかし、相続回復請求権は、相続権を有しない表見相続人が相続財産の占有等によつて真正な相続人の相続権を侵害している場合に、真正な相続人がその回復を求める権利であつて、真正な相続人相互間では相続回復請求権を定めた民法八八四条はその適用の余地がないと解するを相当とする。けだし、相続回復請求権についてはとくに五年の短期消滅時効が定められているが、これは相続財産に関する法律関係をいつまでも浮動の状態に置くことなくできるだけ速やかにこれを収束させようとする要請に基づくものであつて、このような考え方は、相続分法定主義のもとで相続財産の公平な分配が要求される(民法九〇三条が特別受益分を相続分から控除すべき旨を定めているのはそのあらわれである。)共同相続人相互間では妥当しないからである。とくに共同相続人の一人が相続財産を勝手に占有して五年以上を経過したというのみで、他の共同相続人がこれについての権利を主張しえなくなると解するのは、共同相続人間の公平の見地及び遺言等によつて分割が禁止されていない限りいつでも遺産の分割をすることができると定めその期限を設けていない民法九〇七条の規定に照らして妥当でない。したがつて、控訴人の一3の主張も採用しえない。」

(三)  原判決一〇枚目―記録二四丁―表一行目の「各相続持分」の後に「(被控訴人かねは三分の一、その余の被控訴人ら及び控訴人はいずれも六分の一)」を加える。

二  以上のとおりであつて、被控訴人らの本訴請求を認容した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから民訴法三八四条に従いこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 園部秀信 太田豊)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例