東京高等裁判所 昭和51年(ネ)884号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
控訴人らは、控訴人岩永、同立本が訴外加藤を代理人として本件契約を締結したことにつき、一旦自白した後これを撤回したが、右自白が真実に反し、かつ、錯誤に基づいてされたものであることを認めるに足りる証処はなく、かえつて、<証拠>を総合すると、(イ)、(ロ)、(ハ)の各土地の所在する東京都下(旧)清瀬町清戸下宿地区の地主有志らは、昭和三八年ころから同地区に被控訴人の団地建設を誘致する運動を始めていたが、昭和三九年一一月ころからは、訴外加藤を右運動の代表者として、被控訴人と交渉するとともに、誘致に反対の地主の説得に努めた結果、昭和四〇年四月ころには地区全体の地主のうち約八割の者が誘致に同意するに至つたので、被控訴人も右地区に団地を建設する方針を固め、その用地の買収方法について、各地主との個別契約によらず、買収予定地の地主全員から代理権を授与された者との間で用地全体を一括して契約するいわゆる一括買収方式によること、また、各土地の代金は、買収土地全体に対する同一単価による合計額に、各土地について必要な家屋移転費、立木補償、土地価格差補償等個別事情に応じた調整金や、道路整備費、不動産業者への手数料その他の諸経費を斟酌して加算した総額を各土地の地積に従つて按分した額とすること、したがつて、将来すべての代理人となるべき地主代表者が、事前に各地主と協議し、その売却条件等をとりまとめ、土地全体の買収代金総額について被控訴人との間で調整したうえ、各地主から土地売却の代理権の授与を受ける必要があり、代金は買収土地全体の分が一括して右代理権を授与された者に支払われ、同人が、その責任において、各地主に対し、同一単価による土地代金に事前の協議に基づく調整金を付加して配分することとなる旨を買収予定地の地主を集めた説明会等で明らかにし、そのころ訴外加藤が右の地主代表者に選ばれたこと、訴外加藤は、昭和三九年一一月のころ(イ)、(ロ)の各土地所有者の控訴人岩永及び(ハ)の土地所有者控訴人立本からも被控訴人の団地建設の誘致につき同意を得るべく、不動産業者の訴外佐藤に依頼して交渉に当らせたところ、右各土地上の工場建物で事業を営む控訴会社の代表者でもある控訴人岩永から、控訴会社の移転費用の補償が受けられるならば団地建設の誘致に協力するとして、同月二六日ころ工場移転のために必要な土地595.047坪、経費総額二五四〇万円なる見積書が出され、交渉は進展しなかつたが、昭和四〇年四月ころ、前記のように地主代表者となつた訴外加藤は、被控訴人の示す前記買収方法による土地売却についての承諾を控訴人岩永、同立本から得るため、再度訴外佐藤をして交渉に当らせ、その結果、被控訴人岩永は、同立本の代理人をも兼ねて、代替地及び移転費等については双方で打ち合せることを条件とする旨の但書を付した同月二四日付被控訴人宛の控訴会社名義の土地売渡承諾書を訴外佐藤に交付し、その後、訴外佐藤との間で、代替地提供の可否及び土地代調整金額、移転補償額等に関して交渉を重ね、その間、被控訴人の技師により被告会社の移転補償金は総額八〇二万八一〇六円が相当であると査定され、また、訴外佐藤から同じ(旧)清瀬地区内の一坪当り一万七〇〇〇円の土地四〇〇坪を移転先として提案される等折衝をくり返し、時には被控訴人の職員らからも説得を受けた末、漸く同年九月三〇日既に他の地主との間で決つていた一坪当り九三〇〇円の割合による一率の土地代金に控訴会社の移転費用等一九四六万六五〇〇円を含め総額二五〇〇万円の支払いを受けることで、(イ)、(ロ)、(ハ)の各土地を売却することを承諾し、同日右土地代金及び移転費用合計二五〇〇万円の支払いを受けた後約六か月以内に立退くことを約束する旨の控訴会社名義の被控訴人宛念書を、ついで、同年一〇月六日右各土地の売買に関し、訴外加藤を代理人として代理人の定める条件による売買契約の締結及び代金の受領等の権限を委任する旨の控訴人岩永、同立本各義の委任状各一通をそれぞれ訴外佐藤を介して訴外加藤に交付し、その後、前記のように本件契約を締結し、被控訴人から一括して買収土地全体の代金総額の支払いを受けた訴外加藤から右二五〇〇万円の支払を受けたことが認められ、右認定に反する原審及び当審における控訴人岩永博暢本人尋問の結果は措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はなく、前記控訴人らの自白は真実に合致したものと認められるから、その撤回は許されないものというべきである。
(田宮重男 新田圭一 真榮田哲)