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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)968号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  <省略>

第二  <中略>

二 控訴人の主張

1  <省略>

2  控訴人は、定款所定の目的に従い、宅地造成、住宅建売を目的として本件第一の土地を購入して引渡を受け、行政官庁の認可を得て宅地造成工事の遂行に着手したので、右土地についての控訴人の宅地造成、住宅建売なる営業が成立したものであり、換言すれば、控訴人が本件第一の土地を入手し、宅地造成の認可を受け、訴外大正建設株式会社(以下「大正建設」という。)を通じて宅地造成工事を遂行し、かくして同土地上に住宅を建設し、これを売却するに至るまでの終始にわたる全体の生産活動を構成する人的及び物的要素の全機構は、いわゆる営業を構成するものである。したがつて、A契約、または、少なくともこれとB、C、D各契約と結合して本件第一の土地を譲渡担保として被控訴人らに譲渡することを内容とする契約は、実質上商法第二四五条の営業譲渡に該当するところ、控訴人会社は、右契約の締結につき、その株主総会の特別決議を経ていないから、右契約は無効である。<以下、事実省略>

理由

一請求原因1、2の各事実は、控訴人と被控訴人豊田を除くその余の被控訴人らとの間においては争いがなく、このことと、<証拠>によれば、控訴人と被控訴人豊田との間においても、右各事実を認めることができ、請求原因3の各登記経由の事実は、各当事者間に争いがない。

二被控訴人ら主張の横浜土地契約が同主張の各関係当事者らの間に締結された事実は、各当事者間に争いがない。

<証拠>によれば、右契約が締結された当時、控訴人会社の代表取締役佐伯士郎は、高令かつ病身のため、その子で同会社の取締役である佐伯幸雄に、同会社の業務について包括的な代理権を与えていた事実が認められ、これによれば、佐伯幸雄は、控訴人の代理人として、右契約のうちA契約及びD契約を締結する権限を有していたものと認めるのが相当である。この認定を左右するに足る証拠はない。

三そこで、横浜土地契約の効力を争う控訴人の再抗弁について順次検討する。

1  原判決摘示の再抗弁1について

控訴人は、佐伯幸雄が横浜土地契約の締結につき控訴人会社の取締役会の決議を得ていない旨を主張するが、佐伯幸雄は、控訴人会社の代表者としてではなく、代理人として、包括的な権限に基づき、右契約のうちA契約とD契約を締結したものであるから、右主張は、前提を欠くものであつて、採用することができない。

2  同2について

控訴人は、A契約及びD契約の締結が控訴人会社の目的の範囲外の行為である旨主張するが、会社の目的の範囲内の行為とは、定款所定の目的を達成するのに相当と認めるべきすべての行為を包含し、そして、目的の範囲内の行為であるか否かは、当該行為の客観的性質により抽象的に判断すべきであつて、行為の結果が具体的に会社の利益に帰するか否かによつて決すべきものではないと解すべきところ、前記認定のとおり、控訴人会社は、不動産の売買等を目的として設立され、主として宅地造成、分譲住宅の販売を業としていたものであり、<証拠>によれば、右各契約は、控訴人が住宅建売をすることを目的として訴外直井正義(以下「直井」という。)から買い受け、宅地造成をしていた本件第一の土地について、買受代金の支払が困難となつたため、その資金の融資を受ける一方法として、直井との売買契約を解除したうえ、これを被控訴人李から再取得することを内容としたものであることが認められるから、たとえ控訴人会社に不利益な結果を生ずるとしても、右各契約が控訴人会社の目的の範囲内の行為であることは明らかであつて、右主張は採用することができない。

3  同3について

控訴人は、横浜土地契約が公序良俗に反する旨主張する。

<証拠>によれば、控訴人は、前記のとおり、直井から代金二四〇〇万円で本件第一の土地を買い受け、代金内金七〇〇万円を支払つたうえ、大正建設に請負わせて宅地造成工事を施工し、工事費のうち約一八〇〇万円を支払つていたが、直井から残代金一七〇〇万円の支払を迫られ、その金員や大正建設への工事費残額の支払に窮し、右土地の取得及び工事の継続、完成が危ぶまれる状態となつたため、かねてから右七〇〇万円及び約一八〇〇万の大半を含む資金を借り受けていた被控訴人倉持に対して、更に、昭和四二年五月初旬ころ、右一七〇〇万円の融資を申込んだこと、同被控訴人は、大倉商事の名称で金融業を営んでいたが、その資金は被控訴人魯長寿(以下「被控訴人魯」という。)から同李を経て同倉持に貸付けられていた関係にあり、また、控訴人に対する未決済の貸金債権も五一五九万円という高額に達していて、無担保で新規の貸付をすることには不安があつたため、右被控訴人三名と佐伯幸雄が協議し、その結果、被控訴人魯が直井に対する残代金一七〇〇万円を支払つて本件第一の土地を買い受け、被控訴人李が同魯に対する債務を支払つて右土地を取得し、更に、同倉持の控訴人に対する既存の貸金残額五一五九万円と右一七〇〇万円に、買受期限までの利息損害金を加算した合計七四〇〇万円を控訴人の債務額とし、かつ、その債権者を被控訴人李として、控訴人が同年一二月二〇日までに被控訴人李に右金額を支払うことによつて、本件第一の土地を買い受けることができ、かつ、それによつて債務を消滅させるものとし、なお、右期限までの間控訴人において宅地造成工事を継続、完成させることができる旨の合意が成立し、これに基づいて、直井を加えた関係当事者間に横浜土地契約が締結されるに至つたこと、佐伯幸雄においては、当時、本件第一の土地の宅地造成工事が完成し分譲住宅を建築すれば、これを一億三〇〇〇万円程度で売却することができ、造成費用等を回収してなお約六〇〇〇万円の利益を収めうるものと見込み、したがつて、前記期限までに七四〇〇万円を被控訴人李に支払つて右土地を買い受けることは十分可能であると考えていたこと、以上の事実が認められる。

もつとも、控訴人は、被控訴人倉持の控訴人に対する従前の貸金債権の右契約当時における残額は、約定どおりに計算しても三二二二万円であり、利息制限法違反の支払利息を元本に組入れて計算すると零かそれに近い額になるのに、右契約によつて違法な高金利の支払を余儀なくされることになる旨主張するが、これに沿う<証拠>は、前掲<証拠>に対比して、ただちに信用しがたく、他にこれを認めるに足る証拠はない。もつとも、右貸金について制限超過利息の天引及び支払がなされていた事実は、被控訴人本人倉持も認めているところであるが、各利息の支払日、支払金額、支払期間制限超過部分の金額を算定する基礎となるべき事実を具体的に確定するに足る資料はなく(前掲甲号各証は借受金額が異なるので、この点の資料とならない。)、したがつて、超過部分の元本充当により、残債権の実額がある程度減少することは推測しえても、これが零又は僅少になるものとはとうてい認めることができない。

なお、右契約当時の本件第一土地の価額が、控訴人と直井との間の売買代金額二四〇〇万円に、当時までに投じられた宅地造成費を加算した金額を著しく超えるものであつたという事実を認めるに足る証拠もない。

右認定事実によれば、D契約において控訴人が被控訴人李に支払うべきものとされた金額の算定の基礎となつた被控訴人倉持の従前の貸金債権中には、超過利息の元本充当により控訴人が返還債務を負担しない部分があつたものではあるが、実際の債権残額が必ずしも僅少なものであつたとは認めがたく、本件第一の土地がきわめて高価なものであつたのに、実質的には僅かの融資金をもつて取得したものとも認められないのであるから、右被控訴人らが右契約によつて暴利を得るものと認めることはできず、他方、控訴人にとつてD契約は採算のとれないものではなく、同契約及びこれと関連するA契約を締結すべき合理的理由も存在し、佐伯幸雄もこれらの点を考慮して右各契約を締結したものと認めるべきであるから、右被控訴人らが控訴人の代理人佐伯幸雄の無思慮に乗じて右各契約を締結させたものと認めることもできない。したがつて、横浜土地契約が公序良俗に反する旨の控訴人の主張は採用することができない。

4  同4について

右3の認定事実によれば、横浜土地契約には被控訴人倉持の控訴人に対する旧貸金債権につきその債権者を被控訴人李に変更する更改契約が含まれているものと解することができるが、右旧債権が零又は僅少なものと認められないことは前記のとおりであり、本件第一土地の買受残代金一七〇〇万円については、控訴人がD契約に基づく売買予約を完結しないでその期限を経過したのちにおいてもこれを控訴人の債務として存続させる趣旨とは解されないから、右更改契約を無効とみるべき理由はなく、したがつて横浜土地契約全体が無効である旨の控訴人の主張は採用することができない。

5  同5について

控訴人は、A契約が無効であるからB契約も無効である旨主張するが、A契約を無効と解する理由は認められないばかりでなく、B契約は被控訴人魯と直井との間の関係であつて、それ自体の効力は控訴人の本件請求に関係がないから、右主張は採用することができない。

6  同6について

控訴人は、横浜土地契約締結に際し、被控訴人魯、同李、同倉持には控訴人による本件第一の土地の買戻に応ずる意思がなかつた旨主張するが、本件全証拠によつても右主張事実を認めることはできないから、右事実を前提とする錯誤による横浜土地契約無効の主張は採用することができない。

7  同7について

右と同様の理由により、詐欺による契約取消の主張も採用することができない。

8  当審における控訴人の主張1について

控訴人は、A契約締結に際し、支払ずみの土地買受代金七〇〇万円及びすでに支出した宅地造成費の処置に関する取極めを直井との間でなすことを失念したもので、錯誤がある旨主張するが、前記認定によれば、同契約とB契約、D契約とは一体のものとして締結されたものであるところ、右七〇〇万円はB契約において被控訴人魯の本件土地買受代金の内入に充当されたものとして処置されたものであり、また、控訴人の代理人佐伯幸雄は、D契約にあたり、宅地造成費用を考慮したうえ、なお同契約による買戻代金の支払が可能であり、採算がとれるものと判断したことも前記認定のとおりであつて、これらの点を失念したものでないことが明らかであるから、錯誤の事実は認められず、右主張は採用することができない。

9  同2について

控訴人は、横浜土地契約が、控訴人会社の営業の譲渡にあたるのにかかわらず、株主総会の特別決議を経ていないから、無効である旨主張する。しかし、商法第二四五条第一項第一号により株主総会の特別決議を経ることを要する営業譲渡とは、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部の譲渡すなわち営業的活動の承継を伴う財産の譲渡をいうものと解すべきであり、仮に一歩譲つて営業的活動の承継を伴わないものを含むとしても、会社の営業の存立の基礎をなし、それなくして会社の存続が不可能となるような営業用財産の全部又は重要な一部の譲渡に限られるものと解すべきところ、本件第一の土地は、控訴人会社にとつて、有機体としての営業を構成するものでも、会社存立の基礎をなす営業用財産でもなく、営業活動たる取引行為の対象をなす財産にすぎないことが明らかであるから、これを目的とする横浜土地契約は右のいずれの意味における営業譲渡にもあたらないものと認めるべきであつて、右主張は採用することができない。

10  同3について

控訴人は、D契約が、大倉商事という株式会社の控訴人に対する債権を被控訴人李に取得させることを目的とする点において無効である旨主張するが、大倉商事が株式会社であることを認めるに足る証拠はなく、かえつて、<証拠>によれば、被控訴人倉持は、同李とともに大倉商事という名称で金融業を営んでいるものの、これは会社ではなく、なお、同倉持を代表取締役とする大倉観光開発株式会社なる会社は存在するが、控訴人に対する貸金とは無関係であることが認められ、したがつて、右主張は、その前提を欠き、採用することができない。

四以上の次第で、横浜土地契約の効力を争う控訴人の再抗弁はいずれも理由がなく、右契約は有効であるから、そのうちのA契約により控訴人は本件第一の土地の所有権を喪失したものである。したがつて、その余の点について判断するまでもなく、控訴人が被控訴人らに対して右土地についての所有権確認を求める請求及び右所有権に基づき被控訴人豊田に対し右土地の所有権移転登記手続を求める請求はいずれも失当であつて、これを棄却した原判決は、相当であり、本件控訴は、理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(小河八十次 内田恒久 野田宏)

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